『郵政事業 自由化』  
その言葉を聞いて久しいが、今の所、民間企業が郵政事業に参加  
するという話は聞かない。たとえ、政府からの具体案が出たとしても、  
どの企業もリスクを恐れ、新たな業種に金を注ぎ込もうとはしないし、  
銀行だって易々とは資金を貸してはくれないだろう。となれば、必然的  
に公社と大企業の間を縫って、ニッチ・マーケットを開拓していこうとい  
う輩も出てくるというもの。これは、ある時の人が郵政民営化をぶちあげ  
たがために、野心を持った起業家が蒙った悲劇を描いた物語である。  
 
震度三の地震が来ただけで倒壊しそうなアパート、『万古草荘(ばんこ・  
くさそう、と読む)』に、一人の男子大学生が住んでいた。彼は、地方から  
上京し、ボンクラ大学生活を満喫する青年、足蹴定元(あしげ・さだもと)。  
「母ちゃん、今日、仕送りするって言ってたな」  
日曜の昼間だというのに、金無し、まともな友達無し、彼女無しという無い  
無いづくしの定元は、母親から送られてくる補給物資を待っていた。比較的  
裕福な家庭に生まれた定元ではあるが、生来の浪費癖がたたり、いつも  
懐が寂しい。実家から送られてくる潤沢な生活費は、手にした途端、使い込  
んでしまうという有り様で、月末が近づくと大抵素寒貧となる。要するに、抑  
制が効かないダメ人間という事。  
「米と缶詰・・・後は、下着類かな。本当は、金が一番ありがたいが」  
仕送りの内容を思い浮かべながら、定元はテレビのスイッチをつけた。別段、  
見たい番組がある訳ではないが、やる事が無いので休日はいつもこんな感じ  
のボンクラ学生っぷりを見せる定元。故郷の親御さんが見たら、さぞや嘆くこ  
とだろうが、当人はどこ吹く風であった。  
 
「ごめんくださ〜い・・・足蹴・・さ〜ん?お届けものです〜」  
昼下がりの気だるさが定元の眠気を誘い始めた時、彼の耳に年若い  
女性の声が聞こえた。自ら届け物と知らしめているので、定元はこれが  
母親からの仕送りと分かる。  
「開いてますよ」  
ドアを開けるのさえ面倒くさい──そんな事を考えつつ、ボンクラ青年  
は立ち上がった。しかし、  
「そっちじゃ、ありませ〜ん」  
玄関の方へ向かおうとした瞬間、上記の如き声が定元の背へかけられた。  
「ん?ん?ん?」  
顔を玄関に向けているので、背は窓側を向いているはず。ここは、倒壊  
目前のアパートで、部屋だって四畳半一間のみ・・・それも、部屋は二階に  
位置し、ベランダなんぞも無い。なのに、声はそちら側、すなわち窓の方か  
ら聞こえてくる。  
「どうして、窓から声が・・・」  
一旦はドアを前にしたが、定元は踵を返し窓を見た。その瞬間、  
「わあ───ッ!」  
寝ぼけ眼をかっと開き、おののく定元。何故ならば、窓の向こうには全身  
黒づくめの姿をした少女が、ほうきに跨って宙に浮いていたからである。  
 
「ま、魔女?」  
定元は思わず叫んだ。窓から見える少女の容貌が、魔女と呼ばれる異端に  
酷似していたからである。しかも、彼女はほうきに跨り、足場も無いのにぷか  
ぷかと空に浮かんでいるではないか。これに驚かない訳が無い。  
 
