夜。自室でひとり、谷川千晶は服を脱いでいた。
ハーフパンツを下ろし、だいぶ苦労しながらタイトなTシャツを全身運動で脱ぎ捨てると、二重のGカップブラジャーに包まれた乳房がばいんと弾む。
片手を添えて弾む乳房を抑え、もう片手でそのフロントホックを千晶は解くが、それだけではまだ少女の乳房は露わにならない。ホックを外しても、カップは堅く張りついたままだ。
一つの乳房に片手を添えたまま、もう片手を使ってべっとりと汗で張りついたカップを引き剥がすと、その内側に籠もっていた汗が熱を伴う蒸気となって、もわりと高く立ち上がった。
「うっぷ……」
目の前でその蒸気を受けた千晶は少し嫌そうな顔をしたが、いつものようにタオルで胸の谷間や乳房の下側、特に汗のたまりやすい場所を拭き取ると、同じく汗まみれのショーツも引き下ろして脱ぎ捨て、少女は生まれたままの姿になった。
汗をはらんで濡れたショートカットの黒髪、健康的に日焼けしたしなやかな四肢、裏腹に真っ白なままの胴体と胸に実った巨大な乳房、それらとは不釣り合いにまだ幼いままの秘所。
「さて……」
その全身を一通り拭き終えると、千晶はタンスの奥から一着の衣類を取り出し、目の前に広げた。
全体は濃紺。縁には白い線が走り、胸元には『五年三組 谷川千晶』の名札がある。
西小学校の学校指定水着だった。去年まで、千晶が使っていたものだ。
その学校指定水着を足下に下ろすと両足を通し、千晶はよっと気合いを入れ、肩紐に手を掛けてからその全体を持ち上げる。
股間からお腹にかけてを懐かしい感触が包み、同時にわずかに残った塩素のにおいが鼻孔をついて、ふっと楽しい記憶を蘇らせる。しかし千晶はあえて感傷に浸らず、目的に邁進した。
思い切り水着の胸部分を引っ張って伸ばし、その最大の難関である二つの乳房を悪戦苦闘の末にどうにか水着の下へと包み終えると、千晶は部屋の姿見の前に立った。
そこに映る自身の姿に、ううーん、と千晶はひどく不満げな唸りを漏らした。
ひどい。これは、ない。ちょっとあまりにもあんまりだ。
学校指定水着の布地は爆弾のような二つの巨乳に突っ張られて『五年三組 谷川千晶』の名札もろとも、すでに限界まで伸びきっている。
その名札はもう千晶の乳房の下半球よりさらに下、胸というよりお腹の部分にまで後退していた。
名札の上部は乳房で左右へ伸ばされ、下部は細いままのウェストに当たったために去年のままの原型を保っているが、いずれにせよ見にくいことに変わりはない。
ほかのクラスの先生や委員長のような長身から見下ろされれば、名札は乳房の陰になって正面からは見えなくなってしまっているだろう。
さらに乳暈からその全体がぷっくりと盛り上がる千晶の乳首は、それ自体が乳房から前へと大きく突き出ていて、薄く引き伸ばされた学校指定水着の布地をあっさりと貫通、だめ押しのように自分の存在を布地の上に主張しているのだ。
そして何よりも、それら左右の巨乳がそれぞれの尖端に頂く乳首の位置は、あまりにも水着の襟元に近すぎた。乳首の中心から襟元に走る白の縁取りまでは、わずか3〜4センチほどの超至近距離だ。
千晶の桜色の乳暈はかろうじて水着の襟元に隠れてはいるが、これで少しでも乳房が揺れ弾んでしまえば、尖端の乳首そのものはまだしも、鮮やかに色づいた乳暈はあっさりと外にはみ出してしまうだろう。
少女たちの上半身全体を覆うはずの学校指定水着は、もはや千晶の乳房をその六割がたの半球までしか包み込むことが出来ていなかった。本来なら腋や胸元を覆うはずの布地が余さず乳房に引っ張られた結果がこれだ。
水着の上部は首もとから鎖骨までばかりか、あまりに大きく胸元全体が広がり、乳房双球のそれぞれ上半分は白い肩紐の間で、陽に触れることのなかった真っ白な肌をあまりに無防備に曝してしまっている。
もし誰かが千晶の水着の襟元を掴んで引き下ろせば、乳腺質で弾力の強い千晶の巨乳はたったそれだけでいとも簡単に外界へはじけるように弾み出る。
しかも乳房の大きさと布地のきつさが災いして、再び元どおりに包み隠すのはかなりの困難を伴うだろうと予想できた。
さらに、伸縮性に富んだ学校指定水着の布地はブラジャーのカップと違って、遠慮もなしに巨乳を締め付けている。それは結果として左右の頂点を乳暈もろとも浮き上がらせるばかりか、みっちりと乳肉の詰まった千尋の谷をも見せつけてもしまってもいた。
こんなにも胸を締め付けながら、同時に胸元をここまで大きく開いた服を着たことのなかった千晶は眼下に広がるその神秘的な光景に目を瞬かせ、うわあと思わず唸った。
すごいな、これ……ボクのおっぱいの間に、何かものを挟めそう。ぱつんぱつんのきつきつだから、一回挟んだらもう落っことすこともなさそうだし。ウォータースライダーみたいなやつで滑り降りたって、そのままにしておけるかも。
これって、何か新しい遊びに使えるんじゃないかな??
