<弥生>  
遅れていた梅雨明け宣言が発せられて間もなく、ようやく夏休みに入った。  
今日は夏休み初日の土曜日だ。  
 
この1週間、家に帰れば、暇を見付けては原稿と首っ引きで取り組んでいた。  
勉強は、締め切りの近い同人向け小説の原稿書きに行き詰まった時の、息抜きに過ぎなかった。正直、小  
説の原稿を書く方が、勉強より大変なのだ。教科書を開いて予習をするのはかえって気楽なほどだった。  
ドラマを固めるための細部のブラッシュアップは、極限まで推し進めた。二人の主人公の心理的な揺れ動  
きも、考えに考えて、自然な展開構築を心がけた。  
だが、このままでは不十分だ。  
肝心のベッドシーンで二人が結ばれるくだり。  
そこで克明な描写をするための感覚――肉体感覚を掴むことが、どうしても必要だ。  
だから自己開発に挑戦したのだ。  
 
先週から拓と始めた私のお尻の開発は、順調に進行してきた。  
就寝中に装着しているアナルプラグのサイズは先週よりもやや大きくなっている。  
私は指とアナルバイブを使って、毎晩お尻のマッサージを欠かさない。  
普段はアナルプラグのない状態で、姿勢を正し、お尻に力を入れて、行き過ぎた緩みを防ぐ。  
この姿勢制御が、習慣づけでようやく意識しなくてもできるようになってきた。ファッションモデルの気  
苦労がわかった(ような気が、しないでもない)。  
 
これからいつものとおり、拓が来る。  
私は既に、本来の女としてのバージンを、拓に捧げて(押しつけて?)いる。  
今日、もう一つのバージンも進呈するつもりだ。  
気持ちの準備はできている。  
 
<拓>  
5月以来、弥生の自宅には10回近く来ている。だが、これほど緊張したのは初めて訪れたとき以来だ。  
その初めて来たときも、俺はせいぜいうさんくさいクスリでもって、弥生にイタズラしてやろうという、  
不埒な下心をもって、心をはやらせていたに過ぎなかった。  
そのままなし崩しに二人で処女童貞喪失してしまっただけのことだ。  
互いに情が移ってわかりあえたからよかったようなものの……思えば危なっかしい事態だった。  
 
今度は違う。最初から「互いにとって特別なことをするのだ」とわかっている。  
彼女の尻の処女を謹んで頂戴する。  
 
アナルセックスぐらい、アブノーマルプレイの熟達者からすれば大したことないのかも知れない。  
性的タブーの厳しかった大昔のアメリカでまとめられたキンゼイ・レポートにだって、異性間肛門性交の  
経験者は少なからず存在したことが記録されている。  
しかし、本来性交渉に使う器官でない肛門に、ペニスを挿入するという行為は、俺たちその道の初心者に  
とって、倒錯的快感の可能性を追求する第一歩になるだろう。  
これからそこに踏み出す。もちろん、安全のための周到な準備を伴って。  
本来、アブノーマルそのものの追求と言うより、あくまで弥生の小説執筆のための実地経験であった筈な  
のだが……  
どうも俺たちは、変な方向に目覚め始めているようだ。  
それで、弥生にまだ話していないことが一つある。  
話すのは逢ってからでいいと思う。  
 
俺はいつものとおり、「藤吉」という表札脇のインターホンを押した。  
 
<弥生>  
暑いせいか、拓はついにジーンズをあきらめて、ナイロン素材のスポーツ用Tシャツと、だぶっとしたハ  
ーフパンツ姿で現れた。  
迎える私も似たような格好だ。部屋に冷房をかけても、家中冷房稼働というわけには行かない。  
お互い、夏休みの猛暑下らしいスタイルで短いあいさつを交わす。  
「いらっしゃい。待ってたよ」  
「ああ、上がるぞ」  
二人にとっての慣れたやりとりだ。  
拓を先に部屋に通す。涼しくて静かな「私の青い部屋」。  
大仕事の前に、ここでちょっとくつろいでもいいだろう。  
 
