○11  
「くぅ……すぅ……んん……すう……」  
 びいいいいっ、と作倉歩美はガムテープを長く伸ばした。  
 彼女の目の前には、谷川千晶が寝息を立てている。熊のクッションにもたれ掛かり、まるで無防備な下着姿のまま眠る千晶は、いま歩美の子ども部屋にいた。歩美が千晶を起こさないようにしながら、苦心の末になんとか二階まで運び上げたのだ。  
 そして子ども部屋は今、ドアだけでなくその雨戸とカーテンを閉ざされて、外界から厳重に隔離されている。その防音性がかなりのものになることを、歩美は今までの生活で知り尽くしていた。  
「……ごめんね、千晶くん……」  
 今は意識を夢の世界に置く少女に呼びかけながら、歩美はその両手首、両足首に何重もガムテープを巻きつけていく。両手は手首の位置で左右を合わせて拘束しつつ、万歳させるように頭上へ伸ばしたうえ、さらにベッドの支柱へと、側柱に引っかけながら縛り付ける。  
 両足は大きく左右に開かせ、それぞれをテーブルの脚と床とにガムテープで固定した。  
 剥がすときに千晶の肌を痛めないよう、それらのガムテープと肌との間にはまず紙を巻き付け、テープが直接肌に触れないようにしておく。  
「これなら、痛くない、……よね?」  
 未だ安らかな寝息を立てる少女の頬へと頬を寄せあいながら、歩美は自らの手で拘束したその五体を見渡した。  
「ごめんね、千晶くん。でも、ガムテープで痛くなったり、気持ち悪くなったりする前に、ぜんぶ終わらせてあげるから。……千晶くんが、わたしのことを好きになってくれたら、みんな、解いてあげるから……」  
 ゆっくりと静かに、しかし少しずつ呼吸を荒くしはじめながら、歩美の手指が千晶の肌を這う。  
 並外れた瞬発力を生み出す太腿から、腹筋の存在を感じさせながらも白くすべやかな白い胴を経て、歩美の指先は千晶のしなやかな身体で豊かに発育した乳房を包む、白く濡れたブラジャーに行き着いた。  
「女の子の身体のことは、同じ女の子がいちばんよく知ってるの。どうすれば気持ちよくなれるのか、どうすれば気持ちよくしてあげられるか……。わたしはそれを勉強してきたし、練習してきたもん。  
 バカでスケベな男子なんかじゃ、ただ自分勝手に乱暴にするだけ。だけど、わたしなら……わたしなら、千晶くんを……」  
 相変わらず眠りの世界にある千晶の姿は、今やさながら囚われの美少女といった趣で、それが歩美を余計に興奮させた。  
「じゃ、じゃあ……千晶くん、……いくね……」  
 荒い息遣いのまま小声で語りかけながら、ついに歩美の十指がすべて、千晶の乳房を包んで守るGのフルカップの上端にかかった。  
 汗でしっとりと肌に張り付いていた布地が、ささやかな抵抗だけを残してこじ開けられる。巨乳の質量を受けてつんと張りつめた布地と肌に隙間が開けられ、歩美の両手指がゆっくりと侵入していく。  
 心臓の跳ねる音が、やけに大きく聞こえる。やっと冷房の効きはじめた部屋で、掌からいっぱいに千晶の体温を感じる。  
「ああ……」  
 歩美はそのまま、外側の両小指を器用に使って肩紐をずらしていく。  
 ゆで卵から大きく殻を剥くように、千晶の乳房から白いブラジャーを剥き取ろうとした瞬間、極限まで敏感になっていた歩美の五感の一つが、聴覚がなにかを捉えた。  
「――!?」  
 びくりっ、と背筋を跳ねさせて、数秒をかけながら、歩美はゆっくりと背後を振り向く。  
 だが、少年マンガの美少年キャラクターのポスターが貼られたドアには、何の動きもない。気配もなかった。  
 だが次の瞬間には歩美はその音の正体と、そして再びそれが鳴らされたことに気づいていた。  
「――よ、……呼び鈴……!?」  
 慌てふためいて千晶のブラジャーから手指を引き抜き、歩美はひどく狼狽えながら立ち上がる。  
 この状態で不確定要素は抱えられない。訪問者が何であれ、とにかく、行って確かめなければならない。  
 引ったくるように部屋着の下を取ると、よろめきながら足を通した。しかし上着は探しても見つからず、タンスから適当に小さな白いシャツを引き出して頭から被る。  
「んっ……!」  
 古いものだったのか小さめで、特に胸周りをきつく締め付けてくるそれを、ともかく一気に引き下ろして着た。できるだけ静かに部屋を出ようとして、歩美は部屋の隅に積んであったマンガ本の山に爪先をぶつけて崩してしまった。  
「あぅっ……!」  
 直接の痛みとその失態に、泣きそうな顔になりながら振り向いて、千晶の寝顔に異変がないことをそっと確認する。そして歩美は今までとは違う理由で早鐘を打ちはじめた心臓に急かされながら、今度こそ慎重に階段を下りて玄関へ向かった。  
 
「……せーん。すいませーん……誰か、誰かいませんかー……」  
 一階に降りたとき、そこで聞こえてきたのは子どもの呼び声だった。急な家族の帰宅やその他の大人の訪問ではなかったことに安堵しながらも、ともかく歩美は息を殺して覗き穴から相手を見る。  
「えっ……」  
 そして、絶句した。  
「すいませーん……。谷川千晶が、こちらに遊びに来てませんかー?」  
 玄関の向こうで呼び鈴を押していた少年はあの、歩美の憎き恋敵――八坂明だったのだから。  
 
○12  
「すいませーん。誰か、誰かいませんかー?」  
 何度も繰り返し呼び鈴を鳴らし、時には戸を叩きもしながら、八坂明は諦めることなく作倉家への呼びかけを続けていた。  
 コンビニ開店セールからの帰路で突然姿を消したきり、いっこうに戻らない千晶を追って潜入した東小校区。  
 そこでは昨日一戦交えたばかりの東小児童多数が殺気だった様子で走り回り、さながら戒厳令の様相を呈していた。  
 息を潜めながらその動向を窺い、そこで見つけたのがあの異様な公園の集会だ。  
 遠方からでは十分に立ち聞きすることもできなかったが、千晶が追われていること、まだこの辺りにいるらしいことぐらいは、彼らの行動と切れ切れに聞こえる声から確認できた。  
 それで明は潜みながら機会を窺い、うかつにも単独行動を取った東小の一人を、与し易しと踏んで捕らえたのだ。  
 そして物陰に彼を引きずり込み、ちょっとした拷問技術を駆使した尋問の末(そのへんの側溝で見つけた、ぶっさいくなカエルの威力は絶大だった)に、明はその情報を獲得したのだった。  
 谷川千晶は作倉歩美と一緒にいる、と。  
「作倉歩美、か……。確かに東小に根暗な感じの、すげー胸でかい女子がいる、ってのは聞いてたけど……」  
 情報源にしたその少年は踏ん縛って物陰へ転がしたまま、東小の厳重な千晶捜索網を何とかかいくぐり、明はようやくその少女の自宅へたどり着いたのだ。  
 今の作倉家には人の気配もなく、車も車庫から出たままのようで、少なくとも大人の家族はいないようだった。  
「ったく、千晶のやつ……東小に、いつの間にこんな友達作ってたんだ?」  
 いつ周囲に現れるか知れない東小勢の気配を油断無く警戒しながら、明は首を捻って考え込む。  
 いや、しかし……千晶の前からの友達、という線はないはずだ。  
 もし前から千晶がその作倉歩美という女子と友達だったなら、大きく膨らんでしまったその胸の話などは一番の幼馴染みであっても異性である自分にではなく、同性である彼女としていればよかったはずだ。それなら最初から一人で思い悩む必要などもなかったはずである。  
 だとすればいったい、どこが二人の接点なんだ?  
「すいませーん。すいませーん、こちらに谷川千晶がお邪魔してませんかー……」  
 いつ周りに現れるか分からない東小の追っ手を警戒しながら、いっこうに答えのない作倉家の静けさに、明は情報の真偽を疑いはじめた。  
 しかし二人は親しげに話しながら、視界の外へ消えていったという。千晶がちょっと道を尋ねて、というような感じではなかったらしい。  
 それに片や東小の仇敵たる谷川千晶、片や東小のちょっとした有名人である作倉歩美という二人の組み合わせでは、あの健吾とかいう東小の男子がちょっと見間違ってしまった、というような可能性は相当に低い。  
 つまり、……どういうことなんだ?  
「は、はーい。……いま、開けまーす……」  
「へっ?」  
 ぐるぐる渦を巻き続ける思考の中で、引き際を見定めはじめようとしたそのとき、唐突な返事とともに玄関の引き戸が開いた。  
「……どなたですか?」  
「えっ――」  
 明は思わず、目を丸くしながら息を呑む。  
 怪訝そうな声と探るような目で明を出迎えたのは、長い黒髪を乱雑に伸ばした、自分と同い年ぐらいの少女だった。その前髪は長く伸びながら乱雑に額へ散って、その表情の多くを隠してしまっている。  
 だがそんなことよりも明の目を釘付けにしてしまったのは、何よりもまずその白いTシャツの布地を突き上げるように張りつめさせている、巨大な胸の膨らみだった。  
 
