ヴィィーン、と激しい振動の音が部屋の中に響く。
初めて買ってしまったバイブを手にしながら、私はその凄まじい回転と、強い振動に驚いて固まってしまう。
「初心者用」をネットの通販サイトで選んだのはいいのだが、思ったよりも質量のある、リアルな感触に、動揺しつつもスイッチを入れたのだが、これは……。
(え、こんなの……みんなしてるの?)
一応、人並みに経験はある私だが、ごく普通のセックスしかしなかったので、こういったいわゆる「オトナの玩具」は初めて見る。
ふにふにと柔らかく、しかしどっしりとした重量のある蛍光ピンクのバイブは、うねうねと全身をくねらせ、二股に分かれた先には、イボイボのついた突起が激しく振動していた。
ごくり、と生唾を飲み込みながら、私は腰骨のあたりからじんわりとした熱が広がっていくことに気付く。
(ちょ……ちょっと……興奮する、かも……)
とりあえず、ソファに身を横たえながら、バイブの先を下着の上から股間に当ててみる。
ゆるゆるとした刺激が、下半身に甘い痺れをもたらして、私は小さく息をついた。
「………んっ………」
やばい、ほんとに興奮してきた。性的な意味で。
急いで下着に手をかけて、着ていた服も乱していく。
なんとなく、服を着たまま、こういった行為にふけるのは倒錯的で、私は更に興奮してしまう。
シャツのボタンを外して、ブラをずらしながら胸を刺激する。
「……あ……ふっ……」
胸を柔らくもみしだきながら、バイブで乳首を刺激すると、思わず声が漏れた。
自分の胸にバイブが押し当てられている光景が、いつかの恋人の部屋でみつけたAVのパッケージを連想させる。
卑猥な妄想で、まだ触れてもいない私の股間が、すっかり熱く潤っていることが分かった。
「い、入れてみよう……」
誰もいないのに、誰もいないからこそ、自分を励ますように呟いてぬるぬると滑る股間にバイブを押し当てる。
久しぶりの異物の感触は、少し痛かったけど、それ以上に刺激的だった。
「あっ……あぁっ……うそっ……」
すっかり股間にバイブを収めると、中で玩具が暴れる快感に、思わず仰け反ってしまった。
二股の分かれた先の、イボイボがクリトリスを刺激して、その快感を更に高めていく。
初めてのバイブの快感に小さく喘ぎながら酔っていると、チャイムの音がした。
「鈴木さーん」
玄関から、ノックの音と大家さんの声がする。
……マズイ! 今日は家賃の集金があるんだった。
私が住んでいる部屋は、立地も間取りもいいわりに、家賃手渡し、当日渡せなかったら強制退去、というデメリットの所為で格安である。
つまるところ、大家さんが集金にきている今、渡さないと、私はここを追い出されてしまうのだ。
回覧板で、集金に来る日なんかを随時聞かれているため、いないという言い逃れもできない。
後から渡しに行ったところで、ぶちぶちと文句を言われてしまう。
(……は、はやくでなきゃ……!)
やましい所もあり、焦りまくっていた私は、手早く衣服を整え、バイブも抜かないままで玄関へと駆け出してしまった。
「はい、すいません」
「いつまでたっても出てこないから、いないのかと思っちゃったよ」
不機嫌そうな大家さんは、ぶつぶつと愚痴ったまま、一向に立ち去ろうとしない。
もう今月分の家賃は渡し終わったというのに、私が出てくるのが遅かったことを、いつまでたっても責め続けているからだ。
(……んっ……や……)
その間にも、バイブは動き続け、耐えず私の下半身を刺激している。
異常な状況に、興奮と恐怖を同時に味わっている私は、大家さんの愚痴に相槌を打つことすらできない。
バイブを落としでもしたら身の破滅なので、股間に力を入れて玩具を締め付けるのだが、その所為で却ってそのいやらしい快感がダイレクトに官能を刺激する。
(……あ……あぁっ……やだ……)
大家さんは、まだまだ愚痴を続ける気らしい。
何も知らない彼の前で、股間にバイブを蠢かせている、という背徳的な状況が、さらに私の興奮を高め、股間を潤していく。
「鈴木さん、聞いてるの?」
「……はい」
黙りこくっている私に、大家さんはそう言って、更に不機嫌な顔をした。
…………この調子だと、愚痴はまだまだ続いてしまうのではないだろうか。
もじもじと身体を揺らしながら、どうにかバイブの刺激を和らげようとしたが、それも無駄に終わった。
まさか、大家さんの目の前でスカートの中に手を突っ込む訳にはいかない。
深く深く挿入された玩具は、内壁にぴったりと絡みついて妖しい刺激を絶え間なく送り、敏感になったクリトリスは無数の小さな突起に嬲られる。
(……もっ……もう、いっちゃう……いっちゃうよう……!)