「お母様から、お荷物を預かってまいりましたよ。認めをくださいな」  
驚愕する定元をよそに、少女は小包みを指差し、受け取りを求めた。  
荷はほうきの先にちょいとひっかけられて運ばれてきたらしく、今も尚  
少女の指先でぶらぶらと揺れている。  
「魔女の宅配便か・・・なんてこった・・・」  
どこかで聞いた様な話だと思いつつ、窓を開ける定元。すると、少女は  
滑り込むように部屋へ闖入し、  
「ふう、疲れたあ・・・群馬県から夜通し飛んできたから、大変だったんで  
すよ」  
そう言って、ほうきからよろよろと下りた。立ち姿の少女を見ると、背丈は  
百二十センチ程度。年齢は十二歳前後で、黒いマントを小粋に羽織り、頭  
にはつばの大きい帽子を被っている。その出で立ちは、書物や映画で見ら  
れる、いかにも魔女然とした装いであった。  
「ご苦労様です・・・っていうか、君・・・魔女?」  
「はい、そうです。ルーマニアっぽい所から、日本に移住してきたんです。  
ジャパニーズドリームを夢見て」  
判子を手にした定元が尋ねると、少女は自ら魔女と認めた。更に、  
「故郷だと、いまだに魔女は異端だとか言って、裁判にかけられるんです。  
でも日本だと、萌えとか言って魔女を大事にしてくれる人が多くて、安心し  
て生活できるんですよ・・・いい国ですね、日本って」  
少女はにこやかな顔を見せ、おじゃ魔女ソミドや、魔法使いペッサリーちゃん  
などという、日本を代表する魔女の存在をひけらかした。そして、それらの  
魔女萌えを自負する、ダメ人間たちとの触れ合いも。  
 
「この前、秋葉原って所へお届けものしたんですけれど、何故か街往く  
人々がわんさか集まってきて、全員がいきなりあたしに土下座したんで  
すよ。それで、写真を撮らせて下さいって頼まれて・・・別にいいですよっ  
て言ったら、みなさん女神降臨だ!とか叫びながら、無駄にハイテク化さ  
れたデジカメをパシャパシャと・・・」  
少女は得意顔で、先だって身に起きた椿事を話し始めた。この手の光景  
は、秋葉原あたりでは良く見られるので、都内に住む人間ならば、別段  
珍しくも何とも無い。だが、外国育ちの彼女にとってはそれがある種のカル  
チャーショックだったらしく、鼻をふくらませてその時の出来事を、身振り手  
振りを添えつつのたまった。しかも、写真撮影をお願いした愚か者どもは、  
少女を激写した後、金まで支払っていったという。  
「日本の人は魔女に優しいんですね、やっぱり。故郷では、迫害されるだけ  
の存在だったあたしが、あんなに感謝されるなんて・・・夢みたいでした」  
少女は帽子のつばを啄ばみ、えへっと笑った。愛らしい微笑の中に憂いを  
含んでいるように見えるのは、故郷で受けたという魔女たちの迫害を、暗に  
物語っているのかも知れない。が、しかし・・・  
(それはともかくとして、日本の恥がソフトに伝わって良かった・・・しかし、  
魔女萌えのやつらども!)  
昨今の『萌え過ぎ』を懸念している定元は、この異国からやってきた少女  
が、恥ずべき日本文化を良く取ってくれた事に謝し、また、けだものの如き  
アキバ住人たちをなじった。ただでさえ、過熱する萌えであの近辺は都内  
でもきっての高温多湿地帯になっている。しかも夜になると、放射冷却で気  
温は夜の砂漠並みに下がり、それを知らない地方人が薄着のまま到来して  
は、凍死するという事態が頻発しているのだ。  
 
「あ、ご紹介が遅れましたが、あたしマリエールと言います。マリー  
で結構です」  
少女は名乗りながらマントの裾をちょいとつまみ、お愛想を見せた。  
年若い・・・というよりは、幼ささえ残した魔女は、よく出来た令嬢の  
ように振る舞い、大学生になってもボンクラっぷりを見せる定元に対し、  
礼にかなった挨拶をする。魔女とはいえ、躾がなされているようだ。  
「若いのに感心だね。荷物、確かに受け取ったよ。判子はここでいい?」  
「はい。ありがとうございます」  
荷物を受け取った定元がみとめを押すと、マリーは職務をまっとうした  
安心感からか、相好を崩して子供らしい笑顔を見せる。しかし、両手を  
前で合わせ、定元を見る瞳がそわそわと落ち着かない。  
「どうしたの?」  
「あ、あのう・・・」  
そわそわがもじもじに変わり、マリーがいたたまれないような顔をして  
いる事に気づき、定元が問いかけると、  
「お、おトイレを・・・拝借してもよろしいでしょうか?」  
群馬から夜通しほうきに跨って飛んできたという魔女は、頬を赤らめな  
がら、用足しの旨を告げた。  
「ああ、トイレならそこだよ」  
「す、すいません」  
定元が手洗いの場所を指差すと、マリーはいそいそとマントの前合わせ  
を留めているカメオを外す。いくらこれが魔女の正装とはいえ、夏場の今  
にこの服装は暑かろうと、定元が少女を見遣っていると・・・  
 