 明らかにサイズの合っていない小さなTシャツの布地は、ほとんど限界近くにまで伸びきっており、その内側にブラジャーの輪郭と模様を透かしている。  
 さらに窮屈なTシャツの中できつく押しつぶされてしまっている乳房は、その露わな胸元に深々と乳肉の盛り上がる、深い陰影の谷を刻んでしまっていた。  
 そして何より、そもそもの表面積が足りないものを無理に着ようとしたせいで、Tシャツの下端はとても腰まで届いていない。裾が浮いてしまっている。  
 そのために顔を出した白くて柔らかそうなお腹とへそ、胸とは裏腹に細い腰回りが、その爆乳が備えるインパクトを数倍にも高めるほどの、鮮烈なコントラストを生成してしまっていたのだった。  
「…………!!」  
 明はそのあまりの視覚的インパクトに、思わず全ての言葉を失い、一瞬の間、ただ口ごもって立ちすくむだけのデクと化した。  
 その一瞬に機先を制して、歩美が叩きつけるように冷たく言葉を吐いた。  
「すいません、どなたですか? 西小の人? 何の用ですか……わたし、あなたなんか知らないんですけど」  
「え……いや、そのっ」  
 思わず歩美のそのはちきれそうな胸と、まったく無防備で白く柔らかそうな腹へ貼り付けてしまっていた視線を無理に引き剥がし、慌てふためきながらも、弁明するように明は言った。  
「お、俺は西小六年の八坂明。千晶……えっと、谷川千晶っていう俺の友達が、さっき東小の校区に『すぐ戻る』って言って入ったっきり戻らなくて、行方が分からなくなってるんだ。そしたらなんか、東小の奴らが大勢で千晶を捜し回ってるらしくて。  
 俺たち、東小の奴らとはしょっちゅう戦争してるだろ? それで一人じゃ危ないからって、千晶のことを探しに来たんだけど、そしたら、お前と――いや、ええと、作倉歩美さんと千晶が一緒に歩いてるのを見た、って言う奴がいて……」  
「知りません」  
 ぴしゃり、と歩美は明の鼻先に言葉を叩きつける。  
 だがその内心、タイトなTシャツにきつく締め付けられた胸の奥では、激しく心臓が跳ね回っていた。  
 あのとき――男子たちの追撃をまいて家へ戻る途中、誰か、自分たち二人が一緒にいるところを見た子がいたのだ。  
 目撃者は誰だ。千晶くんを敵視している東小男子たち、あの悪童どもの誰かか?  
 いや……だとしたら、連中の気配が近くにないのはおかしい。連中がこの話を――千晶くんの居所を知ったのなら、さすがに家へ乗り込んでまでは来れないにしろ、ただちに遠巻きな包囲ぐらいはしているはずだ。だが、そのような気配もない。  
 のこのこ出てきた八坂明を捕まえて、様子見のための観測気球に仕立て上げてきたというようにも見えない。彼の態度は自然すぎる。  
 そうであるならば、そもそも連中も敵視している八坂明の元に情報が流れ、そして真っ先に動いたのがその八坂明であること自体、まだ東小の男子たちがこの件を知らないということの傍証になってはいる。  
 だが二人を目撃したというのも、あの状況から考えれば、きっと東小の生徒だろう。その目撃者は何者なのか。このままそいつから、あの悪童たちにその情報が流れてしまう可能性はないのか?  
 なにか、なにか手はないか。こいつをさりげない言い訳で追い返すとともに、その情報だけを引き出せるような。  
 あと少し、あと少しなのに。あとほんの少しだけで、この胸に抱いた想いを遂げることが出来るというのに、どうしてこうも邪魔ばかりが入るのか。  
 歩美の表情を隠す暗幕のように隠して垂れ下がる前髪の後ろで、煮えたぎるように心が揺れる。  
 だが歩美が必死の思索と激情に揺れ動いている間、明のほうも、ただ彼女が意図せず露出させてしまったその肉体の魅力に圧倒されているだけではなかった。  
 彼女の肩越しに、作倉家の屋内へと目を走らせる。裸で並んだ履き物のなかに見慣れたものはなかったが、代わりに靴箱の棚の一つが少しだけ空いて、そこからバスケットシューズらしき靴の一部分がわずかに覗いていた。  
 ――千晶の靴だ。  
 客観的な断定は出来ない。だが直感した。その軽快さと運動性を千晶が大いに喜び、買ったばかりの頃はしきりに自慢していたその靴のことを、明は忘れていなかった。  
 だから確信して、決断した。  
「ねえ、作倉さん。あれ、何……?」  
「え?」  
 明が作倉家の奧へ視線を向け、彼女がそちらを向いた瞬間。  
 明は猛然とその右足を引き戸の隙間へ割り込ませてこじ開け、同時に肩からの体当たりで歩美の身体を突き飛ばしていた。  
 
「きゃあっ!?」  
 万全を期すため、わずかに身を沈めた低い姿勢から仕掛けたその体当たりは、肩から歩美の乳房を押しつぶしながらその胸板へと突き刺さり、少女の小さな身体にたたらを踏ませて壁へ叩きつけた。  
「あうっ……!」  
「ごめん!」  
 女子にいきなり実力を行使してしまったことに小さな罪悪感を覚えながらも、明はそのこじ開けた隙間から、一気に作倉家の内部へ侵入した。  
 突き飛ばされてよろめく歩美も転倒にまでは至らないのを見届けつつ、明は下駄箱の戸を手の一閃でさっと素早く払いのける。  
 吹っ飛ぶように開いた引き戸の奧から千晶の見慣れたバスケットシューズが全容を現したときには、明はもう自らの靴を素早く脱ぎ捨てて、作倉家へ上がり込んでいた。  
「あっ、あんた! なに考えてんの!? やめてよっ、勝手に人ん家入らないでよ!!」  
「千晶! 千晶ーっ!!」  
 もう間違いなかった。理由も状況も分からないが、とにかく千晶はこの家にいる。  
 ようやく体勢を立て直した歩美が玄関から追ってくる頃には、明は千晶の名を喚き散らしながら一階をぐるりと駆け巡り、階段の前にたどり着いていた。  
 そしてその階段前には息を上げ、顔面を真っ赤に染め上げた、作倉歩美が立ちふさがっている。その上気しきった頬と乱れた黒髪からは、まさに鬼気迫る勢いの双眸が明を射貫くように見据えていた。  
「帰って! 出てってよ、あんた今すぐうちから出てってよっ!!」  
「やっぱりお前だったのか。お前、千晶をどうした!?」  
「うるさいっ!!」  
 歩美はかっと目尻に涙を見せながら、その質問にも答えることなく身体ごと、自分より大柄な明めがけて襲いかかった。  
 だが明は無言のまま前へ踏み込み、そしてバスケのフェイントの要領で、掴みかかってきた歩美に指一本も触れることなく抜き去る。  
 明へしゃにむに飛びかかろうとしてかわされた歩美がフローリングへ転倒する音と悲鳴が聞こえたが、今度は明もそれを無視して、一気に二階へ駆け上がる。  
 千晶を呼びながら、明は次々に部屋の戸やドアを開けていった。一階よりずっと狭い二階で、明はすぐにその部屋を探り当てた。  
「千晶っ、……!?」  
 叩きつけるようにドアを開けたと同時に、明は声を失って立ち尽くした。  
 カーテンと雨戸の閉められた薄暗い部屋の奧に、白い影が浮かんでいる。  
 ブラジャーとショーツだけを身体に残して白い半裸を晒す、まるで無防備な下着姿の千晶が、両手両足をガムテープで堅固に束縛されたまま、その歩美の子ども部屋らしい一室の奧で拘束されていた。  
「……こっ、……これ、は……なんで……、千晶が、……こんな……」  
 あまりに常識を越えた目の前の光景に、一切の思考能力を奪われながら明はうめく。  
 だが千晶に意識はないらしいものの、その双眸は伏せられたままで、安らかな寝息らしきものも聞こえてくる。  
「くぅ……すぅ……」  
「ち、千晶っ……」  
 ひとまず千晶の無事を喜びながらも、明はあまりに倒錯した眼前の情景に、無意識下でひどく興奮させられてしまっていた。  
 それでも、もやもやと下腹に溜まっていく重い欲望を必死に押さえ込みながら、唾を呑んで、明は親友を助け出すべく歩を進めた。  
「千晶、大丈夫か……? いま……今、助けてやるからな」  
「……ん、……すう……」  
「千晶……」  
 熟睡してしまっているのか、明の呼びかけにも、千晶は小さく目尻をわななかせるだけで、明確な反応を返さない。  
 だが拘束具は手錠などの手の込んだものではなく、あくまで単なるガムテープらしい。ならば歩美の机からハサミかカッターを拝借しようと、明は歩美の勉強机を物色した。  
 しかし、ハサミなどの役立ちそうな刃物はなかなか見つからない。舌打ちして机の上の雑多なものを払いのけながら、それでも何かの足しにはなるかと何かの鍵をポケットへ入れた。  
 早鐘を打つ心臓を抱えながら勉強机を漁っていたとき、ふっと明の背筋へ、不意に氷柱が撫ぜたような寒気が走った。  
 
