『坂の上の村太郎』。  
背表紙にそう書かれた厚めの本を読み始めて、今日で4日。  
 
いつもはこの分量なら3日で読み終わるのだが、まだ半分も言っていない様子。  
 
「・・・ふぅ。」  
 
飽きてしまったのか、ため息をつくと同時に本を置いた。  
教室の隅という隔離された定位置に、最近になって新しい変化が起こったからだ。  
 
「ちっ、これも違うアイテムかよ。」  
 
朝の始業まで、先生に見つからないようにポケットゲームにいそしむ少年。  
自分と同じ、『ホウシャノウ』と言う存在が気にかかる。  
 
普通に言葉をかけ、普通に笑いかけてくれる。  
当たり前のことが、愛おしく、ありがたく感じている。  
信二の転校初日に彼の前で泣き出して去ってしまったが、翌日も変わらずに自分と接してくれている。  
 
「あー、ホウシャノウの奴、ゲームしてやがるー!先生に言いつけてやろーっと!」  
「勝手にすればいいじゃねーか。  
 お前のダチが持っている、カードゲームのデッキがどうなっても俺はしらねーけど。」  
「・・・けっ!」  
 
どうやらこのクラスの風紀は元からかなり乱れているらしく、その点を上手く突いている。  
実力行使に出れば返り討ちに出来ると言う寸法。  
自分をいじめないクラスメートを近くの席に置くように配慮されている事もあり、  
最近の遼は表立ったほとんどいじめを受けていない。  
 
・・・だが、今日は『ホウシャノウ』にとっての苦痛の日だった。  
黒板には、参観日と大きく書かれている。  
 
(ホウシャノウって、親いないだろ?かわいそーになぁ)  
(おいおい、もっと小さな声で言えよ。)  
(あ、やっべぇ、聞こえちゃったかなぁ?)  
 
 
耳に届く範囲の声でわざとらしく。  
『表立った』いじめが減っただけで、こういった陰湿なものはむしろ数を増やしている。  
その度に、涙腺を緩めてしまう。心が引き裂かれる。  
 
ただ。  
 
「・・・泣くな。堪えろ。」  
「!」  
 
隣で自分を守ってくれる少年。  
遼へのいじめを、快く思っていない、自分のすぐ前の席のクラスメート数人。  
彼らがいるから、辛うじて遼の心は折れない。  
 
 
そして、数学の時間。  
当然、遼には保護者が来るはずもない。  
 
・・・信二の両親も、いない。  
 
「あれれ、久遠さんと岩城くんのお母さんはー?」  
「氷田君、今はしゃべる時間じゃない。」  
 
氷田の嫌味を抑えるのに、先生も一苦労。  
実際、『ホウシャノウ』を作ったのは親御さんの存在もあるからである。  
 
自分の息子たちが放射線を浴びたら、セシウムを取り込んでしまったら・・・  
そんな有り得ない理由で、自分の子ども達に『ホウシャノウ』と関わるな、  
と言う方針の親も多い。  
 
もちろん、良識のある親御さんも存在する。  
その子ども達の席の配置は、ほとんどが『ホウシャノウ』の傍になっている。  
 
だが、2人は良識の無い親御さんの視線をしっかりと感じ取っていた。  
よく見ると、母親同士でコソコソ話をしている様子も見られる。  
 
・・・片方は、氷田の母親。もしかしたら、『ホウシャノウ』を作った真の人間はこの人かもしれない。  
ましてや、ヤドカリ援交の噂が立っている遼なら、さらに弾圧に拍車をかけるだろう。  
 
「先生!」  
「何だ、氷田君。」  
「俺達、日ごろの成果を母さん達に見せたいんだけど、机の横にお母さんを呼びたいんだ!」  
「ひ、氷田君それは」  
 
狙いは明らか。  
先生が止めようとするが、間髪いれずに援護が入る。  
 
「先生?私も近くで一馬の勉強ぶりを見たいんです。  
 せっかくの参観日。まさか、この提案を蹴られる、と言う事はないでしょう?」  
「いや、しかし、今日仕事で忙しくて、両親のいない子ども達も・・・」  
「2人を除いて全員来ているんです。  
 少数派を大事に扱うのもいいですが、それで足を引っ張られて大多数が迷惑こうむるのも変な話でしょう?」  
「しかし・・・そう、算数が苦手な子も中には・・・」  
「ええ。  
 だから、答えられない子どもに恥を欠かせないために、私たちがフォローに回るんです。  
 それとも、答えられなくて助けも求められない子どもをさらし者にして、楽しみたいんですか?」  
 
