2-1.  
堀合利恵が古瀬沙代子の交霊を始めて数分後、クラスは一瞬にして静まり返った。  
原因は、利恵の腹部から漏れた雷轟の如き濁音である。  
「うっ…、ぐ、ぐうううううっっ!!」  
「ほ、堀合さん!大丈夫!?」  
急に眉をしかめ始めた利恵を見て、古瀬明海は狼狽を隠せずにいた。  
交霊によって身体的な変化が生じたのであろうか。彼女は母・沙代子の心を投影し、明らかな苦悶の表情を浮かべている。額からじわりと汗がうき、小鼻をつたって顎から落ちる。  
 
クラスメイトは息を呑んだ。  
湖底のように醒めた瞳で、いつも憂いの表情を浮かべている利恵。変わった娘だと噂しつつも、彼女に憧れる者は学年・男女を問わず存在した。その利恵が、明らかに便意の限界といった腹の鳴りに顔を顰めているのである。  
 
利恵の桜色の薄唇がわずかに震えた。  
「ご…ご不浄に、ご不浄にいかせてください…!お、お願いです…!!」  
その言葉に、明海が目を見開く。  
『ご不浄』などという時代めいた言葉を使うのは、母・沙代子ぐらいのものである。  
明海の表情に、利恵ははっと我に返った。  
(いけない……この子に…これ以上を見せちゃ……!)  
尾てい骨が軋むような感覚を覚えながら、利恵は椅子を蹴って立ち上がる。両腕が動かない事から、沙代子夫人が腕を拘束されている事が伺えた。  
「へ、平気…!少し、待ってて…!!」  
スクワットを限界まで行ったように笑う膝を叱咤し、壁に肩を預けて教室を這い出る。  
アヌスが限界まで拡がっているのがわかった。その奥では液状の何かが渦潮のように荒れ狂い、腸壁を絞り上げ、叫びだしそうなほどの蠕動を行っている。腸がねじれる苦しみに、利恵は嘔吐さえ覚悟した。  
 
階段の途中、利恵はぺたんと膝をつく。階下の化粧室までは望むべくもない。彼女の幼い脚では、明海の視界から隠れられただけでも上出来であった。  
(いったい…何をされてるの…!こんな便意は…はじめて……!!)  
野次馬のような級友が回りに群がる中、彼女は脂汗を垂らしながら奥歯を噛みしめた。  
 
2-2.  
混然とした部屋の中央には、尻を高くつき上げたまま後ろ手に縛られ、犬のように四つん這いになって膝と頭だけで身体を支える沙代子の姿があった。小刻みに震える艶めかしい体は、頭から湯をかけられたように熱気と汗を帯びている。  
夫人のつつましい蕾は黒く太いプラグによって皺のなくなるほどに拡がっていた。定期的に蕾が盛り上がり、へこみ、溢れた黄色い雫を腿に伝わせる様は、中の圧力がどれほどのものかを残酷に物語る。  
当然である。初めてイチジク浣腸3つを迎え入れ、すでに20分以上が経過していた。まず並の精神力なら、情けなく腰を抜かして噴出している頃だろう。  
「ずいぶんと耐えるじゃない、奥さん」  
女がアヌスに埋め込まれたプラグを指でとんとんと叩くと、沙代子の身体がぶるりと震え上がった。  
「や…やめて……!」  
崖に指先を引っ掛けて留まっているに等しい沙代子には、たったそれだけの刺激でも神経をヤスリがけされるようである。  
 
「止めて欲しければ、ちゃんと教えた通りに懇願なさい。ウチは躾けに厳しいの」  
女は罵りながら、沙代子の餅のような尻を掴んだ。そのまま腰を宛がい、プラグを押し込む。  
沙代子が小さく唸るのに気をよくし、彼女は引き締まった腰を繰って強く腰を打ちつけ始める。プラグを男根に見立てたアナルファックのように、極太の質量が夫人の括約筋をぎちぎちと軋ませた。  
 
「ああああ、くああぁああああっっ!!!」  
沙代子は足の親指をきゅうっと内側に反らせて絶叫した。アヌスが喘ぐように開閉する。涎を溢すように黄色い液を床に溢してゆく。  
「いい声よ奥さま、生まれて初めて、不浄の穴を滅茶苦茶に犯されてみましょうか。  
ほぉら、ずんずん、ずんずん…感じるでしょう。うんちがしたい、したくて堪らない?  
でも、こうしてあたしが押さえてる限りはさせないわ。懇願するまでね」  
女はいよいよサディスティックな笑みを浮かべ、沙代子の桃尻を撫で回した。弾力のある肉に加え、内側から強い力が脈打ってくる。女は笑った。  
 
