女刑事・文子は、
錆びて40cmほどしか開かないシャッターと地面の間に、
カラダを滑り込ませながら無意識に呟いていた。
「このスレ、誰もいないのかしら?」
そのとき、ふいに頭上から声が聞こえた。
「くくく……ここにいるよ。女刑事さん」
はっ! として声のする方を見上げる文子。
そこには、身の丈二メートルはあろうかという大男が立って、彼女を見下ろしていた。
しかし突然叫び声を上げ、大男が床に崩れ落ちる。
文子は素早くスレッドに入ると大男の前で身構えた。右手には警棒型スタンガンが握られている。
ぶざまに倒れた大男は、身動ぎひとつしない。
高電圧のスタンガン、強い痛みが去っても数分間はカラダの自由も効かないハズ、だ。
「女だからって甘く見ないことね」
大男に向かって呟くと文子は警戒しながら辺りを見回す。
この男以外、誰もいない?
文子は不審に思いながらも、薄明かりが灯るスレッドの奥へと駆けよっていく。
スレッドの奥、薄明かりに照らされていたのは・・・薄汚れたマットレスだけ。
悪い予感が文子の中に湧き上がってくる。
「美咲・・・いぁッッ!!」
不意をつかれた文子はスタンガンを握りしめた手を捻り上げられ、悲鳴をあげた。
「なるほど、警棒型スタンガンか……さすがの譲二もこれじゃあ気絶もするか」
文子の腕を捻り上げながら男はそう言う。
「こんなぶっそうな玩具はこっちに頂いておくよ」
右手に握り締めたスタンガンを、奪い取り地面に叩きつける。さらに足でガンガンと思い切り踏みつけ、
それを破壊していくのだ。
「くくく、お仲間を助けにきたんだろうが残念だったな。あの女共々おまえも俺たちの慰み者になってもらうぜ」
そう言って背後から、文子の豊満な胸をやわやわと揉み嬲り始める。
「はうっ……お、女だからって舐めてると痛い目を見るわよ」
文子のその言葉にゲラゲラと笑いながら男は言った。
「確かに女とは言え刑事さんだからな。しかし、こっちも一人やふたりじゃないんだぜ」
その言葉が合図となったかのように、ぞろぞろと男どもが現れてきた。
どこに隠れていたのだろう。なんと十人近くの男たちが文子の周りを取り囲んだのであった。
男たちの中には美咲もいた。しかし、力なくうなだれ、肩を男たちに抱えられた
その姿は、文子も声が出せないほど無残なものだった。
モデルのようなスレンダーな肢体には、まだ婦人警官の制服をまとっていたが、
ボタンの弾けとんだ濃紺のブレザーも白いブラウスも、肩から胸を露出するように
肌蹴られ、首に巻きついただけのネクタイが小ぶりな乳房の間に垂れ下がっている。
また膝丈のスカートも裾から腰近くまでを大きく切り裂かれ、
裂け目からのぞく美咲の細身の内腿には白い液体が滴った跡さえ残していた。
文子は美咲に必死に呼びかけたが、その声が届いた様子もない・・・。
「・・・あなたたち、警官にこんなことをして・・・」
ようやく怒りと悔しさの入り混じった声を絞り出した文子だったが、
美咲を抱えた若い金髪のデブがすぐにそれを遮った。
「刑事さんよ。どうなるんだい、こんなことをすると!」
そう云うと、デブは美咲の髪を乱暴に掴み、その薄い唇をムリヤリ奪う。
精一杯の抵抗だろうか、美咲は首を少しだけ反らせたが、
すぐに男の舌が美咲の口内を舐めまわしはじめた。
美咲が苦しそうに悶え、ほっそりとした長い足をくねらせると、
スカートの裂け目からは薄い茂みも露わになる。
「やめろッ」
文子の声に、デブはゆっくりと唇を離すと、
「アンタのせいで中断させられたんだ。・・・アニキ、こっちは続きをさせてもらうぜ」
「勝手にしろ、こっちは刑事さんに楽しませてもらう」
と、男は文子の乳房を揉みしだく。
「は、はなせェェ!!」
抵抗する文子の声をかき消すように男たちのはやしたてる声が上がった。