初めての刺激と、異常な状況に、極限まで高められた私の性感は、爆発の予兆をみせ始めていた。
かたかたと脚が震え、頬が紅潮していく。
「鈴木さん、具合が悪いんじゃないの?」
「あ、……はい」
そんな私の様子を、不信そうに見つめていた大家さんは、一転して心配そうな様子で覗き込んだ。
よし、これで帰ってくれる。なんとか、赤の他人の前で絶頂に達する、という憤死ものの状況には陥らずに済みそうだ。
「……あれ?」
「へっ?」
心配そうだった大家さんの顔は、今度はいやらしい笑みに変わった。
にやにやと、私の短めのスカートから伸びる足に手を伸ばし、ついと指で太ももをなぞられる。
「な、何するんですかっ!」
「いやいや、こっちが聞きたいよ。……これ、エッチなお汁でしょ?」
いつのまにか太ももを伝っていたらしい、恥ずかしい粘液が、大家さんの指に絡んでいた。
それを見せ付けるように目の前に突きつきた後、大家さんはその指を口に含んでいやらしく笑う。
「鈴木さん、さっきから変な音がすると思ってたんだけど……何してるの?」
「…………っ!」
バイブのモーターの音は、大家さんの耳にも響いていたらしい。
恥ずかしさと、嬲られる悔しさに頭の中が真っ白になる。
その一瞬の緩みの所為で、力の抜けた股間から、ずる、とバイブがずり下がった。
「ひゃぁっ……あっ……」
「ああ、やっぱりねえ。……鈴木さんがこんな恥ずかしい人だったとは思わなかったよ」
ずるずると重力に従って、バイブは下へ下へと落ちていった。
股間に力を入れても止めることは出来なくて、そのぬめりの所為で太ももからも滑り落ち、結局バイブは玄関に落ちてしまった。
「全く、こんなものを股に仕込みながら、外に出るなんて」
「ご、ごめんなさいっ……誰にも、いわないで……っ!」
蛍光ピンクのいやらしい玩具は、ぐねぐねと動いたまま玄関を這っていたが、それは大家さんの手に奪われた。
ねっとりと私の体液が絡みついた恥ずかしい玩具を、大家さんは愉快そうに私の前に差し出す。
にやにやと笑いながら嘲りの言葉をぶつける大家さんは、私の必死の懇願に、楽しそうに唇を吊り上げた。
「……それは、鈴木さん次第だねえ」
「えっ……」
「こんな玩具で遊ぶんなら、俺も混ぜてもらおうかな」
中年の節くれだった指が私の胸を揉みしだく。
おぞましい筈の感触にすら、高められた私の身体は快感を探り出してしまう。
「俺もね、こういう玩具は好きだから、アンタに貸してあげてもいい」
「やっ……はぁっ……あああっ!」
耳元で囁きながら、大家さんは私の足を広げさせ、手にしていたバイブを再び押し込んだ。
いきなりの刺激に、私は思わず大声で喘ぐ。
「せっかくだから、散歩にでも行こうか、鈴木さん」
「……むり……無理ですっ……こんなっ……」
「大丈夫、ほら紐で固定して」
恐ろしい提案をする大家さんに、必死で首をふって抵抗の意思を示したけど、彼はそれを無視して玄関にぶら下がっていたチェーンベルトを無理やりバイブに巻きつける。
冷たい金属が肌に触れる感触に、私が身震いしている間に、大家さんはスカートをたくし上げてチェーンをお尻の割れ目に通して、スカートのウエスト部分のベルト通しに固定した。
「ひゃぅっ……や、やめてください……」
「こんなにべちょべちょにしといて、やめてくださいもないもんだよ」
前に長く伸びたチェーンを、大家さんは恥ずかしい割れ目に食い込ませて、後ろと同じようにベルト通しに固定する。
抗議した私を、にやにやといやらしく笑いながら見つめ、大家さんはたらたらと愛液を零しているそこを突付いた。
「さ、公園でもいこうかね。若い女の子と出かけるなんて久しぶりだよ」
「……うっ……はううっ……」
玄関のドアに鍵をかけた私の手を引いて、大家さんは早足で歩き出した。
歩くたびに、快感の泉をもみくちゃにされたような刺激が、私の脳の中を走りぬける。
一歩足を踏み出すたびに、軽く絶頂を迎えてしまいそうになるのだ。
自分の情けなく恥ずかしい状況と、快感にうめきながら、私は大家さんの後を追う。
「やー、ここは変わらんねえ」
「……ふ……ひうっ……はぁっ!」
公園にたどり着いた私たちは、人気のないベンチに腰を下ろした。
ようやく、歩くたびに受け続けた狂おしい刺激から解放された私は、座り込んでから恐ろしい事に気付く。
(やだ……感じる……っ!)
