この屋敷に戻るのは、6年ぶりだ。  
大学を出た後、花を求めて世界を転々として来た。  
というと聞こえはいいが、実際には大半をジャングルや乾燥地帯を右往左往していたようなものだ。  
自分がこの家に戻る事になったのは、ある程度各国の生産者や研究者と契約が結べた事と、もう一つ。  
執事見習いになるためだった。  
 
自分はこの屋敷の執事の息子として生まれ、息子のいない主からはわが子のように可愛がられた。  
でなければ、この6年のように自分の裁量で動く事などできなかったように思う。  
その主から、館へ帰ってくるよう手紙が届いたのは、2ヶ月前のこと。  
後継者として長女美花様を指名し、いずれそのほとんどの事業を継がせる事。  
そのために自分のサポートが必要だと言う事。  
紫のジャカランダが咲き誇る南アフリカの小さな郵便局で、自分は6年前の美花お嬢様を思い浮かべた。  
幼い頃から頭の回転が早く、品があるのに、ときとして悪戯好きで…。  
母親譲りの涼やかな目元が印象的だった。  
美花様はあと半年で16歳になる。自分のことなど、もう忘れてしまっているかも知れないな…。  
 
屋敷に到着して、主に挨拶と6年間の報告を済ませてから、キッチンへ向かった。  
なつかしい香りがしたからだ。  
あまいアーモンドタルトが焼き上がる香り。  
「戻ったよ。」  
そう背中に声をかけると、オーブンの前の女性が振り返った。  
自分と同じ年で、ずっと屋敷で働いている、マリアナ。  
「お帰りなさい。今日戻ると言う事は、みんなから聞いてたわ。早かったのね。」  
そう言ってにっこり笑うと、既に焼き上がったタルトを切り分けた。  
「花美様が今日はこれを食べたいとおっしゃって…あなたの分も焼いてあるのよ。あなたと花美様は、このお菓子が大好きですものね。」  
あたたかなアーモンドタルトは少し柔らかく、香ばしい香りが口に広がった。  
「これから花美様のお部屋にお持ちするんだけど、あなたも行くでしょ?」  
マリアナがウィンクしてみせた。  
「マリアナと一緒だと行きやすいかな。」  
「きっとびっくりするわ、お互いにね。あなた、ずいぶん男らしくなった感じがするわ。」  
「大きくなったんだろうなあ…花美様。」  
「えぇ、とっても…。すっかりキレイになられたわよ。」  
そういうと、マリアナはくくっと笑った。  
「あんなにちょっかい出して怒らせていたけど、あなた、惚れちゃうかもよ?」  
「そんなに?楽しみだな。もしあまり変わってなかったら、マリアナの負けな。」  
帰ってきて早々に笑われたので、軽く賭をしてみる事にした。  
「いいわ。私が負けたら、次の休みに私を自由に使ってくれていいわ。」  
「よし。まだ部屋をどうするか決めてないんだ。手伝えよ。」  
マリアナとの賭も手伝って、少しドキドキしながら花美様の部屋へ向かった。  
 