「え」  
 そのとき何が起こったのか、明はすぐに理解することが出来なかった。  
 体の中で爆発でも起きたかのように、すべての筋肉が意志に反して跳ね上がる。  
 明は自分自身の筋力で吹っ飛んで、みぞおちを派手に机の角へ叩きつけると、そのまま床へ崩れ落ちた。  
 身体のあちこちを強打したはずだが、そんな痛みよりも何よりも、言葉にならない衝撃が全身を貫き、麻痺させてしまっている。  
「――う、……あ、っ……!?」  
 立ち上がることさえ出来ない鈍痛の中で明は、何か黒い小さな箱を必死に両手で握りしめながら突き出している作倉歩美の姿を、見た。  
「はぁ、はぁ、はぁ、はああぁ……っ。あ、あんたなんか。あんたなんかに……あんたなんか、あんたなんか、あんたなんかに……」  
 いよいよ乱れきった長い前髪の下から呟く歩美の瞳は、もはや尋常ではない気配を宿してはいたが、そこからの歩美の行動は迅速だった。  
 その黒い小箱――兄の部屋の隠し場所から持ち出してきたスタンガンを脇に置くと、歩美は再びガムテープを取り出し、今度はそれを明の手首へ直に巻き付けてきた。  
 ろくに抵抗の力も出せず、ただ全身を無闇に揺すって抵抗を試みる明を、歩美はその上へどっかと直接腰を下ろして、その太股と体重をフルに使って押さえ込んでくる。  
「あ、う、あ……ち、畜生……お前、お前やめろよ……畜生、やめろよ、やめろよ、このぉっ……」  
 そのまま力の入らない両手両足を厳重に拘束されてしまうと、今度は後ろから歩美に抱きかかえられながら、明はずるずると床を引きずられていく。  
 冷房の効いた部屋の中で、背中に感じる歩美の体温と、きつく潰れたままの張りつめた巨大な肉塊の感触が、何もかも思い通りにならない体の中で、唯一股間に血液を集中させ、意志と無関係に膨張させた。  
「うう……ん……っ……」  
 だがそのとき、千晶が今までとは異なるうめきとともに、薄目を開いたことに歩美は気づき、部屋から明を放り出す途中で凍りついた。  
 それは、その千晶自身も同じだった。しかし作倉家のリビングで一気に意識を失い、目覚めた瞬間に親友の異様な姿を目にさせられた千晶の驚愕は、歩美のそれよりも遙かに大きかった。  
「えっ……? あ、明……? 明――明っ! どっ、どうしたのっ、あうッ!?」  
 混乱する記憶の中から意識を取り戻すと、千晶はまず目の前で拘束されている明の姿を認識して、歩美の不審な動きに気づくより先に動こうとした。  
 しかしその途中で両の手首足首を厳重に拘束するガムテープに阻まれて、まったく身動き出来ずに、千晶はその場でもんどり打った。  
「えっ……!? 明……やっ、やだ。やだ、何これっ……明、明っ! え、――さ、作倉……さん……?」  
 覚醒直後の混濁から覚めて、千晶はようやく歩美の姿を認識する。  
 見知らぬ一室で拘束された四肢、歩美と明、繋がらない二人の間を結びつけようと苦慮する千晶の思考をよそに、もう完全に開き直った歩美が明の身体を後ろ手に壁へガムテープで縛り付けて、千晶へ向き直った。  
「――おはよう、千晶くん。よく眠れた?」  
「眠れた、って……作倉さんっ、これ何? なんなの? これは、ボクは、どうして――どうして、明がっ!?」  
「落ち着いて、千晶くん」  
「ち……、千晶……っ」  
 厳重に拘束されたうえ、今もなおまったく力の入らない身体の明が悲痛にうめく。その明の前を遮るように進み出ながら、歩美が千晶の前で膝を突いた。耳元でそっと呟く。  
「千晶くんが……千晶くんが、いけないの」  
「えっ……?」  
 歩美からの突然の言葉を理解できず、千晶は戸惑う。だが歩美はそれに構うことなくその両手を、白いGカップに包まれながら、胸板からツンと上向きに突き上げられた乳房へ寄せた。  
「作倉さ……作倉さん? な、なにを……あっ、ひゃうっ!」  
「千晶っ!?」  
 千晶の悲鳴と明の叫びの下で、歩美の十指がカップの白い布地を巻き込みながら、みずみずしい張りのある巨乳へと食い込んでいく。  
 しかしそれは決して、ただ欲望に赴くままの力任せな蹂躙などではない。  
 弾力に富んだ乳肉がゴムまりのように指を押し返してくるのを楽しみながら、カップの中の乳房を握りつぶすのではなく、歩美は強弱をつけて巧みに、やわやわと乳肉をほぐしていくかのように揉んでいく。  
 ふたつの乳房を包んで守る布地越しにそれぞれの尖端を探り当てては捉え、蛇のようにくねる人差し指の頭と腹で、何度も繰り返し掠めていった。  
 それはまさしく愛撫と呼ぶにふさわしい、繊細で淫靡な指遣いだった。  
 
「やっ……やああっ、ふううぅ……っ。な、なに、これえ……作倉さん、何するの、やめて……お願いだから、こんなの、もう、やめてぇ……っ!」  
 あっという間に頬を薔薇色に上気させられ、しかし抵抗も逃れることも出来ずに、千晶はただ束縛の中で虚しく身体を揺すった。しかしその動きさえもまた胸に跳ね返り、咎めるように歩美の爪が揺れ動こうとする乳房の頂で、布越しに軽く乳首を掻いた。  
「ああぁッ!!」  
 その瞬間、ガムテープに拘束された四肢が暴れる。悲痛な、しかし甘さのかかった声で千晶は喘ぎ、ボーイッシュなショートカットの髪を跳ね上げて、いやいやをするように首を振った。  
「ちっ、千晶……千晶っ……。くっ、くそっ、やめろよ。お前、お前なに考えてるんだよ! ふざけんじゃねえ、今すぐ千晶を離せっ!」  
「気持ちいい?」  
 未だ治まりきらない電撃の麻痺の中、それでも明は弱々しい声を張り上げ、必死に非難の声を上げる。しかし歩美はそれを無視して、乳房の肉を捏ね回す手はまるで止めずに、千晶の耳元で囁いた。  
「ん……もうこんなにいっぱい張ってきちゃってるね。千晶くんの胸って、やっぱりすごく感じやすいんだ。……ブラジャー、きつくなってきちゃったでしょ?」  
「え……? な、なに――」  
 言いながら、歩美はその右手を左乳房から離す。途絶えた愛撫に息をつこうとした千晶の目の前で、その歩美の人差し指と中指がカップの間で、フロントホックをそっと挟んだ。  
「楽にしてあげるね」  
「や、やめっ――」  
 目を見開いた千晶のとっさの懇願を無視して、歩美の二指がくるん、と回った。  
 負荷の方向を変更されたフロントホックの金具は、ただそれだけで左右相互の束縛から解放された。そして支えを失った二つのGカップは、内側から押し出してくる圧力にあっさりと負けてしまう。  
「ああッ!!」  
 いっそ小気味良いほどの勢いをつけて吹き飛ぶブラジャーの下から、千晶の双乳が弾けるように飛び出した。  
 拘束からの自由を味わおうとするかのように、まろび出た二つの乳房はぷるぷると数秒やわらかそうに振動したあと、形良い上向きのままで、その左右に中央の守りをあっさりと突破されたカップをむなしく従えて静止する。  
 しなやかに鍛えられた千晶の胸板からは、二つの巨乳もその重量を健やかな土台でしっかりと支えられていた。四肢を拘束されながら、それでも必死に逃れようと身をよじる千晶の胸を反らせた姿勢が、その大きさに負けない美しさを余計に強調させてしまっている。  
「あ、……ああ……す、すごい。すっごく、きれい……おいしそう……。これが、千晶くんの……」  
 ブラジャーという邪魔者を左右に排除して、今や完全に無防備な状態で目の前に剥き出された千晶の巨乳を、歩美はすぐには触れようとせず、間近から熱を帯びた視線でじっくりと舐め回すように観察した。  
 熱い陽の光にさらされてきた健康的な四肢と異なり、今まで布地の下へ厳重に包み隠され、守り抜かれてきた千晶の乳房は、雪のように白い。その芳醇な白さの頂に息づく桜色の乳首は、まるで柔らかな大福餅に彩りを添える一粒の苺のようだった。  
 その歩美の息遣いが、揉みほぐされていっぱいに充血し、ひどく敏感になってしまっている乳房へ直にかかって、千晶は悲痛に身をよじった。  
「やっ、やああぁっ……やめてよ、やめてよ作倉さん……どうして……どうして、ボクにこんなことするの……!?」  
「ち、千晶っ……」  
 親友の窮地にどうすることも出来ないまま、部屋の反対側で怒りと情けなさにうめきながら、しかし明は鮮烈な興奮に欲望をぐちゃぐちゃにかき乱されていた。  
 自分が今の千晶の乳房を生で見るのは、もうこれで三度目だ。昨日の風呂場、そして今朝の体育倉庫。  
 しかし結局それら二回は、あくまで単なる事故のようなものでしかなかった。しかし今回のこれは明確な、千晶の肉体に対する欲望に基づいた行動の結果なのだ。  
 千晶はこの作倉歩美という東小の女子に、今、リョウジョクされようとしているのだ。  
「くそっ、やめろ……やめろよお前! お前、なんでこんなことするんだよっ!」  
「どうして……って?」  
 たっぷりと実りながら前へ、上へと突き出された千晶の巨乳をその目で存分に堪能しながら、歩美は横目で明に答えた。  
 
