世界最大の河アマゾン。  
そこには多くの文化が変わることなく残っている。  
例えば先住民の暮らしぶりは、多くが依然として独特なものだ。  
 しかし近年、それにも歪みが生まれ始めていた。  
近親婚を繰り返した末、ひとつの部族において健常児が生まれなくなったのである。  
環境に適応できず、幾人もの幼子が命を失った。  
数年前その集落を訪れた北欧系の女性は、部族にとっての希望の光だった。  
 
聡明で慈母心に溢れる彼女は、事情を知るや一族にその身を捧げた。  
そして三日三晩の狂熱がアマゾンに恵みをもたらす。  
 名前はサリ。  
母親の血を色濃く受け継いでいた。  
アマゾンの支流でもとりわけ美しいイシボロの産湯に劣らぬ、  
初雪のように美しい肌と亜麻色の髪を持つ少女だ。  
 
集落が喚起に沸く中、母親は安らかに息を引き取った。  
彼女にアマゾンの環境は厳しすぎたのである。  
一族の者は彼女を女神と崇め、その娘を巫女として慈しんだ。  
 サリにとっては村中のオトナが父親であり、母親であった。  
ゆくゆくはその誰かと結婚し、子作りをするのだと教えられたが構わない。  
むしろちっぽけな自分でも役に立てるのだと嬉しく、  
恋する乙女のように拙い女を磨いた。  
 
 彼女には2つ不満があった。  
ひとつは肌の色。皆が綺麗だと褒めるそれは、健康的な日焼けの中で無様に思えた。  
そしてもうひとつが、自由に外に出られないこと。  
危険だからといつでも集団行動。  
母親を亡くした一族なりの償いだったのだが、サリにはわからない。  
息を吸うだけでわかる雄大な自然を、まるっきりの一人で駆け回りたい!  
 その束縛も、12歳になる今日で解かれる。  
少女はここでの成人になったのだ。  
 
「サリ待って!勝手にいっちゃダメだ!」  
4つ上の幼馴染がよちよちと後をついてくるのを、サリは意地悪そうな目で振り返った。  
「テューロはもう帰っていーよ!あたしこれから今晩の魚捕まえる。皆をビックリさせるの!」  
シャパンッと水面を割って少女は川へ飛び込んだ。  
「もう、勝手にしろよ!」  
テュ―ロと呼ばれた少年はふて腐れ、川べりに足を投げ出す。  
 彼は生まれつき足が弱く、一緒に川へ入ってやることは出来ない。  
サリはそんな彼をいつも「足手まとい」と一蹴する。  
何かと気遣うオトナより、その反応はテューロの気を楽にした。  
サリもそれを解っているのだろう。  
テューロはサリがすきだったし、サリはテューロがすきだった。  
 
「うわー、きっもちいいーー!!」  
山紫水明、水面に鮮やかな自然が反転する世界で少女は歓声を上げた。  
足元には凶暴な顎をしたピラニアが揺らいでいる。  
彼らはブルドックに似て、外見に反し実際には大変臆病なのだ。  
よほどの大群でない限り人間は狙わない。  
その硬い歯はナイフになり、櫛になる。  
そして、焼いた時にこれほど野性味あふれ、コクある旨みの魚はそう居ない。  
この辺りにはピラニアか、あるいはそれに似せた淡水魚がほとんどだ。  
その周囲に危険はない。  
そう思われていた。  
 
なのに、どこから来たのだろう。  
細長い体を川の煌きに紛れ込ませ、静かに間を詰めるそれは。  
その時サリは胸を膨らませ、背泳ぎをしていた。  
自然を堪能する彼女の意識は、群青色の空にしか向けられていなかった。  
「…っひゃああっ!?」  
突如そのしなやかな身体はくの字に曲がり、バシャバシャと水面を喚きたたせる。  
 