通常、男の使用人が1人で部屋へ行く事は禁止されている。  
マリアナの後ろを歩きながら、俺は懐かしい廊下を見回した。  
花美様の部屋は、3階の一番奥。花美様が望む南北に貫いた部屋はここしかないため、家族とは少し離れた部屋にいる。  
マリアナがノックして名を告げると、しばらくしてから中からドアが開いた。  
「お嬢様。タルトをお持ちしました。」  
「入って。」  
静かな声がそう言ってからドアが大きく開き、花美様が姿を現した。  
「お嬢様、如月をお連れしました。」  
「ありがとうマリアナ…。…如月……。久しぶり…ですわね…。」  
「お久しぶりです、お嬢様。本日戻りました。6年ぶりです。」  
「ふたりとも、入って。」  
花美様は伏目がちな上に、目を逸らすように部屋の奥へ入ってしまった。  
俺はその…あまりの花美様の成長ぶりに言葉を失ってしまった。  
マリアナがとなりで笑いをこらえているのがわかる。  
6年ぶりに見る花美様は、身長も伸びて髪もストレートロング、美しい目元、そして…はしたないながらも一瞬の内に、俺の目には豊かにふくらむ胸元が焼き付いた。  
マリアナは手際よく紅茶をいれると、こう切り出した。  
「花美様。今までは私がお嬢様のお世話をさせていただいておりましたが、これからは如月が私の上でお嬢様にお仕えする事になります。如月は世界中を旅して来ましたから、いろいろなことを学ぶにはとても役にたつと思いますので、使ってあげてくださいね。」  
「マリアナ。6年も経っているのよ。いきなりは…」  
「あら、そんなご心配。お嬢様と如月は、よく森まで遊びに出かけられていたではありませんか…。すぐ元通りになれますわ。」  
「そんなこともあったわね…」  
小さな声で花美様がつぶやく。  
花美様は、自分がいない間に性格まで変わられたようだ。  
以前はまるで男勝りのような言動だったのに、今の花美様はすこしうつむき加減で、マリアナと話す時ですら頬を赤らめている。  
6年は思ったより長かったんだな…。タルトを上品に口へ運ぶ花美様を見ながら、そんなことを思った。  
 
 
「どうだった?」  
休憩室へ戻ると、マリアナが悪戯っぽく聞いて来た。  
「変わられたでしょう、花美様。」  
「そうだな…。なんというかこう…内気と言うか。」  
「あぁ、そっちね…。お嬢様、4年前にちょっとしたトラブルがあって…」  
マリアナは、4年前の夏の話をし始めた。  
船旅で一緒になった財閥の御曹子とお嬢様が仲良さそうになった事、それを両家共に喜んだ事。  
しかしそれが長く続かず、その原因が御曹子が無理矢理にお嬢様に関係を迫った事だったと、船旅の間に知れ渡ってしまった事。  
お前の胸に触りたかっただけだと捨て台詞をいわれたこと。  
それ以来、ほとんど若い男性とは話をしたがらないということ。  
なかなかの重い話に、俺は聞く事しかできなかった。  
「男なら、その御曹子の気持ちがわかるのかもね」  
マリアナは俺が共犯かのように視線を向ける。  
「まぁ…なんだろうな。俺は強引ってのが苦手だからな…。よくわからないよ」  
「ちがうわよ、カラダとか、そういうこと。」  
「だから俺は動物じゃないって。」  
「動物じゃない俺でも、あのボディには目が釘付けじゃない?」  
「マリアナ。たしかに俺は賭には負けたけど、お前はさっきから何なの?」  
「あのね、その御曹子、あなたに似てたのよ…。背格好とか、顔も。」  
私が心配なのは、そこなの。といって、マリアナは俺の頬にキスをした。  
「お嬢様と、仲良くなれるのか、その逆か。あなたのお仕事、責任重大なのよ…。私では、傷を癒す事ができていないように思うの。」  
マリアナの髪を撫でながら、俺はこの難題をどう乗り切るか考えはじめた。  
 
 
マリアナのアドバイスもあって、ようやく1人でも部屋へ入る事が許されたのは、それから5ヶ月経った頃だった。  
やっと目を見て話すようになってくれたり、俺だけを連れて外出する事も多くなって来た。  
以前はかなりの割合でマリアナを連れて行ったそうだ。  
花美様は内気な性格もあってか、いけばなの仕事で外へ出たり人前で挨拶をする事が苦手で、屋敷へ戻ると目にも明らかに疲労が溜まってしまう。  
気丈な性格だけは相変わらずで、1人で部屋へ戻ると言い張ったものの、今日はソファへ座ったきり、眠りこんでしまった。  
まだ冷える時期なので、俺はメイドを呼びにキッチンへ向かったものの、時刻はもう深夜。  
頼みのマリアナは休日だとかで不在。  
いたのはメイド長のトヨだった。トヨはもう80を超えた超ベテランで、さすがに花美様を抱える体力はない。  
「トヨさん、お嬢様が居間で眠り混んでしまって…運びたいので手伝ってください。」  
俺がメイドを呼びに言ったのは、女手がないと後で何を言われるかわからないからだ。  
トヨが花美様に毛布をかけ、俺が花美様を抱え上げた。  
その時、すっかり眠ってしまっている花美様の胸が俺の胸元に触れた。  
その弾力に、俺は一瞬立ちくらみのような感覚を覚えた。  
柔らかくてあたたかくて…  
やばい。俺は使用人なのに…。  
 