プラムをアイスティのお茶請けにした。  
指で皮を剥いてかじった拓は、機嫌良く「冷えてて美味いな」と言った。  
我ながらいいチョイスだった。砂糖抜きの冷たいお茶には、果実のほのかな甘味が合う。  
「きのう、学校帰りにスーパーで見付けた。この手の水菓子って、拓は好きそうだから」  
彼に食べてもらうつもりで、冷蔵庫で冷やしておいた。  
今朝発見し『うまそうだ』と言うなり食べようとした父親にチョップを入れて倒したのは、内緒。  
「水菓子、か……こういう水気のある果物は、確かに好きだけどな。  
文芸部員は、古い言葉に詳しいな」  
「確かにいまは使わないね。フルーツが特別なものじゃなくなったせいか、半分死語になってるような」  
「俺は最近まで、水菓子って『水ようかん』や『ゼリー』のことかと思ってた。それで母親に笑われたよ」  
私は拓の苦笑混じりの言葉に、思わず微笑んでしまう。  
こういう他愛のない会話を交わしながら一緒にお茶を飲むことが、どうしてこんなに楽しいんだろう?  
 
ねえ拓、そういえばきみと私が結ばれたとき、きみが私に催淫剤を盛ったのは、ペットボトル入りのアイ  
スティだったね。  
私はスタンガンできみを倒して拘束したはずだったのに……勝負はドローになっちゃった。  
あんなに甘くて危険なアイスティを飲んだのは、後にも先にもあの時こっきりだ。  
 
そうして共に、人としての倫理的違反をやらかした私たちは、罰として互いに離れられなくなった。  
いま飲んでいるお茶は、私が葉っぱから淹れたごく普通のセイロンティ。  
おかしな物は、何も入ってない。  
今の私たちは信頼関係で結ばれて、お互いのためにお互いの求めるだけのことができる。  
ただ相手のことを思いやりながら、自分の心の欲するままに振る舞えばいい。  
そして彼――拓のために、できる限りのことをしてあげるよう努めればいいんだ……  
おかしな薬は、もういらない。  
 
私はプラムの一つを手に取る。冷たく、適度に固い。  
拓も食欲が湧いたのか、残った一つを手にする。  
私は果実を剥こうとして、ふとそのかたちに、手を止めた。  
何かに似ている……  
丸くて、筋状の窪みがあって……あ。  
私と拓は、共に手を止め、顔を見合わせた。  
「これ、後にとっとくか?」  
「……そうしよう」  
二人で今日の重要テーマを忘れてどうするのだ。  
 
グラスとプラムをいったん片付けてきた私に、床に座っていた拓は「尻は?」と声を掛けてきた。  
私は別に驚かない。もとよりそのつもりだ。  
「拓が来る前にウォシュレットで温水浣腸して綺麗にしておいた。それからまたプラグ入れてある」  
「指3本、行けるかな?」  
「試してみて」  
私はハーフパンツを脱ぎ捨て、下着も脱いだ。そのままベッドに両手を突き、尻を突き上げる。  
Tシャツだけ着た眼鏡の女子高生が、裸の尻を高く突き上げている……しかもその肛門には、決して小さ  
くはない青いアナルプラグが填っている……  
我ながら変態もいいところだ。  
拓も用意はいい。  
バッグから取り出した小さなビニール袋に、ボトルからローションを垂らし、右手の人差指、中指、薬指  
を重ねてコンドームを被せると、袋に指の入ったコンドームを突っ込む。ローションがアナル用の乾きに  
くいタイプなのは言うまでもない。  
拓は左手指でアナルプラグを慎重に引く。私は息を吐く。  
若干の抵抗の後に、プラグがすぽっと抜けた。短い快感。  
「おーおー、尻の奥の赤い闇が見える……あー、すぼまってきた」  
拓が面白がっている。  
『赤い闇』かあ。気になるフレーズ……そのうち小説で使ってみようかな……  
ああそれどころじゃない。身体のうずきが醒めないうちに……  
「ねえ、指で」  
早く、して欲しい。試して欲しい。  
とたんに、肛門粘膜に冷たい物が触れた。  
ローションだ。  
私が息を吐くと同時に、3本の指はためらうことなくぬるりと「中」へ侵入してきた。  
 