「ひひひ、なかなかの揉み心地だぜ」
背後からアニキと呼ばれた男は、ブラウスの上から文子の胸のあたりをまさぐりながら言った。
「はうン……や、やめなさい!」
甘い吐息をあげつつも、文子はかろうじて拒絶の言葉を吐く。
このままでは美咲ともども、この男たちの慰みものになるのは目に見えている。なんとしても、この状況を打破しなければならない。
敵は十人近くいる。もちろん、自分一人なら倒せない数ではない。しかし、問題は美咲が囚われているということだ。
下手なことをすれば、美咲の命にかかわる。慎重に事を運ばねばならない。
(なんとか、こいつらが油断している隙をついて……)
おそらく一瞬だ──
”ブチッ”
ブラウスのボタンが引きちぎられた。男の手が胸元へと侵入してくる。
「くふっ……」
ブラジャーを押し上げ、文子の豊かな肉房を揉みしだく無骨な手。
だが、その動きは繊細だった。しだいに彼女の乳首はその愛撫に呼応するかのように、硬くしこり始めていた。
「なんだよぉ〜。感じてんのかい、刑事さん。乳首が立ってきてるぜぇ」
文子の羞恥を煽るようなその言葉に、彼女の身体は敏感に反応し、股間からジュンと熱いものが溢れかえってくる。
(くっ……こんなバカな……)
こんな状況下でも感じてしまう自分の身体を呪いつつ、文子はなんとか逆転のチャンスを窺った。
男たちは自分と美咲の方へ、半々に分かれたようだ。
美咲を嬲っているのは、先程の金髪デブ。その周りにお零れに預かろうとばかりに、三、四人の男たちが集まっている。
こちらの方は、やはりメインはアニキと呼ばれた男なのだろう。
周りを取り囲む男たちも囃し立てるだけで、自分の身体に触れようという気配すらない。
チャンスは今しかない。
そう思った瞬間、彼女の身体は反応していた。
スッと身体をかがめると、背後にいた男の鳩尾にエルボーを決める。
ぐえっ! と言う呻きが聞こえるか聞こえない内に、身体を反転させ回し蹴りをお見舞いした。
周りにいた男たちや、美咲の方にいた男たちがあっけに取られている間に、文子は金髪デブに向かって一直線に向かっていった。
「デヤァァァァァ!!!」
バギィィっという鈍い音がして、金髪デブはその場に倒れ込む。文子の膝蹴りがみごとに決まったのだ。
「美咲! 大丈夫!!」
そう言って凌辱の限りを尽くされた同僚を抱き起こす。
「な、舐めたまねをしやがって……」
「ふん、言ったはずよ。舐めてたら痛い目を見るって」
アニキと呼ばれていた男は、鳩尾をさすりながら引きつった笑みを見せ言った。
「やっちまえ!!」
「このぉぉ、・・・うッ、あぁぁぁ!!」
不用意に飛び掛ってきた男が、文子の合気道技によって投げ飛ばされると、
男たちの動きは途端に慎重になる。だが、十人近い男たちがジリジリとにじり寄ってくる状況。
ピンチであることはなにひとつ変わらない。
文子はチラリとシャッターの方を伺う。
光の差し込むシャッター、逃げ込めそうな出口はあそこしかない。
しかし、このまま美咲を抱えては・・・。
一瞬、思い浮かべてしまった悪い考えをすぐに振り払うと、
文子は男たちの中にアニキと呼ばれた男を探す。
いた。彼女の回し蹴りによる痛みから、まだ完全に脱しきれていない様子だ。
「アニキって、呼ばれてても大した事ないのね・・・結局、他人頼みなの?」
「なにぃ、このアマぁ」
意気がるチンピラを制し、アニキがゆっくりと近づいてくる。
「・・・オンナぁ・・・恥ずかしい思いをさせてやるぜ」
「そう? 恥ずかしい思いをするのはどっちかしらね」
先ほどの自らの失態、そしてこの侮辱。
頭に血の昇ったアニキの、ナイフを握った右手が文子を襲う。
素早く身をかわし、腕を取る。そして、男の勢いを使って、・・・捻り上げるッ!
