0.深窓の令夫人
その部屋は、廃棄物の投棄場所のようであった。
足の踏み場もない程に散乱する衣類、ゴミ袋、弁当の空容器。窓までが塞がり、昼夜も分からないその空間で、1人の令夫人が後ろ手に縛られたまま蹲っている。
麗しい女性であった。背中に遊ばせる艶やかな黒髪、零れる様に膨らんだ胸、つきたての餅のような肌は、若い娘とは異なる匂うような色気を湛えている。
腰や足首など締まるべき所は締まったその体は、若い頃にスポーツなどで鍛えていなければ作りえない一種の造形美といえた。
身に纏う柔らかな雰囲気は、彼女が子を持つ母であることを如実に物語る。
美貌の令夫人――古瀬沙代子(こせさよこ)は、その可憐な唇におよそ似つかわしくない醜悪な剛直を口一杯に咥え込まされていた。銀色の唾液を散らしながら必死に怒張を口から引き抜き、息も絶え絶えに叫ぶ。
「かはっ!も、もう堪忍して下さい…。帰らないと、家に、か…帰ら、ないと…!!」
「うるせぇ!勝手に喋くってるんじゃねぇよ!!」
夫人の悲痛な懇願は、眼前の男が彼女の髪を掴んだまま腰を突き出したことでかき消された。顎がきしみ、喉の上側を硬い剛直に削られ、沸きあがるむかつきに沙代子は思わず喉奥を狭める。
男は令夫人の口粘膜に亀頭をくるまれ、快感に低い声を上げた。その快感をさらに貪るべく夫人の頭を前後に揺さぶる。後ろ手に縛られた夫人は為すすべもなく、口を目一杯に開いたままで喉奥を蹂躙されるしかなかった。
男のたるみ腹の脂っ気と毛のざらつきが再び頬を汚しはじめる。
「ぐお、こっ、おおう、んむぉぉおう、ごっ、ごぉ……おおおぉおお!!!」
剛直は時に脈打ちながら沙代子の口腔を太く穿ち、可憐な唇の端からは泡立った濃厚な唾液がひと抜きごとに溢れ出ていた。
「こっちを見るんだ」
夫人の前に仁王立ちになった男に命じられ、沙代子は瞼をあけて赤くなった瞳を晒した。男はその瞳と、吸気を求めてひくつく美しい鼻梁、そして醜く尖った赤い唇を眺め回す。腰をつくと、沙代子が苦しげに喉をならし、ぬるみに包まれた亀頭がきゅうきゅうと圧迫される。
自分が令夫人の清らかな唾液を湛えた口腔を犯していると何より脳髄に認識させた。男はサディスティックな快感が背をイモムシのように這い登るのを感じ、同時に強烈な充足感が股間を疼かせた。
「ぐうっ、出るぞ!!」
二度ほど腰を素早く打ちつけ、男は身を震わせて沙代子の口内に精を放った。
「ん、んむうう!」
喉の奥にねっとりとした質量が貼りつくのを感じ、沙代子は息を震わせた。上から全部飲めよ、という男の声が降り、何度か唾液と共に嚥下を繰り返す。
生臭い。
よほど好いている相手の物でなければとても口に出来る代物ではない。まして、彼女は目の前の男になど微塵の好意も抱いてはいない。あるのは汚辱感と、恐怖と、あとはほんの少しの、彼女自身がまるで理解できない何かの感情だけである。
「出すときは出すのねぇ。お嬢さんが精子で窒息死するんじゃない?」
沙代子の後ろでショートヘアの女が鼻を鳴らした。彼女は飽くことなく荒れた手で沙代子の豊かな乳を揉みしだいており、たまに乳裏をしごきあげて乳首をつまむ。出産と授乳を経て成熟した沙代子の乳房は次々と母乳を噴出し、床には純白の飛沫がおびただしく散っていた。
「ああぁっ……。やめて、絞らないで……」
令夫人は上気した頬を左右に振り、何かを振り払おうとする素振りをみせた。その動作に女が満ち足りた笑みを浮かべる。
「何故?これでも女よ、乳の操り方ぐらい心得えてるつもり。ほぅらお嬢さん、またお乳から射精してるじゃない」
きゅきゅっとしこり立った乳首を磨かれ、形の良い乳房を白い線が伝ってゆく。射精とは言い得て妙で、沙代子はその瞬間に甘い痺れを感じてしまっていた。茂みの奥が熱を持っているのがわかる。胸から繋がる身体の芯が疼く。
(嘘よ…。口での奉仕を仕込まれて、乳線を弄繰り回されて、感じてしまうなんて…私は、そんな……っ!)