「マント、お預かりしていただけます?」  
ばさっと黒衣を脱ぎ捨てたマリーは、それを定元へ手渡した・・・  
のだが・・・それはいいとして、問題はマントの中身である。  
「な、なんだあ?」  
定元はマントの下──もっと手っ取り早く言うと、マリーの体を見て  
仰天した。何故ならば、十二歳かそこらの少女の肢体には、見るも  
禍々しい荒縄が打たれていたからである。それも、マリーは素っ裸  
で、肌着の類は何一つ身に纏ってはいない。素肌に荒縄。まさに、  
某鬼六先生もびっくりの艶姿だったのである。  
「マントの下・・・裸・・なの?」  
口をあんぐりと開けて問う定元。もちろん、自分の知る魔女っ子の  
フォームとは違う、いかがわしいにもほどがあるような、マリーの御姿  
から目が離せないのは言うまでも無く。すると、  
「ご察しの通り、マゾの宅配便です──なんちゃって!」  
ルーマニアっぽい所から、迫害を逃れて日本へやってきたという魔女  
は、大らかな微笑みと共に言い放ったのであった。  
 
「本当は、ここが落とし所だったんですが・・・」  
用を足した後、マリーは定元から出されたお茶を啜りつつ、呟いた。  
「まあ、ありきたりだったんで、小ネタを重ねようと・・えへへ」  
今も魔女は全身に荒縄を打ったままで、全裸に等しい姿。それを、  
定元は食い入るようにして見つめている。心の中で、何やら危険な  
予感を感じ取りながら──  
 
「日本に来るまでは、故郷で調教されてたんです。もちろん、男の人の  
物もズブリとねじ込まれました。スタジオ、ズ・・・」  
「余計な事は、言わないでよろしい!」  
マリーが身の上を語り出すと、その凄惨な運命を定元は眉をしかめて  
聞かされる羽目となった。何とこの魔女は、幼き日々から様々な責めを  
受け、マゾとしての教育をされてきたと言う。  
「あたしの家は魔女っぽかったんで・・村々の人たちに吊るし上げ食っちゃ  
って・・・たぶん、ムラムラしたんだと思います。あたし、可愛かったから」  
「また駄洒落かよ」  
話半分で聞いてはいるが、どうもこの魔女の言う事は怪しいと感じる定元。  
確かに、迫害を受けた身は哀れだとは思うが、何せ話しっぷりが不真面目  
に思える。  
「ママも魔女っぽい人だったんで、あたしたち母娘は、よくお尻を並べて男の  
人に犯されました。不思議なもんで、母娘でも妙なライバル心が起こるんで  
すね。どっちが、たくさんの男の人を喜ばせたかなんて・・・あ、ちなみにパパ  
はいません。ママが魔女って知って、すぐ逃げちゃったらしいんです。やる事  
はやって、あたしが生まれてから」  
「そうか・・・可哀そうに」  
マリーは、父親が逃げたという所だけは、悲しそうに話した。幼くして、父性に  
触れ合う事が出来なくなった少女を、この時だけは定元も不憫に思う。が、  
「パパから見れば、魔女のママは・・つまり、奥様はマゾ・・・って事ですよね」  
マリーは手をはたき、自らのギャグに冥利を尽かせた。それを見た定元は、  
「くだらねえ!」  
と、目を吊り上げ、前言を翻し鬼のような形相となる。何だか、年端もいかぬ  
少女に、自分が翻弄されているような気がしたからだ。  
 
