「先生、今のとこ、もっかいお願いします」  
 クラスメイトの一人が手を挙げて言うと、黒板の前に立つ先生は穏やかな笑みを見せた。  
「分かりづらかった? えっとね──」  
 そうして黒板にチョークの白線を走らせながら、因数分解というよく分からない仕組みの式を展開していく。  
 普通の授業なら荒れるのに、この先生だと誰も騒がず、静かに授業を受ける。中には寝ている奴もいるが、授業の邪魔をしているわけでもないので、誰も迷惑そうな顔を見せてはいない。  
 スーツの上に白衣を羽織った先生の口から漏れる、優しい音を思わせる声に、誰もが耳を澄ませている。  
 目の前の先生の姿が、偽りのものと知ることもなく。  
 
 薄暗い体育倉庫の跳び箱に腰を落ち着けているだけで、倉庫内の全てを見渡すことができた。  
 今にも崩れ落ちそうな豆電球、バスケットボールの詰まった鉄柵の籠、バレーボールの詰まった鉄柵の籠、ためつすがめつも無意味に思える絡まった縄跳びの入れられた鉄柵の籠、薄汚れたコンクリートの壁と同じ色をした丸められているマット、その他にも雑多と混沌を詰め合わせたような代物が視界を埋めている。  
 そして今は、顔も知らない多くの男子生徒と、広げられたマットに寝かされている先生の姿もある。  
 男子生徒の多くは鼻で息をして興奮を押し殺していて、彼らの視線の先にいる先生は、怯えた様子を見せながらも、口に巻かれているハンカチのせいで呻き声しか上げられずにいる。手足は男子生徒に固定され、もがくことしかできないでいる。  
 人の集まりすぎで、狭苦しい空間は酸素の薄さを感じさせた。恐らく、それが興奮剤のような役目も果たしているのだろう、男子生徒の多くは既に瞳から理性を失わせている。  
 俺は一人、跳び箱の上で片足を抱くような体勢でデジカメを構え、レンズを通して倉庫内を眺めている。  
「・・な、なあ、まだかよ?」  
 我慢できなくなった誰かが声を上げると、皆が一斉に俺を見た。  
 俺は焦らすように腕時計を見て、思案の表情を見せる。時刻は既に六時過ぎ、体育館は当然として、その他の教室にも生徒の姿はないはずだ。無論、職員室や宿直室には誰かいるだろうが、何重もの扉を考えれば、少しぐらいの音ならば決して危惧するようなことにはならないだろう。  
 
 それを見越して、俺はレンズの向こうに広がる、瞳を輝かせている彼らを見据える。  
「・・・・・・いいよ」  
 そして、言った。  
 それは開始の合図であり、溜まりに溜まった欲望の堰を破壊する言葉であり、先生を自由にしてもいいという、解放の宣告だった。  
「────!」  
 まるで獰猛な、手に負えない獣が一斉に標的に群がるような、それらが実際は平凡な男子生徒であることを考えると滑稽とすら思えるような光景が展開された。  
 誰かが先生の白衣を破り取るように奪い取り、誰かがハンカチの上から先生の唇を吸うように口を寄せ、誰かが先生の胸を潰すように握り締め、誰かが先生の下着を埋め込むように割れ目を擦った。  
 それらの光景は一瞬のことで、次の瞬間には既に全く別の、新たな行為が先生を襲っている。  
「先生、先生っ」  
 恐怖で歪んだ表情を見せる先生のスーツを、誰かが激しく息をしながら脱がせた。そうして露になった肌とブラジャーにいくつもの手が伸び、ブラジャーはあっという間に奪い取られ、小さな膨らみが覗く。その膨らみにも手が伸び、揉みしだかれ、首を振って抵抗する先生を嘲笑うように、誰かが口を寄せ、膨らみを吸った。  
 スカートも脱がされ、ストッキングは破られ、最後の衣類となった下着も強引に脱がされ、数瞬の間に全裸になった先生の体に、いくつもの手や口、更に勃起している男根が迫る。  
「・・・・んん、んん!」  
 ハンカチの上から唇を寄せられ、口元を唾液まみれにしている先生の声が響くが、それは些細なもので、そして誰も耳を傾けてなどいない。  
 誰かが先生の手を取り、無理やりに自身の男根を握らせた。先生のしなやかな手は嫌悪感を表すように震え、触れることを拒むように指を開いたが、男子の力に勝てるわけもなく、敢え無く先生の両手はしっかりと男根を握り締め、力任せに扱かされていた。そして露になった腋を誰かの舌が這い回り、もう片方の腋には誰かの男根の先端が押し付けられていた。  
 下半身も、同じく瞬間の展開を繰り広げている。  
 
