「は?」  
 ゴードン・シュタインベルス──現シュタインベルス家当主であり、決してプロレスラーでは無い。例えその顔が地獄の羅刹より怖く肉体が鋼の如きソレでもだ──は食事の手を止めて二人に向き直った。  
「え、えーと、そのですね、ですから、僕はお嬢様を、その、愛している、と」  
 普段の冷静沈着はどこへやら。びっしりと汗をかきながらキリヒト・ローレンツは必死で言葉を紡ぐ。傍らでは物凄く不安そうな顔をするヨーコ・ローレンツの姿。  
 先日、なし崩し的にとは言え二人は関係を持ってしまい、互いの気持ちを確かめ合った。食客という立場であるキリヒトはまがりなりにも主人の娘に手をつけた事になる。  
 加えてゴードン卿は娘を溺愛しており、更にこの外見。骨の一つや二つ、いや首をもがれたとて誰が不思議に思うであろうか。  
「フー……」  
 ゆっくりと息を吐き出すゴードン卿。ぴりぴりとした緊張感が朝の食堂に張り詰め──  
 
「何を今更言っとるんだ、お前等」  
 
 無かった。  
「……は」  
「結婚の申し込みかさもなくば子供でも出来たかと思っておれば。そんな事に気づいてないのはあのライムタイザーの馬鹿息子くらいだろう」  
「……あの」  
「というか、わざわざ改めて言いに来るという事は、何だ今まで手をつけてなかったのかキリヒト。お前も存外甲斐性が無いな」  
「お、お、お父様ッ!!」  
「やー、親の欲目を差し引いてもそこそこモテると思ってたんだがなぁ。見た目もそれ程悪く無いし、あぁそうか性格か、確かにこのじゃじゃ馬は」  
 そこまで聞いて真っ赤になったヨーコが父に襲い掛かるのをキリヒトは必死で制する事になった。  
 
 
「あああああああああああああ!!何なの、何なのよぉぉぉ!!お父様があんな風に思ってたなんて、ていうかあんなノリのヒトだったかしら!?」  
 キリヒトのベッドの上で相変わらず暴れまわるヨーコを見ながらキリヒトは苦笑していた。確かに、大幅に予想外の展開ではあった。数十分前、何度も深呼吸しながらこの部屋を出たのが馬鹿馬鹿しく思える。  
「フフ、確かに意外な展開でした」  
「あんたねえ、どうしてそうクールなのかしら。一度これ以上無いほどうろたえさせて見たいもんだわ」  
「そうですか?さっきの俺はそれなりの醜態をさらしてたと思いますよ、何せガチガチに緊張してた状態から自分の好きな人を羽交い絞めする流れなんて普通は有り得ません」  
「嫌味?嫌味なのかしらそれはアンタ」  
 むっすー、とした目つきでヨーコがキリヒトを睨む。さぁ、どうでしょうねと笑いながら彼は傍らのポットから冷えたお茶を注いで渡す。  
「む?グリーン・ティーって冷やしてもいいの?」  
「ええ、本来お湯で淹れるものですけど、それを冷やしたものもあるんですよ。というか、日本じゃ紅茶でも緑茶でもコーヒーでも冷やして売ってます」  
「へぇ……あ、悪く無いわね。……日本か、行って見たいな」  
 日本人の血を受け継ぎながらも日本には行ったことが無いヨーコは最近良くその言葉を口にする。恐らくは同じような境遇──キリヒトもハーフだ──のキリヒトから日本の話を最近良く聞いているからだろう。  
「ね、キリヒト。お父様、明後日から出張なんだって?」  
「ええ、そうですね。お手伝いの方も殆どの方がお休みを貰うみたいですよ」  
「ふぅん、そっか……」  
 グラスを手の中で弄びながらヨーコはキリヒトをジっと見つめる。……この眼をしている時は大概が『かまって』のサインだ。今日も作業ははかどりそうに無いな、と苦笑しながらキリヒトは手に取りかけた本を本棚に押し戻した。  
「お嬢様、こういうのはどうでしょう」  
「ん?」  
「本館のほうは旦那様とお嬢様がメインで使っていらっしゃいますが、旦那様は出張でお手伝いの方も殆どいらっしゃらなくなります。こちらでしたら俺一人いれば充分です」  
「ふむふむ」  
「ですので、その、……旦那様が出張から戻ってくるまでは、こっちで過ごしませんか?よろしれば、ですけど」  
 ぼぅん、と音をたてるかのように一瞬でヨーコの顔面が真っ赤になる。  
「え、えと、その、それはー……とっても、いいんじゃ、ない、かな」  
「決まりですね。じゃあ、お召し物や必要なものを一旦こちらにうつしましょうか」  
「あ、あのね、キリヒト、それならね」  
「?はい」  
「ど、どっか二人で行くのも悪く無いんじゃないかなー、なんて……」  
 落ち着き無く視線を彷徨わせながらヨーコがおずおずと述べる。今度はキリヒトが盛大に顔面を赤く染める番だった。  
「そ、そうですね、ええ、それにしましょう、それです、ハイ」  
 不必要に眼鏡を押し上げながらキリヒトはどうにかそう言った。……異様に空気が甘く重い。お日様がさんさんと照っていなければ、今すぐにでもキリヒトはヨーコにルパンダイブを敢行していたであろう。  
 
