日が落ちたばかりの海岸線を一台の車が走っている。
運転しているのは理知的な顔立ちの男−真田貴之−と、
助手席には、その許嫁の市川沙也香が座っている。
「貴之さん、今日のレストランのお料理、おいしかったですわ」
「喜んでもらえて嬉しいよ、沙也香さん」
「結婚式の準備で追われていましたから、たまにはこうやって二人でお食事するのも素敵ですわね」
「沙也香さんは来月卒業式ですよね。卒業されたら、その翌月にいよいよ僕らの結婚式ですよ」
(結婚式を迎えたら、遂に彼女が抱ける…)
沙也香は厳格な家庭に育ったせいか、正式に貴之と交際を始めた後も肌を許さず、
その純潔は初夜に愛する貴之に捧げようと思っていた。
若い男性である貴之には、ある意味酷な事ではあったが、彼女の信頼を裏切ることを恐れて今まで手を出せずにいた。
おっとりした感じの顔立ち、肩のあたりでそろえた黒髪、文学少女を思わせる大きな眼鏡、飾り気の少ない白いワンピース、
といったある種地味な外見とは裏腹に沙也香の肉体は既に成熟していた。
ゆったりとしたワンピースの上からでもわかる豊満な胸、恐らくつきたての餅の様に大きく柔らかいであろうその臀部。
正面を向きながらも、貴之は隣に座る沙也香の肉体を想像するだけで勃然としてくるのを押さえられない。
卑猥な想像が悟られてしまうことを恐れ、貴之はあわてて話題を変えた。
「ところで、沙也香さんが続けている家庭教師の子はどうですか?」
「智哉君の事ですね。成績も順調に上がって、無事進学できそうですわ」
「沙也香さんの教え方がうまいからですよ」
「いえ、元々優秀な子でしたから、勉強のコツと習慣を教えてあげるだけでした」
「ははは、中々優秀な生徒だったようですね」
「ええ、明るくて素直で好奇心旺盛で、それにちょっとかわいい顔立ちですのよ」
「むむ、かわいい教え子と別れるのが案外寂しいんじゃないですか?」
「あら、嫉妬されていらっしゃるのですか?それでしたら謝ります。
でも、貴之さんに比べたら智哉君はまだまだ子供ですわ」
手を口元に当て、クスクスと笑う沙也香。
「あれあれ、これは一本取られましたね。と、ご自宅につきましたよ」
ありがとうございます、と挨拶をし、車から降りた沙也香は運転席側に回る。
「貴之さん、今日はありがとうございました」
「いえいえ、楽しんでいただけて、僕も嬉しいです。さ、最後に、こ、ここで、キ、キスをしていただけませんか?」
立ち去ろうとする沙也香を捕まえて、貴之は勇気を振り絞って自分の願いを告げる。
「え、で、でもこんな人前でなんて恥ずかしいですわ」
「いいじゃないですか。誰も見ていませんよ。お願いします」
「わ、わかりました」
顔を真っ赤にすると、沙也香は貴之の唇にそっと自分のを触れさせる。
「そ、それではお休みなさい」
「お、お休みなさい」
恥ずかしさのあまり、俯いて家に駆け込む沙也香を、眩しそう眺めると、貴之は帰途についた。
「智哉君、今日が最後の授業ね」
沙也香は教え子の藤井智哉の前に座ると、てきぱきと教材を広げる。
「沙也香先生、今日もよろしくお願いします」
「沙也香先生、紅茶とチョコレートです」
「あら、珍しいチョコレートね。どうしたの?」
「父の海外のおみやげです」
ここで智哉は嘘をついている。
父親が海外から買ってきたのは事実であるが、食卓や台所といった誰でも手の届くところではなく、両親の寝室にあったものを勝手に持ってきたのだ。
箱には「GARANA」と大書してあった。
(あ、パソコンが立ち上がったわ…って、な、何!?)
沙也香がふとふれたパソコンのディスプレイには、男女が絡み合う映像が流れていた。
音は消してあるものの、海外のものらしく無修正の映像は沙也香には非常にショッキングなものであった。
しかし、パソコンの画面から目が離せない。
さらに、さっきのチョコレートが効いたのか、体がどんどん火照ってくる。
「沙也香先生、何見ているんですか」
「えっ、い、いえ、何でもないの」
「沙也香先生勝手にボクの机の上見ないでくださいよ」
「先生、顔が赤いですよ」
「あ、だ、だめよ、智哉君。わ、私は婚約者がいるのよ」
「いやだいやいやだ、誰にも沙也香先生を渡すものか…!」