ローションの冷たさは、私の粘膜の体温と、コンドーム越しの拓の指の熱とで、すぐに退いた。  
自分の指でも、機械でも道具でもないものが、入るべきでない場所へと入り込んでいる。  
私のお尻は、3本の指の微細な動きによって広げられ、ゆっくりとした往復動でなぶられていた。  
「はっ……ううっ……あっ」  
あえぎが止まらない。  
「弥生、小説は進んでるのか?」  
拓が場違いな事を言い出したので、私はちょっと戸惑った。  
「もうちょっと……拓が『して』くれれば、もうちょっとで……」  
彼が苦笑しているのがわかる。  
「おまえのオヤジさんから聞いたぞ。母上、元・腐女子だって?」  
「……ええ」  
……パパ、口が軽い。  
「『サムライトルーパー』の同人誌に囲まれて育ったんだってな?」  
「……そうだよ。『星矢』も『シュラト』も……『キャプ翼』も『幽々』も……」  
……ああっ、パパのバカバカ!  
「腐女子の英才教育を受けた『生まれながらの腐女子』だったんだな」  
「……否定はしない」  
……決めた。  
帰ってきたら半殺しにしたる、アホ父。  
 
私はあのママの娘で、そして今ではこの男に全てを捧げてるんだ。  
それに彼は私のもの。  
私を言葉でなぶる口も、私を犯す指も。ううん、身も心もぜんぶ私のものだ。  
どんなに私を腐女子としてなぶろうと、拓はヲタであることを超えて「私の一部」なんだ。  
 
この2ヶ月にも満たない交際で、私は「似た者同士の絆」を強く自覚していた。彼は私の鏡だ。  
彼は自分がヲタだということをよくわかっている。私も腐女子としての自分を知っている。  
拓の言葉は角度を変えれば、私と彼双方にとっての、自嘲、だ。  
それはとても恥ずかしく、なのに滑稽で、しかも歓びだ。  
真のサディストは、真のマゾヒストでもあり得る――  
 
私は肩越しに振り返る。拓はちょっと意地悪な微笑みを浮かべている。  
私は怒っていない。自信を持って言えた。  
「そうだよ。  
私は腐女子として生まれ、腐女子として生きるべく運命づけられた女。  
例え変態と言われても、その道を極めてみせる!」  
拓は「はははは!」と笑い、「いい根性だ」と言った。  
お尻から指が抜かれる。  
「そのままでいろ」  
アナルプラグが、再び挿し込まれる……うっ、来る。定位置に納まった。  
コンドームを片付けた拓は、「立っていいぞ」と私に言いながら、ハーフパンツを脱いだ。  
だが上のTシャツは脱がない。下のトランクスだけを脱ぎ捨てた。  
 
予想どおりに、固く勃起した男性が現れた。私は息を呑む。  
今日は、これを自分のお尻に受け入れるのだ。  
それにしても、いつにも増して大きいような気が、する……  
「もう、するの?」  
「見ろよ」  
拓は、ベッドを背にしていた私の脇で、ベッドに両手を突いた。  
さっきの私と同じスタイルだ。  
最初、意図が読めなかった。  
次にはっとした私は、拓のシャツの下、臀部の谷間をのぞき込んだ。  
白いプラスチックの器具が、拓の肛門から姿を見せていた。  
肛門から飛び出した器具の前方突起は、ぶら下がった陰嚢との間――『蟻の門渡り』を圧迫している……  
まぎれもない、エネマグラだった。  
 