「ああ、たまんねえ…。美人って奴は、糞を我慢するのさえ絵になりやがる。  
それをひりだす時の顔を、全部撮ってやるからな、泣き叫んで、乱れてくれよ!!」  
男は上に反り返るほどに勃起した逸物を扱きながら、右手でビデオを回し続けていた。  
彼はしきりの鼻をひくつかせている。  
暗い部屋は、沙代子の放つ生臭い汗の香りで蒸し蒸していた。  
 
夫人が獣のような低い叫びをあげたのは、それから数分後であった。  
「ああぁ゛あ゛ああああーーッ!!もう、もうお許しを、壊れてしまいます!!  
わ、私に、佐代子に、どうか、どうか排泄の許可を下さいまし!!」  
女が腰を打ちつけてプラグを押さえても、その極太の周りからあぶくの様な濁り汁が噴出しており、もはや耐えうる限界を超えている事が明らかであった。  
「『私は惨めなエネマ奴隷です、家族のいる家に帰れなくても構いません、私のおまんこもお尻の穴も、体中の穴という穴を貴方達の為に捧げます』でしょう?」  
プラグを必死に押しとどめながら、女が囁く。  
しかし沙代子は膝立ちになり、滝のような涙を溢しながらもそれを拒んだ。泣きはらした赤い目には、鬼気迫るとさえ言える気迫があった。  
 
「女は弱し、されど母は強し…か。たまんねえ…たまんねえなあ!」  
男は感極まった顔で叫ぶ。彼はその状態になっても誓約に従わない女性を見たことがなかった。それは女とて同じである。  
「ふう。出来ればこのままいつまででも我慢させ続けたい所だけれど、仕方ないわね。  
じゃあビデオに向けて、このセリフを囁きかけるだけでいいわ。いい?…」  
 
2-3.  
利恵にとって、それはとてつもない感覚であった。  
腸の中に便がなく、液もないというのに、ただ空気のような「感覚」だけが直腸をめちゃくちゃにひねり回している。  
全身に汗が噴出し、高熱があるように頭ががんがんと痛み、止めるだけで精一杯の吐き気が常に喉元を巡る。  
人間の限界を超えた我慢が、彼女の華奢な身体に絡み付いていた。  
 
あまりのつらさに何度も排泄欲に身を投げ出したが、利恵の場合はまるで意味がない。彼女が感じているのはあくまで感覚としての排泄感であり、沙代子が解放されない限りはその負担が消える事はないからである。  
沙代子とのコンタクトを断つという事もまた、不可能であった。余りに強い霊能を持つ彼女は、相手をイメージするだけで感覚がリンクする。今の今まで強烈な排泄感を共有していた相手の事を急に忘れるなど、出来るはずもない。  
「うう…う、くうう、うっ……!!」  
利恵は小さな身体を震わせながら、指で肌を掻き毟った。脳髄が焦げそうであった。  
 
『生まれて初めて、不浄の穴を…犯され…しょうか。  
ずんずん、ずんずん…感じ……でしょう。うんちしたい、したくて堪らない…?  
させないわ。 …願するまで……』  
 
ノイズが耳の中に響いてくる。  
いやらしい言い方、女としての尊厳をくすぐられるような声。  
「おい、大丈夫か!具合が悪いのか」  
教師の声で顔をあげると、いつのまにか彼女の周りには人だかりができていた。  
階段でうずくまり、出産でもするかのように息みながら滝のような汗を流しているのである。当然といえば当然であった。  
しかし、利恵はその状況に絶望感を感じた。もう括約筋の限界が近いのは分かっている。  
誰にも見せたくない…  
 
「わ…わたしは…」  
唇がひとりでに開閉をはじめるのを、利恵には止める事ができなかった。  
沙代子が何かを言おうとしている。やめて…やめて。と少女は涙を溢す。  
「わたしは、恥知らずな変態女です。浣腸をたっぷりとご馳走になって、皆様の前でひり出す事に喜びを感じてしまう女です。皆様、どうか私が排泄する様をご覧になってください。綺麗になったアヌスをじっくりと開発され、腸を犯されるだけで達するようになっていく私を…」  
周囲にざわめきが起こる。  
やっぱり変な子じゃない…。アヌスってケツの穴だよな…?  
利恵は涙を溢しながら、沙代子の今際の時を味わった。  
内容物もないまま括約筋が伸びきり、腸が激しく蠕動し、気が抜けてゆく感覚には、か細い悲鳴を上げずには居れなかった。  
すべてを出し切った利恵は虚ろな目を虚空に泳がせ、抜け殻のように崩れ落ちる。  
涙にぼやける視界に、ビデオを持って嬉しそうに駆け寄る男と女が映った。  
耳の奥にはこの世の物とは思えぬほど切ない鳴き声が、いつまでも、いつまでも響いていた。  
 
                      続  
 
 

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