夏、今は夏だ。  
 例年にない猛暑、ガンガンに照りつける日差しの下、俺たちは走っている。  
 といっても、好きで走っているわけではない。  
 当たり前だ、こちとら小学生の頃から高校に入っても、体育の授業じゃ『がんばりましょう』を付けられ続けている身。運動神経なんざないし、そもそも必死こいてなにかするってのが嫌いな性分だ。  
 成績表の評価が下がるのがどうした、受験に体育関係あんのか。  
 かー、ぺっ。ぺっ、ぺっ  
 てなもんだ。  
 
 そんな俺が、何故走っているのかといえば――  
「遅いよっ」  
 ――こいつのせいだ。  
「うるせぇえ。好きで遅いわけじゃねぇ」  
「そんな口聞く暇あるなら、走りなさい。大体、キミって子は……」  
 俺の10メートルは先で、体操着にブルマという出で立ちのキ○○○が、俺に向かって何か言っていたが。  
 紳士的に無視し、黙ってその3歩手前で立ち止まった。  
「休憩にしよう」  
 素晴らしい俺の提案に、ソイツは応える。  
「まだ予定の半分よ。そんなんで休もうなんて、キミは深窓のお嬢様かっての」  
 そういって、スパンと俺の頭を引っ叩くと。  
「ほら、行くよ」  
 そういって、身勝手に走り出す。  
 俺はその背中を眺め……走り出した。  
 また叩かれたら溜まったもんじゃねぇしな。  
 ……つうか、俺に何か言う前に、テメエの格好に疑問を抱かないものだろうか?  
 日曜日の公道、ブルマの女が走る。  
 なにか、ビデオの撮影だと思われてないといいが。  
 
 
 そもそもだ。  
 なんで俺が走ることとなったか、それはアイツとの関係を説明したほうが早く済むし、分かりやすいだろう。  
 俺とアイツ/如月歌鈴(きさらぎ・かりん)は、高校で同じクラスなのだが。  
 俺が休んだ日に、体育祭実行委員を決める投票が有り。誰か――クラスの連中を問い詰めても犯人は分からずじまい――に推薦された俺は、めでたく不幸にも満票で委員に任命された。  
 そして、アイツ、如月の奴も。  
 しかし、如月の奴はなにを勘違いしているのか。  
『委員なら、マラソンで、去年みたいにビリから数えたほうが早いみたいな順位になったらダメだから。走るわよ』  
 このアマ……。  
 ドス黒いオーラを撒き散らしながらも走る健気な俺。  
 ホント、なんで走ってんだろ。嗚呼、面倒くせぇ。  
「危ないっ!!」  
 ――あ?  
 
 キキ―――――ッッ!!  
「危ねぇぞ、死にてぇのかっ!」  
 罵声を残して走り去っていくトラックの姿が、腕の隙間から見えた。  
 俺が事態を理解したのは  
「……っう」  
 というアイツの呻き声を聞き、間近にあるその顔を見たあと。  
 どうやら…  
 ぼけっとしていた俺が、車に轢かれそうになり、そこを歌鈴が助けてくれたみたいだった。  
「おい」  
 車が走り去っても動かない歌鈴、心配になり声をかける――返事はない。  
 ウソだろ?  
「おい、返事しろ。返事。おい、……ええと。つうかクソ重たいからさっさと退け、何でもいいから動け、なんか言え」  
 
    ブチッ  
 
 そんな音が、聞こえたような気がする。おそらく気のせいだろうが。  
 俺の声に応えてくれたのか、歌鈴は無言で立ち上がり――  
「良かった、怪我は――――ぐぎゃっ!?」  
 俺の……大切な部分が踏みつけられた。  
 
 
***  
 
 
 脚を擦りむいていた歌鈴を、近くの公園まで連れて行き、水のみ場で簡単に洗ってやる。  
 近所のお母さんやお子様たちの視線が痛く、洗い終わる頃には何故かお母さんやお子様たちはいなくなっていた。  
 ……いや、確かに珍しい光景だけどさ。なにも逃げなくても。  
 俺は車を呼んで、直ぐ帰るように言ったが、歌鈴は  
「血も出ていなかったし、もう少し休んでからにしよう」  
 といった。  
 けれど歌鈴の顔は青ざめていて、早く病院に行かないといけないんじゃないだろうか?  
 俺は戦々恐々とした。  
 それは歌鈴が、日本で30番目くらいの金持ちの娘だからということもあるし。  
 傷物にしちまった責任もあるし。  
 なにより、歌鈴の弱気な顔が、見ていて辛かった。  
 だから  
「いいから、」  
 病院へ、と言おうとした俺の言葉に重なり、歌鈴が言った。  
「胸が痛い」  
「……あ? なんだって?」  
 歌鈴は体操着越しに自らの胸に、むにっと触れると。  
「ズキズキする」  
 子供みたいな伝え方をしてくる。  
 しかし  
 