「それは千晶くんのことを、わたしがいちばん気持ちよく、幸せにしてあげられるってことを教えてあげるため。わたしは知ってるの。どうすれば女の子の身体が、この胸が気持ちよくなるのか。  
 ――ねえ、千晶くん。もう、すごく気持ちよくなってきちゃってるでしょう?」  
「……そ、……そんなこと、……ない……もん……」  
「嘘ばっかり」  
「――ひゃんっ!!」  
 気高い宝石のような千晶の乳首へそっと息を吹きかけて、歩美は笑った。  
「そして、八坂明。わたしがこの場から、あなたを排除しなかった理由は二つ。ひとつはこうやって、千晶くんを本当に幸せにしてあげられるのが、自分じゃなくてわたしだって、あなたに教えてあげるため」  
「なん……だとぉ……」  
「そして、もうひとつは――」  
 言いながら、歩美は腰を上げた。  
 千晶を置き去りにして、まっすぐ明の方へ歩いてくる。  
「な……なんだよっ! やんのか、てめぇ、俺とやろうってのか!?」  
「あ、明っ!」  
 やる、ったって何をだ――一瞬おかしな方向へ飛びそうになった思考を振り払って、明は近づいてくる歩美をきっと睨み据える。  
 しかしそんな明の自制をよそに、歩美はその目の前で腰を折ると、いきなり明のズボンに手を掛けた。  
「なっ!?」  
 目を白黒させる明に構わず、歩美は明のベルトとズボンのホックを外し、さらにズボンとトランクスの内側に指を掛ける。  
「やっ、やめろ! おいお前バカなに考えてるんだ、やめろ、やめろって!」  
 そして歩美はズボンを下着ごと、一気に足首近くにまで引きずり下ろした。  
「わーーーっ!!」  
「――えっ……」  
 そして、歩美と千晶の乳房には及ばずとも、やはり小学生離れした威容を誇る明の男根が、歩美の目の前へ躍るようにして飛び出した。  
「うわあ……っ」  
 まさに剛直と呼ぶにふさわしいそれの出現に一瞬、歩美は色を失って息を呑む。そのグロテスクさを直視し続けることができず、しかし完全に目を離してしまうこともできずに、顔は背けながらも横目で何度もちらちらと盗み見た。  
 しかしすぐに気を取り直して、歩美は千晶の方へ向き直りながら言い放った。  
「どう、千晶くん? 男子ってみんなバカでスケベで、こういうふうなの。こいつもそうだった。大事な相棒の千晶くんがわたしに捕まって、無理矢理こんなことされてるのに、そんなのぜんぜんお構いなしなの。  
 千晶くんのみたいなきれいでおいしそうな胸を見ちゃうと、どんな男子でもこうやって、ちんちんが大きくなっちゃうの。  
 ……こんな大きくて太くて堅いので、無理矢理わたしたちの、あそこの中に入って、……セックス……しようとしてるの!」  
「……あ、……明……?」  
「…………」  
 千晶と自分自身の窮地。そんな時にも関わらず、完全に勃起しきってしまった陽物を千晶の目の前に見せつけられて、今度は明が色を失う番だった。  
 そして千晶にとって、これほど屹立した状態の明の男根を見るのは初めてのことだった。  
 千晶は驚きと戸惑いに激しく揺れる瞳で明とその分身を交互に凝視し、それから、どこか悲しげなしぐさで目を伏せた。  
「不潔だよね、男子って。女の子を優しく、気持ちよくさせてあげることなんかまったく考えずに、ただ自分さえよければいいだけなんだもん。結局、この子もそうだったってこと」  
「ち、千晶……」  
 違うんだ、ホントに違うんだよ、これは――そんな明の思いは言葉にならず、異様な雰囲気の中でその男根はますます堅く反り返っては天井を指してしまう。歩美はそんな明から汚いものでも見るような目で視線を切って、ふたたび千晶の元へ向かった。  
「だから、……ね? 千晶くん……」  
 言いながら、歩美はTシャツを脱ぎはじめた。はちきれそうな爆乳を締めつけるそれを脱ぎ去るのに四苦八苦しながら、それでもやがてきっかけを掴んで、一気にシャツを脱ぎ捨てる。  
 二重のブラジャーに包まれた爆乳が束縛を逃れて、カップもろとも弾んで揺れた。  
 その左乳房を覆うベージュのカップの内側へ、歩美は右手を滑り込ませて下側から乳肉を掴む。同時に左手でカップの上端を掴んで下ろす。  
「うふふ……。千晶くん、わたしのおっぱいも、もう、こんなになっちゃった……」  
 二枚重ねのカップを同時にずり下げると、その内側から左の乳房がたぷんと飛び出してきた。  
 
 その真っ白で巨大な乳肉の尖端は、五百円玉よりなお一回りも大きく、熟れた苺のように真っ赤な乳輪の中心で、半ばまで埋もれている。  
 いわゆる陥没乳首であった歩美のそれも、興奮とともに少しずつ顔を覗かせようとしているのだった。  
 凛として形の整った千晶の巨乳より、なお一回り以上も大きい歩美の爆乳は、実にIカップにまで達していた。それがさらに膨張している。  
 自ら露出させたその左乳房は十一歳の、溢れるほどの若くみずみずしい精気に満ちてはいたが、さすがにその巨大すぎる自重は支えきることが出来ずに幾分やわらかく崩れて、今は下へ除けられたカップの下半球へもたれるように形を保っている。  
 その両乳房にそっと両手を添えて、歩美は千晶の真正面で腰を落とす。張りの強い上向きの千晶の乳房に向けて、両手の支えで導きながら、歩美は自らの爆乳を寄せていった。  
「じゃあ、いくよ。千晶くん……」  
「えっ……!? ん、あっ!」  
「くっ、んっ……」  
 接触の瞬間、千晶の背が再びびくん、と跳ねて、それがかえって彼女の巨乳と歩美の爆乳を互いに深くめりこませあう。  
 ブラジャー二枚重ねのままの歩美の右乳房はカップの輪郭で千晶の左乳房へ刺さり、逆にお互い剥き出しになっている反対側は、張りのある千晶の右乳房が柔らかな歩美の左乳房へと食い込んだ。  
 近づいていく二人の少女の間で、みるみる圧し潰されていく四つの乳房。その鮮やかな変形の中で、形を保ちきれずに溢れていく乳肉に隠されてしまってはいたが、互いの乳首も真正面から触れ合っていた。  
 乳房の中でもっとも繊細で敏感な部分が、たがいに押し合い、擦れあう。摩擦していく。  
「なっ、何、これぇ……へん……こんなの、変、だよう……やめて、やめて作倉さん……ボク……このままじゃボク、おかしくなっちゃうようっ……!」  
「ああ、千晶くん……千晶くん、おっぱいもツンとしてていっぱいに張ってて、きれいで、凜々しくて……すごく、すごく、素敵っ……」  
 必死に身をよじって逃れようとする千晶と、自らの爆乳に手を添えて導き、またもう片腕でそれを追いながら抱き寄せようとする歩美のせめぎ合いは、激しく乳房を変形させ、そして乳首を何度も擦り合わさせた。  
 それはあたかも一回り以上大きい歩美の爆乳が、千晶の巨乳を呑み込んでしまおうとしているかのようだった。  
 真正面からその質量と弾力で圧し合い、互いに見事に変形しながら、歩美の爆乳はその柔肉の内部へと千晶の巨乳を包み込み、あるいはその逆側ではカップごと、圧倒的な質量で千晶の乳房を押し潰してしまっていた。  
 厚い乳房の壁を通して、互いの鼓動が二人に伝わる。体温の熱のなかで捏ね回されつづけた二人の乳房はじっとりと汗を帯びて、濡れそぼりながら、その頂を堅く尖らせていった。  
「ん……もう、十分かな……。千晶くん……いくね……」  
「え……っ?」  
 不意に歩美が身体を引いて、その爆乳に圧迫されていた乳房が自由を取り戻す。得体の知れない感覚に弄ばれ、意識を火照らされた千晶は、腰を床につけて姿勢をさらに低くした歩美に気づいた。  
「――いただきます」  
「な、なにを――ひゃうぅっ!?」  
 歩美は言うが早いか顔を寄せるや、千晶のしこり立った右の乳首を唇の中に包んでいた。さらに力強く吸いたてて、千晶の巨乳の半ば近くまでを口いっぱいに頬張ってしまう。  
「ああぁーーーっ!!」  
 乳房を、他人の口に含まれる――初めて経験する異常な事態に、千晶は身を反らせて叫んでいた。  
 すべやかできめ細かな千晶の肌は日焼けを知らず、しっとりとして柔らかく、今はいっぱいに汗を含んでいる。  
 その清純な白さが唾液のぬめりに浸食され、別の生き物のように動く腔内に絡め取られていく。歩美は口の中で乳房全体を圧迫しながら、その汗を容赦なく吸いたてた。  
 ぶちゅるるるるるぅっ、と歩美の口腔と千晶の乳房のわずかな隙間から、異様な音が響きわたった。  
 それはまるで本当に千晶の乳房から溢れんばかりの母乳が噴き出して、歩美がそれをちゅうちゅうと呑み干しているかのようだった。  
 胸にむしゃぶりつく歩美を見下ろしながら、千晶は泣きそうな声で懇願した。  
「ちがう、ちがうもん、やめて、やめてえぇ……ボクの、ボクのおっぱいお母さんのじゃないもん……ふくらんでても子どものだもん、どんなに揉んでも吸っても、お乳なんか、ミルクなんか一滴も出ないんだもん……だから作倉さん、やめてえぇ……」  
 千晶の懇願にも関わらず、歩美はそのまま十数秒にわたって千晶の巨乳を味わい続けた。  
 