「あんな事言ったのに、ぶった切って改造しちゃったよ。返せなくなっちまった」  
『ドルフィン』独特の、後方の円弧状の弦は、曲がり始めたところで切断されていた。ズボンや下着を履  
くのに邪魔だからだろう。もっとも本体強度に問題はなさそうだ。  
切断部の先は、サンドペーパーかヤスリの類で、尖らないよう丸く整形されている。  
私は、拓が電子工作や微細な工芸技術に長けていることを思い出した。これは職人の改造だ。  
その改造エネマグラを、いまの彼は自分のお尻に、自分の手で填め込んでいるのだ。  
信じられない。  
あまりの素晴らしさに、私は自らの胎内から蜜液があふれ出してくるのを感じていた。  
 
「何で? どうしてここまで?」  
「おまえのため」  
拓は、ベッドに目を伏せたままでぼそりと答えた。  
お尻がぐいぐいと動き、それに合わせてエネマグラがうごめくのと同時に、拓の口から息が漏れる。  
私は息を呑んだ。  
「くっ、やっぱり来るなあ……  
おまえ、小説を書くだけが目的じゃなかっただろ?  
変態プレイを追求して、俺も一緒に変態にしたいんだろ?  
だからエネマグラをおったけてきたんだろ?」  
……あ、あははは。  
「……弥生は、本当にどうしようもない腐女子だな」  
拓は肩越しに振り返って私に吐き捨てる。顔が赤い。  
「あの変な本、読んじゃったよ。最後まで。  
それで、おまえのこと思い出して、ついムラムラと……」  
「!? ムラムラして、どうしちゃったの?」  
私の腐女子回路がONになる。心も体もハァハァだ。  
拓はむっとした表情になり、起き上がって私の前に立つと、立てるモノを立てたまま一気にまくし立てた。  
「ああ教えてやるよ! この変態女!  
毎晩自分の部屋で、こいつにコンドーム被せちゃローション塗って、自分のケツに突っ込んじゃ、ケツを  
締めて鍛えるような、間抜けなことやってたんだよ!  
今週ずっとだ! いまじゃ、こいつを見ただけで勃起してくるぐらいだ!」  
 
笑い声を上げたくなったが、それ以上のショックで意識が遠くなった。  
 
期待以上だ。  
拓、きみって、凄い。  
拓はなおも叫んだ。  
「もうこの際どうなってもいい! おまえと一緒に変態になってやる!  
大体おまえみたいな危ない変質者の腐女子の相手なんて、変態以外にあり得ない!」  
彼は思い切り赤面していた――新たな変態開眼の告白だ。  
私を変質者呼ばわりし、自ら変態志願を叫んでいる男が、どうしてとても可愛く思えるんだろう?  
恥辱心をかなぐり捨てて、私の馬鹿な誘惑に乗ってくれた、この変態むっつりスケベヲタ。  
もう……ホントに好きだぞ!   
「拓……ありがとう!」  
私は拓に抱きついた。  
 
二人そこに抱き締め合い、熱いキスを交わす。  
腰から上の映像は、愛し合う恋人たち、として通用するだろう。  
しかし腰から下と、イカレたセリフが問題だ。  
二人とも、上はTシャツ、下半身は素っ裸。それぞれのお尻にはアナルプラグとエネマグラ。  
私のあそこは濡れ濡れで、拓の分身はがっちり反り返っている。  
それで一緒に変態になろうなんて叫んでいる……  
お互い、素晴らしくお馬鹿さんだ。  
 
私は眼鏡を外した。  
二人共に上半身の衣服を脱いで、全裸になる。  
「なんか……すごいわ」  
私は立ったまま拓に寄り添い、彼のものを手のひらでさすり上げながら、これまでにないほど熱く、固く  
なったそれに対する驚きを、正直につぶやく。  
「おまえのせいだぞ」と笑い返す拓。  
 
