学校とは、それ即ち成年に達さない者達が青春を謳歌する場所である。  
また、知識を学び、友人と楽しい時間を過ごす場所でもある。  
『皆、気を付けて帰るんだぞ〜』  
「はぁ〜い!」  
この物語は、独りの小学生が色んな意味での「性」春を謳歌する物語。  
先生の一言を締めに、ランドセルを背負って教室を後にする生徒達に紛れて一人の男子が廊下に出る。  
来年の中学に向けて緊張する小学六年生、名前は田崎翔太。  
寛黙な表情を浮かべながら、下校しようと下駄箱の中から靴を取る翔太に一人の男子が友を連れて呼び掛けた。  
「よぉ翔太、今日俺ん家でゲームやらないか?新作のハードが手に入ったんだよ!」  
男は興奮気味に自慢しながら自分の家へと勧誘するが、  
 
「ごめん、今日はちょっと用事がな……また明日誘ってくれ」  
「そっか〜うん分かった!次こそ遊ぼうぜ!」  
「あぁ、またな!」  
 
友と別れた翔太は小学校から離れた道のりを歩き、一つの商店街に足を踏み入れる。  
「……………」  
翔太の右も左も美少女のポスターが並び、ちらほらとリュックを背にキャラクターが描かれたシャツを身に付けた者達。  
そう、翔太が住む街は秋葉原。  
即ち、オタクの聖地だったのだ。  
しかし、翔太が用が有るのはメイド喫茶でもあればネットカフェでもない。  
ある一軒の古い骨董品店だった。  
 
「こんにちは、おじさん!」  
『おぉ翔太君じゃったか、こんにちは』  
 
店内に入った翔太を迎え入れたのは一人の中年男性だった。  
翔太はグッズという物より、骨董品の中でもアンティークに興味を示す変わり者。  
「おじさん、今日は何か入荷してる?」  
翔太の待ち受ける一言に男性は品物を差し出す。  
『懐中時計だな…年代物だけどちゃんと動くんだな、これが』  
男性が懐中時計に電池を入れると、それはしっかりと時を刻み始めた。  
一秒ずつ確かに時を刻む時計は少々錆びているが、金色の光を放っている  
その存在は翔太の欲を瞬時に満たした。  
「買います、その懐中時計下さい!」  
翔太は、結局その懐中時計を去年のお年玉で購入。  
懐中時計は翔太の視線を釘付けにした。  
早速、その懐中時計を首からぶら下げたまま自宅に帰宅。  
「ただいま〜!」  
「おかえり翔太。アラその時計は?」  
翔太を出迎えた母親の目線は当然、胸にぶら下がる見知らぬ懐中時計に集中する。  
「あぁコレ?…骨董品屋に在ったから、去年のお年玉で買ったんだ!」  
 
「変わってるわね、もっと他に買いたい物だって有るでしょうに…」  
 
確かに母親の言う事にも一理ある。  
今の翔太のような若者といえば、ゲームやらグッズだの買いたがる歳。  
 
「どれも今一つだから、買う物が無いんだよ」  
 
翔太は自分の部屋に帰ると、入念に懐中時計を触りまくる。  
(欲しい物は手に入れた……)  
しかし、その翔太は懐中時計に一つのボタンが備わっていた事に気付く。  
そのボタンだけが錆びておらず、翔太の目を釘付けにさせた。  
「このボタン……何だろ?」  
 
それは爪先で押せる小さく丸いスイッチ。  
気になったのか試しに一度押してみる。  
「――――ッ!?」  
翔太は異変に気付いた。  
時計の針が、止まっていたのだ。  
「え!?…もしかして故障?」  
大事な物が壊れた事でショックで胸が一杯になり、出掛ける為台所にいる母親に一言声を掛けようとした。  
「ごめん母さん、ちょっと行って来るね!」  
しかし、靴を履きながら言った翔太の言葉に対して母の返答は無かった。  
だが母の靴は在り、出掛けた訳でもなかった。  
気になって台所に行ってみると、母の姿が在った。  
その姿は異様で、母の姿は包丁で具を切り刻んでいる途中で動きが止まっている。  
まるで、時が止まった様に。  
「もしかして……?」  
翔太は気になって針が止まった懐中時計にポケットから取り出す。  
時計の針に翔太は疑問を感じ、次の瞬間に謎が解けた。  
(このボタンが…?)  
もう一度ボタンを押す。  
すると、母親の動きは再生されて流れていたニュース映像も正常になった。  
いつの間にか立っていた翔太の姿に母は驚いた。  
 
「翔太、驚かさないの。…もう少しで晩御飯が出来るから待ってて」  
「え…あぁ…うん…」  
何食わぬ顔で母に軽く頭を下げると翔太は自分の部屋へと戻った。  
翔太の中で鼓動が自然と高まっていく。  
(凄い…凄いぞコレ…!)  
懐中時計を持つ手は荒い息と共に打ち震えた。  
自分は何という物と巡り会ってしまったのだろう。  
(こんな便利な道具があったなんて……これさえあれば――)  
翔太は懐中時計を大事に机の引き出しの中へと隠す。  
今、翔太の「性」春の1ページが開かれようとしていた。  
 
 

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