むかしむかし、と言ってもそれほど遠くないむかしのおはなしです。  
私立の男子高、○×学園には三人の美しい先生がおりました。  
ひとりは立花真由美という、切れ長の目に縁無し眼鏡を掛けた、冴えた美貌にストレートのロングヘアがよく似合う24歳の数学教師です。  
もうひとりは若宮静香といいまして、いかにも気の弱そうなタレ目がちの大きな瞳が特徴的な、この春に赴任したばかりの22歳の国語教師です。  
最後のひとりは山崎雅子という、おっとりとした性格ながら、どこかにしっとりとした熟女の色香を漂わせている、結婚して8年目、今春小学校へ上がったばかりの娘を持つ35歳の古文教師です。  
この三人の先生の仲の良さときたら、まるで実の姉妹のようでした。  
さて、入学式から一ヶ月も経てば生徒たちの誰もが恐れおののく「中間試験」が始まります。  
試験の始まる一週間前からは、全ての部活動はお休みとなり、生徒たちは早めに家へ帰って勉強することになっていました。  
この期間は、先生がたも遅くまで残っている必要はありませんので、放課後の職員室はガランとしています。  
すっかり帰り支度を整えた人待ち顔の立花真由美先生が二杯目のお茶を飲んでいるところへ、ハンドバッグを下げた山崎雅子先生がやって来て「若宮先生はまだなの?」と訊ねました。  
そう、立花先生と若宮先生は一緒に帰る約束をしていたのですが、若宮先生が4階にある図書室まで行く用事があるというので、立花先生はもう20分もここで待っているのです。  
「そう。迎えにいってあげたら?若宮先生は気が弱いから、あのおしゃべりな司書の方に捕まってしまって、帰るに帰れないのかも知れませんよ?」  
そう言うと山崎先生は、幼い娘が首を長くして待っている我が家へと帰っていきました。  
(もう!仕様のない静香ちゃんね!)立花先生も、妹のように可愛がっている新任の若宮先生を迎えに行こうと、自分と彼女の二人分の荷物を持って立ち上がりました。  
 
図書室に着いた立花先生は、「閉鎖中」の札が出ているその扉に鍵が掛けられているのを見て首を傾げました。  
(ヘンね。静香ちゃんはどこへ行ったのかしら・・・?)そう考えながら、4階の長い渡り廊下を歩き始めます。  
「コ」の字型をした校舎の最上階には、図書室だけでなく、各教科の資料室や倉庫、LL教室があり、一番奥には音楽室や視聴覚教室があるのです。  
立花先生は、一応各教室の見回りをしてから反対側の階段を下りて職員室に戻ろうと思ったのでした。  
そのとき、彼女は前方の防火扉の影に隠れている学生服姿の人影を見つけたのです。  
「ちょっとあなた!こんなところで何をしているの!」しかし、立花先生の凛とした呼びかけを無視して、その生徒はくるりと背中を向けてしまいました。  
 
「あなた、大江君ね?いいから待ちなさい!」音楽室や視聴覚教室がある奥へと早足で逃げる生徒には見覚えがありました。確か、「映研(映画研究会)」の部員のひとりです。  
映研といえば聞こえは良いのですが、この学園の映研の部員はたったの4名しかおらず、しかも、全員が相当の問題児ばかりだったのです。  
今逃げている三年生の大江は、アイドルの盗撮にしか興味がない小太りのカメラ小僧。カメラといっても、DV(デジタルビデオ)のほうが専門です。  
同じく三年生の鶴見は、眼鏡を掛けた痩せぎすのパソコンマニア。  
ただひとりの二年生、丸山は先の二人を足して二で割った感じ。  
この三人だけならさして問題はないのですが、最後に残った部長の久野。これが一筋縄ではいかない相手なのでした。  
市会議員である不動産王を父に持ち、背が高く眉目秀麗で成績は最優秀。しかし、あまり友人を作ろうとはせず、教師たちを含めた周りの人間を、バカにしきった冷たい眼で見ているだけという少年でした。  
じつは、さすがの立花先生といえどもこの生徒だけは苦手なのです。  
その間に、大江は視聴覚教室の扉を開けて中へ入ってしまいました。  
(どうして?視聴覚教室にはいつも鍵が掛かっているはずなのに!)とにかく、このオタク少年の後を追うしかありません。  
立花先生は、白魚のような指でドアノブを握り、防音の為重くなってしまっている扉を思い切り開けました。  
「大江君!こんなところで・・・何を・・・・・・」勇ましかった立花先生の声が、驚きのあまり突然小さくなってしまいます。  
果たして、彼女は一体何を見たのでしょうか?立花先生と若宮先生はこの先どうなってしまうのでしょうか・・・?  
 

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