1.きっかけ
『素人募集!木村安希のアナルを開発してみませんか?』
あるAVメーカーのホームページでそれを見つけたとき、
弘治は背筋を震わせた。
木村安希、今期3年目のAV女優。
マイナーメーカーの専属女優であるため、男への知名度はそう高くない。
しかし、ホスト上がりが街でスカウトした上玉揃いのそこに於いても、
一際華のある娘だった。
すらりと細いモデル体型。
うなじまでの、濃いべっこうの髪が気品を持たせた。
黒の艶やかさ・栗の鮮やかさを持つ光沢は見事としか言いようがない。
小さく整った鼻筋、ぱっちりとした気の強そうな瞳。
花びらを薄く裂いたようなくちびる。
「生まれ変わりたい相手」として女性誌に特集さえ組まれるほどだ。
整形との噂もあるが、それを補って余りある器量。
安希は、弘治の憧れの女性だった。
そのメーカーは極上の美少女に極めてアブノーマルな責めを施し、
それを少数の顧客にだけ閲覧させるという小粋さをウリにしている。
にも関わらず、安希だけが不自然なほど無難なプレイに留まっていた。
一番人気だけに不満の声は数知れない。
その蝶よ花よと温存してきた後孔を、どこの馬の骨ともしれぬ
素人の手で開発させる。
なるほど奇抜な企画だ。
そして――幾度ものやりとりの末、弘治は選ばれた。
応募者の中でも若輩かつ平凡で、女性経験すら全くない青年が。
それこそが企画の趣旨だったからだ。
弘治と安希がはじめて会ったのは、撮影の数時間前。
彼女はメイクやスタイリストに囲まれ、女王然としていた。
弘治の頭からつま先までをじろりと見回しながら、
ハーフじみた顔は能面のように変わらない。
やや不服そうだ、と弘治は感じる。
その時の緊張は大学の面接以来か。
宜しくお願いします、と震える声を掛けると、ひと言「うん」と返された。
共に20歳、同い年ながら、そこには自信と経験の差が立ち塞がっていた。
それでも弘治は心躍らせる。
遠い存在の彼女と、たったひと言、意思の疎通ができただけで。
もしその後の調教ぶりを知ったなら、この彼はどう思っただろうか。
撮影現場に入った途端、弘治の足取りは重くなった。
一面を覆う黒いビニールシート。
大げさに散らばる多種多様な道具。
四方に備わった三脚付きのカメラ。
多数の照明と全身が映る鏡。
「どうかした?」
何度か弘治と打ち合わせをした、ホスト風の男が声をかけた。
恐らくはその気さくな男が監督なのだろう。
一方の安希は慣れたもので、躊躇なく中央に進み出ていった。
普段垂らす髪は後ろでお団子に結われており、やや幼く見える。
その髪からは、初夏を思わせる爽やかな香りがした。
「お嬢、よろしくな」
周りからアイドル扱いの激励がとび、それにも笑みで返している。
ふと、監督が弘治に優しく耳打ちした。
「あの子も緊張はしてるんだよ。頬を舌で動かしてる、あれ。
アナルほんとに初めてなんだから、君がしっかりしてくれなきゃ」
弘治が顔を上げ、安希とふと目が合う。
開始の合図がでたのは、その時だった。
「木村安希です。初体験は高校の春休み、でも……」
先ほどの冷めた態度とは違う和やかな表情で、
安希はインタビューを受け始めた。
その彼女となら、気弱な弘治でも話ができそうだ。
女優の演技というものを、彼は初めて目の当たりにしていた。
しかし、その演技も完璧ではない。
「今日は、ちょっときついプレイもさせられるかもしれないよ」
そう問われたとき、安希は一瞬だけ目つきを鋭くした。
「…大丈夫、です……」
トーンの低い声で応える安希。
この企画は、彼女に無理を言って承知させたものであるらしい。
やがて、安希は服を脱ぎはじめた。
キャミソールを、ハーフパンツを、ニーソックスを。
洒落た彼女をいっそう華やかに見せていた服がはだけていく。