出されたお茶が冷えた頃、街並みには夕暮れが迫っていた。勿論、  
定元が住まう万古草荘にも、夜の帳が下り始めている。しかし、マリー  
はまだまだ話し足りないらしく、いよいよ饒舌になっていった。  
「浣腸って、凄いんですよ!こう、ドバーッって出ます、便が!しかも、  
こんな太いのが。まあ、よくもこれほどの物がって、感心しますよ」  
「はあ、そうですか・・・」  
身振り手振りを以って、マリーが調教された日々を聞かせ続けるので、  
定元はいい加減まいってきた。十二歳前後の少女が荒縄に身を打たれ、  
マゾとして育成された過去を話す。それは、悪夢以外の何物でも無い。  
「恥ずかしい話なんですが、浣腸された後はすっごく従順になれるんです  
よ。もう、どうでもいいやって感じに・・・ここまで見られたら、いくとこいくぞ!  
そんな気になりますよ、ホント」  
「ふうん・・・」  
熱っぽく語るマリーに対して、定元は冷ややかだった。正直、早く帰って  
くれないかなあ、なんて思ってさえいる。すると、調教済みの幼い魔女は、  
「ああ、もうこんな時間・・・そろそろ」  
と、切り出した。これを、定元はそろそろご無礼をいたします、と取った。  
「ああ、そうだね。そろそろ・・・いや、大したお構いもしませんで」  
マリーに出した茶器を引こうと、手を出す定元。そこへ、魔女の手が重なっ  
てきた。更に──  
「そろそろ・・・ムラッ・・・ときてません?あたしなら、いいんですよ・・・」  
と言いながら、マリーは定元の手を自分の胸元へといざなっていったの  
である・・・・・  
 
「き、君!いけない、こんな事しちゃ・・・」  
「調教済みのチビッ子魔女・・・に、興味はありませんか?」  
嗜めようとした定元に、マリーが艶やかな笑みで誘う。見れば、頬を  
はじめ縄を打たれた肌も上気し、男をしたたかに惹きつける色香を見せ  
ていた。まさに魔性──そんな感じ。  
「うッ、それは・・・ごくり・・・」  
定元がつばきを飲む。しかも、先ほどまでは呆れて聞いていた筈の、少女  
の身の上話が、生々しく蘇ってもきた。調教を受けたチビッ子魔女というの  
も、何だか新しい境地に思える。そこへ、マリーがとどめの一撃を放った。  
「いいのよ、お兄さん・・・ううん、お兄ちゃん・・・」  
立てひざをついた後、そのままヒップを落とした魔女は、指を吸いながら定元  
を濡れた瞳で射抜いた。彼が、妹萌えの人物と踏んだのである。  
「お、お兄ちゃんと呼んで・・くれるのか?」  
マリーとの間合いを膝で詰め、定元が食いついた。すると、魔女はぷいっと顔  
を背け、しかし、横目で食いついてきた哀れな妹萌えの男を見据え、  
「呼んで欲しい・・・?お兄ちゃんって・・・」  
まさに、妹でいきなされという雰囲気を醸し出しつつ、ぺろっと指を舐めたので  
ある。そうなれば、定元はもういけない。  
「マリー!」  
「ああん!お兄ちゃん!」  
情欲にほだされた定元が、少女の肢体に打たれた荒縄を、引きちぎらんとばか  
りに取った。当然、引き絞られた荒縄は、マリーの股間を食い込ませ、ぎりぎりと  
女体を締め上げていく。  
 
 
その晩、定元は母親から送られてきた荷物の事も忘れ、散々に  
マリーを嬲った。マゾの魔女は、持参した調教グッズの数々で責め  
を乞い、純朴だったボンクラ青年を化生の世界へと引きずり込む事  
に性交・・・じゃなくって、成功する。倒壊寸前の万古草荘はぎしぎし  
と軋み、あわや往生を迎えるかと思ったが、激しい魔女と青年が紡ぐ  
荒淫にも耐え、何とか朝日を拝むことが出来た。そして、二人は──  
 
