「おい」
「なに」
「何で急に抱きついてきてんだよ」
「あんたこそなんで抱きしめ返してんのよ」
「お前俺が地震苦手なの知ってるだろ」
「あんただってあたしが怖がりなの知ってるでしょ」
「は! お前が怖がりだったらこの世は大和撫子で溢れ返るわ」
「そうね、あたしはあんたみたいなヘタレじゃないものね」
「なんだと」
「何よ」
「つーかそろそろ離れろよ」
「あんたが肩抱いてるから離れられないんでしょ」
「おめーだって思いっきり俺の服掴んでんじゃねーか」
「何よ」
「何だよ」
「……」
「……」
「そもそも何であたしの部屋にいるわけ? こんな時間に」
「お前が呼んだんだお前が。夜遅くに屋根伝って来るのも怖いんだぞ」
「やっぱりヘタレね」
「呼んどいてその言いぐさは何だ」
「じゃあ今すぐ帰ってよ」
「お前が手を離せば帰ってやる」
「じゃあ離してやんない」
「どっちなんだよ」
「はー……ヘタレなくせに鈍いとか」
「ヘタレヘタレうるせぇなしまいには怒るぞ」
「事実を言ったまでです」
「減らねぇ口だ、後悔させてやる」
「…ちょっと」
「んー?」
「痛い、暑苦しい」
「後悔させてやるっつったぜ」
「すぐ傍で喋んないでよ、息がくすぐったい」
「おめーの息だってくすぐったいぞ」
「じゃあどうすんのよ」
「いいことを考えた、ひっつけば息はかからない」
「それは名案だ」
「だろ?」
「どこひっつける?」
「わざわざそれ聞きますか」
「変なものひっつけられても困るし」
「その考えはありえん」
「分かんないよ、男は狼っていうし」
「また古いな」
グラグラグラグラッ
「…!」
「やっ……」
「……」
「……」
「このまま寝るか?」
「暑いよ」
「でもお前震えてるぞ」
「寒いから」
「でもお前」
「あんただって地震怖いでしょ、苦手でしょ」
「まあ、そりゃそうだが」
「そうだが、何よ」
「一人じゃねーし」
「そこは素直に『お前がいるし』って言ってよ」
「うっせーな」
「告白もあたしからだったし」
「うっせーよ」
「昔は自分のこと僕って言ってて口調もなよなよしてたよね」
「うっせーって」
「なんでこんなの好きになったんだろう」
「それはお互い様だ」
「ひどい、泣きそう」
「とてもそんな表情には見えんが」
「もしもの時には責任とってね」
「脈絡なく語弊のある言い方しないでください」
「…ひねくれもの」
「……どっちがだ」