鈍い音が響いた。力を入れ過ぎたか、男の右肩が外れたようだ。
苦しそうなアニキを後ろから羽交い絞めにし、ナイフを首筋に当てる。
「情けないアニキを持って、あなたたちも大変ね。近寄らないで!・・・どうなるか分かるでしょ」
アニキを人質に、男たちと距離を保ったまま、シャッターに向かって後退する。
一人で立ち上がることのできない美咲を半ば引きずるようにしながら・・・。
「美咲、大丈夫? しっかり・・・」
文子は、何度目も美咲に呼びかけ励ましつづけた。
シャッターまであと少しになって、ようやく美咲が応えるそぶりを見せる。
「あ、あや・・・・・・、うっ、いあぁぁぁん!!」
だが、美咲が突然苦しみ出す。両手で股間を抑え、身悶える。
「あぁあ、あぁあ・・・あ、だめッ、いあ・・・出して、出してッ・・・」
文子には何が起こっているのか分からない。ただ必死に美咲の名を呼ぶ。
リモコンバイブだった。何人もの男たちにレイプされた後、膣奥に入れられていた、
そのスイッチを誰かが押したのだ。
美咲のカラダはその甘い振動に抗えない。
「あぁあ、あぁ、はぁぁっ、ンンっ・・・あッ、ぁんッ・・・あんッ・・・あんッ・・・」
仰け反らせるように腰を突き上げ、自ら腰を揺らせる。
溢れ出した蜜を指に絡め、その指先で自らを口淫する。
どうすればいいの。いとも容易く快感に流されていく美咲に、文子は戸惑っていた。
自分ひとりだけなら、脱出するのは造作もないことだ。
しかし、美咲を置いて逃げ出しては、何をしにやって来たのかわからない。
また、ここにいる男どもに犯されるに違いない。
いや、おそらく今以上の凌辱をうけるはずだ。最悪の場合、殺されてしまう可能性だってある。
ではどうする……。
シャッターまではあと1メートル強というところか──二人ならなんとか潜り抜けられる。
問題はシャッターの外に出てからだが……
え〜い! 迷っていても仕方がない!!
文子は人質の首筋にナイフを突きつけながら、身悶えている美咲のすぐ傍へと近づく。
彼女はすでに立っているのも困難なようで、膝を折り涎を垂らしながらいやらしく喘ぎまくっていた。
ちらりと股間に真っ黒い物体を発見する。文子はそれがリモコンバイブだと理解した。
(くっ……このせいで……)
美咲は快感に酔いしれているのか、自らそれを外そうとはしない。つまり文子が外すしかないのだが、
そんなことをしていては、敵に隙をみせることになる。
一か八か……
文子はナイフを男の首筋から離すと、思い切りそいつの背中を蹴り飛ばした。
ドッと仲間たちの中に倒れこむアニキ。突然のことにチンピラたちも対応できず、前の方にいた数人は折り重なるように倒れてしまう。
「今よ!!」
まだ快楽の中を漂っている風の美咲を抱きかかえると、転がるようにしてシャッターの方へ向かい潜り抜ける。
出た!
文子はすぐさま立ち上がると、開いているシャッターを一気に下ろした。
大挙して押し寄せていたチンピラたちは、突然閉まったシャッターにぶつかり、右往左往しているようだ。
扉の向こうでは、「どけ!」「痛い!」「シャッターを開けるんだよ!」とちょっとしたパニック状態になっている。
よし、この隙に……
ぐずぐずはしていられなかった。本来なら美咲の股間にあるものを外してやりたいところだったが、そんな時間も惜しいくらいだ。
とにかく、この場から離れなければ……
今自分たちはどこにいるのか? どうすればこのスレッドから抜け出せるのかもわからないまま、文子たちは急いでその場を離れた。
しばらく行くと後ろからチンピラたちが追いかけてくる声が聞こえてきた。
まずい、もうシャッターを開けたのか!?
時間的ハンデはあったものの、こちらはほとんど自分で動けない(動こうとしない?)美咲を抱きかかえている。
すでに美咲は何度か絶頂を極めたようで、先ほど以上にぐったりとしてしまっている。ほとんど意識がないのでは? というくらいだ。
細身とは言え、そんな状態の大のおとなを抱きかかえた状態で、まともに走れるはずがない。
追いつかれるのは時間の問題だった。
ふと、目の前にドアがあるのを見つけた。
どうする。中に入るか?