トヨがドアをあけてようやく花美様をベッドに横たえた。  
俺が廊下に出ている間、トヨが着替えをさせ、少ししてから出て来た。  
「お嬢様がお前さんを呼んでるよ。あとは頼みます。」  
そう言ってトヨは長い廊下を戻って行った。  
俺はノックしてから部屋へ入った。  
「失礼します花美様」  
「さっきここへ来る途中で目が覚めたわ。運んでくれてありがとう」  
「こちらこそ失礼しました。今日はマリアナが不在でしたので…」  
「マリアナの時はあんな所で眠らないわ。」  
「今日はお疲れだったのでしょう。」  
「あなたでも、私くらいは持ち上げられるだろうと思って気を緩めてしまって…」  
「もう今日はおやすみください。明日は予定を入れていませんから、朝もゆっくりできます。」  
「そうね、そうさせてもらうわ。」  
「明かりを消しますね。私も失礼します。」  
そういって俺は花美様の近くの小さな常夜灯をつけるためにベッドへ進んだ。  
パチと軽く音を立てて、淡いオレンジ色の明かりが灯る。  
部屋を広く照らす明かりを落とすと、広い部屋はすぅっと闇に包まれる。  
「…如月。」  
「はい。明かりをおつけしますか?」  
「そのままで聞いて欲しいの。」  
花美様の声はいつものとおり静かだ。  
「…はい。」  
「いまから聞く事を、誰にも秘密にできるって、約束して」  
 
「わかりました。命に代えても。」  
目が暗闇になれないまま、声がする方へ答える。  
「さっき、私の身体を抱えた時、何を考えていた?」  
突然どうしたと言うのだろうとは思ったものの、何を聞きたいのかが大方予想できた。  
「花美様が目を覚まさないか、緊張しておりました。」  
「…それだけ…?………私の胸が触れたでしょう。」  
あのとき既に目が覚めていたとはわからなかった。眠ったフリをしていたとでも言うのだろうか。  
「申し訳ありませんでした…花美様。」  
「謝って欲しいのではないの…。」  
「いいえ、大変不快な思いを…」  
「ちがうわ。」  
言い出そうとした所を遮られる。  
「執事としてではなく、男として答えて欲しいの。」  
「花美様…?」  
とっさに、この屋敷に帰ってきた日、マリアナが話したあの事件のことを思い出した。  
「こんな事を聞けるのはお父様でもない、あなたの父上でもない。あなたしかいないわ。」  
「…はい……」  
「その…、男性はいつも女性に触れたいと思っているものなの?」  
 
「……お恥ずかしいのですが、私を含めて大抵の男性なら、好きな女性ができれば自ずと一番近くにいたいと願うものだと思います。」  
「そう…。」  
「ただ、願いが強過ぎてうまく行かない事はあると思いますが…」  
「私に好意を寄せるもののほとんどは、この身体と家が目当だと思うの。」  
淡々と、花美様が話を続ける。  
「そんな…そんな者からは私が必ずお守りします。」  
「如月はどうなの。」  
とうとう来た。分かっていながらも、答えを用意する余裕はなかった。  
「如月は…私の胸を見て、なんとも思わないの?その、あの…もっと触れたいとか…」  
最後の方は消え入るような声だ。  
「それも、執事として答えるわけにはいきませんか」  
「当然だわ。私は如月個人に聞いているの。」  
「ですが、私がこうして花美様にお仕えできるのも、私が執事だからです。この職にある限りは、そのような考えを持つわけにはまいりません。お嬢様は眩しいくらいにお綺麗です。それは誰もが認める事です。近くにいるものとして、誇らしく思っています。」  
「如月は、男じゃないのね」  
「そうです。」  
「じゃあ、もし私がマリアナだったら、なんて言うの?」  
「使用人のことなど…」  
「そうやって私から距離を置くのはやめて。」  
突然語気が強くなった。  
 
