「『…そして半球の中心、恥じらう彼女の可憐な乳首は…』  
ねぇ…まだ読むの!?」  
 
桐也の膝の上で、恥ずかしさに頬を赤らめ尋ねる沙耶は、えくぼの可愛い小学六年生だ。  
 
同級生の桐也は沙耶の持つ本の背表紙を眺めながら意地悪く答えた。  
 
「まぁだ。」  
 
ここは沙耶の部屋。少し前まで、二人は対戦パズルゲームの勝負をしていた。  
敗者は勝者の膝の上で、本を読んであげる、という罰ゲーム付きの勝負だ。  
 
そして、いつものごとく、あらゆるゲームやクイズに恐ろしく長けた桐也が勝利し、負けた沙耶はピョンピョンと無邪気に本棚の前で尋ねた。  
 
「えーと、どの本がいい? これとか面白いよ。」  
沙耶の家に、桐也が遊びに来るのは付き合って初めてだった。  
桐也は、沙耶が一目惚れした優しい微笑を浮かべ、ポケットから一冊の文庫本を取り出すと、学習机の椅子に腰掛けて言った。  
 
「ほら、こっち向いて膝に座れ。」  
沙耶はすぐ抗議の声を上げたが、桐也が提案した罰ゲームのルールに間違いはなく、しぶしぶ桐也の膝にまたがると、文庫本を受け取った。  
 
「え!!」  
 
開いた本のタイトルに沙耶は目を疑った。  
 
『続・幼乳陵辱』  
 
…どう見てもいかがわしい小説だ。断じて小学生女子が朗読するものではない。  
 
「ち、ちょっと桐也!!」  
「約束だろ。ちゃんと読んで。」  
 
付き合ってまだ日が浅い二人だが、この手の悪戯は桐也の得意技だ。  
惚れた弱み、もあるが、こんな恥ずかしい意地悪を、沙耶は正直、なぜか嫌いではなかった。  
 
 
そして今、沙耶は向かい合って桐也の膝に座り、彼の耳元で卑猥な文章を、蚊の鳴くような声で囁き続けている。  
 
「…『彼の舌は凛々と尖った乳首を執拗に…舐め…』」  
 
文中の淫らな情景が鮮明に沙耶の脳裏に浮かぶ。  
彼女の目は徐々に潤み、声は切なげな響きを帯びてきた。  
密着した部分が奇妙に熱い。  
 
突然、桐也は軽い沙耶を膝に載せたまま、脚をぐい、と組んだ。  
 
「ひゃあっ!!」  
悲鳴で朗読を中断した沙耶は、ぶるぶると桐也の胸に頬を当てた。  
ピンで前髪を上げた額に、うっすらと汗が滲んでいる。  
 
「どーした?」  
 
「べ、別にっ!!」  
 
グッ、と桐也の膝がまた動き、沙耶は必死に声を殺した。  
 
「ほら。続き。」  
 
しかたなく沙耶は、荒い吐息で続きを読み上げる。乳首が痛いほど硬くなっているのを感じた。  
 
「『彼…女の乳首…は唾液でヌラヌラと…』…」  
沙耶の腰はいつの間にか無意識にもぞもぞと前後していた。下着のなかが尋常ではなく濡れている。  
夏物のスカートの生地は薄い。もし桐也にバレたら…  
 
