――それは、いつものように、二人でお風呂に入っている時のことだった。  
 
 
 芳香は、湯船につかり、ユウが体を洗い終えるのを待っていた。  
 この前、ユウに胸を揉まれてからというもの。芳香の方から洗いっこしようと  
は持ちかけれずにいた。  
 また、胸を揉まれるかもしれない、そう考えると。怖いものがあった。  
 嫌ではなく、怖い。恐れていた。  
 もし、またユウに胸を揉まれたら、今度は受け入れてしまうかもしれない。  
 もう、仕方ないわねと、触れることを許してしまうかもしれない。  
 それだけなら、まだいい。  
 お風呂の中で揉まれるのは、まあ、仕方ない。  
 
 けれど。  
 部屋にいる時、  
 庭を散歩する時、  
 いっしょに寝る時、  
 ユウが胸をもむのが当然で、自然なことになってしまったら…………  
 そう考えると恐ろしかった。  
 そんなユウが怖いのでも、そうなるのが怖いのでもない。  
 ――ならば、何が怖いのか?  
 芳香が恐れているのは、自ら。  
 自分自身が抱く、妄想が怖かった。  
 ユウは十歳、まだ下の毛すら生えていない、芳香より二周りも小さい。ただの  
子供だ。  
 得意な教科は体育や図工で、苦手な教科はそれ以外。毎朝ランドセルを背負い  
小学校へ通っているような、子供だ。  
 確かに胸を揉まれたし吸われた、自慰をみられたこともあった――だが。  
 それもこれも、まだユウが子供だからなのだ。子供だから、純粋な興味だけで  
突拍子もないことをする。前に、  
『どうして芳香さまには、ちんちんがないの?』  
 と訊かれた時には困ったが、子供だ。  
 男と女の違いを説明したが、ちんぷんかんぷんな顔をした程度に子供なのだ。  
 芳香の顔が、湯船に長く浸かっているためか、赤くなっていた。  
 そんな子供相手に、いくら妄想とはいえ。  
 胸を揉まれるのが自然な関係になったら――などと考える自分が怖かった。  
 これでは、まるで、十歳のユウに欲情して  
 
「――いたっ」  
 ユウの小さな悲鳴に、芳香は明後日に飛んでいっていた意識を取り戻す。顔は  
真っ赤だ。  
 ユウがまだ十歳で、そんなユウ相手にいろいろ考えるのは、怖くて、少し……  
……愉しい。  
 そんな芳香の考えを知らないユウは。洗い場に置かれた、座椅子に腰掛け、前  
屈みになって、自らの下腹部をジッと見つめていた。  
 その顔が芳香をみた。  
「大変だ、はがれたっ」  
 
 一瞬、ユウがなにを言っているのか理解できなかったが。そんな芳香の様子に  
気づいたユウは、親切にも、芳香の前に『はがれた』それを突き出した。  
 浴槽は洗い場より低い造りになっており。  
 浴槽内に座っている芳香の目線と、  
 立ち上がったユウが芳香の前に突き出したソレのついている場所と、  
 その二つの高さは、全く同じだった。  
「…………」  
 お風呂に入った時何度となく見たが。こんなに近くで見たのは、初めてだった。  
 小さなユウのちいさなおちんちんが、目の前にあった。  
 肌と地続きな皮。剥がれた場所を見せるため、剥き出た先端はピンク色。その  
ちいさな棒の下には、芳香の指二本より小さな袋がついている。  
「……――っ!!!!?」  
 芳香の瞳が見開かれる。  
 ユウはううと呻きながら、  
「いたいよぉ、芳香さまぁ」  
 と言ったが、芳香には聞こえていなかった。  
 芳香は、ただ、短く悲鳴をあげた。  
 
 
   ※※※  
 
 
「……ええ。ええ、そうよ。そう。だから、はい、心配しないで……それじゃあ」  
 内線電話の受話器を置くと、芳香はふぅと息を吐いた。  
 風呂場で悲鳴をあげた芳香を心配して、電話を入れた片岡を誤魔化すのは苦労  
した。流石、オムツを替えてもらったこともある相手だ。  
 芳香が嘘をついたのは見抜いたが、心配はないと判断してくれた。  
 芳香は、実の父以上に理解してくれる片岡に感謝し。その息子へちらりと視線  
を移した。  
「で、どういうこと? 何がはがれたの?」  
「……うん」  
 うなだれたユウは、今にも泣きそうな声で説明しはじめた。  
 
   ※※※  
 
 要領を得ないユウの説明をまとめると。  
 身体を洗っている途中、おちんちんを洗い始めた時に、手が滑って皮の一部が  
剥がれた――ということらしい。  
 芳香が、いまいち理解できないでいると。ユウは、実際に見せた。  
 亀の頭のような先端に、頭同様首の部分があるのだが。その円周上にぴったり  
と皮がふっついている。  
 間近で見せられた芳香は、なるほどと想った。  
 剥がれたと思わしき部分は、血こそ出ていないものの、少し赤くなっている。  
「今も痛いの?」  
「ううん、今はだいじょうぶ。だけど、はがれた時は、すっごくいたかった」  
「……そうなんだ」  
 涙目で訴えるユウに、芳香まだ暗くなる。  
 