 
 カーステレオからは軽快なスカが流れる。キリヒトが運転するジープは後ろにスーツケースやら木箱やらをぎっしりと搭載して森林の中を走っていた。  
「良かったわ、別荘が空いてて!!このシーズン、一つ間違えば誰かに貸していたもの」  
 満面の笑みでヨーコははしゃぐ。先程から後部座席でブーブーと携帯電話が着信を告げているが、それが某カール・ライムタイザー(26歳独身、ヨーコに百戦百敗中)からの着信と知るやヨーコは放り投げて見なかった事にしている。  
「よろしいんですか?一応ライムタイザー卿はお父上の取引先ですよ」  
「ライムタイザー卿は、ね。あの馬鹿には丸で、全く、欠片も関係が無いわ」  
「……はは」  
 苦笑しながらハンドルを切る。つくづくカールには気の毒な話だ。  
「あによ、あんたアイツが私に言い寄っても構わないって言うの?」  
「好意を示すのはまぁ、個人の勝手でしょうから」  
「じゃあ何、アイツと私がデートしても良いんだ!?」  
「良いわけないでしょう。っていうかですね、お嬢様がカール様とデートする光景はなかなか想像に苦しみます」  
「あーもー、そーゆー問題じゃ無いのよッ!!この馬鹿っ、えろ眼鏡っ、サディストっ!!」  
「何か身に覚えも無い事も言われてますが、ええとですね、俺だって男だから恥ずかしいんですよ……もう言いませんよ」  
「ん」  
「……ヤです。お嬢様は俺の傍にいて下さい。……ぐわー恥ずかしい、コレで良いですか満足ですかー!!」  
 顔面を真っ赤にしながら半ばやけのように言ったキリヒトの言葉にヨーコは満足したようで肩に頭をぽふ、と載せると携帯電話の電源を切った。  
 