見つかれば袋の鼠である。しかし、このまま進んでも追いつかれてしまうのは間違いない。
(仕方ないわ。この場はここに一旦逃げ込んで……)
追っ手をやり過ごすしかない。
文子は思い切ってドアノブに手を掛けた。
「よし! 開いた!」
幸いなことに、ドアに鍵は掛けられていなかったようだ。
文子は美咲を抱きかかえながら中へ入ると内側から鍵を掛けた。
ドアの中は薄暗い部屋で、幸いなことに誰もいない。
なんの部屋だろうかという思いもあるが、文子はとにかく美咲を助けることにした。
何度も絶頂に達し、ぐったりとした美咲。文子は、その上体を左手で抱え、
右手でスカートの裂け目を肌蹴ると、中を覗きこむ。
彼女の広がった秘唇には、自身の蜜で濡れた黒い樹脂製のモノが光り、小さく振動している。
これが原因ね。・・・でも、コレだけで美咲があんなに乱れるだろうか。
かすかな疑念も残る。だが、いずれにせよ、コレを取り除くことは必要だ。
他人の、しかも親友の女性器に触れるということには当然、躊躇がある。しかも、
今の美咲は明らかに快楽に溺れていた。おそらく少しの刺激にも快楽を感じてしまうだろう。
ことは慎重にしなければならない。
文子は指先で露出するソレに触れ、掴もうとするが、・・・滑ってなかなか掴めない。
少し強引にしなければ無理なようだ。大きく息を吐き、文子は決心する。
「美咲、ちょっと我慢して・・・」
指先で美咲の秘唇を押し開く。
「うッ、あぁあ・・・い、あぁぁぁあ・・・」
文子の行為で、美咲は敏感に反応する。
文子を求めるかのようにしがみつき、太腿を閉じて文子の右手を締めつける。
「お願い、美咲。・・・もう少しだから我慢して」
強引に足を開かせ、ゆっくりと指を奥に指し入れる。
「あッッ・・・ぁ、あぁぁぁンンッッ!!」
美咲がヨガリ声を上げ、文子の背中に指先を突きたてる。
文子はモノを押し込まないように膣壁を押し開き、指を入れ、・・・モノを掴む!
そして、美咲を傷つけないよう慎重に引き抜いていく。
「あっ・・・あっ・・・あぁあ・・・あんッ・・・あんッ・・・」
ゆっくりとした動きが反って美咲を刺激していることに文子は気づかない。
美咲がカラダを揺らし激しく悶える!
「ぁあぁ・・・ああぁ・・・あんッ・・・あんッ・・・あぁぁぁッッ!!」
引き抜くと同時に美咲は
カラダを反りかえらせ、ビクッ、ビクッと痙攣し、絶頂と共に気を失った。
その表情はどこか満足そうに見えた。
文子は、自らの手で美咲を絶頂に導いてしまったことに罪悪感を感じていた・・・。
美咲の蜜で濡れた手。その掌で振動するソレを壁に思いっきり投げつけると、
ソレはいとも簡単にバラバラになり、動きを止めた。
その時、ドアの向こうでどやどやという足音が聞こえた。かなりの人数だ。
「おい、いたか?」
「いや、こっちにもいない」
「くっそ〜、どこに行きやがった!」
会話の内容から察するに、追っ手は一度この前を通りすぎたのだろう。
おそらく、美咲に挿入されたバイブを取り出している間だったので、気づかなかったのかもしれない。
やつらは文子たちの姿を見失い、探し回っている最中のようである。
「よし、もう一度探すぞ。お前たちはあっちだ。俺たちはこっちを探す」
「けっ! まったく、モルモットを逃がしちまったら、ボスにどやされちまうぜ」
チンピラたちはそんな会話をしながら、このドアの前から離れて行く。
モルモット──? ボス──?
どうやら、あの”アニキ”とかいう奴の上にまだ”ボス”がいるようだ。
しかし、モルモットとは……?
文子は美咲の方を見る。状況から鑑みてそのモルモットというのは彼女のことだろう。
いったい彼女は囚われている間に、何をされたというのだろうか?
