ポコペン空港を経て出国する際、麻薬捜査官の桧垣令子は、見送りに来てくれた
現地の警察官と固い握手を交わした。
「色々と、ありがとうございました」
「こちらこそ。桧垣刑事」
近頃、多発する薬物による犯罪。その遠因がこのポコペンという国から密輸され
る麻薬にあるとされ、日本の警察から令子が代表としてやって来ていた。
今の所、密輸ルートなどの解明には至ってないが、七日間の滞在中、令子は様々
な情報を入手する事が出来た。現地の警察との連携も確立され、目指すべき麻薬
製造組織摘発への道筋はつけられている。令子は成果を手に帰る予定だった。
(これで、真彦にも会えるわね)
日本に残してきた一人息子の事を思いながら、待合室でコーヒーを飲んでいた時、
遠くで爆発音が鳴り響くのを、令子は耳にした。
「何かしら?」
搭乗口の辺りで白い煙が上がっている。この国は今、政変の真っ最中であり、よく
テロまがいの爆弾騒ぎが起こった。
「誰か助けて!」
誰かが助けを求めている。令子は逃げ惑う人々の群れに抗しながら、煙る方へ
走っていった。だが、次の瞬間、パパッと銃声が発せられ、搭乗予定の客が数人、
倒れた。
「自動小銃!」
一瞬のうちに数人をなぎ倒す武器の定番と言えば、自動小銃しかない。令子は
物陰に潜み、懐から拳銃を取り出した。本来、日本の警察官は海外に武器を持っ
て出る事は無いが、今回に限って携帯を許可されていたのである。ただし三十六
口径の回転式で、尚且つ弾丸は五発しか持っていなかった。
「これじゃ、わざわざ死にに行くようなものね」
令子は拳銃をしまい、様子を見る事にした。煙の上がった辺りでは、何かを爆破
した犯人と空港を警備する警察官との銃撃戦が始まっている。しかし、犯人たち
の方が装備が上等なのか、警察官たちはほとんど一方的に撃ち殺された。
「軍隊かしら。よく訓練されてるわ」
マスクを被った迷彩服姿の男たちが数人、空港内になだれ込んでくる。一見して
クーデターだった。令子は目立たぬよう床に伏せるしかない。下手に動けば、興
奮した犯人たちに射殺されかねないのだ。
「展開しろ!警察官を見たら殺せ!」
犯人たちの中に、指揮官と思しき男がいた。身の丈は百八十センチくらい、服の
上からでも全身が鍛え上げられているのが分かる。右手には自動小銃を持ち、
仲間に的確な指示を与えていた。
(あれが親玉ね。隙が無いわ。やっぱり軍人ね・・・)
令子と指揮官の距離は約三十メートル。射撃には自信があるが、はたしてここ
から拳銃弾で、相手に致命傷を負わせる事は出来るだろうか。その答えは否、
である。三十六口径の弾丸を五発、三十メートルの距離で急所へ必中とさせる
のは、ほとんど運試しに近い。また、奇跡的にそれが出来ても、残った仲間に
撃ち殺されるのが落ちである。令子は拳銃を捨てて、伏せていた。
そのうちに銃声も止み、空港内は静かになった。客のほとんどは逃げるか撃ち
殺され、ロビーには令子くらいしか残っていない。彼女は犯人たちに刺激を与え
ぬよう息を潜め、また外国人であるのを理由に、逃がしてくれる事を期待した。
「おい、お前」
誰かが令子に英語で話しかけてきた。まだ若い、少年のような声だった。
「外国人か」
「そうです。日本人です」
「隊長の所へ行け。あそこだ」
「お願い、殺さないで」
「それは、隊長が決める」
令子は頭の後ろで手を組んだまま、歩かされた。背後には小銃を抱えた犯人の
一味がいる。少しでもおかしな真似をすれば、即座に殺されてしまうだろう。令子
の背中に冷や汗が流れた。
「なんだ、その女は」
例の巨漢、指揮官らしい男が令子を見て呟いた。
「日本人のようです。この国とは無関係なので、殺すかどうかの判断を仰ごうと思
いまして」
「ふん、日本人か。殺すまでもないわ」
指揮官は令子を一見しただけで、殺すまでもないと言った。女である事と、外国人
である事が幸いしたようだった。
「いかがいたしましょう」
「お前らにくれてやる。好きにすれば良い」