「……片岡――あなたのお父様に相談した方がいいのかしら」  
 芳香がぽつりと呟くと、ユウは力なく首を振った。  
「パパに相談してもいみないよ、だって、パパはお医者さんじゃないんだから」  
「それは……」  
 と、芳香はユウの下腹部を注視する。  
 剥がれた隣の部分も、今にも剥がれそうだ。  
「そうだけど、どうにかしないと……」  
 しかし、芳香に妙案はない。  
 ユウが言う。  
「そうだ」  
「なあに?」  
「芳香さまがはがしてよ」  
「…………え?」  
 子供の考えは唐突で、いつも突拍子もない。  
「一気に全部はがしたら、次は痛くないでしょ」  
「それは……」  
 ユウの提案はこういうことだ。  
 はがれた瞬間は痛くても、直ぐに痛くなくなる。だから、一気にはがしてしま  
えばいい。  
 しかし、それをやる勇気は、自分にはない。  
 だから、  
「芳香さまがやって」  
「私が? そういうことなら、あなたのお父様に……」  
「やだよっ。パパにヤられたら、とっても痛そうだからやだよ」  
「……でも」  
 もし万が一、失敗して、ひどいことになったら……  
 芳香が二の足を踏むのもかまわず、ユウは  
「芳香さまにやってほしいんだ。芳香さまになら、どんなことされても我慢でき  
るから」  
 芳香は、頷いた。  
 ユウが自分を頼ってくれるのが嬉しかった。  
 
 
   ※※※  
 
 
 洗い場に直接座る芳香の、太ももの上に乗ったユウは、両足をそれぞれ芳香の  
脚の外に置き、大きく開脚している。  
 見下ろせば、芳香の位置からは、ソレが丸見えだ。  
 芳香はユウの小さなソレに手をかける、ふにゃっとした感触に、思わず生唾を  
飲み込む。  
 ユウは怯えるように、頭を芳香の胸の谷間に埋めて、その瞬間を待つ。  
「いいわね、ユウ」  
 ユウのソレを握る芳香が、ユウの覚悟を確かめる。  
 ユウは無言で頷いた。  
 その瞬間が、訪れた。  
「う、うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」  
「あ、あら? あら。ご、ごめんねユウ。失敗したから、もう一回」  
 
 
 皮が剥けきるのに、三回の苦痛がユウを襲った。  
 
 
   ※※※  
 
 
「うう……だいっきらい――いたた……芳香さ――いたたた……」  
 亡者の呻きみたいな声をあげながらも、ユウはひしっと芳香に抱きつき。涙を  
隠すように、何度も何度も芳香の胸で目元を拭った。  
 芳香は困り、ただユウの背中を撫ぜた。  
 
「いたいよ、芳香さま」  
「……ごめんなさい」  
「なんで、痛くしたのさ」  
「ユウ、それは誤解――」  
「二回も失敗して」「うう……それは……ごめんなさい」  
「……いたいよ」  
 ユウが泣き止むまで、芳香はそうし続けてやった。  
   ※※※  
 話はまだ終わらない。  
 全部はがしたユウのおちんちんは、芳香から見ても痛ましげに見えた。  
 何か治療をしなければと想ったが、なにをすれば……  
「そうだ」ユウは言った。  
「ツバ付けたら治りが早くなるってきーたことあるよ」  
「ツバ? ……よだれのこと?」  
 ユウは頷いた。  
 芳香は、しばし悩んだ。人間のよだれに、そんな効果があるとは聞いたことが  
ない。  
 しかし、ユウが  
「小梅ちゃんに聞いたんだから、本当だよっ」  
 と強硬に言うものだから、芳香は指に涎をつけ、痕を拭いたが、ユウは痛いま  
まだし、効果はなさそうだった。  
「……うーん」  
 唸る芳香に、ユウは、  
「よだれの量が足りないんだよ、だから、なめて」  
「え?」  
「なめたら、よだれいっぱい付けれるから、きっと」  
「でも、」  
 ユウのとはいえ、ソレを口に含むのは抵抗があった。  
 ソレは尿がでる場所なのだ。  
「うがいすれば大丈夫だよっ」  
「そうかしら……」  
 それでも迷う芳香に、ユウは――傷ついた。  
 だっこされている腕の中から逃れ、立ち上がる。  
「ど、どうしたの、ユウ」  
 ユウはひどく悲しげな顔で笑い。  
「芳香さまはぼくのこと嫌いなんだ……だから……だから……」  
 今にも泣きそうだ。  
 芳香は、  
「ま、待ってユウ」  
 ユウを呼び止めた。  
「任せておきなさい、この芳香おねーちゃんに」  
 それがどんな行為であろうと、ユウに嫌われるよりはましだ。  
   ※※※  
 ――1週間後。  
 ユウを洗い場の上に寝させると。  
 芳香はその横に座り、背を丸めて、右手で掴んだユウの小さなソレを、赤い舌  
で触れた。  
 苦い味がした。  
 まず、汚れと思わしき付着物を舌先で拭い取っていく。  
「……うあ」  
 ユウが短く、呻いた。  
 痕に舌先で触れ、なぞるようにする。  
 ユウが悶えるが、芳香は心を鬼にして、ぱくっと口に含んだ。  
 そうした方が、涎をつけやすいとこの一週間で学んだ。  
 口に含み、舌先で拭いながら、芳香ふと想った。  
 ユウのソレを早く治すために、この一週間朝晩とこうしているが、いつになっ  
たら治るのだろう――と。  
 
 

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