「それって、まずくねぇか」  
「……ここは、肋骨かな…よくわからない」  
 言葉もなかった。  
 まずい、明らかにまずい。早く救急車を呼ばないと。  
 なのに  
「ねえ、少し、いい?」  
 歌鈴の奴はおかしなことを言った。  
「触って確かめてくれない、かな?」  
 
 
    なんだって?  
 
 
 おかしい、明らかにこれはおかしい。なんだこの状況。  
 後5年は天国にいけなさそうな婆さん、俺がなにか悪いことしたでしょうか?  
 なんで、こんなことに……  
 
 公園の公衆トイレ、その個室。人1人はいるだけでも狭いスペースに、俺と歌鈴はいた。  
 密着して。  
「……で、どこだって?」  
 俺は、できるだけ緊張を隠して言った。  
 壁に背を押し付けて立つ、俺の前に立ち背中を預けてくる歌鈴は、  
「胸の下、かな? よくわからない」  
 なんていう。  
「触って確かめてよ。キミのせいで怪我したんだから」  
「……それは、そうだけどさ。でも、いいのかよ?」  
「なにさ」  
「その……触っても」  
 少しの沈黙の後、歌鈴は言った。  
「ダメだったら言わないよ」  
 早く病院へ行けという、俺の懇願にも。せめてどこが痛いか分からないとと、よく考えれば意味の分からない歌鈴の主張に俺はやむを得ず賛同し。  
 だから、俺はここにいる……でも、なぁ。  
「早くして」  
 痛みのせいか、濡れ、震える声が俺に懇願する。  
 甘い、女の子の香りが鼻腔をくすぐる。  
 薄い布地越しに、彼女の体温を感じる。  
 ――そう、彼女。コイツは、歌鈴は、今更確認するまでもなく、女。それも結構美人な部類に入り、身体付きはうちの妹と比べるまでもなく女らしい。  
 というか、歌鈴が触れと言っている場所は胸……  
 俺はそこに在るものを確認して、喉を鳴らしてしまった。  
 歌鈴はお嬢様だが、上の姉さんたちに反発しているようで、そのせいかガサツっぽくもあるし。俺なんかより、よっぽど体育会系。  
 だから、忘れそうになる。  
 でも、歌鈴の胸に並ぶ二つの釣鐘に、コイツは女だと思い知らされる。  
 ちょっとしたスイカほどもある――といっても、過言ではなく、大きい。  
 
 そんな歌鈴が、体操着一枚で走るものだから、並走するといやおうなくそれが目に入り。  
 視ない様にするため、走りを加減していたのだが。  
 まさか、  
 まさか、こんなことになるとは……  
「早く、痛いよ」  
 その言葉に俺は覚悟を決めた。  
 そう、これはいやらしい行為ではない。あくまで触診的な何か。そう、全然いやらしくないんだ。  
「うし、んじゃ、触るからな」  
「うん、触って」  
 俺は腕を伸ばし、彼女を抱くようなポーズを取ると、体操着の上から彼女の胸を掴んだ。  
 むにゅううと、指が食い込むのが分かるが、直ぐに停まる。ぼりゅうむから、勝手にふにゃふにゃした柔らかさだと考えていたが、そんなことはなかった。  
 食い込んでくる指を押し返すような弾力。  
 少し揉むだけで――  
「ちょっ、こらっ、違うって」  
 至福の一時は一瞬で終わった。  
 歌鈴は怪我人とは思えないスピードで、俺の腕から逃げると。  
「そこは、まだ早いって――じゃなくて、そこじゃないよっ」  
「え?」  
 揉んだこと?  
「胸の下が痛いのよっ」  
 バチン  
 俺のほっぺがいい音を鳴らした。  
「しろっつうからしたのに、なんで叩かれないと……」  
 ブツブツ言う俺を  
「まったく」  
 の一言で片付けると、彼女は。  
「じゃ、じゃあ、教えてあげるから、ちゃんと触ってね」  
 トイレの反対側の壁に背を預けると、俺を睨みつけ、言った。  
「揉むときは揉むって――」  
「言えば、揉んでいいのか?」  
「――っ。誰もそんなこといってない」  
 
