ごく普通の高校教師の野崎恵美子はある日の昼休み、財布に金がほとんど入っていないことに気づき、
学校から歩いて数分の所にある姫路信用金庫に貯金をおろしに行った。
運良く昼休みの混雑の始まる前に姫信に着くことが出来たため、恵美子はすぐに金をおろすことができた。
財布に金をしまって自動ドアへと向かおうとすると、野球帽にサングラス、そしてマスクをかけた
あからさまに怪しげな男が入ってきた。
夏だというのに男は厚手のパーカーのファスナーを首もとまで上げている。
片手は何かが入っているらしくふくらんだポケットの中に押し込まれている。
恵美子はすぐに、この男は危険だ、と感じたが、そう思った時には男に腕を掴まれ、
こめかみには何かを押し当てられていた。
全身から冷たい汗が一気に噴き出し、背、腕、脚、いや全身が恐怖に震えているのが自覚できた。
「かっ、金をだせっ!」
男の声は思いの外若い、というよりは幼かった。
そして何より恵美子を驚かせたのは、その声が聞き覚えのあるものだったことだった。