「お前、なに動いてんの? もしかしてコーフンしてるとか?」  
 
ギクリとする指摘に沙耶は狼狽しつつ首を横にぶんぶん振る。  
 
「そ、そんなことないよっ!!」  
沙耶は深呼吸して全身に力を込め、朗読を再開した。  
 
「…『無…毛の濡れた秘唇は…淫らに潤み…』」  
我慢出来ず白いニーソックスのつま先がうねうねと動く。  
また、じわ、と溢れるのを感じた。  
 
迫り来る限界に、思わず沙耶がすがるような視線を桐也に送ったとき、彼はあっけらかんとした声で沙耶に言った。  
 
「あ、俺、塾行ってくるわ。」  
 
「へ!?」  
 
安堵感と、相反する激しい渇望が沙耶を混乱させている隙に、そそくさと桐也は沙耶を膝から降ろし、さっさと彼女の部屋を出て行ってしまった。  
パタン。  
 
しばらく茫然とした沙耶は、やがて仰向けにバッタリとベッドに倒れこむと、脚をバタバタさせて桐也を罵った。  
 
「バカバカバカ!!桐也のド変態!!」  
 
叫びつつも彼女の手は、形と大きさには自信のあるツンと張った胸をゆっくりと包んでゆく。  
 
「は、う…」  
うっすらと汗ばんだ白い乳房と、桜色の尖った乳首をそっと撫でさすると、全身に快楽の波が駆け巡る。それを追って彼女の右手は下着のなかに潜り込んだ。  
そこは、自分でもギョッとするくらいぬるぬると濡れていた。  
 
「あぁ…ぁ…桐也の…バカ…」  
抑えきれぬ欲求のままに彼女の指は自らの敏感な芯を激しく弄ぶ。  
 
「あ!! あ!! 」  
ちゃぷちゃぷと音を立てて指に絡む雫は尽きることなく、沙耶はまだ数えるほどしかない自慰の経験で最大の絶頂を、桐也の名を呼びながら何度も味わった。  
 
『…ああ…下着、替えなきゃ…』  
 
長く、少し淋しい余韻のなか、沙耶がぼんやりそう考えたとき、玄関でチャイムの音が響いた。  
 
もちろん両親は不在だった。恨めしげに慌てて着衣を整え、冷たく貼り付く下着を我慢して玄関を開ける。  
 
そこには笑顔の桐也が立っていた。  
 
「塾、明日だった。」  
 
沙耶は複雑な動揺を懸命に隠そうとして無理に笑い返す。  
 
「あ!! あ、そう…じゃ、上がる?」  
 
何故かにこやかな桐也の様子に戸惑いながらも、沙耶はあいまいに微笑んだまま、ぎくしゃくと彼を玄関から招き入れた。  
 
「何か飲む? コーラか、お茶。」  
 
「あ、いいよいいよ。」  
嫌な予感がする。また何か、狡猾で陰険で、そして気持ちのいい意地悪を考えているに違いない…。  
確かに桐也はモテた。  
しかし、並みいるライバルを抑え、やっと彼を射止めて今日まで、あまりに気まぐれで風変わりな彼に翻弄され過ぎてはこなかったか?  
沙耶はあわよくば反撃の機会を狙い、ことさら何気なく、桐也と並んで廊下を歩いた。  
 