目を閉じて甘い夢想に浸り始めた沙代子を引き戻したのは、まだ何物をも迎え入れた事のないアヌスへの突然の刺激であった。女がその長い中指を深々と直腸内に挿しいれ、蠢かしているのである。
「きゃあああっ!!ど、どこに指を入れているの!やめて!」
令夫人の初心な反応に、男と女は口元を綻ばせる。
「どこって、お尻の穴に決まってるでしょう。きゅうきゅう締め付けてて可愛い…。旦那様はこの見事な尻を見て、弄くりたいとは言わなかったの?」
「そ、そんな変態じみた事、私たちがするわけ無いでしょう!」
「ふふ。変態じみた事…ね。いい年しておぼこい事。変態じみた事っていうのは、こういう事を言うのよ」
女が言葉を終えないうちに、沙代子の腸内を急な冷たさが襲った。それも一度ではない、2度、3度と体内に噴射される。
「きゃっ、ッ、冷たい!な、何、何を入れたの!?」
「何て事ない、薬局にでも置いてある薬よ。お嬢さんを素直にする薬…。そして、麗しいお嬢さんが身体の皮一つ下に隠した汚れを、あたしらに懇願しながら盛大にぶちまけてくれる魔法の薬。」
女は嗜虐的な笑みを浮かべて言った。沙代子がその言葉の意味を理解するより、薬液が細い腰の中で鳴動する方が早かった。
「くっ!!ま、まさか…、これ……! ………あ、あああああああ……ッ!!!」
あまりに衝撃的な事実に行き当たり、沙代子の脳髄が萎縮する。
「たぁっーぷり我慢して綺麗にするのよ。これから可愛がられる穴なんだから」
女は手に持った極太のアナルプラグに多量のローションをまぶし、沙代子の慎ましいアヌスに宛がった。女の手に筋が浮くと、それがめりっ、めりっとアヌスの皺を伸ばして沈み込んでゆく。
「ぐっ、ぐぐ、う…っ!」
沙代子が息むのを押し返し、流線型のフォルムをしたアナル栓は、突如ずるっと令夫人の腸内へと飲み込まれた。括約筋が千切れそうな感覚に沙代子は狼狽するが、もはや力を込めてもひり出すことは出来ない。
「さぁ雌牛さん、お勉強の時間よ。楽になりたければ私たちに忠誠を誓いなさい。『私は惨めなエネマ奴隷です、家族のいる家に帰れなくても構いません、私のおまんこもお尻の穴も、体中の穴という穴を貴方達の為に捧げます』ってね」
女の出した提案に、その内容に、沙代子は言葉を失った。
「い…言える訳、ないじゃない……そんな事…!!」
下腹部に渦巻く鳴動に汗を流しながら、令夫人は首を振る。
男達は悠然とゴミ山の中に座り込むと、苦悶する美貌をビデオに収めながら下卑た笑みを浮かべる。
「家族が大事なら腹ワタが腐るまで耐えりゃいい。俺たちは美人が苦しむ顔を眺めても、排泄の瞬間ってぇ決定的な弱みを握るのでも、どっちでもいいからな!」
男と女の笑い声の中、古瀬沙代子は歯を喰いしばった。
0-2.
堀合利恵(ほりあいりえ)は異質な11歳であった。
相手の顔よりその心を見るような醒めた目。授業中でも突然うわ言を語る性質。
それらは利恵に備わった類稀な霊感に起因する。
彼女がまだ母親の胎内にいた頃、その首にはへその緒が半ば癒着しており、そのままの出産は窒息死の可能性が高いと言われていた。
手術は難しく、母親は彼女が生まれるまでの数ヶ月間、毎日祈り続けたという。
生まれたこと自体が奇跡として紙面を飾った彼女に霊感があるのは、ある意味自然かもしれない。
彼女は嘘や隠し事、後ろ暗い事を本能的に看破する。さらにはそれをさらりと暴露する利恵自身の幼さもあって、教師でさえ彼女を避けているのが露骨であった。
さらさらの髪や北欧系の造りの顔は、将来を大変に期待させるのであるが。
利恵は今日も教室の隅で、手を握ったり開いたりを繰り返し、教室中から白い目で見られていた。
「うん…今日は、わたしの身体…」
利恵は呟く。霊にとり付かれ、何度か命の危機に瀕した彼女からすれば当然の事なのだが、それを他人に言っても理解されないのはもう分かっていた。
利恵は他人を拒否しない。本当は歳相応、友人と語らうのを夢見る心も持ち合わせている。
だからクラスメイトの古瀬明海(こせあけみ)が相談を持ちかけてきたとき、彼女は必ずその思いに応えようと、静かな瞳で決意していた。
「お母さんを…探る……」
「うん、堀合さんなら出来るかな、と思って…。お父さん、お母さんは浮気してるんだって。預金が勝手に下ろされてるし、帰ってくるのが朝だったりするし、様子もおかしいから絶対に浮気だって。
でも、お母さんそんな人じゃないもん!優しくて、綺麗で、おいしいご飯作って…、笑って…くれ、る……!!」
言葉を紡ぎ切れず泣き出す明海の手に、そっと利恵の手が重ねられる。
はっとして明海が顔を上げると、すでに利恵の瞼は閉じられていた。
(可愛い…)
赤子の寝顔のようなその様に、明海は思わずそう感じた。
利恵の意識は明海を通し、深い、深い泥濘へと沈んでいく。明海の母の心へ。
暗闇の底に浮かんだ部屋は、まるで廃棄物の投棄場所のようであった。
続く