モンスター・ペアレントとはこの事だ。  
無茶苦茶だが、筋が通っているようにも見える。  
 
「しかし、それでは日ごろの努力の成果の発表と言う・・・」  
「子どもの自尊心を傷つけてしまう事が、教育上の最大の障害ですよね?」  
 
この言い合い、先生のほうがやや不利。  
どう説き伏せようか悩んでいる間に、  
 
「お分かりいただけたようで。  
 みなさん、子ども達のところに行きましょう。この提案に同意できない方は、どうぞおっしゃってください。」  
「あ、その・・・」  
「先生、なんでしょうか?」  
「あ、いえ・・・」  
「先生も賛同なされたようなので、行きましょう。」  
 
下手をしたら村八分。  
『ホウシャノウ』容認派はもちろん、否定派も子ども達のところに行かざるを得なくなった。  
 
「これで全員そろいましたね。・・・あら、教室の隅のほう・・・2人はまだきていないのね。  
 遅れてくるのかもしれませんが、かわいそうに。」  
(・・・。)  
「でも、誰かによって蹴り飛ばされた一馬が、もっとかわいそう。」  
(!)  
 
どうやら、転校初日の件を根に持っているらしい。  
だが、先生も何も言えない。逆らうと厄介な事になる。  
 
「・・・では、授業を続けます。」  
 
2人を『孤独』によって締め出す授業が、始まろうとしていた。  
 
「いやー、おくれてしまった。ここかな、お婆さん?」  
「信二君がいますよ、ここですねお爺さん。」  
 
その始まりを再び中断させたのが、先ほどの雰囲気に似合わない朗らか過ぎるこのやりとり。  
 
「あのお。道に迷ってしまいました。  
 ワシは、岩城信二の保護者代理で参りました、扇田ヤスシと申します。」  
 
まさかだった。特に氷田親子にとっては。  
岩城夫婦は生活再建に手一杯で、仕事詰めで参観日どころではないはずだ。  
(実際は今日は仕事が休みだったが、休息に充ててもらいたくて信二自身が参観を断ったのだが。)  
 
先生にとって、これは朗報だった。  
 
「あ・・・お、扇田さんですか、お待ちしておりました!  
 この授業では、保護者は児童の傍で参観する、と言う事になっておりますので、岩城君のところへどうぞ!」  
「はいはい、わかりました。」  
 
おじいさんが来る手筈だった、言う事をとっさ演じ、自然とおじいさんを机の傍に誘導する。  
もちろんおばあさんもそれについて行く。  
 
「あらら、おじいさんを呼んでいたのね、良かったわねー、年老いたおじいさんが来てくれて。  
 若いお父さんやお母さんが来てくれなかったのは残念でしょうけど、せめてもの救いねー。」  
「・・・いい加減うるさいぜ、氷田のおばさん。」  
 
普段は家族と遼以外には口を利かない信二だが、珍しく口を開いた。  
 
「お、おば・・・  
 けど、かわいそうに。久遠さんのお母さんはいつ来るのかな?もしくは、一生来なかったりして♪」  
「!」  
 
遼の家族が他界していることは当然耳に入っている。  
人の心を土足で踏みにじる氷田の母親の言葉に、瞳の堤防は決壊寸前だった。  
 
が。  
 
「おいおい、何言ってるんだよ。  
 遼の保護者なら、とっくに来ているぜ。」  
「あら、何言ってるのかしら、岩城君。どこにそんな人が・・・」  
 
・・・氷田の母親の視界には、遼の傍に寄り添う一人の女性が見えた。  
 
「これは申し遅れました。  
 私は、遼ちゃんの保護者代理、扇田トメ子と申します。」  
(・・・!?)  
「遼ちゃん、今日はがんばってね?」  
「あ・・・はい。」  
 