パタン。  
 
再び沙耶の部屋に戻った二人はベッドに並んで腰掛けた。  
 
「な、沙耶。」  
来た。桐也の仕掛ける罠に乗るまいと、沙耶は身構えた。もうゲームはしない。クイズもしない。  
 
…なんでこんな奴、好きになってしまったんだろう…  
彼女は明らかに何かを企んでいる桐也のにやにや顔を見て、口をへの字に曲げて彼を見据える。  
 
「何?」  
ここでいつも、意表を突かれるのだ。  
 
「指、見せてみ、右手の、中指。」  
 
「へ!?」  
 
例によって桐也の意図を把握出来ないまま、沙耶はぼんやり右手の中指を見た。  
 
『あ!!』  
湿っぽくふやけたその指を見た途端、恐慌が沙耶を襲い、またもや自分があっという間に桐也のペースにはまったのを悟って悲鳴を上げた。  
 
「いや、いやああっ!!」  
平然と桐也が尋ねる。  
「なんで?」  
 
「な、なんでもないよ!!」  
「じゃ、見せろ。」  
 
「やだっ!! 絶対にやだっ!!」  
 
「なんで?」  
 
沙耶はまた袋小路に追い込まれたのを悟り、耳まで赤くしながらぶるぶると黙秘した。  
 
「ふうん。」  
 
桐也はベッドから立ち上がり、そっぽを向きぎゅっと右手を握りしめる沙耶を見下ろして言う。  
 
「じゃ、俺の推測言うおうか。」  
 
「…」  
 
何も答えられず沙耶は恥ずかしさに顔を伏せた。  
 
「推測その1…」  
 
「わああああっ!!」  
たまらず沙耶は飛び上がって桐也の前に座り込み、慈悲を請う潤んだ瞳で彼を見上げる。完敗だ。  
 
しかし全てを白状するか、開き直り、ふやけた中指を丹念に調べられる羞恥に耐えるかの決断は沙耶にはつけられず、彼女はそのまま、無言で悶えに悶えた。  
 
「…じゃ、もう何も聞かないでやる。ただし…」  
やっぱり… 沙耶はガクリと頭を垂れる。今度はどんな辱めが待っているのだろう。  
 
「立って。」  
桐也の指示に、沙耶はふらふらと従った。  
 
「これで、目隠し。」  
またもや彼のポケットから魔法のように一枚のバンダナが現れる。  
 
バンダナを手にとり、不安げな沙耶に桐也が言った。  
 
「大丈夫。触ったりしないから。」  
 
観念した沙耶は、桐也に背を向け目隠しを任せた。自分の動悸がやけに大きく聞こえる。  
 
「…じゃ、言うとおりにしろよ。」  
 
闇の中で沙耶は考える。  
桐也は約束を破ったことがない。触らないで何をされるのだろう? …いっそ、無理やり胸を揉まれたりするほうが、どれだけ楽だろう…   
先ほどの破廉恥な文庫本を思い出し、また乳首がキュンと疼いた。  
 
「…沙耶の前に、もう一人の沙耶が立っています。  
目の前の沙耶の頭はどの辺り?」  
 
不可解な問い。しかしもう憶測も止め、素直に沙耶は左手を上げて指さした  
 
「…この…辺?」  
「よし。次、おへそは?」  
「…ここ」  
 
不安のなか、この謎めいた儀式は不思議な恍惚を沙耶に感じさせ、彼女はやっと乾いた下着が再びかすかに濡れているのに気付いた。  
 
「…じゃ、沙耶のあそこは?」  
 
少し躊躇して、ゆっくりと指を降ろす。  
 
「ひゃあああ!?」  
 
突然、沙耶の指が生暖かいぬめりに包まれた。  
あたかも自らをまさぐったかように、そこは沙耶の指をぬめぬめと咥え込み、締めつける。  
 
 
「ああ!! あ、あ!!」  
沙耶の唇から明らかに驚きとは違う長い喘ぎが洩れ、膝がかくかくと震えだした。  
 
紛れもない暖かい肉の潤い。  
沙耶はその淫靡な感触に痺れたように動けなくなった。  
 
「…桐…也…」  
内股を熱いものが伝う。  
またもや訪れた、先刻以上の激しい昂まりに、沙耶の口から小さな喘ぎがせわしなく漏れる。  
 
「あっ!! あ、あ…」  
 
やがて、ぬるりと沙耶の指を解放した桐也の唇が低く問いを発した。  
 
「どうだった?」  
 
もはや止まらない疼きのなか、沙耶はうわずった声で答える。  
 
「…ぬるぬる、ぬるぬるだった…」  
 
「じゃ、本当の沙耶のあそこは?」  
 
沙耶の唇は今や従順に真実を告げる。  
 
「…ぬるぬる… 私も、ぬるぬる…」  
 
そして暗闇の中で、沙耶の腕は桐也を求めてぎこちなく伸びた。  
 
「…桐也…あたし、あたし…」  
 
虚しく空を掴む動作を繰り返す沙耶の耳に、パタン!!とドアが閉まる音が聞こえる。  
 
「ああ!! 待って…」  
 
慌てて堅く結ばれた目隠しを外すと、ヒラヒラとバンダナから一枚の紙が舞い落ちた。  
 
『本日ここまで』  
 
茫然と座り込んで、沙耶は泣きそうな顔で、また呟いた。  
 
「…桐也のバカ…」  
 
 
 
END  
 
 

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