「じゃあ紬香、お母さん出かけてくるけど、
ちゃんと大人しく寝てるのよ? 冷蔵庫にプリンあるからね」
「うん、分かった……。行ってらっしゃい……」
ちょっとだけ演技をまじえた力ない返事を返して、ベッドで寝返りを打ってみせた。
今日の学校は、病気で休みだ。もちろん仮病なんかじゃない。
風邪薬を飲んで熱はだいぶ納まったけど、頭はまだぼんやりとしている。
聴覚が鈍くなっている感じのする耳に、玄関のドアが閉まる音が
少しこもったような響きで聞こえた。
平日の明るい時間帯に、家族のいない自宅でゴロゴロできるのは不思議な気分だった。
うちのマンションを一室、リビングから玄関まで丸々独り占め。
でも私がこんなにドキドキしているのは、それだけが理由じゃない。
朝からこっそり――トイレを我慢、しているからだ。それも、大きい方を。
「そろそろ……トイレ、行こうかな……」
枕に顔を押し付けたまま、誰に聞かせるともなく呟いてみる。
また熱がぶり返してきたかのように、顔が火照ってしまう。
でもダメ。まだ、急にお母さんが忘れ物を取りに戻ってくる可能性だってある。
もう少し待とう。少しだけ待って、それからトイレに行こう。
パンツと一緒にパジャマを膝まで下ろして、便座に腰掛ける。
腰をずらしながら、一番しっくりとくる座り方をしばらく模索してみたが、
一旦思い直して私は立ち上がった。
そして、パンツとパジャマから足を抜いて、トイレの前の廊下に置いた。
きちんとボタンを掛けたままのパジャマの上衣のすそから、
むきだしになったお尻と白い太ももが伸びている。
すそを手で抑えると、まだ生え揃っていないストレートの恥毛が揺れるのが見えた。
そのままパジャマのボタンも下から順番に外していく。
首元まで外して胸元を開くと、まだ育ちきらない乳房が外気に触れた。
私は脱ぎ終えた上衣を簡単に畳んで、置いた下着を隠すように被せた。
真っ昼間の自宅の玄関のすぐそばで、素肌を晒して丸裸になっている。
こんな状況は生まれて初めてだった。
トイレに入るために裸になるなんて、まるで小さな子供みたいだ。
どうしてこんな格好になろうと思ったのか、自分でも分からない。
分からないし、恥ずかしいし、逃げ出したくてドキドキしている。
玄関の鍵が締まっていることを確認する。
大丈夫。うん。心配、ない……。
胸と股間を手で隠したままトタトタと急ぎ足でトイレに戻ると、
腰を便座にぎゅっと押し付けて、お尻の穴を少し広げるように座った。
リビングの明るい日差しが、開けっ放しのトイレのドアを照らしている。
玄関の外からは近所の子供達のはしゃぐ声が聞こえてくる。
「んっ……、ふぅ……っ!」
うつむいたまま、合わせた手をぎゅっと固く握って、
私は祈るような姿勢でお腹に力を入れていった。
昔から私はトイレに入るのがなんとなく苦手だった。
大きい方をしていると、背筋がゾクゾクとしてしまうのだ。
でも個人差はあっても誰だってそんなものだろうと思っていた。
明確に意識したのは、ひと月前。
通学電車のダイヤが乱れて、2時間近く我慢したまま家に帰ってきた時だ。
限界まで我慢していたものが抜け出ていく開放感は、
とても苦しいのに腰が砕けてしまうような、想像したことのない感覚だった。
多分、私は、人より少しお尻の穴が敏感なのだ。
変なことをしている自覚はある。だけどちょっとくらいなら。
たまに風邪をひいて休んだ日に、少しだけ我慢してから出してみたい、
と思うくらいのことなら。
もちろん人には言えないけれど、そこまで変じゃないと思うのだ。
お腹の圧力でお尻の穴がゆっくりと盛り上がっていく感じがする。
もう出そう……。そう思った時、
ピンポーン!
と、胸を貫くようなドアチャイムの音が鳴り響いた。
「……ッ!」
突然のことに、思わず私は伸びをするネコのように背筋を正していた。
ばくばくと外に音が漏れそうなほど高鳴る胸の膨らみを、
握った両手で押さえつけて息を潜めた。
ガチャリ。
「宅配便ですー。ここに受け取りのサインか判子を――」
お隣のドアが開いて、バタバタと廊下を行き来する音が聞こえる。
「はあぁぁぁ……お隣さんかぁ……。
びっくりして鳥肌立っちゃったよ」
ひとしきりパジャマの上から腕をさすると、私は再びお腹に力を込め始めた。
お隣ではまだ荷物のやり取りをしているようだ。
ごく間近、扉の向こう側で世間話をしていると言うのに、
私は寝間着も下着も脱ぎ捨てたまま開け放したトイレでいきんでいる。
「……ふっ、く……んっ……。んぅ……っ!」
緊張しているからか、波が引いてしまったのか、
どんなに力を入れてみても出てくる気配はなかった。
「はぁはぁ……。
うぅ……さっきはすぐ出そうだったのに……」
恨みがましく呟きながら、便座に背をもたせかける。
どうしよう。このまま頑張ってみようか、それとも一旦出ようかな……。
何とはなしに、ウォッシュレットのボタンをなぞってみる。
……小猫がうんちする時って、自分では簡単に出せないから、
親猫がお尻の穴を刺激してあげるんじゃなかったっけ。
そう思ったら、何も考えずにボタンを押してしまっていた。
便座の奥からこもった機械音が、ういぃぃぃぃん……と鳴り始めた。
そんな目的で作られたんじゃないのに、私にうんちを出させるために機械が動き出す。
よく考えたら自分でお尻の穴を刺激するのって、凄く変なことじゃないだろうか……。
やっぱりやめた方がいい気がする。トイレから出たい。
だけど、今さら立ち上がったらトイレが水浸しになってしまう。
私は刑の宣告を待つ罪人のような心境で、
何もはいていない下半身を便座に埋めたまま身を固くした。
大丈夫。変なことじゃない。ウォッシュレットは誰だって使う……。
うん、変なことなんて、ない……。
ぴゅるるるる〜〜〜〜〜!
「ひゃっ!」
ノズルから勢いよく飛び出した水流に、
敏感な裏の蕾をピンポイントでほじられていた。
「あっあっあっ……! やだ、ちょっと……強い……っ」
慌てて強弱の調整ボタンへ手をかけ、手探りのまま中指で何度も押し込んだ。
途端、さらに勢いを増した水が、びゅ〜〜〜〜! っと
音を立てながら直腸の中まで潜り込もうと先端を尖らせた。
「ちがっ! これ強くなってるっ!
あっく、ん……っ、弱……、弱ボタン……っ」
ぐいぐいと抉り続ける水流が肛口の隙間を押し広げ、
水が少し中まで入り込んできた。
なかばパニックになりながらもなんとか探し出した弱ボタンを叩くと、
激しい責めは収まって、お尻の皺を緩やかにもみこむような動きに変化した。
(続く)