「分かりました。おい、女。こっちへ来るんだ」
令子は犯人に腕を取られ、搭乗受付の奥へと連れて行かれた。ここには航空会社
の事務局が並んでおり、令子と犯人はその中にある一室へと入った。
部屋は二十畳ほどもあろうか、空調も効いていて快適そのもの。この国が亜熱帯
地域に属する事を考えれば、かなり快適な場所であった。
「女、服を脱げ」
「そ、そんな」
令子が拒むような素振りをすると、犯人は小銃を突きつけた。
「俺たち解放軍は今、気が立ってるんだ。逆らうと殺す」
「分かりました」
震える指で令子は着ている物を脱ぎ始めた。一瞬、日本にいる夫と息子の事が頭
を過ぎったが、小銃の銃口を前にしては逆らう術など無かった。
スーツを脱ぎ、下着姿になった所で、犯人がマスクを取った。見れば年端もゆかぬ
少年である。令子は胸の詰まるような思いがした。
「女、お前はいくつだ」
「三十歳です」
「俺の母親と同じだ。日本人は若く見えるんだな」
犯人、いや少年はズボンを脱いで、令子の前に立った。
「そこへ跪いて、しゃぶって欲しい」
「はい」
複雑な思いを胸に、令子は少年の男根を手に取った。硬くて、熱い。まるで若さその
ものである。令子は目を閉じ、それをそっと口に含んだ。ここで拒む事は無意味だっ
た。
「気持ちいいな」
「ありがとうございます」
男根を舐めしゃぶりながら、令子は媚を売った。そうしないと殺されてしまうというから
だ。その上で、何か為になる情報を聞き出したかった。
(まず、犯人の数が知りたいわね)
男根の玉袋を手で擦りつつ、令子は上目遣いで問う。
「あの、私、これからどうなるのかしら」
「どうもしない。われら解放軍の勝利となれば、日本に帰れるだろう」
「それまで、私はどうやって生きれば良いの?」
「われら解放軍の娼婦をやれ。お前は器量が良いから、大事にされるだろう」
「解放軍って何人いるの?私、大勢の男の人って、怖いわ・・・」
「空港へ突入したのは俺を含めて二十人だ。後はおっつけやってくる。くッ、いいぞ」
男根が射精の予兆を見せた時、令子は少年の背後に回った。そして、
「ごめんね」
腕を絡ませると同時に、首を折ったのである。相手が年端も行かぬ少年ゆえ、その
罪悪感は一入だった。
小銃を手に入れた令子は、部屋を出た。少年の骸はそのままにして、人の気配のす
る方へ歩いて行く事にする。しばらく歩くと、迷彩服の男たち数人の姿を発見した。
(五人いるわ。こいつを使えば一瞬だけど、銃声を他のやつらに聞かれたら困るわね)
とりあえず小銃を長椅子の下へ隠し、令子は服を脱いで素っ裸になった。そして、その
まま男たちの群れへと歩き出す。
「なんだ、あれ」
男たちは、突然、目の前に現れた裸の女を見て、驚いている。しかし、無防備であ
る事が明白な為、警戒はしていない。誰もが令子を見て、興奮しているようだった。
「殺さないで。私、この国と何の関係も無いの」
「何か言ってるぜ。英語、話せるやついるか?」
「俺、分かる」
男たちの中から、一人が令子の前へ出た。幾つか言葉を交わし、それから仲間へ
向かって叫ぶ。
「隊長の思し召しだそうだ」
令子は自分が、指揮官のあの男に言われてここへ来たと話した。それを男たちが
良い解釈をしたらしい。
「私、何でもするから、殺さないでね」
喰らいつけば旨味がたっぷりと出る体を持った女が媚を売れば、それに応じぬ男
はいないだろう。一味は早速、令子を抱く順番を決め始めた。
「やった、俺が一番だ」
一人の男が、裸の令子を抱きかかえ、トイレのある方へ歩き出す。人数や状況を
考えて、水場を選んだのだろうが、これは令子にとっても好都合だった。
「お願い、優しくしてね」
そう言って抱えられて行く女が男の首に巻きつけた細腕に、よもや殺意があるとは
この場にいる誰もが思わなかった。これから十五分の後、トイレの中には五つの死
体が転がった。死因は皆、首の骨をへし折られた為だった。
「これで六人か」
令子はこれまでに殺めた男たちから、小銃と予備の弾丸、それと四十五口径の