ベッドに倒れ込むといつものように舌を絡め合い、そして拓は私の身体の愛撫に移る。  
解いた髪をかき分け、私の右のうなじに舌を這わせてくる。  
同時に彼の右手は、私のちっぽけな左胸をゆっくりとマッサージする――  
胸をただ揉まれても女は痛いだけだ、と教えてあげてから、拓は全体をソフトに扱ってくれるようになっ  
た。その合間に時折、ピンと起った乳首を指先で転がして楽しむのだ。  
私にできることはあまりない。けれど二人の身体の間に右掌を差し入れて、拓の張り切ったものをそっと  
さすってあげるぐらいのことはできる。  
その先端が、カウパー腺液……先走りで濡れていた。  
「ほどほどで頼む……けっこう……クるんだよ……エネマグラって。動いてるだけで刺激されるんだ。  
そのうえ、弥生と、こうしてるんだからな」  
「あ、ごめん……」  
拓の切なげな顔が間近にある……男の子が快感に耐えている様子って、可愛い。  
それを見つめる歓びのあまり、私の中からはいっそう蜜が流れているようだ。  
シーツが汚れる? 替えがある。別に濡れてもいい。  
ああ、我は腐女子なり。  
 
拓の舌は私の鎖骨あたりに這い下り、ちょっと自信のない左胸(ブラを着けるときなど、よく確かめると、  
左が僅かに小さいようだ)の先端を、舌先で転がす。  
二つの貧しい膨らみの先で、乳首だけは一丁前に起っている。こんな胸でも愛してくれるのが嬉しい。  
心地良い刺激が伝わってきて、思わず吐息が漏れる。  
これ、ボリューム不足もいいところだけど、もし将来母親になったら、赤ちゃんのお腹を空かせないだけ  
のミルクは、出るのかな?  
ううん、それ以前にこんな私が、いま乳頭に軽く吸い付いている「大きな赤ちゃん」の精を受けて、新し  
い生命を育む日は来るのだろうか?  
未来のことは、わからない。でも、そうであって欲しいと思う。  
そのためにも、もっと彼を知り、もっと彼に知ってもらいたい。  
あらゆる事を。  
 
私は彼の頭に、そっと掌を載せた。  
それで気持ちは伝わったろうか?  
拓は乳房への愛撫を止め、上目遣いに私の顔を見た。  
「まだ、大きくなるかもな」  
ほら、これだ。苦笑するしかない。  
「どうせなら、もっとしてよ」  
拓は笑うだけで答えない。左手で私の右胸を愛撫しながら、脇腹のあたりに舌を這わせ、下りて行く。  
このコースだと、腰骨辺から身体の中心に移動して、谷間に顔を埋めることになるのだろう、と思った。  
それがいつもの彼のやり方だったからだ。  
だがこの時は違った。  
唇と舌先は、脇腹の途中でいち早くコースを変えたのだ。  
そして飛び込んだのは……  
「ひはっ!?」  
おへその、穴!  
 
<拓>  
人間誰しも、耳かきを使ったり鼻をほじったり、ニキビを潰したりした後に、出てきた大きな耳垢や、黄  
色く軟質なかさぶた状のハナクソや、粟粒のごときニキビの芯を、しげしげ眺めてみることがあるだろう。  
それで  
「我が畑ながら、大物が獲れた」  
と無意味に感心してしまうクチも、少なくないはずだ。アホらしいことだが。  
 
そして風呂場で独り、ヘソのゴマをほじった後に、毎度毎度指の臭いを嗅いでみて  
「……くさっ」  
と内心つぶやいてしまう奴も、けっこういると思う。ヘソのゴマなんてクサいとわかっているのに。  
 
……少なくとも俺はそうだ。これら全部に当てはまる。  
 
他人の顔のニキビを見ていて「……ぜんぶ潰して芯を掘り出してみたいなあ……こいつ縛り上げてぶちぶ  
ち潰そうかなあ」と思ってしまうこともある。  
何しろ思春期の若者の集団だ、クラスに顔じゅうニキビだらけの男も何人かいて、どうもそいつらの顔を  
見ると、他人の顔だというのに、そいつをふん縛ってニキビを焼針とピンセットで退治したい衝動に駆ら  
れてしまうので困る。  
ニキビを潰して膿や芯を抜きたがる奴に、肛門性交への潜在的嗜好がある、という心理学的解析の話を読  
んだことがあるが、本当だろうか? 時代遅れのフロイト風解釈に思えるが――  
ここしばらくの自分の行動を振り返るに、少なくとも嘘でなさそうな気はする。  
 
