デジタルタイマーの赤い文字が時を刻む。  
00:12:23……22……21……20……19……  
 
ホテルの一室に全く異様な箱があった。機械仕掛けだった。  
機械を構成する様々な部品。ネジや電源、十色な配線らなどが並ぶ。だがこの機械の本質は2本のダイナマイトであった。  
梶山美穂子は工具と自分の技術を駆使し、それを慎重に解体していく。  
青い出動服に黒い防護ジョッキを背負っている。手には白い手袋、頭には青い出動ヘルメットを被り、フェイスガードを下ろしている。  
とはいっても、爆発すれば彼女は重傷だろう。それは近くにいた二人の隊員も同じだった。  
あとこの配線を……  
手馴れた手付きで、しかし慎重に開いたペンチを白いコードに跨らせると、彼女はゆっくりとペンチを閉じていく。  
パチンという鈍い音が聞こえた。  
デジタル時計は止まった。  
「爆弾、解体しました……」  
了解……。横にいた同僚が一息つく。  
「ふぅ……」  
彼女も一息ため息をもらした後、フェイスガードを上げ、汗に濡れた白い額を拭った。  
爆弾解体完了! と一人の隊員の声が響いた。  
美穂子は入ってきた隊員らに後を任せ、部屋を後にする。  
ヘルメットをおろすと、黒色の豊かなショートカットがみえた。彼女がその小さい顔を振ると、そのショートカットが艶やかに舞う。  
長い睫毛に愛らしくも活気に溢れた瞳、筋の通った鼻、小さくも紅い唇。  
青い出動服に身を包んだ肢体はすらりとしているが、それでいて胸は形良く大振りであり、尻は少し小振りだがツンと上を向いていた。  
梶山美穂子巡査、警察官。爆弾処理班に所属する。  
 
 
「あー、終わった」  
美穂子は出動服姿で、自分のデスクに座り、今書類を纏め上げ終わったところだった。  
「お疲れ様」  
横にいた同僚の巡査が言った。気がつくと、周りには彼とお茶を持ってきた制服姿の後輩の婦人警官がいるだけである。  
「お疲れ様です。美穂子さん、書類出しておきますよ」  
ありがとう、と美穂子。可愛らしい婦警は彼女の机に湯飲みを置いた。  
「けど、最近多くて嫌になるな」と同僚巡査。  
他の二人は頷いた。これも〈黒い騎士〉なる連続爆弾魔の仕業だった。  
〈黒い騎士〉はダイナマイトやプラスチック爆薬で時限式の爆弾を製造。これまでに7件ほどの爆弾事件が発生していた。  
だが最近では市民が〈黒い騎士〉の脅威に敏感になり、また警察もこれ以上犠牲者を出しまいと躍起になっていたこともあって、早期発見、早期処理が出来るようになった。  
「そういえば聞いた話なんですけど、捜査本部は犯人にもう一歩らしいですよ。目星がだいたいついて、あとは決定的な証拠だって」  
「でもあいつらって、そういってうまくつかめないんだよね」  
美穂子がいう。そうだな、と微笑する同僚。  
「それでも早く捕まってほしいですよね。こんなに仕事が多くて、皆さん相当疲れている様子ですし」  
「そりゃそうよ。訓練に追われてた日々が懐かしいわね」と美穂子。  
「まあ、こっちが本業なんだがな」  
そう同僚が言うと、他の二人は笑った。  
美穂子は時計を見る。もう9時か  
「あたし、そろそろ帰るね。じゃあ、悪いけど書類よろしくね」  
はい、と婦警。同僚がまたなと手を振り、美穂子はそれを返して部屋を去った。  
 
「疲れたな……」  
夜、人気のない道を一人歩く。  
美穂子はジーンズに黒いTシャツという質素ないでたちで小さなリュックをしょっていた。  
傍からみれば、女子大生にもみえる。彼女はまだ若いが、それでも有能な爆弾処理のエキスパートだった。  
爆弾処理に関しては最前線に立ち、その腕のよさは警察機構のみならず、一般でも知られていた。一度週刊誌がことわりもせず美穂子の存在を取り扱うことさえあった。  
(犯人捕まってくれないかな)  
美穂子はそう思った。さすがに彼女も疲労の色が隠せない。何せ命がけの作業を最近何度もやっているのだ。  
爆弾処理班は一応の任務は爆弾の処理そのものにあるが、爆弾事件のあまりない日常においては、むしろ技術向上や取得、教練の方が日常だった。  
それが最近の連続爆弾事件。いつ来るかわからない爆弾処理の任務に緊張し、命令が下ると一層にそれが増す。そんな日々だった。  
そのせいか、彼女は後ろから来る人影に気づかなかった。  
「梶山美穂子さん……?」  
「はい!」  
美穂子は突然の声に驚き、反射的に返事をした。  
彼女が振り向こうとした時、突然体に電撃が走った。  
「うッ!」  
スタンガンに打たれた彼女はその場で意識を失った。  
 