はじめは右足のくるぶし、ドジョウのようにぬるっとした感触が伝った。  
たちまちそれが輪をつくり、太腿を覆う。  
「あ、あ、やだ、何ぃ!?」  
狼狽する少女に構わず、氷上を滑るような速さで内腿をへこませた。  
股布を引き、つるりとした丘に迫る。  
「だ、だめー!!」  
自らの女が狙われているのだと悟り、サリは必死に叩き落としにかかった。  
しかしドジョウのような表皮は掴みづらく、水中で自由も利かない。  
「ん、ううっ!やっ…あ!」  
どのくらい格闘していただろう。  
脚をばたつかせるうり、布が腰から解けてしまった。  
「いやー、や、やだ、やだあぁ!!」  
守るものがなくなり、少女はベソをかきながら膝をすり合わせる。  
貝のような割れ目になんども粘液が擦れてひやっとしたが、  
さらに数分後、ついにそれは動きを緩めた。  
 (はぁ…。よかった、守り、きった…)  
息を荒げながらも強く花弁を塞ぎ、少女は脚を垂らす。  
 
次の瞬間。  
 
尻肉の底が杖で突かれたように大きくへこんだ。  
排泄物が出るよりはるかに容易く、ぬるりとした頭部は一息に菊門を通り抜けてしまう。  
括約筋がぎちぎちと伸びきる。  
「―――――ッ!!」  
その感覚はあまりにも未知で、声も出ない。  
質量はそのままズルズル腸壁をひろげていく。  
胴回りは便の太さとそう大差はない。  
しかし一瞬ではなく常に圧しひろげられ、しかもそれが本来あるべき方向とは逆なのだ。  
「きゃあああああ!!!やめて、やめてええぇーーー!!!」  
サリの整った顔は恐怖と苦痛に歪み、涙とともに絶叫を溢れさせはじめる。  
 
「サリ、どうしたんだ、サリ!!」  
幼馴染の悲鳴に気付き、テューロは大声で呼びかけた。  
サリは遠くにいっていたが、彼の目なら水面下の様子は泡立ちの中でも良く見える。  
彼女は立ち泳ぎするように脚をばたつかせていた。  
そしてその美脚に纏いつく、黒い尻尾……  
彼は息を呑んだ。  
ミミズのように蠢いているだけに見えるが、しばらくして見ると確実に長さが短くなっている。  
刻一刻、じりじりと少女の中に潜り込んでいるのである。  
いや、そんな事を考えるまでもない。  
「いやー!いや、いやぁ、出てってよぉー!!もう入ってこないでえぇ!!!」  
サリが叫んで、泣いているのだ。  
 普通ではない。  
「サリ、水から上がるんだ!」  
テューロは木霊するほどの叫びを投げかけた。狩りの雄叫びだ。  
その声にサリははっと目を見開く。  
「テューロぉ…!!」  
びくびくっと身体を震わせながら、浅瀬へ向かって泳ぎだした。  
 
泳ぐ間にも更なる侵入を遂げ、それは怪しくのたくっていた。  
少女は身体を震わせる。  
「お尻出して!」  
河を抜け出した汗だくの少女を腹這いにし、テューロは怪しく塗れ光る尾を掴んだ。  
しかしそれは相当に掴みづらく、さらにどれほど力を込めてもびくともしない。  
「くそっ、抜けない!!」  
少年は手に力を込めるが、かえってそれが滑る元となる。  
「あの、テューロ、あたし、お尻の中にね、瘤みたいなの…作られてるみたい」  
サリはしゃくりあげながら言った。  
たしかに、もはやどれほど引いても無駄らしい。  
 
少年が手間取っているうち、とうとうドジョウのような胴体は尾の先端を残し、  
すべてが少女の華奢な身体へと収まってしまった。  
「畜生ぉッ!……サリ、痛いのか?痛いよな?」  
テューロが蒼白な顔でいうと、さらに血の気の引いた顔で少女は顔をあげた。  
「…痛くないけど、変な感じなの。すごく長くて、腸が一杯にされて…、  
 おまけに色んなとこで膨らんでて。…おかしくなりそう…!!」  
中で動いたのか、或いはそうイメージしたのか、少女は身震いする。  
「テューロ、これって何なのかな……!!……」  
少年に問い掛ける途中、突然サリは大きく背を伸ばし硬直した。  
「どうした!?」  
詰め寄る少年をサリの惚けたような瞳が映した。  
「……食べてる……」  
独り言のように呟き、もう一人の誰かに言い直す。  
「…食べられてるの!あたしの、お腸の中にあるもの!!  
 解るの。エラみたいなので、掻きだしてる…!」  
ぺたり、四つん這いだった少女の身体がへたり込んだ。  
少年は言葉を失う。  
どんな感触を幼馴染が味わっているのか、想像することすら出来ない。  
「あはは、見た?あたしいま、腰抜かされちゃった。  
どうしよう…抜かなきゃ。今もね、聞こえない?腸全部がぐるぐるいってるの」  
泣き顔のまま、目元をぴくぴくと痙攣させ、少女の相貌はまるで嘲っていた。  
 