 ちゅぽんっ、と音を立て、唇から唾液の糸を引きながら口を離して、歩美は言った。  
「……ん、おいし……。どう? 千晶くん。おっぱい気持ちよかったでしょ? 撫でたり揉んだり擦ったり……おっぱい気持ちよくするにはいろんな方法があるけど、おっぱいはやっぱりこうやって、吸うのがいちばん気持ちいいでしょ」  
 歩美にとって、自分の爆乳を自分で吸うことなど造作もなかった。剥き出しのままの左乳房をおもむろに手に取ると口許にまで持ち上げ、自らその尖端を口に含んで乳肉を吸う。そしてそこから口を離すと、自らの唾液に濡れた乳首を、千晶の顔の前へ突き出した。  
「千晶くん。吸って」  
「……あ、……あ……あああっ……」  
「わたしのおっぱいも、吸って」  
 乳房を直に吸いたてられてしまったことで、全身をデタラメに駆け巡る快感に意識を乱され、返事もままならない千晶の口へ、歩美は身体ごと左乳首を押し込んだ。片手を千晶の後頭部にやって支える。  
「う、うむうっ!」  
 千晶の口腔内を犯すように、歩美の乳房がいっぱいに満たす。千晶は最初のうち、口で息することが出来ずに苦しげにしていたが、やがて諦めたのか、歯を立てるようなこともなく、歩美の乳房を吸いはじめた。  
「んっ……あ、あうう……っ!」  
 千晶の舌が、歩美の白い爆乳を縦横に嬲っていく。乳肉が吸い出されていくような快感の中で、千晶が苦し紛れに動かした舌が、歩美の乳首を捉えていた。  
「んあひうぅっ!!」  
「うむうっ!?」  
 その快感にびくんっ、と歩美の背中が跳ねて、千晶の腔内へさらに強く乳肉が押し込まれる。思わずむせる千晶に、歩美は構わず身体を寄せた。  
「んっ、んむぅっ……あむっ、んむううううううっ!!」  
「あっ!」  
 びくん、と急な痛みに背中を跳ねさせ、歩美が一気に身体を引いた。その乳房には千晶の歯形が残っている。  
 顎が外れそうになるほど大きな歩美の爆乳を奧まで押し込まれ、鼻呼吸だけでは耐えきれなくなった千晶が、けほけほと涙混じりの顔で咳き込む。その口許から、歩美の乳房についた二人の汗と唾液が混じり合いながら、糸を引いて滴り落ちた。  
「ち、千晶……、だ、大丈夫か!?」  
 親友のいよいよ苦しげなその姿に、溜まらず明が声をあげた。  
 しかし一瞥くれた歩美は不敵に嘲笑するだけで、千晶もその股間で前よりもいっそう堅くそそり立ってしまっている明の男根から目を反らしてしまう。  
「千晶……違うんだ。違うんだよ……これは……これはそうじゃなくて、俺は……」  
 悔しさと情けなさばかりが、焦燥感の中で渦を巻く。  
 何が、俺がいっしょにやっつけてやる、だ。  
 千晶は今こんな女子なんかに、ずっと思い悩んできた胸をおもちゃにされている。いいように弄ばれて、どうすることもできずに、ただ辱められている。  
 こんなとき俺が、他の誰でもなく俺が、俺のこの手で、あいつを助けなきゃならないのに。約束したのに。  
 しかし四肢の拘束は堅く巧妙で、明の力ではどうにもならない。それでも諦められず、明は必死で足掻く。  
 足掻き続けて、それも体力を無駄にするだけの徒労に終わりかけたそのとき、必死の動きでくねらせた明の腰から、ズボンのポケットから何かが落ちた。  
「あれ? ――これって、まさか」  
 それはギザギザのついた大きめの、歩美の勉強机から物色してポッケに入れておいた、あの鍵だった。  
 歯形をつけられた乳房を撫でさすりながら、歩美が呟く。  
「千晶くん……わたしのおっぱい、噛んじゃったね」  
「けほっ、えほ……っ。…………、えっ……?」  
「痛かったよ。じゃあ、……おしおき」  
「え……な、なに……っ!?」  
 艶然と微笑みながら、歩美は恐怖に顔を歪める千晶の乳房へと再びその唇を寄せた。今度は乳房全体を腔内へ頬張ろうとするのではなく、ごく先端だけを咥える。  
「はう……っ!!」  
 歩美のざらりとした舌先が千晶の乳首を捉え、乳輪の周辺部を集中的に責めあげた。乳房の峰をその頂へ向けて、螺旋を描きながらなぞり上げるように舌を走らせ、堅く突き立った乳頭の感触を確かめたのち、歩美は前歯の間にそれを挟んだ。  
 不吉な予感が千晶に走り、上気した顔を青ざめさせる。  
 
