〇『堕落の章』  
 
国東真琴は今や、自分の意志で白く艶やかな自らの乳房を揉みしだく。  
その指先は堅くそそり立った薄紅色の先端をクリクリと弄び、忙しない喘ぎを発しながら、眼鏡越しにもの欲しそうな視線を調教者に送る。  
そして、調教者の手がゆっくりと真琴の乳房に伸びると、彼女は名残惜しげに両手を胸から離し、しかし期待にうち震えながら、柔らかく巨大な二つの肉塊をその手の前にぷるん、と突き出した。「…あ…ふぅ…」  
切なげな吐息。常に理知的なその瞳も、今や抑えきれぬ情欲に妖しく濡れ、しなやかな力を秘めた肩は荒い呼吸に合わせ大きく上下している。  
調教者の指は意地悪く真琴のピンと勃起した乳頭をごく微かにつまみ、もどかしげに体をくねらせる真琴を焦らすように弱く弄んだ。  
「……あ、ああ……」  
人差し指と親指が、緩慢な速度で真琴の乳首を引っぱる。 弾力に富んだそれは徐々にピンと伸びてゆき、乳房全体がさらに淫らな円錐形を形作る。  
「あ、ふぅ……ッ」  
明らかに喜悦の声と判る、真琴の声。滑らかで重量感のある二つの円錐は、乳首をつまむ指先の気まぐれ通りに寄り添い、そしてでたらめに離れてゆく。  
「ひあぁ……あッ」  
 
11歳にして、これほどのたわわな果実と感度を備えたこの堕ちゆく優等生は、すでに清楚でいささか野暮ったい白いショーツの中を既にびっしょりと濡らしていた。  
調教者の指先は突如つまんだ乳首を離し、そして、ぶるるん、と瞬時に本来の形状に戻った双球の中心、あたかも丸く小さなスイッチのように岐立した乳頭を、人差し指でゆっくりと押しこみ、尖りつつ柔らかなその二つの充血した突起は、  
従順にクラス一を誇るきめ細かな白い乳肉に、ずぶずぶとめり込んでいく。  
「ひあ、ああああッ!!」乳房に半ば埋もれた男の指先が、快感の中枢を内側からグリグリと抉り、真琴はこの閉ざされた部屋中に、はしたない喜悦の声を響かせた。  
「ふうぅ……ん……気持ち……いい……」  
しかし真琴の切なげな呻きは長くは続かない。  
調教者は指を乳首から離し、調教の成果を確認するように腕を組んだ。  
この仕草が次のステップへの合図だと覚えている、優秀な女子児童である国東真琴は、定められた手順通りに調教者に小さな声でさらなる責めを求める。  
「……が、我慢出来ません……ここが、もう……」  
 
真琴は唯一身に付けていたショーツの湿った部分をもどかしげに撫でまわし、調教者の表情から許諾の色を素早く読み取ると、いそいそと自ら最後の着衣を脱ぎ捨てた。  
 
一糸纏わぬ真琴の立ち姿は逞しく、美しい。しかし計測された数値には現れない幼さと瑞々しさは、一層この欲情した優等生を、狂おしいまでに美しく見せている。  
『……私、おかしくなってる……なにが……変なのかしら?』  
脈略のない思考のなか、真琴の一部が危機を叫んでいる声が遠く聞こえる。しかしめくるめく快楽の渦のなかで、彼女の意識は更なる快楽への渇望に支配され、その声に応える気配はない。  
『……ええと?……もう、いいや……』  
理性をキッパリと捨て去った真琴は、調教者の次なる指示に従い、仰向けに横たわり大きく太腿を広げる。次いでその中央、びっしょりと潤い、光沢を放つ内部をも、自らの指先で躊躇せず露わにした……  
 
「…なんなのよ、これ…」  
 
原稿用紙から怒りに燃える瞳を上げた栗本沙耶は、鼻歌混じりに自分の部屋を整理する桐也を睨みつけた。  
 
「名作だろ? 未完で終わっちまうけどな。」  
 
桐也を『叩き直す』事を決意した沙耶は、彼の悪行の数々を洗いざらい白状させ、手元に残っている各種の記録媒体を全て破棄させた。  
被害にあった少女達の苦悩の日々を想うと、張り裂けそうに胸が傷んだが、今後桐也にその頭脳を酷使させて、彼女達に一日も早い平安を返そうと沙耶は固く心に決めていた。  
 
「…そもそもクニサキマコトって誰!? まさか実在の人物!?」  
 
「…西小の六年生。こないだの『読書感想文コンクール』で、俺を差し置いて銀賞穫った奴だよ。」  
 
「…それでこんな下らないもの書いたの!?」  
 
「明らかに俺のほうが出来が良かった。…ただ、つまんねえ『今年の課題図書』で勝負しなかったのが敗因かな。」  
 
「桐也のバカ!! 『心を入れ替える』って約束したのに…」  
 
跪いて涙ぐむ沙耶を慌てて抱き起こし、桐也はあたふたと弁解する。  
 
「す、すぐ処分する!!…だってそれ書いたのだいぶ前だし、西小に流す計画も中止したよ!!」  
 
目を閉じ、俯いたまま沙耶は桐也に尋ねる。  
 
「…金賞は?」  
 
「へ!?」  
 
この健全な六年生女子の代表のような、屈託のない外見の少女は、相手の一語一句を聞き逃さない習慣を、不本意にも最初の交際相手である桐也から学び取っていた。  
 
「…『国東さん』は銀賞でしょ。どうせ金賞の人にも何か企んだんでしょ?」  
 
「…東小のタカビーデルモ女。でも喜べ、『アイコラ大作戦』は見事に失敗した!!」  
 
「桐也。」  
 
深刻な声。  
びくりと彼は、沙耶に向き直る。  
 
「手を出して。」  
 
「え!?」  
 
「…いいから。」  
 
おずおずと桐也が差し出した右手に、沙耶はホットパンツのポケットから出した、三色の紐を括りつけた。  
 
「…藤田君達に破られた私の服と下着で作ったの。悪いことをしたくなったら、これを見て私を思い出して。桐也は生まれ変わるんだよ…」  
 
 
普段より早く沙耶が帰ったあと、桐也はいつものように、明日の土曜日の約束をしなかったことに気付いた。  
それからしばらく、加賀桐也は、じっと手首の紐を見つめ続けていた。  
 
 
END  
 
 
 

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