始まり。
空野有紀。
言わずと知れたグラビアアイドルで、その人気は比べ物にならないほどである。
特長といえば体系を無視した巨乳、どんな仕事にも浸透していくという事で、CD、小説、自叙伝どんな仕事も完璧にこなしていた。
その仕事はグラビアアイドルという本業すら忘れさせる勢いで彼女の名を上げればとにかく何でも売れた。
当然なんでもこなせるとなれば仕事の数も増え、プライベートな時間、自分を休ませる時間など彼女の人気に押しつぶされている。
そして彼女の「人生」という形までも簡単に崩された。
空野の日常はまた普通を迎えようとしている。
4:00に家を飛び出し、5時に始まるニュースコメンテーターの仕事場に向かう。
マネージャーの車の中で軽い食事と予定の確認を済ませ、スタジオに入る。
全く疲れた様相も見せずスタッフ、出演者に挨拶を済ませ、席に着く。
まもなく軽快な音楽と共に生放送の撮影が始まり、再び視聴者に挨拶をした。
いつもと同じく「手順」を済まし、いかにも冷静な風に質問に答え、次の仕事場に向かう。
そしていくつかの仕事が終わった時。
彼女のひと段落の場でもある深夜1時のラジオ番組が始まった。
仕事をこなすうちに「眠気」などという邪魔な感覚は排除され、再び彼女の仕事は進んでいる。
しかし。彼女の中に眠る、本当に小さい感情が表に表れようとしていた。
「では、サヨナラの時間が迫っています。最後のコーナーの「有紀へのカルチャー・クエスチョン」です。」
番組の最後を告げるコーナーはリスナーから空野への質問コーナーである。
普通の番組ではありえないに等しいが、こんな何分程度のコーナーが番組一番の視聴率を有している。
「1人目の方の質問です。好きな男性のタイプはなんですか?好きなタイプ、優しい人ですね。では2人めの方の質問…」
空野の言葉が止まった。
いつも軽快に話す彼女の戸惑いを、スタッフが動きで注意した。
しかし次を読めないのも無理はない。質問の内容は寝ぼけていたスタッフは知らない。
「セックスはしましたか?どんなプレイが好きですか?」
だったからだ。
そんなことを彼女が言ったら確実に問題になった。
女性アイドルは男性が好きになるものであるが、彼女のスタイル、洋服、考え方は世の女性すらも虜にしている。
どちらかに嫌われれば確実にトップアイドルから落ちるのは確実であった。
彼女が固まっているのをスタッフルームで見ていたマネージャーはスタッフにどなりつけた。
「はやく質問の内容を教えてくれ!原稿をわたせ!」
マネージャーは焦っていた。しかし空野の次の言葉を知らない。
さらに悪いことにスタッフは彼女の原稿の内容を全く読んでいない。
というのも、空野自身がリスナーからのメール、手紙をそのまま受けて読んでいるからである。
その中に間違えて入ってしまっていたのが、彼女の人生を変える手紙だった。
空野はその質問を読むか、とても戸惑っている。
無論、今のお金に満足した人生から去る気もない。
しかし彼女はその人生に全くといっていいほど満足していなかった。
その気持ちの原動源となったのが彼女の中に眠る「性」という本性だ。
加速を早めた気持ちは空野を簡単に倒してしまった。
「したことはないですね。今とてもやりたいと感じています。好きなプレイはまだわかりませんね。どんなのもやってみたいです。」
その事を日本中のスタッフ、ファン、そして多くの人が耳にした。
早速メディアは彼女の名を原稿に書き綴り、スキャンダルを流す準備を整えた。
空野は気が気では無かった。
心のどこかには自分の名前を呼ぶ声が聞こえるが、そんな物は自分の過ちに比べると大したことではなかった。
そんな中、一人だけの言葉がどんな物も突きぬき耳に響く。
「空野。明日22時にこのスタジオに来い。今日は頭冷やせ。」
静かに怒っているとも取れるほど冷静な、事務所の社長の声だ。
VFスタジオとかかれた名刺を空野に渡すとただ帰って行った・・・。
次の日―。
タクシーで送られた後m何も考えず即寝てしまった彼女が起きたのは昼の2時である。
しばらく何も考える事ができず、自分がやったことの重さや仕事のことからは開放されていた。
何気なく部屋の中を見ていると豪華さに圧倒される。
大型のテレビ画面に反射する暖かい日の明かりや、数々のトロフィーとそれに伴う自信と喜び。
そして彼女が寝ているベット。こんなに長く寝ていたことは無いだろう。
とても気持ちがよく、彼女は満たされ一つの考えが浮かんでいた。
(私の発言は正しかったのでは?)