もしかすると、異常に快感をむさぼっていたあの姿と関係があるのかもしれない。
文子の知る美咲は、清純が服を着て歩いている、と言っても過言ではないくらいの女性だった。
その彼女がいくらリモコンバイブを装着されていたとはいえ、あそこまで快楽に溺れてしまうとは、
どう考えても納得がいかなかった。
「クスリ……」
文子はそう呟いた。
例えば、新しい麻薬をルートに乗せる前に美咲で実験した、というのはどうだろう。
性感が異様に高まるような媚薬に似た薬物──とか……
むろん、仮定の話なのでまるで違うかもしれないが、可能性のひとつではある。
(なんとしても脱出しなきゃ……)
気を失っている美咲を見つめながら文子は思った。
このまま捕まれば証拠を残さないために美咲は殺されてしまうだろう。
自分だって同じだ。彼女と同じようにモルモットにされ、殺害されてしまう公算が強い。
とは言え、この状態の美咲を連れての脱出はさすがに不可能だ。
せめて、自分で歩けるようになるまで彼女の回復を待った方がいい。
なんとかそれまで、あいつらに見つからないことを祈るのみだ。
文子は美咲の傍らに座り、フウとひとつため息を吐いた。
美咲は先ほどの狂ったように身悶える姿が嘘のように、静かに寝息を立てている。
その寝顔は文子のよく知る清純な彼女の顔だった。
と──
ガチャリ。
はっとなって音のした方を向く文子。
鍵を開けられた? 見つかったのか?
しかし、さっきのように騒々しくないところを見ると、二、三人なのかもしれない。
いや、もしかすると一人……
その程度の人数なら倒せる。
文子は立ち上がり、ドアの近くで身を潜めた。
入ってきたのは、いかにも研究者風の白衣の男一人だった。
ひ弱そうなその男は文子たちに気づきもせず、ドアに鍵を締める。
いまだ! 文子は男の足元めがけて滑り込む!
足を払われた男は気の抜けた悲鳴を上げ、受身もとれずに転倒すると意識を失ってしまった。
スレッドに居た男たちと違い、なんとも拍子抜けする男だ。
──ともかく、ここで何が行われているのかを訊く必要がある。
後ろ手に手錠をかけると、頬を叩いて男の意識を回復させる。
怯えきった男の支離滅裂な言葉の数々が尋問を長引かせたが、
文子はイライラしつつも徐々に情報を引き出しはじめた。
「そ、そうだ。きょ、強力な、・・・び、媚薬の類だと思ってくれていい」
「それを奥で作ってるというわけね」
と、ドアの向かい側の壁を指差す。壁の隠しドアの向こうが実験室らしい。
「げ、厳密に言うと、せっ、製造することには、成功して、ない」
「どういうこと? みさ、・・・・・・彼女には使ったのよね」
「プ、プ、プロレシアは、実験体の、分泌物だ」
「実験体?」
「と、特別な人間だ。その、分泌物だ。そっ、それに、実験体から抽出したものや、
じ、人工的に培養したものでは、こ、効果のないことが、かっ、確認されている」
戸惑う文子に構わず、男は興奮した様子で話し続ける。
「だ、だから、現時点ではプ、プロレシアはとても貴重で、りょ、量産もできない。
だ、だから、実験体から女に、ちょ、直接投与するしかない」
「・・・直接投与?」
「そ、そうだ。・・・・・・せっ、性交させるんだ」
「!!」
文子の怒りを感じとったのか、男は一層怯えて言い訳する。
「ち、ちっ、違う! わ、私が、やらせたんじゃない。
わっ、私の仕事は、プ、プ、プロレシアを抽出し、量産、することだけだ」
こいつ……ぬけぬけと……
たとえ直接手を下していないにしろ、そんなものを培養しようなどとする時点で許せるものではない。
文子は怒りの形相で、白衣の男を睨みつけた。
「こ、これはじゅ、純粋に、科学的見地から……」
「女を玩具にして、何が科学よ!!」
胸倉を掴み、白衣の男を殴りつけようとする文子。しかし、その時男は言った。
「ひっ! ま、待て! 私をどうにかしたら、あの娘は助からんぞ」
なに──?