「や、やめて……っ」  
 しこり立った千晶の乳首を、歩美の甘噛みが圧し潰した。人体の中でもっとも堅い上下の前歯が、その間にもっとも敏感な乳首をたやすく潰していく。  
「あっ! あはあぁっ! いや! いや! いやあああぁぁぁーーーっ!!!」  
 歩美の愛撫でさんざ敏感にさせられたその乳頭に対する一噛みは、千晶に鮮烈な痛みと、それに倍するえも言われぬ快感をもたらした。  
 その快感の正体が理解できず、得体の知れないそれに恐怖して、なおも逃れようと千晶は足掻く。  
 歩美は最初の餌食にした乳首から口を離し、そうして揺れるもう反対側に狙いを移した。乳肉を乳首へと絞り出すように舌と口とで存分に責めたてたのち、カリッ、と、またしても乳首を噛んだ。  
「アアーーーッ!!!」  
 熱く悲痛な絶叫をその喉から迸らせたのち、千晶はどこか果てたかのように、がっくりとうなだれた。歩美はそれにも気づかずになおも千晶の乳を責めなぶり続けていたが、やがて顔を上げ、満足そうに呟いた。  
「ふふっ……。イッちゃったね。どうだった、千晶くん? すっごく……気持ちよかった、でしょ?」  
「……、ふ……ふあぁ……ふあああああぁ……ぅっ」  
 心ここにあらずといった表情で、部屋の対角線上にいる明よりももっとずっと遠くを見つめながら、千晶はもう、歩美に答えられるだけの余力を残してはいなかった。  
 その縞模様のショーツは股間の部分がぐっしょりと濡れて、明の位置からでもはっきりと分かる染みを作ってしまっていた。  
 歩美はそんな放心状態の千晶の後ろへ、彼女の両腕を吊り上げているベッドの支柱の横へ回った。片手で後ろから千晶の乳房を包み、やわやわと優しく揉みながら、もう片手を千晶の顎へやって、その顔を自分へ向けさせる。  
「これでわかったでしょ……? 千晶くんにとって、あいつとわたし、どっちと一緒にいるほうが幸せになれるか。  
 ねえ、千晶くん。わたし他にもたくさん、千晶くんをもっと気持ちよくさせてあげられる方法知ってるよ。だから……ね? 千晶くん、……あいつじゃなくて……わたし、と……」  
「……あ……あっ、あああああ……あっ……」  
 歩美はそう呟きながら、瞳の焦点の合っていない千晶の唇へと、自らの唇を寄せていく。  
(わたしたちの、ファーストキス……)  
 もはや抵抗も、逃れようともしない千晶の、その唇を心もろとも奪い取ろうと、歩美がそっと目を閉じたそのとき。  
 ガムテープの引き裂かれる音が、妙に大きく部屋に響きわたった。  
「……えっ」  
 今度は、歩美の心臓が凍りつく番だった。  
 一体どうやったのか、理由は分からない。理由は分からないが、とにかく千晶同様四肢をガムテープで縛って拘束していたはずの八坂明が、なぜか後ろ手にしていたはずの両手に自由を取り戻して、今や両足を拘束するガムテープを破き捨てようとしていたのだから。  
「ど、……どうして…………あっ!」  
 目の前の現実を理解できなかった歩美の動きは大きく遅れ、とにかく主導権を取り戻そうとして再びスタンガンのもとへ駆け寄ろうとしたときには、明がずり下ろされたズボンとトランクスもろともに両足の戒めを解いて、一気に立ち上がってくるところだった。  
「いっ、いやっ、これで、これで――あうっ!!」  
 歩美がスタンガンを拾い上げた瞬間、強い力が歩美を強引に振り回した。  
 背後から歩美を追った明が、力任せにブラジャーの背中のバンドを掴んだのだ。明はそのまま馬鹿力で歩美の身体を引きずり寄せ、その手をはたいてスタンガンを叩き落とした。  
「あっ、ああっ!」  
「てんめぇ……この野郎おおぉっ!!」  
 鬼気迫る明の形相に呑まれて、歩美が色を失って後退る。踵を返して逃げようとした彼女の、一番手近な部分を明は掴んだ。  
 すなわち、その胸から大きく突き出した二つの爆乳を包んで守るべき、ブラジャーのその中央を。  
「おらあぁっ!!」  
 それで再び彼女を引き寄せようとした明の行動は、しかし思わぬ要因で失敗した。最初に馬鹿力で引っ張ったときに無理の来た歩美のブラジャーが、二度目の過負荷に耐えきれず、金具を弾き飛ばして剥がれてしまったのだ。  
「いやあーーーっ!!」  
 ぶちいっ、と音をたてながら二枚重ねのブラジャーが一気に両方むしり取られ、一切の支えを奪われたIカップの爆乳がふたつ、異常な重量感とともに虚空へ放り出された。乳暈が縦横に赤い軌跡を残しながら、白い巨峰の頂点で何度も揺れ弾む。  
「てめぇ! んの野郎、待てよらあぁっ!!」  
 怒りと凶暴な衝動のままに吐き捨て、明は爆乳を両手でかばいながら逃げる歩美の背中を追う。しかしブラジャーを身代わりにされる格好になった明はその場でつんのめってたたらを踏み、その間に歩美は外へ逃れてドアを閉めた。  
 
「クソッ!」  
「あ、……あ、明……」  
 弱々しい声で呼ばれて、明は自分が千晶のすぐ側にまで来ていたことに気づいた。明は無言で、千晶の両手を戒めるガムテープだけをたった一度の動きで破り捨てると、放心状態の彼女を置いて、再び足音の方向へ歩美を追った。  
 廊下に飛び出せば、ちょうど歩美の後ろ姿が角の向こうへ消えるところだった。  
「待てやぁーーーっ!!」  
 どこかの部屋に逃げ込んだ歩美が必死に絞めようとするドアを、明は施錠の寸前に引っ張った。ドアノブを介して互いの力がせめぎ合い、しかし、それは見る間に明の優位へ傾いていく。  
「いやっ! いやあっ! 来ないで! お願い、こっちに来ないでぇっ!!」  
「うるせえぇーーーっ!!」  
 ついに身体ごと力を込めて、明は歩美からドアを引き剥がした。勢い良く開いた部屋へなだれ込んだとき、明は歩美がその部屋のベッドの下から何かを取り出そうとしているのを見た。  
 今度はその肩を猛然と掴んで、明は歩美の身体を向き直らせた。  
「やああぁぁぁっ!!」  
「うっくっ!?」  
 肩を掴まれた歩美は泣き叫びながら、必死で身体ごとぶつかってきた。さすがに明も吹っ飛ばされて壁に背中をぶつけ、その間に歩美はベッドの下から出した箱を開け、何かを出そうとしていた。  
「させねえってんだよ!」  
「やあっ!?」  
 再び彼女の肩を掴むや、駆け寄る勢いのままで放り投げる。もうショーツ以外に身に帯びたものもない歩美の身体がベッドの上に転がり、バウンドする身体ごと、その爆乳を派手にぶるぶると振動させた。  
 そのままそれ以上抵抗できないよう、明は全身で歩美の上へ四肢を封じながら馬乗りになる。  
 そしてそのとき恐怖に歪んだ歩美の眼前に突きつけられたのは、あの小学生離れした、明の凶悪な男性器だった。  
「ああ……い……いやっ……!」  
 それでも抵抗を試みつづける歩美を押さえこもうと、明の身体が密着してくる。腕で腕を、脚で脚を押さえつけようとする明の身体は急速に接近してきて、やがて腰と腰とも密着し合った。  
 愛液に濡れて半ば透けかけた歩美のショーツに、明の穂先が接触する。堅い肉槍に女の部分を掠められ、さらに狙いすましたかのように洞窟の入り口へ槍の穂先をあてがわれ、歩美は完全な絶望に染まった。  
 このまま、今わたしが必死に押し退けようとしている男子が腰にもう少し力を入れたら、確実に、こいつはわたしのなかに入ってくる。  
 たった一枚のショーツなんてなんの守りにも慰めにもならない。そんなもの、ガチガチになってるこいつのちんちんで布ごと簡単に押し破られて、わたしの一番奥まで、圧し広げられながら突き入られてしまう。  
 レイプ……されるんだ、わたし。  
 それを認識して、歩美の瞳から、そして全身から抵抗の力が急速に抜けていった。  
 余力を得た明はつんのめるようにしながらも、自分の内側に駆けめぐる凶暴な力と衝動のはけ口を、千晶と自分をこうも弄びつづけた挙げ句、今や目の前に組み敷かれた半裸の爆乳女子に求めた。  
 力を失った両腕を片手でまとめて手首の位置で拘束し、両足の間を割って腰を進める。  
 空いた片手が行き場を求めて宙にさまよう。握り拳は作らずに指を開いたまま、組敷かれて水平方向へ広がっても、なお巨大な標高を誇る白い爆乳と、今や歩美に残る最後の砦と化したショーツの間でゆらゆら揺れる。  
「今まで、よくもやってくれたな」  
 怒りを込めた言葉が、熱い吐息とともに歩美の裸身にかかる。  
 そして明の幼い本能はついに、その手をショーツに掛けさせた。歩美がさっき明にやってみせたように、その布切れはいとも簡単に引きずり下ろされ、女の部分を曝してしまうだろう。  
「……いや……」  
 なおも迷いつづける間、いよいよ我慢できなくなった明の男根が、濡れたショーツの布越しに歩美の秘裂を擦りつけはじめた。少しずつ、少しずつ明の男根と歩美の秘裂を隔てるショーツの布地がずり下げられていく。  
 それが完全にめくり上げられた瞬間、その決定的な破滅は訪れるのだ。  
 きゅっと目を閉じて歯を噛みしめ、間もなく襲ってくるであろう壮絶な激痛を思って、歩美はベッドで身体を縮こまらせた。  
 