※※※  
 
「うッ……」  
彼女が眼を覚ました。下半身に妙な感じを覚えたからだ。  
頭が重い。目の前で何かが蠢いている。人の頭か。誰かがあたしに何かをしている…?  
「…これでよし、と」  
人が立ち上がる。少年だ。パーカーとキャップを被っている。童顔で愛らしさの感じる良い顔立ちだ。  
「あ、起きたんだ。梶山美穂子さん」  
誰……? 彼女の顔をみる。周りの場景も見えてきた。コンクリート作りの地下室のようだ。換気扇が回っている。  
そしてあたしは……   
「え?」  
美穂子は自分の状況を見て愕然とした。  
全裸だった。豊満ながらすらりとした白い肢体は後手に手錠で拘束されている。片足は鎖に繋がれ、その鎖も床にしっかりとさされた大きな釘にからまっていた。  
そしてパンティーの代わりに、下着型の、貞操帯のようなものがはめられている。  
股間と尻には男性器に模したバイブが埋めこまれおり、クリトリスにも小さな卵形のバイブが接していた。彼女は得体の知れない不快感と不安を抱く。  
そして股間辺りから筒状の、1リットルのペットボトルを一回り大きくしたくらいの大きさの、プラスチックで覆われた何かがついていた。上部はビニールカバーに覆われている。  
「な、何これ……?」  
「僕からの挑戦だよ。梶山美穂子巡査」  
「え、何言ってるの? 貴方誰?」  
「僕は〈黒い騎士〉だよ」  
「え…?」  
彼女は驚いた。まさかこの少年が!  
「驚いた? まあいいけど」  
「何するつもり?」  
美穂子は眉を厳しそうに歪め、〈黒い騎士〉を睨む。  
それを無視するように〈黒い騎士〉は美穂子に近づき、股間から下がっている何かからビニールカバーをとった。  
そこにはデジタルタイマーが姿を現す。美穂子は息を飲んだ。  
「これって…」  
「時限爆弾だよ」  
美穂子は絶望的な顔を浮かべ、〈黒い騎士〉は可愛い笑みを浮かべた。  
「いい、これは作動から100分以内に爆発する仕掛けになってるんだ。中には少量のプラスチック爆弾が仕組まれている。でも美穂子さんを吹き飛ばすにはちょうどいい量だよ」  
美穂子は〈黒い騎士〉を怒りに満ちた表情でにらめつけた。だが額には冷や汗が流れている。〈黒い騎士〉は話を続けた。  
「僕がドライバーとペンチを貸してあげるから、美穂子さんは自力で爆弾を解体してね。でもいつもの通りにはいかないからどうなるかな」  
「……どういうこと?」  
 
「やってみてからのお楽しみだよ」  
手錠をはずすね、と〈黒い騎士〉は彼女の後ろに回った。  
「正直なこと言うと、美穂子さん殺したいくらいなんだよ。いつも僕の邪魔ばかりする。人を吹き飛ばして、この世を燃やしたいのに。僕にはそれができる。  
でも美穂子さんが爆弾を解体なんてして、それを止めちゃう。ムカつくんだよ」  
〈黒い騎士〉は一層憎悪に満ちたような声を出して、話しを続ける。  
「でもただ殺すのはつまんないから、美穂子さんを嬲りながら殺す。苦しみながら殺されるところをみたいんだ。それに美穂子さんは美人だから、観ていて面白そう」  
「狂ってるわ…」  
美穂子は呟いた。部屋の片隅に何かがあるのをみつけた。三脚の上にはハンディカメラ。まさかこの様子をとるんじゃ……  
「いッ……!」  
突然、右腕に痛みが生じた。針に刺されたようだ。何かの液体が彼女の白く細い腕にはいっていくのがわかる。注射器のようだ。  
彼女は暴れようとしたが、その時には注射器が抜かれていた。  
「でも美穂子さんもこれから狂うかもね」  
〈黒い騎士〉はそう言いながら、手錠をはずした。  
「何をしたの…?」と美穂子が聞く。  
〈黒い騎士〉はポケットから小さなドライバーとペンチを出し、今にわかるよ、と言った。  
美穂子は体に妙な変化があらわれていることに気がついた。体が熱い…!  
〈黒い騎士〉はやはりポケットから小さなリモコンを取り出した。3つのつまみと1つのボタンのうち、ボタンに手をかける。  
「じゃあ、いくよ……はじめ!」  
〈黒い騎士〉がボタンをおした。それぞれのバイブの威力を調節する3つのつまみは中ほどよりやや低めをさしていた。3つのバイブが一気に稼動し始める。  
「ひぃッ!!」  
美穂子は思わず声を上げた。白い肌に汗がどっと吹き出る。体をしならせるとたわわな胸が震え、全身から汗が飛ぶ。  
(何…これ……?)  
予想以上の快楽の波が襲ってきたのである。彼女は必死に堪えようとする。  
「僕がさっき打ったのは特製の媚薬だよ。普段よりだいぶイキやすくなってると思うから。これでもバイブの振動のレベルは普通よりやや下めだけどね、」  
「くうッ……!」  
「悶えてる暇あったら、早く解体作業進めたほうがいいんじゃない?」  
彼女はハッとなった。タイマーはこくこくと時間を経過させる。もう1分がすぎていた。  
彼女は二つの工具をもつと、作業に入った。  
こうして美穂子の地獄が始まった。  
 

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