「……おおう、これはこれは」  
 湖畔の別荘にジープを止めたキリヒトは思わずそう呟いた。空模様が段々と怪しくなってきている。おまけにどこかで見たようなトーテムポールまで立っている。確実にここらへんは旦那様──ゴードンの趣味であろう。  
「?何よ、何がそんなに『これはこれは』なの?」  
 きょとん、とするヨーコにこれ以上無いほど爽やかな笑顔でキリヒトは荷物を降ろしながら説明を始める。  
「お嬢様、『十三日の金曜日』は知ってますか?」  
「え?ああ、ナイチンゲールが死んだ日ね」  
「その豆知識はともかく、俺が言ってるのは映画のほうです」  
「あのホッケーマスクを被った殺人鬼がチェーンソー片手に迫ってくる奴?」  
「チェーンソーはそんなに使ってませんけどね、まぁともかく、アレの一作目を見たことあります?」  
「あるわけないでしょ。私はああいうの苦手だって言ってるじゃない」  
「アレの一作目って、ジェイソンが誰だかわからないんです」  
「は?」  
 ぴたり、とヨーコの動きが止まる。そう、もっと早めに気づくべきだったのだ。キリヒトのあの表情は──  
「その舞台がまさに『湖畔の別荘』でですね、ここと殆ど一緒なんです。犯人もわからないままに惨劇は繰り返されてですね」  
「ちょ、や、やめなさいってば!!アンタ本当に趣味悪いわよ!!」  
「ジェイソン、つまり殺人鬼がわからないまま湖畔のロッジで登場人物は恐怖に慄いてがたがたと震える夜を──」  
「やーっ、やだっていってるじゃないのッ!!あーもーッ、キリヒトの馬鹿ぁ!!」  
「そうそう他の映画でですね」  
「止めてよッ、本気で怒るわよッ!!」  
 恐怖と怒りがまぜこぜになってキリヒトの背中をぼこぼこと殴るヨーコをひょい、とキリヒトは抱きしめる。  
「え、ちょ……」  
「大丈夫ですよ、お嬢様。例えジェイソンだろうがフレディだろうが、俺が守りますから」  
「……さっきの百倍恥ずかしいこと言ってるわよ」  
「えー、それでですねー」  
 この抱きしめが耳を塞がせないロックである、とヨーコが気づいたときには既にたっぷりと『湖畔の惨劇』についての恐怖を叩き込まれた後であった。  
 
 
 じゅぅじゅぅと肉の焼ける音。外は既に雨が降り出しているため、キリヒトは予定を変更して夕食の支度に入っていた。  
「あー、お嬢様、俺が悪かったですって。怖がるお嬢様が可愛くてつい調子に乗りすぎました」  
 同じキッチンの中でむくれてそっぽを向いているヨーコに苦笑しながらキリヒトは謝る。むくれていながらもびびってしまって、ヨーコはキッチンから離れることも出来ないのだ。  
「ほら、機嫌直して下さいよ。折角二人きりなんですから」  
「それを台無しにしたその口が言うかなぁッ……ん……」  
 怒鳴り始めたヨーコの唇をキリヒトの唇がふさぐ。  
「……ずるい」  
「ええ、俺はどうせサディストのエロ眼鏡ですからー。ついでにお嬢様が大好きです」「ついでとか言う奴があるかぁッ!!」  
「はは、ほらほらご飯にしましょう、肉が焼けすぎちゃいますから」  
 よしよし、とあやしてキリヒトは鼻唄混じりに料理を皿に載せ始めた。  
 