いくら血のつながりが無いとは言え、氷田の母親にとっては誤算だったろう。  
その表情を見ると、とたんに信二がにやけた顔で、  
 
「おばさん、これで全員そろったね。いい授業が出来そうだよ。」  
「・・・え、ええ。そうね。あなたのおかげでね・・・」  
 
全ては信二の仕組んだ策略。  
こうなる事を見越して、遼が悲しい思いをしないように考えた、信二の起死回生の一手。  
 
 
「先生。とびっきり難しい問題を出してくれよ。俺たちががんばって解くからさ。」  
「あ、ああ、わかった。それじゃぁ、第1問!」  
 
 
黒板に書かれた数式は、10÷0。  
 
混乱の中で氷田の母親を含め多くが0と答えたが、唯一の正答を叩き出した遼が、その授業の主導権を握った。  
 
 
給食の時間は、グループで一緒になって食べる。  
信二とおじいさん、遼とおばあさん。そして『ホウシャノウ』を否定する佐久間、庄田親子。  
 
「すごかったね遼ちゃん。あんな問題を解くなんて。」  
「あ、いえ・・・」  
「国語の教科書の音読、あれほどいい声で読めるなんてすごかったよー。  
 うちの馬鹿にも見習わせないと。」  
「か、母ちゃん!」  
 
口々に、佐久間、庄田の母親が遼を褒め称える。  
算数の問題で自信をつけた遼の、教科書の音読は天使の歌声を聞いているようだった。  
 
 
恥ずかしさの中に、確かな嬉しさ、誇らしさが芽生えていた。  
 
 
「遼ちゃん?」  
「あ、はい、おばあさん?」  
「これからも、信二くんと、仲良くがんばってね?」  
「あ・・・は、はい!」  
 
そして、自分でも気付かないうちにしていた久しぶりの笑顔は、とびっきりの可愛さを湛えていた。  
 
 
 
10÷0。  
この難問に、教室中が『分からない』の声でざわつく中。  
 
「皆さん分からないんでしょう?答えは簡単、0ですよ。0で割るんですから。」  
「はい、氷田君のお母さんは0と答えましたが、0だと思う人?」  
 
多くの人が手を挙げる。  
同調などではなく、本当に0と思った人がほとんどのはずだ。  
 
「じゃぁ、ほかに答えがある人!・・・おや、久遠さん?」  
「ちょっと待って下さい。久遠さん、私の答えが合っているのがいやなんでしょう?  
 そんな抵抗しなくていいから・・・」  
「・・・そんなんじゃ、ないです。」  
「まぁ、とにかく、久遠さんの答えを聞かせてもらえるかな?」  
 
氷田の母親の妨害を乗り越える。  
それが、自分のためにここまでしてくれた信二への、遼なりの恩返しだ。  
 
「・・・答えは、ありません。」  
 
 
 
その恩返しが、見事に信二の思いに答える結果につなげられた。  
・・・だから、遼は笑った。自分を誇った。  
 
自分は『ホウシャノウ』なんかじゃない。信二の最高の友達なんだ。  
 
 
「今日さ、ウチに来ない?」  
 
西小に来て、初めてお誘いを受けた。  
お相手はもちろん、信二に他ならない。  
 
「え?でも・・・  
 ・・・ううん、いいよ・・・」  
 
信二の計らいを遠慮するのも無理は無い。  
そんなところを見られたら、家族ごと袋叩きに会うのは目に見えている。  
 
「おやおや、家族のいる家に帰るのは、当然の事でしょう、遼ちゃん?」  
「・・・おばあさん?」  
「はっはっはっ、婆さんや、今日はすき焼きにしようかのぉ!」  
 
だが、そんな不安などこの老夫婦は意に介さない。  
もともと、自らの意思で被災者を家に入れる事にしたのだから。  
老い先短い命、例え襲われようが何されようが、知った事ではない。  
 
 
ぐつぐつと煮える肉。茶色く味のしみこんだ肉。  
扇田家のすき焼きは大盤振る舞い。鍋の具の7割は肉である。  
 
もちろん、家族全員で鉄鍋を囲む遼の幸福度は10割。  
ちなみに、今頃街中で遼を探しているお兄さんの幸福度は0割。  
 
「おいしい・・・です」  
「んだよ、遼!もっと食え食え!」  
 
学校ではおとなしい信二も、家に帰れば180度変わる。  
それほどの暖かさが、この家にはある。  
この家には5人もいる。お兄さんは寂しい一人暮らし。こっちのほうが断然・・・  
 