少女の震える脚を見て、テューロは蛇のようなそれの有様を想い起す。  
先ほど見ただけでも30センチは悠にあった。  
あれがすでに半分以上入った状態なら、直腸の先まで達している可能性は十分にある。  
「テューロ、どうしよう。皆に知れたらどんな事言われるか。  
それにこれ、ずっと排泄させられてる気分なの。頭が、おかしくなりそう……」  
サリは幼馴染にすがりつき、テューロはただ立ち尽くしていた。  
 
 
「どうした、サリ。あまり食欲がないか?」  
族長に声を掛けられ、彼とともに上座に座るサリは竦み上がった。  
他の者たちもみな彼女を見ている。  
もっとも、今晩は彼女の成人の祝い席なのだから当然だが。  
少女はしきりと脚を組みなおしながら笑う。  
「ううん、何でもない。…ちょっと外の空気吸ってくる」  
立ち上がる時にもふらふらと頼りなかったが、皆は今日始めて飲んだ酒のせいだろうと考えた。  
唯一、テューロだけがこっそりと席を外したが。  
 
サリは草陰で川の中にしゃがみこみ、背中を小刻みに震わせていた。  
この地域の一般的な放尿スタイルだ。  
しかしその表情は、それにしては艶かしすぎた。  
「…まだ、動いてるのか」  
テューロが川べりに立ち、声をかける。  
少女は息を弾ませ、せせらぎに汗の珠を落としながら振り仰いだ。  
「やっぱり、ご飯食べて消化しだすと元気になるみたい。この子のご飯だもんね。  
 それにこうやって水につけるともっと元気になるし」  
「…この子、か」  
テューロは複雑な表情をした。  
サリは自分の心情の機微を読んでくれるというのに、自分ときたらさっぱりだ。  
彼女がどう感じているのか、まるで推し量れない。  
「だってお腹の中でこんなに膨らんで、動くんだもん。赤ちゃんだよ」  
サリは肩で息をしながら、水面に移る自分を見つめていた。  
テューロが見ている前で、彼女は初めての絶頂を迎えようとしている。  
 
しばらくの沈黙の後、少女はふと大人びた声で言った。  
「ね、テューロ。どうせ抜けないなら、この子、しばらくこのままにしとこ?  
 別に気持ちいいとかじゃなくて、死なせるのなんて嫌だし」  
彼女は汗をかきながら綺麗に笑う。  
 テューロは昔を思い出していた。  
まだ4つの頃、その慈愛に満ちた表情を目にしたことがある。  
異民族に自らの身を差し出した聖母のような女性。  
サリは彼女の娘だ。  
「…ああ、サリがそれでいいなら俺も協力する。ずっと二人の秘密にして。  
 そのうち、集落で一番デカイ獲物を獲った俺が求婚すればいい」  
テューロは引きずってきた足を踏みしめた。  
狩人としては永遠に半人前だと思っていたが、今、胸に芯が出来た気がした。  
「あはは。テューロには無理だよー…」  
今際の息を吐きながら、サリは強く目を瞑る。  
 なんか、もう、幸せで頭蕩けちゃいそう……  
 
 
アマゾニアの小さな中州で、尻尾の生えた娘を見た者がいる。  
ぎこちない腰使いをする少年と絡み合う娘は、この世のものとは思えないほど美しく、  
また幸せそうであったという。  
それは果たして、熱帯夜が見せた幻だったのだろうか……。  
 
 
                          END  
 
 

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