それで、弥生を眺める。  
弥生は鼻筋をまたいで両頬に至るまでのそばかす持ちで、黙って澄ましている顔は、豹か猫を連想させる。  
とてもお茶目だけれど、幸か不幸か肌質自体はきれいで、ニキビはない。  
弥生にすれば、そばかすの上にニキビまで出られたらたまったものではなかろう。痕がひどくなる。  
もっともニキビ潰し好きならともかく、そうでない奴が他人にニキビを搾られたいとは思わないだろうが。  
 
で、どうするか。  
弥生も人間だ、鼻も耳もヘソもある。  
しかし、彼女の鼻の穴に指を突っ込んでどうするのだ、という気もする。殴られるのがオチだ。  
耳かきならむしろ彼女の膝枕で俺がされたい。  
すると残るは、ヘソだ。  
弥生の腰は細くて綺麗だ。胸は貧しいけれど、このウエストは海岸で自慢していいレベルだ。保証する。  
そのくびれの正面に、形が良くて深い、ヘソの窪みがある。  
俺は愛撫の過程で、目に入ったヘソへと狙いを定めた。  
そして舌先を差し入れたのだ。ネーブルプレイという奴だ。  
 
驚きとくすぐったさ、それに羞恥心で、弥生は悲鳴とも嬌声とも付かない複雑な声を上げた。  
エロティックだ。  
「やだよお、汚い……」  
「ああ、臭くて変な味がする。これも弥生味だなあ」  
俺もひどい奴だ。  
実際垢臭い。だがそれが興奮を誘う。同時に弥生の反応も。  
内部にねじれの掛かったヘソの窪みを舌で責めつつ、指をクリトリスに移して、つまみ上げる。  
弥生の身体が悲鳴と共に跳ね上がる。  
「なあ、おまえは卵子段階からやおいの遺伝子入りで、ママのお腹の中で、やおいの栄養分をこのヘソか  
ら注ぎ込まれて育ったんだよな?  
それで物心付かないうちからやおいの英才教育を受けて、立派な腐女子になったんだな」  
弥生はヘソでも感じているようだ。  
垢の溜まった不浄の部分だが、舐めたぐらいで死ぬこともあるまい。  
俺の言葉に弥生は「拓のバカぁ……」と半泣きだ。  
言葉とは裏腹に、彼女の蜜の谷は止めどなく粘液を分泌し続けている。  
左手指で垂れ落ちようとするその液をすくい上げ、舐め取る。乳酸系の、健康な弥生の味だ。  
拭いきれなかった液体は、彼女の後ろの門に食い込んだプラグの縁を伝って、シーツを濡らしていた。  
 
二つの味に刺激された俺のブツは、強く反り返る。  
その動きにつれてエネマグラが前立腺を刺激し、俺は自分の先端から先走りがじわりと漏れるのを感じた。  
「……拓、そろそろ」  
息を切らしていた弥生が、彼女の膝の谷間に身体を縮めている俺を促した。  
ようようと言葉を発した彼女は半ば朦朧としている。あのまま続けていれば、失神していたかも知れない。  
俺はうなずいて、「ここでやるか? それとも風呂に?」と尋ね返す。  
「お風呂。後始末、楽でしょ?」  
 
<弥生>  
私と拓は、「行為」のための道具が入った袋を手に、揃って素っ裸で階段を下りた。  
階段を下りる時、脚の動きでお尻のプラグが圧迫される。鈍いきつさと、微かな快感。  
拓も同じ気分だろう。  
 