 
・・・ふと、一人寂しく自分の事を待っているお兄さんが脳裏に浮かんだ。  
けれど、そもそもお兄さんのところにいく義務は無い。今日ぐらいは外泊したって許してくれるだろう。  
 
・・・外泊と言う言葉を心の中で使った自分は、お兄さんに依存し始めているのかもしれない。  
今なら、まだ間に合うのかな。この家族に入り込めないかな。  
 
自分でも、いけない生活をしているって分かってる。  
今なら、まだ間に合う、この家族に・・・  
 
 
でも、迷惑なんじゃ・・・  
 
「・・・遼ちゃん?」  
「え、はい?」  
「どうしたんだい、遼ちゃん?泣いているの?」  
 
信二の両親が心配そうに見つめている。  
その理由はただ1つ。いつの間にか起きていた、遼の瞳の洪水。  
 
「あ、いえ、なんでもないです・・・」  
 
自分の心を負って、希望を胸のうちに仕舞い込む。  
これでいい。今の自分には、帰れる場所がある。  
 
・・・仮え、帰る「べき」場所じゃなくても。  
 
久遠が夜の街で遊んでいる、と言う噂は立っていたが、ヤドカリ援交の事まではまだ知られていない。  
待遇が悪いとはいえ、親戚の家に預けられている・・・クラスの見解はこんな感じだ。  
 
「いいのかい?泊まっていってもいいんだよ。」  
「いえ、家に帰らないといけないので・・・」  
「そうか。」  
「いつでも来いよ遼。まぁ、すき焼きはそうそう食べられはしねーと思うがな。」  
「うん、ありがと。」  
 
5人の家族に見送られ、家を後にする。  
 
今からでも、お兄さんは家に入れてくれるだろうか。  
そんな心配をしながら、ネオンの輝くほうへ歩き始める。  
 
 
(確か、ここ・・・)  
 
高層マンションに似使わない物置部屋。お兄さんの部屋を一言で説明するとこうなる。  
もうあと200m・・・そこには、落とし穴が待っていた。  
 
「よぉ、かわいこちゃん!」  
「こんなとこで何してんだぁ?」  
 
ガラの悪い不良。  
当然、狙いは遼の爆乳。  
 
身長も150ほどあるため、高校生に見られてもおかしくは無い。  
 
「・・・と、通して・・・」  
「ランドセルなんて、コスプレかよ。  
 まぁいいや、こっちに来いって!」  
 
逃げようとしても、無駄。  
両肩をつかまれ、抱かれてその体は宙に浮く。  
そのまま、そばにある公園の草むらの中へ。誰も助けになど来ない。  
 
「おい、周りに誰もいないな?」  
「あぁ、けど、いつ誰が来るかわからねぇ、とっとと終わらせろ。」  
「りょーかい♪  
 じゃ、はじめよっか。」  
 
信二の家に、泊まって置けばよかった。  
・・・いや、夕食をご馳走にならずに、お兄さんのところに行けばよかったかな。  
 
 
でも、結局は同じ末路。  
 
 
「うほおっ、美味そうなおっぱい♪」  
「おい、やっぱ俺も参加させろ!」  
 
やっぱりだ。  
『ホウシャノウ』が持っている唯一の価値は、  
 
「我慢できねぇ、いっただっきまーす!  
 ・・・ん、なんかビラビラしてんな・・・処女じゃねーのか。ま、どーでもいいけどよ。」  
「こんだけの身体してる奴が、ヤってないわけねーだろーが?  
 んじゃ、俺はおっぱいで挟ませてもらいましょー、へへっ」  
 
男を満足させる事ができる、この身体だけ・・・  
 
 
「・・・くうううううっ!?」  
「うお、きっつ!こりゃ処女だぜ!」  
 
痛い。  
 
体が引き裂かれる。  
 
熱い。  
 
胸がこすれる。  
 
辛い。  
 
・・・何も、見えない。・・・何も、感じられない。  
 
 
・・・。  
 
 
 