「……明日も雨降るって?」  
「いえ、明日は大丈夫みたいですよ」  
 食後にワインを飲みながらラジオに耳を傾けていた二人は外の雨を見ながら言った。  
「良かったですね、明日はきっと泳げますよ。俺もお嬢様の水着姿を見れるのは楽しみです」  
「……あんた、今日は本当に恥ずかしい台詞を言うわね」  
「お屋敷と違って誰に聞かれる心配も無いですからね」  
 頭を撫でながらキリヒトはワインをかたむける。と──電気がふっ、と消えた。  
「!!ちょ、ちょっと何、何なのッ!!」  
「ああ、電球が切れただけですよ、そんなに怯えないで下さいってば。ほらほらお嬢様、そんなにしがみつかなくても平気です」  
「だ、だって物凄く怖かったのよ、今!!ちょ、キリヒト、どこ行く気なのよっ!!」  
「いや、電球替えないと」  
「ちょ、もうちょっと待ってよっ!!ね、お願いだから」  
「電球替えれば怖くないですよ?」  
「あ、あんた笑ってるわね、絶対笑ってるでしょ!!」  
「いえいえそんな、怖がるお嬢様が可愛くてしかたないなーとしか」  
 にやにやと笑いながらもキリヒトはぎゅ、とヨーコを抱きしめる。  
「ほら、落ち着きますか?だいじょーぶ。だいじょーぶですから」  
「ん……って、ねぇ、キリヒト、ちょっと……」  
 半泣きでぎゅ、と抱きついたヨーコは下腹部の違和感に顔を赤くする。  
「えーと、その、ですね。お嬢様のおっきな胸がさっきから押し付けられてまして、そうすると俺の倅はいう事を聞いてくれないんです」  
「ナニが倅よっ、あーもー、このケダモノっ」  
「……へぇ」  
 薄闇に目が慣れてきたヨーコの眼前で、キリヒトの眼鏡が光を反射したかのように見えた。  
「じゃあ、ケダモノらしくしちゃってもいいですか、お嬢様?実は俺、さっきから我慢してるんですよ、ひたすら」  
「え?え?」  
「あ、もう駄目。今の一瞬怯えた顔で完全に堤防決壊です、お嬢様。すいません、今からお嬢様のこと徹底的に苛めちゃいますね」  
 言うや、キリヒトはヨーコをベッドに押し倒しながら唇を奪った。  
 
「ん、ん、ちょ、きりひ……んん、んっ」  
 突然の事に目を白黒させているヨーコの口の中にキリヒトの舌が侵入する。そのままヨーコの舌を絡めとると互いの唾液を混ぜ合わせるように何度も舐る。  
 右手は既に服の上からヨーコの豊かな胸をこね回す。身じろぎも許さぬように巧みに身体を重ねて自由を奪う。  
「ん、は、ぷは……キリヒト、強引だよ……」  
「ヤですか?嫌なら止めます」  
 や、ヤじゃないけど、と顔を赤くしながら言うヨーコの唇を再びキリヒトが奪う。何度絡めても足りない、と徹底的に舌が舌を蹂躙する。月明りの薄ぼんやりとした空間で、男は女を犯す。  
「ね、き、キリヒト、ふ、普通にキスして……」  
 ヨーコの哀願を聞き入れ、舌を絡めぬキスを降らす。唇に、首筋に、頬に。次第に熱く、そして荒く、熱を帯びる呼吸。はぁはぁという呼吸音が互いの媚薬となる。  
「お嬢様、凄い可愛いです」  
「キリヒト、……ん……」  
 キスをされながら徐々に服を脱がされていく。胸元のボタンを外され、じょじょに肌が外気に晒される。既に薄く汗をかいて上下する肌にキリヒトは舌と手を這わす。  
「や、きり……ひと、ぉ、それ……っ、何かヘン……」  
 下着の上からでも固くなっているのがわかるほどに隆起した乳首にも胸にも触れず、それ以外を入念に愛撫する。期待していた刺激が与えられず、それ以外の感じたことの無い感覚に身をよじる。  
「お嬢様、ココも弱いですよね」  
「や、ぁ、そンなトコ……あ、あっ!!」  
 脇の下にも舌を這わす。耳の裏を舐め、耳たぶを甘噛みする。キリヒトにしがみついて何かに耐えようとするヨーコに容赦なく快感を叩き込む。  
「もうこんなに硬くしてたんですね、お嬢様。気持ち良いですか?」  
「や、ン……そんなん、言わないでよっ……」  
 爪弾き、潰し、弄り、揉み解す。欲情に染まった男の前では乳首は玩具のようなものだ。形を変え、硬度を増し、互いの興奮を増加させていく。  
「ん……」  
 キリヒトが乳首を軽く咥えると、それだけでヨーコの顎がのけぞる。そのまま頂点をちろちろと舌が撫でると、ヨーコは身体をびくん、びくんと痙攣させる。  
「イキそうなんですよね、お嬢様。凄く気持ち良いんですよね?もうイッちゃいそうなんですよね……」  
「は、ぁ、や、やっ、きりひ、と、ソレ、それ、そこ弱っ……」  
「でも、駄目です。今日は苛めるって決めましたから。イキたくてもなかなかイカせてあげませんよ」  
 刺激を中断すると、残酷にキリヒトはヨーコに微笑みかける。  
「ちょ、そん、な……や、あンっ!!」  
 上り詰めかかったところで中断されたところで、ジーンズの内側に手が入り込み、今度は内股を撫で回される。先程までの刺激とは違い、むず痒いような快感がヨーコの身体を走り抜ける。  
「ああ、もう下着の上からでもわかるくらいに熱いですよ、お嬢様。ほら、入り口だってトロトロにしちゃっている」  
「や、や、やッ、それ、そこ、ふ、ぁ……ッ、あ、ああッ」  
 既に蜜を大量に吐き出して潤うそこを何度も何度も、薄い布ごしに撫で回す。それでも、決してイカせる事は無い。何度も達しそうになっては別の快感を与えられ、ヨーコはキリヒトにしがみつく。  
「き、キリヒト、お願い、意地悪しないで……」  
「凄い可愛いですよ、お嬢様。でも、おねだりは自分からして下さいね、でないと俺達下々の者はどうしたらいいかわからないんですから」  
「う、そつきっ……お願、い……イカ、せてっ……」  
 顔を朱に染め、目尻に涙を浮かべながらヨーコは哀願する。  
「イキたいんですか、お嬢様?もう、たまらないんですか?」  
「そ、そう、そうなの、お願い、イカせて……あ、ああ、ん!!」  
 ソレを口にさせて尚、キリヒトの責めはそれからたっぷり五分は続いた。己の腕の中で曝け出す、愛しい人の痴態が余りにも可愛らしくて。  
「良く我慢しましたね、お嬢様。いいです、イカせてあげますね……」  
 ぬるり、とキリヒトの指がようやくヨーコの中に侵入を開始する。  
「ん、あ、は……ぁ!!」  
 そのまま背後に回り、胸を滅茶苦茶に揉みながら耳たぶを噛む。そのまま中の指で内壁を擦り、入り口を親指で引っかく。  
「あ、あ、あ、きりひと、キリヒト、イク、イくよ、駄目、だめぇっ……!!」  
 耐えに耐えた末の絶頂感に、最後は言葉も無くヨーコは身体を震わせながら達した。  
 