 本日3発目、絶好調に叩かれてます、俺。  
 
「いいっ、ここ、ここなんだからねっ」  
 歌鈴はそういうと、体操着の前をたくしあげ、白い肌を露出させ。自分で巨きな胸を掴み上げ、疑惑の場所を晒した――が。  
 赤くなってもいない。  
 しかし、彼女がここだというのだから、ここなのだろう。  
 視て分からないということも在るため、俺は  
「触るぞ」  
 言うや、胸のやわ肉に触れないようにしながら、胸の下をぐりぐりと親指でマッサージするようにして揉んだが  
「違うみたい。もう少し、上みたい」  
 
 といった。  
「なら、後は自分で確認しろ」  
 名残惜しみつつ、手を離すと。  
 さっきは胸を軽く揉んだだけで怒った歌鈴が  
「こ、怖いから、キミが確認してよ。キミのせいで怪我したんだからねっ」  
「いや、そりゃそうだけど。でも、そうなると、胸揉むことになるぞ」  
 歌鈴は顔を真っ赤にしながら。  
「せ、責任とりなさいよっ!」  
 ……間違っても親に聞かれたら拙いセリフを、歌鈴は叫んだ。  
 俺は  
「分かった、分かったから。怒鳴るなよ」  
 申し出を受けることにした。  
 
 着衣した状態だというのに、歌鈴は起用にブラジャーを外して見せると。  
 息苦しかったのか、息を吐いた。  
「なんか、それお茶碗にできそうだな」  
 俺のフレンチなジョークに  
「バカじゃないの?」  
 辛らつな突っ込みを返しつつ、  
「脱ぐのは恥ずかしいから、この中に手、入れて」  
 歌鈴は言った。  
 俺は頷き、手を伸ばす。  
 這うようにして、体操服の中を進み――触れる。  
「ひゃんっ」  
 弾力のある餅肉に。  
「じゃあ、下からいくな」  
「う、うん」  
 俺は胸を掴み、指を食い込ませ、食い込ませ。ぐりぐりと親指で押した。  
「ぅぅ」  
「痛いのか?」  
「ううん、くすぐったい」  
「……まぎらわしい声を出すな」  
 言いながらも、俺は胸周辺のマッサージを続けたが、痛い場所はないらしい。  
 となると、後は……  
 先ほどのことから、俺は胸本体にはできるだけ触れないようにしていた。というか、ここはこの二つの肉球がクッションになって、無事だと勝手に考えていた  
 しかし、どうやら、患部はその二つの富士山にあるらしい。  
 俺が真剣に悩んでいると  
「キミがマッサージしてくれたからかな、痛みがなくなってきたよ」  
 歌鈴が楽しそうに言った。  
 随分気楽なもんだ。こっちはお前の胸揉むか揉まないかで、真剣に悩んでるというのに。  
 すると、まるで俺の心を読んでいるかのように、歌鈴が言った。  
「あ、あのさ」  
「なんだよ」  
「胸も、……おっぱいも、マッサージ、して、くれない、かな?」  
 なんだって?  
 
「さっきは触るなってお前が」  
「いった、いったけどさ。でも、気持ちいいんだもんっ」  
「だーーーっ。だから、紛らわしいこというな」  
「で、でもさ。キミがマッサージしてくれたおかげで、痛みがなくなったんだよ。だから……ねえ、してよ。お願いだからさ」  
 俺は、悩んだ。  
 
 
 