単にそうおもった。
もちろん世間体から考えれば問題な発言であり、それなりの処分を受けるはずである。
しかし、彼女自体の人生は充実し楽しい物になるはずだ。
そんなことを考えると彼女の心には華やかな気持ちが生まれた。
ベッドを飛び出し、やわらかいパンに舌鼓をする。
上にジャムを塗りテレビをつけると・・・。
彼女の気持ちは一瞬に変わった。
大きい見出しでつけられた「空野有紀スキャンダル!」を見て彼女はチャンネルを変えたが、どのチャンネルも同じような内容であった。
「不適切発言」「謝罪はいつか?」暗いBGMが流れながらキャスターが早口に喋っている。
その言葉のみが彼女の頭を回り、手に持ったパンが床に落ちる。
彼女はどん底に落ちた気持ちになった。
吐き気がして、床に倒れる。
しかしそんな事は、この後のことへのプロローグでしか無かった。
彼女は自分が発言した事をあまり重くは捉えてなかった。
事実、彼女がやったことは大したことではないかもしれない。
しかし、マスコミはそれを大きく取り上げ過大に評価した。そしてそれを否定する物は消える。
倒れてから何時間もの時が過ぎた。
時間は21になっており、あたりが闇に包まれた時彼女は用事を思い出した。
社長に会わなくてはいけないという事だ。
いくら自分に問題があろうと、ここまで育ててくれた社長には感謝しなければいけなかった。
そうなれば、会いに行くという事など簡単なはずである。
彼女は唯一の仲間でもあるマネージャーに、車を手配させた。
住所を見れば一時間で行ける位の距離で、22時丁度にはつくはずだ。
社長の前では冷静に接するために化粧を施し、気持ちを落ち着かせた。
マネージャーの車に乗ると空野はいつもと違う空気を読み取った。
なにかマネージャーが固い。いつもは気さくに話しかけてくるのに。
空野は口を開こうとしたが全くと言っていいほど声が出ない。
マネージャーはそれを知ってか知らずかだが、一言だけ口にした。
「気をつけて。」
弱い、泣いているような声で発せられたその言葉を彼女は理解できなかった。
そして車は目的地であるVFスタジオに到着した。
ビルの中からは美しい女性が疲れた姿で出てきて、空野を見ると少し暗そうにひとりで笑って去っていく。
その女性と逆に空野はビルに入った。
20階ほどの高さで、青いガラスが一面に貼り付けられたようなデザインだ。
結構新しく作られた様で、どこをみても汚れていない。
その12階のオフィスに社長がいるようだ。空野は早速エレベーターにのり、12階に到着した。
時間は22時丁度。
空野は急ぎ足で社長のオフィスをさがしやっと残りの一つに入る事がわかった。
テレビのスタジオのような場所で、上からは鮮やかなライトの光が照らし、スタジオ自体は何もないに等しい白い普通のスタジオである。
また空野は不思議な気持ちになった。
今更テレビ番組の撮影なんかないし、たとえ撮影する場合でもこんな殺風景な物はないはずだ。
「空野。ここだ。」
社長の声がスタジオの裏から聞こえた。
空野は一度御辞儀をし、社長の下へとかけた。
裏は暗い小さなスペースになっており、そこが事実上のスタッフルームのようになっている。
社長はなぜか笑顔で、さらにその隣に筋肉質の男性が座っていた。