がっちりとチェーンを通されたバイブは、ベンチの木にその台座を固定し、私の中の更に奥をかき回したのだ。
まるで誰かの性器に突かれているような快感が、私の下半身に広がって、足ががくがくと引きつる。
「鈴木さん、そんなに気持ちいいかね?」
「ち、ちがっ……や、やめてくださいっ!」
悩ましい快感に唇を噛んで耐えている私をあざ笑いながら、大家さんはスカートをたくしあげて胸をもみしだいた。
力の入らない両足を持ち上げ、ベンチの上で広げさせた彼は、ごそごそとポケットから携帯を取り出す。
「じゃ、記念にね」
「や、やだ……いやですっ!」
携帯を構えながら言った彼の言葉に、私は弱弱しく首を振ることで抵抗を示した。
バイブから与えられる快感のせいで、身体に力が入らない。
羞恥に身を震わせながら、私の言葉を笑いながら聞き流した大家さんに、何枚も写真をとられてしまった。
「あっ……ああぁっ……ひぅっ!」
ベンチの後ろに回った大家さんが足の間に手を回して、私の身体を大きく開いていく。
開脚したまま、恥ずかしい玩具が蠢く様子を隠すこともできなくなってしまった私は、大家さんに下着の上から乳首を摘まれて喘ぐことしかできない。
「だ、だめ……もう、もッ……あっ! ああああっ!」
「おー、イッたか。……鈴木さん、俺は公園に行こうとは言ったけど、公園でイケとはいわんかったぞ!」
いやらしく弄ばれ、恥ずかしい部分を晒したまま、私はひくひくと身体を痙攣させて絶頂を迎えた。
はあはあと肩で息をする私を、大家さんは更に言葉で辱める。
「ふっ……」
「まあ、これから色んなとこでイクことになるんだから、いい予行演習になったな」
唇を噛んで俯く私の耳に、大家さんの楽しそうな声だけが響いた。
「こ、これ……外してください……」
「おかえり、鈴木さん。今日は何回?」
「ご、五回ですぅっ……お願い、外して……」
にやにやと笑いながら聞いてくる大家さんに、再度懇願すると、彼はますます笑みを深めた。
「仕事中に五回もイッたのかあ……鈴木さんは淫乱だねえ。外して欲しいなら、ちゃんと言わないと。教えたろ?」
「はい……バイブ……だ、大好きなっ、変態、女は、今日もバイブを……つ、突っ込んだままぁ……一日過ごして、ご……五回イキ狂いましたぁっ!」
「うん、いいよ」
ぐちぐちと、下半身で蠢くバイブを乱暴に動かしながら、大家さんは私の答えに満足そうに笑った。
恥ずかしい台詞と、バイブの刺激に頬を染めながら、私はようやくこの快楽地獄から抜けだせることに安堵して、ほっと息をついた。
大家さんに、バイブを見られて以来、私は彼の言うことに絶対服従を誓わされた。
さんざん恥ずかしい現場を押さえられ、更には例の画像をちらつかされて、私は彼に逆らう事など既に考えられなくなっていた。
最近では、朝大家さんにバイブを挿入され、バイブを入れたまま通勤し、こうして抜いてもらえるまで、私は一日中バイブに責められている。
初めて過ごした時は、朝のラッシュの中で三回も絶頂を向かえ、下着どころかストッキングまでじっとりと濡らし、コンビニで買い換える羽目になった。
慣れてきたとはいえ、今でも最低三回は、日中に絶頂を迎えている。
「うわあ……ほんとうにいやらしいねえ。ぬちゃぬちゃだ」
「ふぅぅっ……ひゃっ……」
ずるりと引き抜かれた玩具には、一日分の愛液が絡みつき、卑猥な湯気を放っている。
背筋に走るおぞましい快感に身を震わせながら、私はこれから与えられる更なる陵辱に、微かな期待を滲ませて、小さく喘いだ。
「今日はなんの玩具で遊ぼうか?」
そんな私の様子を楽しそうに見守りながら、耳元に生ぬるい息を吹きかけながら大家さんは囁く。
震えることしか出来ない私の股間を指でなぞり、淫液をすくいとると、彼は様々ないやらしい玩具を保管している箱を探った。
(……ああ……はやく……)
迷っているらしい彼の姿を見つめながら、私は滴り落ちる愛液が太ももに伝う感覚に、ぶるりと身を奮わせる。
はやく、はやくあの快感が欲しい。
自分の身体が淫らに堕ちていくことを、自覚しながらももはや逃れることはできない。
むしろソレを望みつつある自分に、微かな恐れを抱きながら、私はただただ身体を熱くして、大家さんが私を苛む玩具を選び終えるのを待っていた。