 そして、明が宣告した。  
「行くぞ」  
「イヤアアアァァァァアァァッ!!」  
「やめて、明っ!!」  
 歩美が絶叫し、明が腰を押し進めようとした瞬間、部屋に侵入してきた誰かが明を後ろから抱き止めた。  
 両腕を明の胸に回して、思い切り強く抱きしめられる。明の背中で柔らかくも弾力のある、二つの肉塊が一気に潰れた。  
 はじめて背中で味わう二つ同時のその感触、その頂でしこり立つ突起の鮮烈な刺激による不意打ちに、明は為す術もなくその場で達した。  
「うくっ――」  
「ああぁっ!!」  
 びゅうううっっ、と勢いよく明の精液がその鈴口からほとばしり、歩美の顔から乳房にかけてを一気に汚す。  
「ひあっ!? えっ、えほ、えほおっ!」  
 その白く粘ついた生臭い液体が口にまで入り、歩美はむせながら、自由を取り戻した両手で顔を覆った。  
「……ち、……ち、千晶……?」  
「ごめん……ごめん、明。でも、もういい。もういいよ」  
 二つの巨乳を明の背中で押し潰していることにも構わず、歩美と同じようにショーツだけを穿いた半裸の千晶は、すぐ真横で呟いていた。  
「助けてくれてありがとう、明。でも、もういいんだ。作倉さんに、そこまでひどいことなんかしなくて」  
「ひ、ひどいこと、って。そんな。千晶、俺はただ、こいつを――」  
 言いながら見下ろして、明は唾を呑んだ。  
 ブラジャーを力ずくで引きちぎられて奪われ、支えも守りも失って放り出された爆乳。  
 濡れたショーツは完全に引きずり下ろされてしまう寸前で、歩美は暴力によって白い芳醇な裸身を曝され、そして最後にその処女さえも、このベッドの上で明に貫かれて散らされようとしていたのだった。  
 若さゆえに今なお堅く張りつめている明の男根から、並外れた勢いで熱く迸った精液。  
 それは歩美の女体の広い範囲を汚して、うつむく彼女の心身がもう完全に明に屈服させられてしまったことを、何より如実に物語っている。  
 もしもこの精液があのまま、貫いた歩美の中で爆発してしまっていたら。  
 自分が彼女に何をしようとしていたのか、何をしてしまったのかをそのとき初めて理解して、明は思わず口をつぐんだ。  
「くっ……うっく。ひっく、うっ……ごめんなさい。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」  
 上半身全体に明の精液をぶちまけられたまま、歩美は両手両腕でその顔と胸を隠して、ひとり嗚咽を漏らしはじめた。  
 今や完全に無力となった少女のその姿に、明の胸に渦巻いていた凶暴な衝動もどこかへ行ってしまったのを感じていた。  
「千晶が、そう言うんなら……俺は別に、もうどうだっていいけどさ」  
 誰とも視線を合わせずに吐き捨てながら、背中に当たるぱつんぱつんに張った二つの巨乳とその尖端、熱い体温と荒い呼吸、そして高まったままの鼓動を感じて、明はじっと動けずにいた。  
 長い空白の後、千晶がようやく明の背中から離れた。  
「……ねえ、作倉さん」  
 顔を隠して嗚咽しつづける少女に、千晶は淡々と告げる。  
「いきなりあんなことされて、ボク、すごくびっくりした。もう、ボクに……あんなこと、しないでね」  
「……うっ、えっく、うっ、ううっ、……う、うん」  
「今日はもう、ボクたちも帰るから……。その前にガムテープとか、散らかしちゃったものだけ片づけていこう、明」  
「あ……ああ。そうだな」  
 言いながら、途中でなぜか千晶が自分の方を見ようとしていないことに気づいて、ふと見下ろした明は吹き出しかけた。  
 先ほどに比べればだいぶおとなしくはなったものの、依然として大きくなったままの分身が剥き出しで前へ立ち上がっていたからだった。  
「あぐっ……」  
 半裸の女子二人の前で急に恥ずかしさがこみ上げてきて、明は思わず股間で手を隠す。  
 隠そうとしたときにはじめて、雨戸や暗幕で完全に閉め切られていた最初の部屋と異なり、白いカーテンだけが降りているベッドの横の窓を意識した。  
 そして、それに気づく。  
 二階のその部屋から見える住宅街のそこかしかに、同い年ぐらいの男児たちが散らばって、物陰からこちらのほうを窺おうとしていることに。  
 囲まれている。  
 
○13  
「……なあ、健吾――……本当に間違いなく、ここなんだろうな?」  
「ああ。絶対そうだって、間違いないって。千晶と明は――少なくとも明は絶対に、ここにいる!」  
「本当かよ?」  
「健吾の言うことだしな……」  
「信じろって! それともお前らなにか、俺がお前ら騙すためにわざわざ自分で自分を縛り上げた挙げ句、一人で物陰に転がってたとでも言うのかよ!?」  
「ふうむ……」  
 作倉家を包囲するように集結した、東小の悪童たち。彼らはみな未だ半信半疑というような顔をしながらも、情報源となった健吾発見時の状況を思い出して、作倉家へ再び注意を戻した。  
 単身東小校区内へ乗り込んできた谷川千晶を追って、潜入してきたその相棒、八坂明。  
 ペアで無類の破壊力を発揮するあの二人に揃われてしまったのだとしたら厄介だが、さすがにこの人数差はひっくり返せまい。昨日の恨みを晴らすには、確かに絶好の機会だった。  
 それに、妙なことを言う奴もいる。  
「やっぱりな。俺は最初からそう思ってたんだよ。今日からいきなり巨乳になっちまった千晶の狙い、それが作倉の家だったんだよ。小学生離れした巨乳同士、なにかと仲良くしとこうってわけだな」  
「はいはい」  
「いいからお前は濡れタオルで頭冷やしとけって。テレビでやってたけど、熱中症ってこえーんだぞ」  
 昨日戦ったときには普通のぺた胸男女だった千晶が、今日はいきなり作倉歩美にも負けないほどの巨乳に化けていたと言い出す奴まで現れたのだ。さすがにただ夏の熱気にやられただけの見間違いだろうが、一応はこちらの真偽も確かめておきたい。  
「……しっかし、ぜんぜん出てこねーな」  
「この大人数だし、囲んでるの気づかれたんじゃね? ……家族いないみたいだし、ちょっとこっちから仕掛けてみっか?」  
 さすがに痺れを切らしはじめた何人かが言い出したとき、作倉家玄関の戸が開いた。  
「――なっ……!?」  
 それを目撃した東小男子、十数人が驚愕した。  
 現れたのは情報通り、八坂明と谷川千晶。そしてブラウスを着た千晶の胸は、やはり巨乳としか言いようのない、アンバランスなまでの膨らみを実らせていたのだった。  
「…………、なっ……」  
「なんだあ、……ありゃあ……!?」  
 ぽかんと口を広げ、物陰から出てきながらそれを凝視する男子たち。包囲網の別の箇所にいた連中も、彼らの異様な態度に気づいて合流してきては、ことごとくその千晶の胸に目を白黒させていた。  
「……あ、あははははは、は、は、は……! な? やっぱりそうだったろ? 俺の言ったとおりだったろ? 谷川千晶、すんげえ巨乳になっちまってただろ!?」  
「おいおい」  
「嘘だろ……」  
 度肝を抜かれるとともに、そのはちきれそうな乳房の魅力に釘付けにされる悪童たち。唾を呑みながらも、彼らは作倉家の門前にぞろぞろと集まって、道路と庭で西小の二人と対峙した。  
「よう、明に千晶。お揃いで、俺たちの町にいらっしゃい」  
「昨日はよくもやってくれたな!」  
 口々に威勢のいい文句を並べながら、しかし彼らの大半はその視線を千晶の胸へと集中させてしまっている。二人とも、今さらこいつら相手に説明するのも面倒くさいので黙っていた。  
「千晶。いけるか?」  
「うん、大丈夫。楽勝だよ」  
 そう言う千晶の横顔を見て、明は弱気を面に出さないようにしながらも敵を見渡した。  
 歩美があの状態では、あのまま作倉家にこれ以上留まることは出来なかった。家族が帰ってきて事情を聞かれれば、非常にややこしいことになるのは目に見えていたからだ。  
 また電話だけ借りるなどして、西小から援軍を動員するのも、時間と地理の関係から難しい。といって、家族に迎えを頼むなどというのも論外。それは東小から敵前逃亡するのにも等しい行為だと二人は考えていた。  
 ならばやはり、自力での正面突破しかない。  
 しかし、出来るのか?  
 今の、疲れた二人で。準備万端、周囲の地理を知り尽くしながら待ちかまえる十数人を相手に、さんざん感じさせられてしまった巨乳を持て余している千晶と二人で、それを突破することなど本当に可能なのか。  
 その巨乳をブラジャーだけで押さえる状態の千晶と組んで戦ったのは、今朝の体育倉庫での一件だけだというのに。  
 