そう、私は生まれながらの腐女子。  
腐女子として生まれ、腐女子として生きるべく運命づけられた女。  
例え変態と言われても、その道を極めてみせる。  
 
我が家は新築の際に、クライアントでもある工務店社長さんのアドバイスで、高価なのは承知で全ての外  
窓を二重式の断熱サッシにしてある。  
バスルームもその例外ではなく、分厚い二重の石目ガラスが、中の者のシルエットすら定かでないほどに、外部からの視線を遮断してくれる。  
この副次効果で、入浴中も屋外に水音が漏れることはない。少々声を上げても外には聞こえず、好都合だ。  
脱衣所でバスタオルのストックを確かめる。  
それから、拓と共にバスルームに足を踏み入れた。換気扇を回してはあったが、やや暑い。  
新築時に、ユニットバスとはいえ洗い場の広いタイプを選んでくれた両親に、私は内心感謝した。  
浴槽のお湯は抜いてあり、私は栓をしてからカランをひねった。  
うちのボイラーは大出力なので――これも社長さんの「家庭用ボイラーは馬力差の割に値段差は小さい。  
最初からハイパワーにしておくのが得策だ」と教えられたためだ――湯が溜まるまで時間はかからないは  
ずだ。蛇口からほとばしる湯の勢いはシティホテルのバスルーム並みに強い。  
浴槽に取り付いている私を、拓は後ろから見ていた。  
「ねえ拓、二人でお風呂に入るの、初めてだよね」  
「……そうだな」  
拓の答えは生返事だ。私は振り返る。  
水音と共に湯気の立ち始めた浴室に、拓はすっくと立っている。  
彼のペニスは怒張している。見事にそそり立っている。  
「とりあえずこれ、どうにかしてくれるか?」  
拓がぽつりと言う。  
そうだ。彼は今日、まだ一度も達していない。しかもエネマグラを挿入しっぱなしなのだ。  
出したくて、たまらないはずだ。  
自分の忘れっぽさに呆れる。  
「ごめんね……一度、抜いとく?」  
「頼む」  
言うなり、彼はタイル風のビニールシート張りの床に、慎重に腰を落とした。  
M字開脚スタイルになり、後ろ手を突きながら壁により掛かる。男性のポーズとしては珍妙だ。  
私は最初、浴槽の縁に腰掛ければいいのに、と思ったが、少し考えて「ああ」と気付いた。  
お尻にエネマグラが入っているのだ。浴槽の狭い縁に、裸で腰掛けるのは辛いだろう。  
 
「おお……うう……いい」  
直後、私は床に腹ばいになって、拓の股間に顔を埋めていた。  
口の中で、熱いものが脈打っている。  
男性のあえぐ様子も、我が劣情を刺激してくれる。拓は演技でなしに、内と外からの刺激でどうしようも  
なくうめいているのだ。  
私は唇を丸めて硬いものをしゃぶり上げ、裏筋のつながりを舌で舐め上げつつ、陰嚢の裏側に隠れたエネ  
マグラの前突起をつまみ、小さく動かしてやった。  
「うっ、効く――」  
小さな叫び声がした。  
拓が、弾ける。  
青臭く少し苦い液体が、私の口腔内の隙間を満たす。どくん、どくんと。  
脈動が静まるまでの間、私はその生命の液体を飲み干すことに集中する。  
ちょっと苦しいけれど、彼を喜ばせてあげられたんだ、と思うと、苦痛も退く。  
拓の落ち着きを確かめ、やっと口を離した。  
「……良かったぞ……これは、入れたままでいい」  
拓の満足げな声がした。これ、とは、エネマグラのことだろう。  
同時に私の腕が掴まれ、直後、私の身体は拓の腕の中まで引き寄せられていた。  
彼は私を抱き寄せ、強引に唇を重ねて、侵入してきた。  
……自分の精液が残っている口に、自分の意志で……  
凄いよ……狂った、気持ちいいキス。  
 