「あなたはこの6年間、私を守ってはくれなかったわ。誕生日もクリスマスもカードだけで!一番恐い思いをした時だって、あなたは……!  
私がそんな思いをした事すら、知らないんでしょう……」  
花美様はそこまで一気にまくしたてると、啜り泣きはじめた。  
ここへ戻ってきて、花美様が泣くのは初めてだ。  
「マリアナだったら、私がマリアナだったら、如月は私を抱くの?」  
涙まじりにとんでもない事を聞いてくる。  
「花美様…私は確かにマリアナと同じ年で、仲もいいですが…彼女に対してそのような感情はありません。彼女の顔かたちや体格は関係ありま  
せん。マリアナも同じだと思いますよ。お互いよりも、花美様への気持ちの方がずっと大きいんですから。」  
俺はなんとか話を起動修正しようと必死になった。  
なのに、なかなか難しい。  
「花美様、もうおやすみになってください。随分お疲れのはずです。花美様が眠られるまで、私はそばにおりますから…。」  
ベッドへ近寄ると、淡い光のなかでごしごしと涙を拭く花美様と目があった。  
「如月…。私、あなたが好きだったわ。ずっと。でも如月が帰ってきて、本当は恐かった。6年の間に私は変わってしまったし、私が思って  
きたあなたも、もう変わっているんじゃないかと思って。でも、あなたは昔と変わらなかった。今も、如月のことは好きだわ。でも…あなたは執事なのよね」  
「そうです、花美様。私は花美様に仕える執事、使用人です。」  
「私、今の自分が嫌いだわ。あなたにお嬢様と言われる立場も、こんな、こんな大きな胸も…いらない…」  
 
淡い光の中で、仰向けになっても崩れずやわらかに揺れる胸は、やはり本人が気にするように、すこし大きかった。俺も執事として修行が足りないので、つい一瞬目が行ってしまう。  
少なくともFくらいはある。マリアナがCだとか言っていたので、間違いないくらいだ。  
それにしても、お嬢様に告白されて、しかも部屋にふたりきり、こんな近くにいるのに…  
執事って、困った立場だ。  
財閥の御曹子の立場の方がよっぽど楽だ。そして、あの御曹子の気持ちも…わかるのかも知れない。  
「花美様、そんなことをおっしゃらないでください。私は、そのままの花美様が好きです。綺麗で、優しい、いろいろ悩まれる事もあるとは思いますが、そんな姿さえ本当にお綺麗です。ウソではありませんよ。」  
「如月、言い過ぎよ…」  
泣きながら花美様が笑いはじめる。  
何を思ったのか、花美様は頭から布団をかぶって潜ってしまった。  
「如月。手を貸して。」  
ベッドの中から細い手が伸びる。」  
言われるままに手を重ねると、そのまま中へ引っ張られた。  
すぐにずっしりとあたたかいものに手を押し付けられた。  
花美様が、自分で俺の手を押しあてている…。  
頭の中が真っ白になりそうなのをなんとか引き止め、手を引っ込めようとした。  
「花美様!お止めください……!」  
なんつー試練だ。花美様…今更ですけど俺も男なんです…。  
「如月…ウソでもいいの。好きって言ってほしいの…。こんな胸でもいいって。わたし、言ってもらえたら自信が持てるかも知れないから…胸張って歩けるかも知れないから…おねがい…」  
 