 作倉家の門を挟んで、二人と東小勢は対峙する。  
 国境だ。  
 この境界線を超えた瞬間、戦闘が始まる。  
「千晶」  
「明」  
 互いのその名を呼び合いながら、戦闘へ向けて心と体を切り換えていく。二人は高揚していく心身を感じながら、その門から飛び出して最初に叩くべき場所を必死に探した。  
 作倉家の門に手を掛ける。自然な動作で押し開きながら、開戦のタイミングを全身全霊で測り取ろうとしていたとき。  
 脈絡もなく背後で、作倉家玄関の戸が開いた。  
「えっ……」  
「作倉、さん……?」  
 そこに現れたのは今日、千晶を導いて助けたときの格好の作倉歩美だった。  
 彼女の表情は前髪の奧で恐怖と緊張にひきつってはいたが、それでも唾を呑んで、門の方へ歩きだしてきた。  
「はァ……? おいおい、今さら何の用だよ、おっぱいデブ!」  
「何しに来たんだー? まーた俺たちにオッパイ触ってほしくて出て来たのかー?」  
 数を笠に着て、千晶と明に対する勝利をも確信した悪童どもが、口々に歩美を罵る。  
「しっかし、今日はホントに驚いたよな。まさかおっぱいデブが、千晶と明を家に呼んで一緒に遊んでたなんてなあ。こいつぁとんだ裏切り者だな!」  
「あー。そうだよな、これは。俺ら東小に対する、ハイシンコウイってやつだよな……!」  
 キシシ、と小賢しそうな笑い声が伝播する。  
 悪童どもの囃したてる声は大きくなるばかりで、それに明と千晶も、次第に表情を険しくしていく。  
 今の時間は通行もなく、作倉家に家族もいないことを見越したのか、悪童どもの態度もどんどん大きくなっていった。  
「おい、裏切りおっぱいお化け。お前、ここで裸になってみせろよっ」  
「あー! それ、いいっ」  
「勝手に敵に内通した裏切りもんだもんなぁ。それぐらいやってもらわないと、割に合わないよなあ」  
 理不尽な要求を身勝手に並べ立てながら、悪童どもがはやし立てて笑い転げる。  
 その悪意に、千晶野瞳にみるみる怒りが宿っていく。明も同じだった。  
 あの作倉歩美という少女が、別段好きというわけではない。だが人間として、目の前の連中を決してこのまま許しておいてはならないと、二人の中のなにかが強く命じていた。  
 明と千晶、どちらから示したというわけでもなく、二人は歩を進め、笑い転げる連中の土手っぱらへ、きつい一撃を見舞ってやろうと前進しはじめたとき。  
「うるさいッ!!!」  
 突然頬を、巨大なはたきで張り倒されたように。  
 その大声が、その場の全員の動きを止めた。  
「――ちっ、ちっ、ちっ――千晶くんは……千晶くんはわたしの、わたしの本当のお友達なの! あんたたちなんかと違う、わたしの本当のお友達なのっ!!」  
「作倉、さん……?」  
 そのまま、歩美は千晶と明の二人の間を猛然と通り抜けた。門を開けて、胸を張り、肩を怒らせながら、威風堂々と悪童どもの真正面に立ち、再び、歩美は叫んだ。  
「わたしの友達がっ。わたしの友達がわたしの家に遊びに来て、いったい何が悪いっていうの!? ふざけるな!! ここはわたしの家だ! わたしの友達の邪魔する奴は、全員ただじゃおかないからなっ!!」  
「……えっ、……あ……」  
 しん、とその場は、それきり嘘のように静まり返った。  
 今までどんなにいじめても、情けなさそうな顔をして、じっと耐えているだけだった根暗な女子。そんな少女から予想外の反撃を受けて、悪童どもは戸惑い、互いに視線を交わし合った。  
「な、なあ……」  
「ど、どうする……」  
「ど……どうする、たって……そんな、お前……」  
 決まってるだろ、と言おうとした少年も、歩美から凄まじい眼力で睨みつけられて、言葉を失って黙り込む。  
 もう何年も前から胸ばかり太って動きの鈍い、友達なんか全然いなくて、取り柄といえばせいぜい絵が上手い程度の女子。  
 敵に回したところでどうということなどあるはずのない少女を前にして、しかし東小の男子たちは一歩もその場を動けずに、ただ立ちすくむことしか出来なかった。  
 
「――作倉さん」  
 そんな歩美の背にかかった少女の声が、ぴくんっ、とその背を大きく跳ねさせた。威圧的な眼力が弱まり、怯えに似た弱い光を伴いながら、歩美の視線が千晶を見た。  
 千晶はそんな歩美の横を通り抜けながら、くる、と振り向いて告げた。  
「見送りに来てくれて、ありがとう。――じゃあ、またね!」  
 ばっ、と千晶は元気良く右手を振り上げ、頭の上で、何度も振った。  
「あ、ああ。じゃあな、作倉。――また」  
 出遅れた明が小走りに千晶の後へ追いつきながら、歩美に手を振っていく。  
 誰一人、二人に手など出せなかった。  
 ゆっくりと、堂々と歩いていく二人が目の前を通り抜けていくのを、その進路上にいた東小の全員が黙ってよけた。  
 そのまま二人の背中が小さくなり、曲がり角の向こうに見えなくなるまで、十数人の悪童どもは誰もが無言のまま、それを見送るしかなかった。  
「……バイバーイ。バイバーイ!!」  
 二人の姿が完全に見えなくなったころ、ようやく歩美が手を上げ、その方向へ向かって何度も何度も、激しく振りつづけた。  
 彼女の耳からはずっと、千晶が最後に残した言葉が消えることはなかった。  
 またね。  
 
○14  
「……なあ。千晶――」  
「ん?」  
 陽の傾きはじめた、東小校区の外側近く。  
 何となく決まりの悪い明は、ずっと千晶の後ろを歩いていた。いちおう後方警戒のためだと自分に言い聞かせてはいたのだが、あそこに集結した東小勢は、結局追ってこないようだった。  
 歯切れ悪く呼んでも振り向いてくれない千晶に、あの異様な時間と空間の中で、剥き出しにされた自分の男性を見せつけられて目を逸らした千晶を思い出させられて、明の胸に重たいものが溜まっていく。  
 耐えきれなくなって、明は言った。  
「千晶。……ごめんっ」  
「何が?」  
 相変わらずそっけない声に、明の背筋が泡立つ。  
「いや、……だから……。俺……お前と昨日、約束したのにさ。お前の、その胸のことで変なこと言ったり、何かしようとしたりする奴が出てきたら、俺がお前と一緒に、やっつけてやるって約束したのに。それなのに……」  
 千晶は作倉歩美に四肢の自由を奪われ、思うがままにその乳房への凌辱を許してしまった。それどころか、自分はその凌辱される千晶の姿を見て、あんなに勃起してしまった。しかも、それを見せつけられてしまった。  
 言い訳のしようもない。自分は千晶という無二の親友の危機に勃起してしまった、どうしようもない男なのだ。  
「うう……わっ!?」  
 足元を見ながら歩いていたせいで、気づくのが遅れた。急に立ち止まってこちらをじっと見ていた千晶の胸に自分の胸をぶつけて、明は思わず弾かれながら後退った。  
「うーん……今日はボク、すっごくびっくりしちゃったな」  
「え?」  
「明のおちんちんがいつの間にか、あんなに大きくなっちゃってたなんて」  
「うっ……」  
 今度はその言葉で後退る明に、千晶は優しく微笑んで、言った。  
「ボクのこれとおんなじだね、明!」  
 微笑みながらブラウスの布越しに、千晶は自分の乳房をイタズラっぽく両手で持ち上げ、柔らかそうに揺らしてみせた。  
「明は男なんだからさ。そのおちんちんがあんなに大きくなっちゃったのも、自然で、普通のことなんだよ」  
「千晶……」  
 それは昨日、明自身が千晶へ言った言葉だ。  
 それを素直に返してくる千晶の性別を超えた度量に、明は得体の知れない、しかし暖かな思いがこみあげてくるのを感じていた。  
「でも、明。明のもそんなに大きくなっちゃうのに、ボクのブラジャーみたいに、固定してくれる下着とかって、付けなくてもいいの?」  
「へ?」  
「それってケンカの時とか、動いて邪魔になったりしないの? 痛くない?」  
 ごくごく自然な興味と心配の入り交じった瞳で、千晶は明の股間をじっと見つめていた。  
 お前は何を言っているんだ?  
 その無垢な瞳を見返しながら、明はその言葉と、今の千晶に態度が意味するものを必死に考え、そして一つの結論に至った。  
「あ」  
 おそらく千晶は、勃起という男性器のメカニズムと生態を、じゅうぶん理解していない。  
 彼女の巨乳が約一年という長い時間をかけてあの大きさに成長したのと同じように、明の男根も、普段から常にあの大きさのままになっているように成長したのだと、千晶はそう思っているのだ。  
 そうとしか考えられない。そういえばこの数年間、明も千晶に男根を見せるようなことはなかった。  
 昨日の風呂場で最後にぶっ倒されたときに見られたかもしれないが、あのときも明の逸物はすでにガチガチだった。  
 彼女は明のそれの、普段の大きさを知らなかったのだ。  
「あー、もう! 今日は本当にくすぐったくって、おかしくなっちゃいそうだったよー。手でこちょこちょするのはともかく、舐めたい吸ったりするのは作倉さんもやりすぎだよね。ボク、胸はすごく弱いのに……」  
「…………」  
 暑さのためではない汗を全身から噴き出しながら、どこか遠くを見つめて硬直している明に、無邪気な笑顔で千晶は言った。  
「ねえ、明。……また作倉さんと遊ぼうね!」  
「あ、……ああ。そう、だな……」  
 そして、二人は歩き出す。  
「ねえ、明の下着もどっかで見てく?」  
「はあ?」  
「明のあれって、何カップだろ。えっと、あれぐらいだと……Eカップ、ぐらいなのかな?」  
「…………」  
 見当違いの言葉を並べる千晶の横で、明は黙って歩いていく。  
 国境地帯の向こう側、西小校区は、もうすぐそこだった。  
 

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