私たちの傍らでは、蛇口からの湯がどぼどぼと浴槽に溜まり続け、全てを湯気で覆っている。  
 
<拓>  
もしもだ。  
自分でしごいてコップかオナホールに射出した自分の精液を、その場で飲め、と言われたらだ。  
俺は断固拒否する。イヤ過ぎる。  
 
なのに、自分のチンポと間接キスするような真似に走ってしまっている。  
いま俺が抱き締めている、黒髪を長く伸ばした細身のそばかす顔の娘の口に出してしまった精液は、平気  
で味わえてしまうのだ。  
精液は彼女の唾液で希釈され、そのブレンド液は独特の「旨味」を感じさせるばかりか、俺にとっての強  
力な催淫薬となっているようだった。  
キスを交わしている間に、股間のものがさっきと変わらないほどに力を取り戻し始めていた。  
2ヶ月前まで「顧みるに値しない腐女子」と黙殺していたような相手と、こうなってしまうとは……  
人生って、わからん。  
 
俺と弥生は、そのまま2、3分ばかり、互いの口の中を貪りあった。  
俺は弥生の口の中に引っかかった精液の残りカスをくまなく舐め取ろうとするかのような勢いで、弥生は  
俺の口の中に回収された精液を俺の唾液共々奪い返そうとするかのように、激しく。  
それは本能的なものだった。  
 
タイマー付きの蛇口が「0」になり、浴槽の水音が止んだことで、俺たちの動きも止まった。  
弥生と俺は、顔を離して見つめ合う。  
「拓……」  
「いよいよ、かな?」  
弥生は立ち上がった。  
「それで、お願いしたいんだけど」  
ためらいがあった。  
「今回だけ、ゴム無しで私の中に出してくれる?」  
 
相変わらずチャレンジャーだ、この女……  
唾を呑み、ちょっと考えた。  
リスクは俺が尿道炎になりかねないことだが、生というのは確かに強烈な関心をそそられる。  
尻は一応洗浄済み。事が終わったらすぐに排尿、洗浄すれば、かなりの確率で雑菌侵入を回避できるだろ  
う、と思う。  
万一にせよ、エイズウイルスほど致命的ではあるまい。彼女が身体を許した相手は俺一人、俺が身体を重  
ねた相手も彼女一人、だ。  
「わかった」  
俺は口元を歪めながら答えた。  
 
湯気の立ちこめるバスルームの床に、弥生は四つんばいになった。  
アナルプラグに指をかけ、弥生の息に合わせて慎重に引き抜く。  
プラグが抜けるのと同時に、弥生の「うっ」といううめきが聞こえた。  
俺はシャワーヘッドを左手に取って栓をひねり、開きかけた肛門に向けて湯を振りかけた。  
右手で括約筋の縁をマッサージしながら、腸液と汗とローションが混じった液体をいったん流し落とす。  
「ローション、たっぷり使ってね」  
目を伏せたままでささやく弥生の声には不安の色が混じっていた。  
その身体は緊張して、小刻みに震えている。  
小さく「わかってる」とだけ答えた。  
「任せてくれ」  
シャワーヘッドを傍らに置いて、すぼまったアナルに顔を寄せ、キスする。  
弥生の小さなあえぎが、俺の劣情を誘った。  
 
ボトルをしぼってアナルローションをたっぷりと手に取り、俺に全てを捧げようとしてくれている、馬鹿  
で愛しい腐女子の尻に、指を差し入れ丁寧に塗り込んでやる。  
体温と弾力が、ぬめる指に伝わってくる。  
弥生は短い呼吸で刺激に耐えていた。  
俺は続けて、固くなった自分の分身に、たっぷりとローションを塗りたくった。  
窓から差し込む陽射しの明るさに、濡れた亀頭がてらてらと光っている。  
 
弥生の左尻を左手で押さえ、割り広げながら、右手で支えた勃起の先端を、小さなすぼまりにあてがった。  
「行くぞ。大きく息を吸うんだ」  
そして俺は、身体を推し進める。  
「はああぁぁぁぁぁ……」  
弥生の絞り出す、これ以上ないというくらいに欲情に満ちた声と共に、亀頭は広がった肛門にあっけなく  
呑み込まれた。  
その通過の瞬間、俺は肉体と精神それぞれに、異様な高揚感がこみ上げてくるのを感じていた。  
熱かった。  
 

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