「はぁ、はぁ、はぁっ……ちょ、ちょっと、キリヒト、待って、休ませ……」  
「駄目です、もっともっと可愛いトコ見せて下さい、お嬢様」  
 たったいま達したばかりで荒く息をつくヨーコを、今度は容赦の無い愛撫が襲う。二つの大きな胸を揉まれながら乳首を吸われ、膣を指に掻き回される。すすり泣くような声を上げながらヨーコは哀願する。  
「ふ、ふぁ、ふああッ、おね、お願いっ、きり……ひ……とぉ、や、ヤ……んッ!!」  
「今、もっともっと気持ちよくしてあげますね、お嬢様」  
 ゆっくりと、ゆっくりと。撫で回すようにしながらキリヒトの指がヨーコの陰核の包皮を剥いていく。その感覚にヨーコは身悶えするが、キリヒトは自らの身体でその動きすら許さない。  
「や、や、だめ、らめ、イ、いい、いいッ、気持ちいッ、駄目、らめ、きりひと、それ、駄目、そこ……ぉぉッ!!」  
「気持ち良いんですね、お嬢様?イキそうなんですね、お嬢様?また、イッちゃいそうなんですね?」  
 言葉で嬲りながら、キリヒトはヨーコを二回目の高みへと容赦なく連れて行く。身体の細かい震えが一瞬止まり──  
「ぁ、あ、ああああッっっ………」  
 ヨーコは再び絶頂に身をよじった。  
 