「……いや……。いやいやいや……。そうじゃなくって……もう少しちゃんと真面目に考えようよ、ボク……」
現実逃避のように楽しい方向へ転がりかけていた想像の翼を、千晶はなんとか地上へ引きずり下ろす。頭を振りながら考えた。
千晶の机上には学年通信のプリントと、近々の時間割表を記した連絡帳が広げられている。その学年通信の上部には水泳帽を被り、さんさんと注ぐ日光と入道雲の下ではしゃぐ子どもたちのイラストカット。
表題は『プール開きのお知らせ』。
「…………」
すっかり忘れていた。
去年の秋頃から急激に膨らみはじめた巨乳をどう扱うか、たった一人で文字通りそれを胸に秘めたまま、ひたすら悩み続けた半年余。
千晶が幼馴染みの相棒にして親友・八坂明とのアクシデントをきっかけに、それと正面から向き合って生きていくことを決めたのはたったの数日前のことだ。
そこから幕を開けた疾風怒濤の日々の中では、水泳の授業や水着のことなど完全に意識の外へ消し飛んでいた。とはいえ仮に気づいていたとしても、それらの準備に割ける時間など残っていようはずもなかっただろうが。
つまり、結論。
「間に合わない……」
今から学校指定水着を注文しても、届くまでには結構な時間がかかる。特注になってしまう可能性すらある。少なくとも最初数回の体育の授業には、どう頑張っても間に合わない。
「はぁ。どうしよう……」
千晶は大きく息を吐く。
妙なところで変に厳格な西小学校は、学校指定水着以外での授業参加をそう簡単には認めないだろう。あの藤原通子先生を相手にいろいろ交渉することになると思うと、何もしないうちからいろいろと疲れを感じた。
といって暑い中、別に体調が悪いわけでもないのに水泳の授業を見学するなどというのは、千晶にとって許せることではない。
それに何より、
「……バカ真理……」
むう、と唸りながら、千晶は自らの保育園以来の宿敵・大西真理の名を口に出す。
今までも事あるごとに激しくぶつかり合い、ついこの前には過去最大級の規模で決闘するも、決着はつけられなかった。水泳の授業を見学などして弱みを見せれば、鬼の首でも取ったように仕掛けてくるのは目に見えている。
何にせよ、また何もかもが面倒くさいことになりそうだなあ――そう思いながら姿見に映る自分の姿を眺めていて、ふっと千晶はそれに気づいた。
「あ、――でも、この水着、いいこともあるかも」
呟くなり、左手を右乳房の下に添え、右手で水着の襟元を剥き下ろす。それだけでぼるんっ、と右乳房はその全体が外へ飛び出て自由を満喫し、水着に圧迫されたままの左乳房より一回りも大きな威容を誇った。
「やっぱり、簡単に脱げちゃう。これなら気が向いたとき、すぐに明に吸ってもらえるかな……」
自らの掌ではとても包みきれない大きさの右乳房を下から掴み、上向きにすると、千晶はその薄桃色の突端を舐めた。
「はう……っ!」
正体のよく分からない、鈍い快感が乳首から脳天へ突き上げてくる。水着の股間にも汗でも尿でもない不思議な湿りを感じながら、どこか熱気を帯びた声で少女は呟く。
「ん……っ。明って本当に、ボクのおっぱい吸うのが上手なんだもん……。ほんとの赤ちゃんみたい。よくわかんないけど、明に吸われるの、すっごい気持ちいい。ぶるぶる来ちゃう……。
……あんなに気持ちいいんだから、きっと、ちゃんとボクのおっぱいにも効いてるよね……?」
大きくなりすぎた乳房のこれ以上の成長を阻止するため、千晶は明に、自身の乳房を吸うことを要求し、受け容れられた。
明の巧みな舌、指、唇、歯、唾液……それらを思い出すだけで千晶の剥き出しの右乳房はいっそう張りつめ、水着の下の左乳房はさらに厳しく締め付けられながら、左右の乳首はむくむくと起きて、なおも堅く尖るのだ。
その乳首周りのわずかな乳暈までを唇の先に軽く含むと、唾液の糸を引き延ばしながら離す。自分ひとりでは、ここまでが限界だ。明に吸われるのとは、雲泥の差がある。
「うーん……。なんとか、ならないかな……」
もっと明に吸ってほしい。でも今は、目の前の事態にも対処しなければならない。
肌を火照らせた半裸の巨乳少女は、ちら、とどこか熱っぽい横目でカレンダーを見る。
プール開きと最初の水泳授業は、すぐ目の前にまで迫っていた。