 先生の足は開かれ、靴下を脱がされたばかりの指を、誰かがしゃぶるようにして舐めていた。太腿にはいくつもの手が這い回り、誰かは先生の足を持ち上げ、折り曲げさせた膝の裏に男根を入れ、自  
身の腰を前後に振って快楽を貪っている。割れ目には二本の指が入り、掻き回すように揺さぶられ、へそや脇腹では舌が蠢いていた。  
「・・・・ん、ぐっ・・! ん、んん・・!」  
 先生が首を振るが、無様な抵抗でしかない。  
 嫌がる顔には何本もの男根があり、頬には男根の先端が擦り付けられている。  
 尖った乳首には男根の先端が擦り付けられ、誰かが自分の手で皮を扱いている。  
 もう片方の胸は誰かに吸われ、膨らみはすっかり赤くなっているにも拘わらず、誰かの指先が乳首を転がしている。  
 腋には誰かの放った精液がべったりとついていて、それを放った誰かは萎えることを知らず、自身の精液で粘つく腋に尚も先端を押し付けている。  
 震えを起こしている腹にはいくつもの唇の痕があり、今も誰かが唇を寄せている。  
 脛には、膝の裏で扱いて男根から溢れた精液が付着し、足元へと垂れている。  
 両方の足の裏は無理やりに男根を押し付けられ、扱かされている。  
 割れ目は指が出入りするたびに僅かな液を飛び散らせ、汚れたマットを濡らしている。  
 それら行為は瞬間の連続の一場面で、次の瞬間になればどこかが更新され、先生の体は新しいことを要求されている。  
 先生の頬に精液が放たれ、口を塞ぐハンカチに染みこんでいく。滑らかな黒髪は粘つく精液に濡れ、べたりとマットに張り付いている。二の腕や胸、腹、へその窪み、太腿や脛、足の裏にも精液が放たれたところで、先生への激しい行為は漸く一時的な消極を見せた。  
「・・・・はぁ、はぁ、はぁ・・・・」  
 荒い息遣いが場の空気を沈殿さえ、噎せ返るような饐えた臭いが理性を打ち壊していく。  
 最も高い金を出した誰かが俺を見て、俺が頷くと、その誰かは先生の開きっぱなしになっている足の間に腰を入れた。  
 
 そして先生から溢れた粘ついた液にまみれた割れ目に先端を擦り付けると、一気に根元まで押し入れた。先生の目が抵抗に見開かれ、喉の奥から声を絞り出すが、誰かは乱暴に腰を打ち付ける。  
 肌の打ち合わさる甲高い音が連続で響き、その音に反応するように立ち尽くす男子生徒の男根が硬さを取り戻し、欲情に震えた。  
「・・ん、ぅ、んぅ、うっ・・・・!」  
 先生は涙を流し、その涙が頬の精液と混じり合うと同時に、誰かが腰を抜き、濡れている男根を手で扱いた。男根から放たれた精液は先生の腹に飛び散り、へその窪みに溜まった。  
 荒く息する先生の腰の間を離れた誰かに続き、違う誰かが腰を入れる。そして間も置かず先生の割れ目に二本目の男根が入れられ、またも腰を打ち付けられ、肌の鳴る音が響く。  
 後は、その繰り返しだった。  
 誰かが射精すれば、先生の腹は精液に溢れる。間も置かず新しい誰かの男根が入れられ、肌を打ち合わせる音が響く。射精が行われ、挿入が行われる。  
 気付けば先生の尻は、赤く腫れていた。太腿の裏も赤くなっていて、腹は精液に溢れ、こぼれたものが脇腹まで濡らしていた。割れ目も赤くなり、抜かれている状態にも拘わらず開きっぱなしで、奥の収縮する様を見せている。  
 それでも行為は止まらず、続けられた。  
 もはや声も出せないと判断したのか、誰かがハンカチを取り去り、男根を銜えさせ、頭を持ち上げて乱暴に扱かせている。  
 割れ目には十何本目かの男根が入れられ、既に耳に馴染んだ甲高い音を響かせた。  
 俺はその中で一人、ただ一人、いつまでもレンズの向こうの世界を眺めながら、シャッターを押し続けた。  
 
 
 そして欲望を果てさせて消えていった男子生徒により、再びの静寂を得た倉庫内で、先生がゆっくりと立ち上がる。  
 体中を精液に濡らして、未だ開いたままの割れ目を晒した先生は、俺を見て、おもむろに唾を吐いた。  
「・・あー、ったく、何回も口ん中で出して・・・・あー、気持ち悪い・・・・」  
 そう言いながら俺のバッグを勝手に探って、その中からお茶のペットボトルを取り出し、うがいをした。  
「・・・・ちゃんと写真、撮った?」  
「あ、はい、撮りました」  
 しっかり頷くと、先生は満足そうに笑い、精液のせいで張り付いている前髪を払う。  
「んじゃ、パソコンで適当に修正して、私の顔は見えないようにしといてね。あ、皆には言ってるのよね?」  
「はい、このことを口外した場合は、写真を使わせてもらうって前もって伝えておきました。あ、料金は二万、最初の五人はそれぞれ割高に払ってもらいました」  
 そう言ってバッグの中の金を見せると、先生は腕を組んで頷いた。  
「んー、いい仕事だねぇ。これでお金を稼いで、何かあった場合は輪姦されたって告発、更にお金を搾り取るっと。ばっちりだわ」  
「今回のメンバーがリピーターになれば、更に稼げますね」  
「お、分かってるねー。あんたはこの後、ここを掃除。そんで稼いだ金の四割を支払うからね」  
「はい、ありがとうございます」  
 頭を下げて礼を言うと、先生はけらけらと笑い声を上げた。  
 そう、誰も知らない──柔らかで優しい先生の本当の姿が、智略を巡らせて金を稼ぐ強欲人間だということを。  
「先生、溜まったお金って何に使うんですか?」  
「そんなの決まってるでしょ」  
 先生は俺に向けた目の片方を閉じて、笑った。  
「貯金よ」  
 
 終わり。  
 

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