「はぁ、はぁ、はぁ、………へん、たいっ」  
 荒く息をつき、目尻に涙を浮かべながらヨーコは悪態をつく。そんなヨーコを見てにっこりと微笑むとキリヒトは、  
「あれ、知りませんでした?」  
 とけろりと答えた。  
「でもお嬢様もそれなりですよ、こんなにやらしい身体してますし」  
「かん、けいないでしょぉっ……」  
「俺もそろそろ我慢の限界なんで……、ちょっと、乱暴に今日はしちゃいますね」  
「え、ちょ、やッ……」  
 背後から抱きすくめられ、そのままいきなり挿入される。普段のキリヒトとは違い、荒々しく、己が欲求をぶつけるかのごとき乱暴な交わり方だ。  
「や、そ、いき、なり……ふむ、ゥっ」  
 抗議の声を上げかけた口に指が入れられ言葉を封じられる。そのまま、後ろから抱きかかえられるようにしながら座位で上へと突き上げられる。  
「ンんっ、んんんッ、ふ、ゥうんッ!!」  
「凄く可愛いです、お嬢様。ココもこんなに硬くしてる」  
「んンんんッ!!」  
 挿れられたまま指でクリトリスを撫で回される。その間も突き上げは休む事無く続く。むせび泣くヨーコを、キリヒトは徹底して犯す。  
「ふむゥっ、んむぅッ、ふう……ゥんッ、んンんッ!!」  
「物凄くやらしい顔してますよ、お嬢様。気持ち良いんですか、そんなにイイですか?」  
「んんンンッ……ん、ンぅっ……ん、むゥっ!!」  
 指が口を犯す。肉棒が膣を犯す。手が胸を犯し、陰核を犯す。キリヒトというケダモノに徹底して犯しつくされる。  
「まだ、ですよ。まだイカないで下さいね、お嬢様」  
 そう言うとキリヒトは唾液でてらてらと光る指を口から抜く。そして荒い息をつくヨーコを──  
「え、ちょ、や、やだッ、こ、これ恥ずかしッ……」  
「駄目です。今日はもう徹底してお嬢様を辱めます。他に誰がいるわけでも無いんですから」  
 そのまま腕をつかみ、後ろから激しく突き始める。  
「あ、やぁッ、ンあッ、やッ、あン、ああッ、ああ……あッ!!」  
 ぱんぱんという肉と肉のぶつかる音。ぶるぶると震える胸を鷲掴み、更に激しく腰を打ち付ける。最初こそ突っ張っていたヨーコの肘がガクガクと震え、くず折れ、そして今やだらしなく頭をシーツに押し付ける。  
「や、ぁあッ、あッ、ンんっ、あんッ、あっ、あっ、ああッ、きりひとッ、きりひと……!!」  
「凄く可愛いです、お嬢様、凄く……駄目だ、もう出る、い、イキますよお嬢様ッ……!!」  
「あ、あっ、ああ………あッ!!」  
 どく、どくと後ろから注がれる精液の脈動。きゅ、きゅと伸縮を繰り返す膣の鼓動。互いを感じながら、二人は果てた。  
 
 
「変態、ケダモノ、馬鹿、えろ眼鏡っ」  
 かれこれ二十分は続いているだろうか。さすがに一方的に苛めすぎたようで、顔面を真っ赤にしながらヨーコはキリヒトを責め続けている。  
「いや本当、調子に乗りすぎました。これもお嬢様があんまり可愛いからで」  
「うるさい、何でもそういえば誤魔化せると思ったら大間違いよ!!本当に信じられない、この鬼畜っ!!」  
「鬼畜は幾らなんでも。いや、すいませんって。今度はもう徹底的に優しくしますから」  
「ば、馬鹿っ!!すけべっ!!」  
 じたばたと暴れるヨーコをひょい、と抱きしめて髪を撫でる。  
「本当に、大好きですよ、お嬢様」  
「……うー……釈然としない……」  
 むくれながらもこてん、とキリヒトの胸に頭を預ける。結局二人はそのままそのソファーで寝てしまい、盛大に風邪を引いてバカンスは台無しになるのだが、それはまた別のお話。  
 

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