あの御曹子野郎がお嬢様をこんなふうにしたのかと思うと、とてつもない怒りが沸いてくる。  
大体、これほどのものをコンプレックスに感じてしまうなんて。  
そして、女の子って繊細なんだとつくづく思う。  
「花美様、失礼します。そして、許してください…!」  
俺はもう、こうするしかわからなかった。  
薄い布団の上から、花美様の上に覆いかぶさるように抱き締めた。  
それからは無言のまま、花美様の呼吸だけを聞いていた。  
花美様は何も言わず、身を固くする事もなく、そのままの姿勢で俺に抱き締められていた。  
しばらく時間がたった後、花美様はようやく布団から顔を出した。  
「如月。」  
「はい、花美様…お許しください…」  
俺の顔が情けなかったのかどうだったかはわからないが、花美様は俺の身体に手を回して一度ぎゅっと抱き締めて来た。  
「他の人はいやだったの…。最初はあなたに似ていると思っても、すぐにあなたとは全然違うってわかってしまう…」  
「花美様…」  
「さまはとって欲しいわ…あの、ここでは…花美と…呼んでくれない…かしら…。」  
そういいながら俺の胸に顔を埋めてくる。  
「いいんですか…?私は執事なんですよ…」  
「いいわ…大丈夫よ…。それにあなた、今日はもう休日でしょう。執事じゃないわ…」  
「それは…」  
「いいの。このままでいて頂戴…」  
あまい溜息が首筋にかかる。俺は、俺の身体がすっかり男になっている事を止められなかった。  
「花美様…」  
「花美と呼んで…」  
 
「……花美…私も…男なんです。」  
「よかったわ…執事じゃなくて…」  
そういうと、花美様は再度俺の身体にぎゅっと抱きつく。  
「あの人の時は、恐くて仕方がなかった…なのに、今は嬉しいわ……」  
脚を絡ませながら、きっと俺の固くなったそこを感じているのだろう。  
こうも密着すると、もう隠しようがない。  
「あなただからなのね…きっと。如月、私を…もっと強く抱いて…」  
理性を吹っ飛ばすそんなセリフを耳元で囁かれて、修行の足りない俺はあっというまに溺れそうになる。  
花美様は俺のシャツのボタンを外し、ズボンにまで手をのばして行く。  
「如月…私ってはしたないわね…」  
俺は花美様にさせてしまった事に漸く気づき、その唇に自分の唇を重ねた。  
柔らかくて小さな唇。  
唇を離すと、俺は自分の来ているもの全てを脱いだ。  
ここで拒否されても、それはそれでいいと思った。  
ほの暗い部屋で、目の前に晒される男の身体を、わずか怯えるように見上げる姿に、罪悪感を感じずにはいられない。  
ところが、手をのばしたのは彼女の方からだった。  
「私を同じにして…」  
互いの身体に向き合い、俺の手は薄い夜着を慎重に剥いでいく。  
ところどころで、彼女の身体がぴくん、と反応する。  
やがて最後の小さな布に手をかけると、溜息に似たような声が漏れた。  
そのまま身体を横たえ、恥ずかしそうに身を捩る身体に布団を掛けた。  
ふたりの体温が、一気に上昇したような気分になっていく。  
「変な感じがするわ…如月……」  
うわ言のように俺の名を呼ぶ。  
やわやわと胸を両手で包み、産毛を撫でるようにすると、彼女が小さく喘いだ。  
 
「恥ずかしいわ…とても…」  
小さな茂みに自分のそれが触れると、顔を背けて目を瞑る。  
もしかして、と中指を茂みに進入させると、びくん、と腰が大きく動いた。  
「ひゃあっ……」  
指にまとわり付く粘液と声に、俺は耐えられなくなる。  
もう、限界だった。  
先程から胸が大きくふくらんでいるのがわかる。吐息も、そしてここも濡れて…  
間違いなく彼女は…  
「いいですか」  
「如月……来て。」  
俺は自分のものをその茂みの奥へスライドさせた。  
ぴと、とそこが先端を包み込む。  
柔らかくて、熱い。  
「ああっ…!」  
すぐに壁に突き当たる。花美様は…確か以前に御曹子に処女を奪われたはず。  
なのに…この感触は…  
 