「マリー、おはよう」  
「あ、おはよう・・・お兄ちゃん」  
廃れた四畳半の真ん中で、定元とマリーは抱き合いながら朝を迎えた。  
マリーはまだ縛られ、バイブレーターと呼ばれる淫具を女芯へ穿たれて  
いたが、それを何ともせずにこやかな顔。マゾの本領を発揮した形である。  
「お兄ちゃん、昨夜は頑張り過ぎちゃったかなあ・・・ははは、太陽が黄色いや」  
定元が、魔女を迎えた窓から外を見た。すると、不思議な事に万古草荘の  
周りには人だかりが・・・・・  
「あそこから、悲鳴やら怒号が一晩中聞こえて・・・何があったんでしょう」  
人々が、定元の部屋を指差し何やら囁き合っている。中には、通報しました  
とか言う人も──  
「ヤ、ヤバイ!」  
昨晩の荒淫が世間へ筒抜けになっていた──定元は、ここでようやく人  
だかりの意味を悟った。そして、マリーを嬲った自分というのは、傍目に見れ  
ば少女に悪さをした青年としか映らないであろう事も。  
 
割と近いところから、パトカーのサイレンが響いてきた。本当に誰かが  
通報したようだ。  
「本格的にヤバイ!マリー!」  
定元は魔女に戒められた荒縄を懸命に解こうとする。しかし、気が焦って  
か、縄の結び目はなかなか解けてはくれない。  
「どうしたの?お兄ちゃん」  
「マズイんだ!とにかく縄を解いて、服を・・・」  
状況が理解出来ないマリーへ、定元は必死に危機を訴えかけた。しかし、  
ここではたと思うことが──  
(マリー・・・裸で来たんだったよな・・・マント一枚羽織って・・・)  
たとえ縄を解いても、自分が全裸の少女を部屋に招いている青年である  
事に違いは無い──と、定元は考えた。そして、そうこうしている内に、サイ  
レンはどんどん近づいてくる。  
「絶対絶命だ!」  
愕然とする定元。次いで、自分の人生は終わったも同然と、絶望の淵へと  
立たされた。そして、サイレンが、部屋の真下あたりから聞こえて来たその時・・・  
『時の人でございます。参院選、比例はぜひ我が党へ』  
と、例によって例の如く、郵政改革をぶち上げた人物が、選挙カーに乗って、  
万古草荘の前へ現れた。にこやかな顔に、たすきがけという勇姿で。すると、  
マリーが全身を縄で打たれながらも、窓へ詰め寄り、  
「あッ、あの人がマゾの宅配便を認可してくれた人よ!」  
そう言って、時の人をうやうやしく見遣った。  
 
「郵政改革バンザーイ!頑張って、時の人!」  
『応援ありがとう、お嬢さん!』  
マリーが声をかけると、選挙カーに乗った時の人はにこやかに  
手を振った。優しい笑顔が、市井の皆さんの間を通り抜けていく。  
だが、人々は時の人よりも、マリーの御姿を見て驚嘆してしまう事  
となる。  
「あッ、裸の少女が!」  
「しかも、縄で縛られて・・・確か、あそこにはボンクラ大学生が一人  
で住んでいたはず・・・」  
市井の皆さんから驚愕の声が上がった。ここで、定元は犯罪人決定。  
ついでに言うと、罪状もほぼ確定。状況から言えば、何の言い訳も出  
来そうにない危険人物・・・・・と。  
「ははは・・・郵政民営化・・・マゾの宅配便か・・」  
ずるずると力無くくず落ちる定元。もう、服を着る気力も無かった。  
「都の治安を預かる当局だ!ここを開けろ!この、けだものめ!」  
ドアの方から聞こえてくるそんな怒声も、定元にはもう聞こえない。ただ、  
心の中でこう呟くばかり──  
(民営化、民営化って・・・何でも民営にすりゃ、いいってもんでもない  
だろうに・・・それで委員会(駄洒落)!)  
ろくすっぽ審議も行わず、何でもかんでも法制化する時の人に毒づく  
定元。彼は、遠ざかる意識の中でこんな声を聞いた。  
『民営化もいろいろ』  
・・・・・と。  
 
おしまい  
 

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