 ――と、いうのはウソで。  
 できるだけ、格好がつくタイミングを見計らって、俺は言った。  
「仕方ないな」  
 やや、面倒くさそうに。内心ガッツポーズを連発しつつ。  
「ありがと」  
 歌鈴が蕩けた声で礼を言った。  
 俺は内心にやけながら、歌鈴の胸を掴んだ。  
「どこら辺したらいい?」  
「んー……ぜんぶ」  
「りょうっかい」  
 俺は手と肉球が馴染むようにゆっくりと手を動かす、くすぐるような動きで、焦らすように。  
「ここか?」  
 と時折、痛みを聞く振りをして、声をかけながら。  
 歌鈴は、震える声で  
「んっ、ちがう」  
 と健気にも返す。  
 そんなことを少しの間繰り返し、乳房の全てに触れてから、乳首をつまんだ。  
「ひゃうっ!?」  
 バカみたいな声をあげる歌鈴に、思わず笑みがこぼれる?  
「どうした? 痛いのか? 痛い場所が分かったんなら病院へ――」  
「ううん」  
 歌鈴は慌てた様子で否定した。  
「違う、違うよ」  
「じゃあ、ここはもう」  
「あっ、でも、なんかそこらへんみたい」  
 なんだそれ。  
 そう思いながらも。  
「そうか」  
 と頷き。  
 彼女の乳首を、爪先で玩ぶ。  
 ひっぱったり、つねったり。  
 そんな単純な行為に、彼女は悦び、嬌声上げる。  
「だめ、ちが、そんなんじゃ、痛いの、全然わかんないよっ」  
 大きな胸の癖に、――いや、だからか? 先端の乳首が弱いらしい。  
 そんなことを教えられれば、そこを攻めるしかない。  
 俺は、段々のってきて。体操服を更にたくしあげた。  
「み、視たらだめっ」  
 
 それは、まるで確かに西瓜のような大きさだった。  
 これまで服越しで対面してきた令嬢が、俺の前に姿を現した。  
 その歓喜に打ち震えながらも、俺は  
「え、ちょっと、なにするの? ……ダメだよ、ダメだって、汗かいて汚いから。ねえ、聞いて――――っっ!!」  
 彼女の乳首を吸った。まるで子供のように強く、ただ強く。  
 それだけで彼女は言葉を見失った。  
「や、やぁ……」  
 彼女の乳首は堅く、少し大きく感じた。胸の大きさに比例しているのだろう、ソレを、俺は舌で玩び、歯で弄ぶ。  
「かむのは、噛むのはだめっ――――いたいよ、いや、そんな強く…ぅぅ、少しは人のことを――ひゃんっ!」  
 楽しい、悦しい、愉しい。  
 なんだろう、一家に一台欲しくなるこの楽しさ。  
 そんなに気持ちいいのか、彼女は口先でしか反論せず、抵抗はせず。ただ、喘ぎ続けているばかり。  
 そんな彼女の悲鳴が、俺の嗜虐心に火を付ける、燃え猛る。  
 揉み、揺さぶり、潰し、噛み、揉み、はみ、握り、吸い――自分でもなにをしているのか分からないほど、乳攻めに変化をくわえ、彼女を弄ぶ。  
 背中を壁に押し付け、ガクガクと震える歌鈴。  
 嗚呼、なんといとおしいことだろう。  
 嗚呼、なんて虐めたくなることだろう。  
 俺は片手を胸から外すと、彼女の閉じられた下腹部へと――  
 
 こんこん  
 
 トイレのドアがノックされた。  
 邪魔され、怒りそうになった俺の耳に聞こえたのは。  
「おトイレしたいの」  
 という幼女の声。  
 俺は、彼女を見。  
 彼女は、俺を見。  
 どちらからともなく、身体を離した。  
 
 
 俺たちは幼女にトイレを譲ると、二人きりのマラソンを再開した。  
「なあ、歌鈴」  
 夏、今は夏だ。  
 例年にない猛暑、ガンガンに照りつける日差しの下、俺たちは走っている。  
 といっても、好きで走っているわけではない。  
 当たり前だ、こちとら小学生の頃から高校に入っても、体育の授業じゃ『がんばりましょう』を付けられ続けている身。運動神経なんざないし、そもそも必死こいてなにかするってのが嫌いな性分だ。  
 成績表の評価が下がるのがどうした、受験に体育関係あんのか。  
 かー、ぺっ。ぺっ、ぺっ  
 てなもんだ。  
 だから、余計な練習なんてもっての他だ…………でも。  
「来週も、いや、体育祭終わっても一緒に走らないか」  
「――え?」  
「お前がよければ、だけどさ」  
 もの凄く照れくさかったので、加速した。彼女の答えが聞こえぬように。  
 でも、俺には、聞こえないはずの彼女の答えが聞こえた。  
 
 彼女の答えは  
 
 
 
おしまい  
 

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