「きて、如月…わたし、ここからは初めてだけど、大丈夫だから…」  
マリアナはそこまで知らなかったのだろうか。  
俺はすっかりその御曹子にヤられてしまったと思っていたのに…  
「みんな…私が生娘ではないと思っているから…いいの…如月にあげられるの、うれしいわ……」  
そう言って俺の腰を自分側へ引き寄せた。  
俺のものが、ずぶずぶと杭を打ち込むように入っていく。  
行く手をわずかに阻んだものも、固く押し込まれる進入物に抗えない。  
さすがに中はきつくて、彼女も痛そうにしたままだ。  
胸への愛撫はそのまま続けているので、時折痛みの声に嬌声が混じる。  
その度に締め付けが更にきつくなり、俺はその心地よさに呻いてしまう。  
「如月……動いて、いいわ…よ…」  
痛そうなのに、健気にそんな事を言ってくる。  
「まだ…そんなことは…」  
俺は繋がる部分のすこし上へ指を滑らせた。  
小さな丸い膨らみに指をのせると、そのまま軽く押しながらゆっくり円を描いた。  
「ひゃああ……ッん!!」  
今までになく大きな声で彼女が仰け反る。  
声に構わず2、3度指を動かすと、ぬるりと新しい蜜が感じられた。  
熱く溢れる蜜のおかげで、俺は漸くすこし腰を動かす気になった。  
「痛かったら、言ってください…いつでも、やめますから。」  
「如月…やめないで、絶対にやめないで…」  
そうは言っても、ゆっくりとスライドしただけで、苦痛に顔が歪む。  
胸の快感と、少し上をかき回される快感に、進入するものからの苦痛…  
 
「花美…もうすぐだから…」  
正反対のような感覚に、彼女の額に、胸の谷間に汗が浮かぶ。  
その谷間の汗を舐めながら、俺は乳房を両頬に押しあてた。  
愛撫で大きくなった胸は、柔らかくて、痛い。  
俺はもう、それが近い事を我慢しなくてもいいと思った。  
痛いから止まらないんであろう、溢れる蜜を掻き取るように、腰を大きくグラインドさせ、そこから自身を引き抜いた。  
そして、指で彼女の柔肉を押し開き、一番感じていたその小さな突起目がけて、白いものを放った。  
自分でも驚くくらい、ドクドクとその突起を歪ませながら、そこを汚していく。  
「ひゃぁぁッ……き…さらぎ……っ!いやぁぁっ……あんッ!!」  
茂みをかき分けられ、熱いものがビュルビュルと浴びせられる感触に、彼女は悶えた。  
ふたりの息遣いが、ほの暗い部屋に響く。  
 
「花美…さま…」  
「如月…ありがとう…好きよ。」  
「乱暴にしてすみません…」  
「はやく、馴れたいわ…如月の身体に。」  
俺は自分のそこを脱いだ服で拭き、横たわる彼女を後ろから抱き締めた。  
「花美様…俺は、幸せものです」  
ずっしりと重い胸をすくいながら、首筋に小さなキスを落とす。  
「大好きです、花美様…再会してからずっと、いけないと思って過ごして来ました…」  
「如月…」  
「もう少し、気持ちよくして差し上げますね」  
俺は、さっき自分で汚した所へ潜り込んだ。  
 
「きっ…如月…っ!!」  
たまらず声が上がる。  
シャツでそこを拭ってから、舌先で吸い上げた。  
「ああっっ…!!や…ぃや…ッ!ああんっ!!」  
すぐに下からとろとろの蜜があふれてくる。  
指でそれを絡め取り、突起に塗り付けていく。  
「や…っ!やめて如月…っ!ああっ!…ッ!!」  
再度舌で突起を包むように刺激すると、激しく腰がバウンドし、彼女が嬌声をあげた。  
がくん、と一瞬力を失ったところを、蜜を舌で舐め取っていく。  
「お、おかしくなっちゃう…きさらぎっ……!!」  
とくとくと流れ出る蜜がなかなか止まらない。  
「ああんっっ……!」  
そこを音を立ててじゅる、と吸い込むと、彼女は痙攣したように身体を震わせて、だらりと力を失った。  
「きさらぎの、えっち……」  
寝言のように一言言うと、そのまま彼女は寝息を立てはじめた。  
俺もその姿に安心して、ようやく深い眠りに落ちていった。  
この後のことなど何も考えずに…  
 

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