パンツのボタンを外すとき躊躇する。
そこには未だ切ないほどの恥じらいが感じられ、弘治は見入った。
カメラ越しとは比にならない迫力がある。
そして晒された肢体――。
局所に絆創膏状の白いシールが貼りつけてある。
その下には若草の一本もなく、綺麗に剃り込まれていた。
それが剃り落とされるシーンを、弘治は何度見返したことか。
着痩せするらしく、お椀型の胸が妙に質感的だった。
だが肩はまだまだ細く頼りなげで、腰のくびれが女性的だ。
抱きしめたくなる。
その体の上側にある薄い唇が開き、突如、弘治に語りかけた。
「あの」
立ちつくす弘治に、安希は少し悩むような顔で続ける。
「今日は私の調教、よろしくね…」
カメラも遠景で弘治を捉えている。
それに気付いた時、ようやく彼は自分が「演じる側」なのだと悟った。
2.迎え水
「お尻、突きだして」
弘治は静かに告げた。
「うん」
四つん這いになった安希、その美脚へ筋が浮く。
綺麗な脚だ。
骨盤からなだらかに張り詰めた腿をながめ、弘治は思う。
ある所はふくよかで、ある所は引き締まり。
普段はソックスが栄えるだろう、すらりとした脚。
水準の高い想い人に見せるため、減食やストレッチで細めた肢体。
それが今、彼の命ひとつで動く。
弘治は深呼吸した。
アナル調教には兼ねてから興味があり、知識は持っている。
だが実践はこれが初めてで、しかも相手は大物だ。
とはいえ、もう後には退けない。
弘治はワセリンのパックを開けた。
「軽くほぐしますよ」
一声掛け、皺がきれいな菊状に並んだ場所へ親指を押し付ける。
小人の口を開くように親指をずらすと、紅肉がわずかに覗いた。
花弁をめくるように皺を伸ばし、油を馴染ませてゆく。
おそらくは、世界で初めて彼女のそこに触れるのだ。
木村安希の羞恥の穴。何人が羨むだろう?
指の滑りが良くなった。ワセリンはもう充分だ。
戯れに小指を穴へと押し付けてみる。
すると、それは驚くほどあっけなく呑みこまれてしまった。
なま暖かい感触がサックのように小指を覆う。
「っ!!」
安希の小さな悲鳴が聞こえ、しかし弘治は満足していた。
「あ、ごめん」
先ほどの澄ました態度が浮かび、顔がなぜか綻ぶ。
不遜な奴だと彼は思った。
「じゃ、じゃあ、お腹を綺麗にしましょうか」
弘治は床のたらいを引き寄せ、安希の蕾の真下へ据えた。
水差しを空け、瓶からグリセリンを垂らす。
心臓が歪みそうだ。
これから憧れの相手に浣腸ができるというのに、
カメラと場の空気に呑まれ、安希の臀部ほどにも顔が上げられない。
下を向いたまま道具を探す。
イチジク、イルリガートル、バルーンカテーテル。
何でもある中から、弘治はガラス製の浣腸器を選んだ。
シンプルだが絵になり、幾度もの注入が嗜虐心を満たす。
弘治が身を起こすと、安希が肩越しに覗き見ていた。
100ml入りのガラスを蛇のように気味悪がり、首を戻す。
弘治は浣腸器をたらいの水に浸し、空気を抜いた。
たらいには泡立つ水がとろとろと渦巻いている。
その渦を見ながら息を整える。
水面が幾重もの波紋を描き、筒の目盛りもまた歪んだ。
ゆっくり、液が吸いあがる。
ジュ、ジュジュゥッと空気を啜りながら。
これから行われる汚辱を実感させる音。
安希の吐息が震えた。
「もっと腰を上げて」
弘治の言葉に、安希はうつぶせになり内股を狭めた。
細い顎が床のシートを擦る。
割れ目のシールが視界に入った。
今日、彼女のそこが使われることはない。
今の安希に侵し入れる箇所は、ただその初々しい後孔だけだ。
「いきますよ、息吸って」
男の左手で菊輪が開かれ、呼吸に合わせて嘴管がその円をひろげる。
安希は小さく呻いた。
こきゅうぅっ……液の注がれる音がピストンから漏れ始める。