「──それはどういう意味?」
「プ、プロレシアはかなり依存性の高い薬物だ。いっ、一般的な麻薬の類とは比較にならない程の禁断症状が出る」
「なんですって?」
「見たところ、その娘はすでにプロレシアの中毒になっているようだ。しょ、症状が出たら地獄の苦しみを味わう」
淡々と話す白衣の男に対し怒りは隠せないが、美咲を助けるためにはこの男の力を借りなければ仕方がないようだ。
「抑える方法はないの?」
「しっ、失神してしまう程のオルガスムスを感じれば、一時的に禁断症状は抑えられる。しかし、それも短時間だ。中毒になった女は一生性交をし続けねばならない」
「ひ、酷い!」
「それだけじゃない。今までの実験結果では、一週間から十日を目処に毎回プロレシアを投与しないと、発狂して死ぬ」
なんということだ。
ではこのまま美咲を救い出しても、そのプロレシアを投与することができなければ、十日もしない内に死んでしまうかもしれないのか?
「さっき『私をどうにかしたら、あの娘は助からん』とかって言ったわよね。じゃあ、あなたなら助けられるのね」
「も、もちろんだ」
「どうするの!? 早く助けなさい!!」
文子は白衣の男の胸倉をさらに強く掴み乱暴に締め上げた。
「ぐはっ、わ、わかった……、私の命を保証してくれるなら……」
「約束するわ。だから、早く!」
「ワクチンがある……あそこに……」
白衣の男はそう言って、実験室らしい隠し部屋の方を顎で指した。
「あそこにあるのね」
文子は白衣の男を立たせると、その部屋へと引き立てる。
「開けて!」
「わ、わかった……。私だ。北中だ」
そう言ったとたん、扉の鍵がガチャリと外れる。どうやら、声紋をチェックするシステムのようだ。
文子は白衣の男──北中を引きつれ、その隠し部屋へと入っていった。
部屋に入ると同時に、鼻がもげそうになるほどの異臭を感じた。
「なっ……なんなのこの臭い」
「じ、実験体の体臭だ。危険性はない」
そうは言ってもこの悪臭は尋常ではない。美咲の命が掛かっているから耐えられるものの、
そうでなければ一秒たりともこんなところにいれるものではなかった。
後ろ手に手錠を嵌められている北中は、肘を使い照明のスイッチを押したようだ。
部屋に明かりが灯る。
「ぎゃぁぁぁぁぁ!!」
突然、野獣のような雄たけびが聞こえた。思わず声のする方を振り向く文子。
「な、なに……これ……?」
「そ、それが、実験体だ」
「こ、これが……」
檻の中に閉じ込められている”実験体”を見つめ文子はしばし呆然とした。
それは人間とはほど遠い、なにか別の生き物としか言いようがなかった。
実験体はニメートル近い長身に、四肢をそなえており、一応ヒト型と言えるだろうか。
しかし、四肢のバランスは大きく崩れ、短い足に長い腕を持つ。そして、
なにより尻から生えた尻尾のようなモノが、文子に人間とはまったく違う、
理性を持たない野獣をイメージさせた。ところが、
檻の中のソレは、明らかに文子を”牝”と認識し、その姿に発情していた。
耳の近くまで大きく裂けた口は、涎を垂らしながら、赤く長い舌で舌なめずりし、
尻尾と太く長い指で掴んだ鉄格子を大きく揺らした。
こんなモノと性交させるなんて、──思わず見上げた文子の視線が、実験体のそれと
一瞬だけ交差する。だが、それだけで文子はその視線から逃れられなくなっていた。
文子を見下ろす、おぞましい目。
その大きく濡れた瞳には自分の姿が映っている。やがて、その姿がゆっくりと変化していく。
瞳に映る文子の服が引き裂かれ、豊満な乳房が、ヒップが、肉体のすべてが、露わになる。
実験体の長い舌が身体中を舐め回し、そのざらざらした感触が文子を悶えさせる。
文子の身体は、実験体に抱きかかえられ、逃れ様もなく巨大な肉棒に貫かれた。
強烈な痛みと快感が身体の隅々へと駆け巡る。
視姦されている、──自分が犯される姿を否応なく見せられている!