拳銃を手に入れていた。だが、相手が軍人と考えると、火器での戦いは分が悪い。
万が一、銃撃戦にでもなれば命は無いと思われる。
「やっぱり、色仕掛けでいくしかないか」
一旦、火器を隠しておいて、令子はまた空港内を歩き出した。事件が起きてから
そろそろ一時間が経つが、今の所、正規軍の派兵が無い所を見ると、このクーデ
ターは相当、計画された物と考えるべきだろう。あの少年がいっていた、後はおっ
つけやって来るというのは、もしかしたら変心した正規軍なのかもしれなかった。
今度は通路を固めている、三人組の犯人に出くわした。令子は今も裸のままで
ある。
「あの、私・・・逃げ遅れて・・・その・・・」
「ああ、そうかい。ちょっと、こっちへきな」
男たちは令子を手招き、すぐさまその周囲に立った。
全員が百八十センチはあろうか、マスクを被らずに指揮官クラスの雰囲気を有し
ていた。令子は怯えを装いながら、三人の品定めに入る。
(今までのとは、ちょっと違うわ・・・)
ここまでに殺めた六人は、まだ練度の足らぬ未熟な兵であった。しかし、彼らは
違う。白兵戦においても、相当な使い手と考えねばならない。体中に帯びた傷跡
が、それを物語っている。
「お前、外国人か?」
「そうです、殺さないで」
「そんなに怯えるなよ」
男の一人が、たっぷりとした令子の乳房を撫でた。
「たまらん体をしてるな。男好きだろう」
「・・・はい。ですから、殺さないで」
あくまでも無辜な外国人女性を装うつもりだった。この際、犯されても構わないと
すら思った。そうでなければ、この危機は乗り越えられそうにない。
「何をされても構わないから、助けて」
「俺たちの奴隷になるか?」
「なります、ならせてください」
令子は男三人の前へ跪き、命乞いをした。
「私は、あなた様たちの奴隷です。何なりとご命令くださいませ」
「そうか、じゃあ、ケツを向けるんだ」
顔に傷のある男が、令子の尻に挑む。妻であり、一児の母でもある女だが、この
場合は仕方が無かった。
「ううッ!」
令子は背後から貫かれた。夫ではない外国人の男──愛してもいない下衆の
男根で──しかし、女体は喜びを知っていた。令子は男根に膣穴を抉られる度に、
自分が何をすべきか本能の部分で答えを出した。
「俺は、その口でしゃぶってもらおうか」
令子を挟み、二人の男が男根を捻じ込んでいた。余ったもう一人は令子の体に
へばりつき、乳房をいじっている。薄汚い男の欲望を表す連鎖姦の始まりだった。
「死にたくなかったら、ケツを振れ」
「精子が出たら、全部、飲むんだぞ」
「早く代わってくれよな」
抵抗できない女に対し、男たちは気ままに振舞う為、令子の体は弾み、官能的な
曲線を描いて揺れた。
(ああ、だ、駄目・・・)
恐ろしく淫靡だった。このまま官能に流されてしまう──令子はそれを危惧した。
しかし、脳裏に日本にいる息子の笑顔を思い浮かべ、何とか堪えている。もっとも
長くこの状態が続けば、自分は本当に娼婦と化してしまうだろう。令子には何らか
の手だてが必要だった。
(こうなったら、荒事が必要かも)
男根を咥え込んでいる男の腰に、大型の拳銃がぶら下がっている。安全装置が
外されており、ホルスターから抜き取ればすぐにでも撃てる状態だった。令子は
それを見て、覚悟を決める事にした。
(勝負は一瞬)
男が射精する瞬間、その時を狙って動くつもりだった。しゃぶっている男根はすで
に射精の予兆を見せており、その汚らしい欲望を果たした時が、やつらの死ぬ時
だと令子は思った。
「出るぞ!の、飲めッ!」
男がそう言った刹那、令子はホルスターから拳銃を抜いて、まず目の前の男、次
いで乳房を弄っていた男を射倒し、最後は身を翻して膣穴に男根を捻じ込んでい
る男を撃ち殺した。令子は血と精液を浴びながら、拳銃弾をすべて撃ち尽くし、
三つの死体の上に君臨したのである。
「・・・あと十一人か」
ここからは更に厳しい戦いになろう。膣内に射精された男の粘液を指で穿り出し
つつ、令子はまたもや歩き出した。