「…んっ…!」
安希にとって、生まれてはじめての違和感が腸を伝った。
地に這う身体の奥まった出口が、たちまち潤いを増してゆく。
渇いた喉を嘲笑うように染みわたる、水。
弘治は浣腸はぬるま湯にすべきだと知っていた。
しかし、せっかく初めての体験だというのだ。
それがどれほど背徳的な事か、冷たさを以って知らしめるのも面白い。
一本目を勢い良く注ぎ込むと、二本目は断続的に小出しする。
冷たい射精が安希の膝を揺らした。
そして、三本目。
小さく深呼吸する安希を認めつつ、弘治は周囲に意識を散らす。
彼の頭は真っ白になっていた。
床にうつ伏せる安希の細い身体も、黒に近いさらさらの茶髪も、
ほとんど目に入らない。
前に一機、左右に二機、後ろに一機。
三脚に乗ったカメラが彼らを見下ろしていた。
(…落ち着け)
弘治は腕の震えを抑え、4本目の浣腸を注ぎ込む。
「…ぁ、う」
華奢なパートナーは顔を床に伏せたまま呻いた。
400cc、初めてにしては少なくない量だろう。
すでに一本目のグリセリンが効いてきているのかもしれない。
「これぐらいにしておきます。ちょっと我慢して下さい」
異性の前での強がりで、はっきりと弘治は囁く。
そして安希の柔尻を掴んで上向け、ひくつくその肛門を指で開いた。
「や、やぁ!」
噴き出す感覚を覚えて安希が身を捩るが、弘治は弄りをやめない。
そうして腸の蠕動を促してやれば、浣腸の効果が高まるからだ。
「くる…し…」
安希が片目を上げて弘治に訴えた。額には幾筋か汗が流れている。
弘治にも部屋は暑く感じられた。
「すぐに出すと、薬液しか出ないんですよ」
早くも雫を垂らす少女の蕾に指を当てながら、
弘治は先端にしこりのついたゴムチューブを手に取った。
それをゆっくりと少女の後ろに突き立てていく。
浅めに呑み込ませ、根元のゴム球を握った。
「膨らみますよ」
しゅっ、しゅっと鋭く空気の送られる音が続く。
何度目でだろうか、それまでじっとしていた安希が、
急に腰を揺らしはじめた。
「あっ、な、何っこれ!ひろがる…っ!!」
苦しむのも無理はない。
彼女の直腸では今、しこりがどんどんとその大きさを増しているのだろう。
最も大きいときではテニスボールほどにもなる器具だ。
さらに粘膜へ直接かかる圧迫は、その他よりも遥かに感じやすい。
口内炎と指の傷のように。
「10分ぐらいは我慢して下さい、そうすれば外します」
排泄の支配とともに拡張までもが行われる苦痛。
弘治はそれを想像し、口元を綻ばせる。
「そ、そんな、むりっ……!」
生々しい安希の声が、弘治の耳に心地よく響いた。
安希は耐えた。
名前を呼ばれれば、小鼻に汗の珠を伝わせながらカメラに目を向け。
フェラチオを強要されれば、下腹を押さえながら弘治に奉仕し。
しかし、腸内の疼きは彼女にとって異質すぎた。
子供を孕んだかのように重く、咀嚼するかのように蠢く。
手を強く握り締め、意地に訴えかけた。
カメラがこれほど憎いのは初めてだ。
そして――永遠とも思える満ち干きの中、彼女は考える。
それから解放されたとき、どんな気分になるだろうか。
それはついさっき、あの青年が後孔を弄ったときのむず痒さと、
どれほど関係するものだろうか。
ふわりと髪にまとったシャンプーが薫り、気分を平らに近づける。
撮影所のシャンプーが彼女は好きで、撮影前にはいつも使った。
彼女は撮影所が好きだった。撮られるのが好きだった。
胸の奥がざわつく。
はぁー、はぁーと彼女は大きく二つ息を求め、背筋を奮わせた。
お尻をどうにかしようなんて、頭がおかしいとしか思えない。
そんな無様な姿を見られたら、撮られたら……
「くっ、んうぅぐ…っ」
安希は珠の汗を流し、眩しいライトを仰ぎ見た。