文子はおぞましさに震え上がった。
と同時に、倒錯的な牝の本能が目覚めていることに文子自身は気づいていない。
しかし、実験体は、何か匂いを嗅ぐように鼻をクンクンさせると、
文子の身体から発散される何かを感じ取り、「ぐあぁぁぁぁ!!」と雄叫びをあげた。
長い毛で覆われた下半身からは、大きく怒張した肉棒が励ちあがる!
文子に見せつけるかのようなソレは、人間離れした大きさだ。
「ぐゎ、ぐゎ、ぐゎ・・・・・・」
怪物は笑っていた。すでに文子を征服したかのように・・・・・・。
「どうかしたか?」
北中の何度目かの呼びかけで、文子はようやく我に返った。
「な、なんでもないわ。ワクチンは?」
平静を装いながら北中の様子を窺うが、男である北中は何も感じていないようだった。
やはり、女にだけ作用する何かをこの実験体は持っているのかもしれない。
「この保管ケースの中だ。ロック解除のパスワード、2991を入力してくれ」
と、パソコンのキーボードを顎でしめす。
文子は言われた通りに数字を入力し、ENTERキーを押した。
ガラガラガラ──
突然、文子の背後で金属が奏でる物音が聞こえた。文子は何事かと思って振り向く。
檻が……実験体を閉じ込めてあった檻の扉が開いている。
「ちょ……どういうこと!!」
すぐさま北中の方を向き問いただそうとする文子。だが、その場には男の姿はない。
なんと、北中はいつの間にか今入ってきた扉の近くで、ニタニタと笑っているではないか。
「ひひひ、お友達だけがプロレシアの味を知っているというのでは片手落ちだろう。せっかくだ、是非自分自身で味わってみてくれ」
「なっ! 騙したのね!!」
「これだけは覚えておいた方がいい。そう簡単に人を信じてはいけない……さあ、閉じろ!!」
慌てて扉へと向かう文子だったが、それはすでに遅きに失した。
北中の声に反応して、ドアがガチャンと閉じられる。実験室は完全な密室と化してしまった。
部屋の中にいるのは文子と、あのおぞましい実験体のふたりだけだ。いや、ひとりと一匹と言うべきだろうか。
「開けなさい! 開けるのよ!! お願い! 開けてぇぇぇ!!」
必死になって扉を叩くが、もちろんそんなことで開くはずはない。
実験体が──あの化け物が徐々に近づいてくる。ぐゎ、ぐゎ、という笑い声を発しながら……
文子は扉を叩くのを止め、迫る実験体と対峙する。
こんな化け物に犯されるなんて……いや、肌を触れられることすらおぞましい。
彼女は懐中を探る。アニキと呼ばれていた男から奪い取ったナイフがあるはず。
こんなもので致命傷を与えられるとは思っていないが、無いよりはましだ。
文子はナイフを構え、実験体を睨む。
化け物は、その大きく裂けたような口を吊り上げ、文子を見つめている。
(はあ、はあ……なに……なんかおかしい)
文子は自分自身の身体に異常を覚えた。
熱っぽい。身体が火照る。
膝ががくがくと震え、立っているのも困難だ。扉に背をもたれかからせていないと、崩れ落ちてしまいそうになる。
(だ、だめよ。しっかりしないと)
だが、文子の視線は実験体の股間で屹立する、醜悪な肉塊に注がれていた。
目を外そうと思うのだが、身体が言うことをきいてくれない。
「ほ、欲しい……」
ほとんど無意識の内にそう呟いていた。
乳首が硬くなるのを感じ、股間が熱く疼いてくる。力が抜け、右手から握っていたナイフが床に落ちる。
左手をブラウスの打ち合わせから中へ差し入れ、ブラジャーを押し上げる。
瞼を閉じ、やわやわとふくらみを揉み、乳首を摘まむ。
右手は股間へと伸び、ショーツの中へと忍び入る。
「くふっ……ン」
何が何かわからない。股座からはいやらしい蜜が溢れ、脊髄から脳天へ信じられない程の快感が走る。
「も、もう……」
すでに文子は実験体が目の前にいることすら気づいていなかった。
ただ、この官能の波を鎮めようと、自らを慰めることに必死だった。
はあはあ、という荒い息を感じた。
目を開くとそこには実験体が、長い舌を伸ばして立っていた。
「あぁ……」
文子はそう呟いて、両手を実験体の首へとまわし、舌を絡ませていった。