何も覚えていない。けど想像はついている。  
 
小学生の花弁に容赦なく叩き込む、巨大な大人の肉棒。  
今も膣が引き裂かれる痛み、そして自分のモノではない液体の感触にさいなまれている。  
 
小学生に似合わぬ爆乳に包み込まれた大人の肉棒。  
摩擦熱と、体温を湛えた白い液体の存在を胸に感じている。  
・・・こんな単語がズラズラ並ぶなんて、エッチな小説の読みすぎかな。  
 
未だに大事な部分を隠せずに捲くれている服を、調える気にもならない。  
痛みと、・・・例えようもない脱力感にさいなまれている。  
野外露出している事による高揚感に加え、自分はもうどうなってもいい・・・そんな諦めの気持ちから。  
 
もし誰かがこの姿を見つけようと、抵抗する気など起きないだろう。  
自分はもう使い古された価値のない・・・いや、忌み嫌われる使用済み核燃料。  
使いたいのなら使ってくれ。  
 
 
・・・、どうせならもう堕ちる所まで堕ちてしまおう。  
せめて、自分に笑顔をくれた、あの人のことを想いながら・・・  
 
「んあっ!」  
 
先ほどの肉棒が大きすぎたのか、指がするりと入る。  
再び視界がぼやける。その視界の中に、あの少年の顔が映る。  
 
「・・・信二、くん・・・」  
 
幻だなんてことは百も承知。  
けど、好きな人の事を思いながら一人でしたって、罪じゃないよね?  
 
「信二くんの・・・精液・・・」  
 
さっき誰が襲ってきたかなんて覚えていない。  
いや、信二くんが襲ってきたんだ。そうに決まってる。  
 
「信二・・・」  
 
お願い。  
もっと、愛して。体だけでも・・・  
 
 
 
・・・。  
 
 
 
 
ここは、どこだろう?  
 
体を包む、ふわふわの何か。  
・・・この感覚、地震の前は毎日感じてたような・・・  
 
「・・・や、藪医者さん!目ぇ覚ましたぜ!」  
「だからそれはやめろ!  
 とりあえず、学校に報告してくるから。」  
 
・・・この声、知ってる。  
ううん、この声は、あたしの一番好きな声だ。  
 
「・・・信二、くん?」  
「おう、お目覚めか?よっぽど疲れてたんだな、もうお昼だぜ?」  
 
昨日、何してたんだっけ?  
そうだ、男の人に公園で・・・あれ、でもじゃぁなんでお布団で寝てるの?  
 
「ええと・・・」  
「ここの藪医者がよ、遼を見つけて、ここに連れてきたんだ。  
 で、遼が寝ながら俺の名前を呼び続けたって事で、その・・・」  
「?」  
「お、俺がそばにいて、遼が元気になるならな、学校だって抜け出してやったぜ。」  
 
・・・そっか。全部夢じゃなかったんだ・・・  
でも、おかしいな。何であんな事があったのに、あたしは今嬉しいって感じてるんだろう。  
 
 
 
数分後、藪医・・・医者をやっている藪が現れた。  
 
「うん、学校には連絡しといたよ。  
 おはよう、遼ちゃん。」  
「・・・だれ?」  
(一度僕の姿を見た事はあるんだけど・・・まぁいいか、そのほうが都合がいい。)  
 
下手に更正の2文字を前面に出しても、逆効果極まりないだろう。  
 
「僕はお医者さんだ。君を公園で見つけて、びっくりしてね。  
 警察に言おうか迷ったが・・・」  
「え、警察・・・」  
「いや、プライバシーの問題とかもあるから、言っていない。  
 とにかく、あんなところで寝ていたら、風邪引いちゃうから、ここに勝手に連れてきたんだ。」  
 
警察沙汰になると、遼にとっては面倒。  
それは少女更正を何年もやっている身としてよく分かっている。  
 
だが、性暴行事件を黙っているわけには行かないので、遼に射精、付着した精液、粘液のみ警察に送った。  
警察も藪のこれまでの実績から全幅の信頼を置いており、  
少女達の身分を警察に伝えたくない薮の気持ちを汲んで、少女の取調べは行わないようにしている。  
 
また、射精直後なら低いリスクで避妊をすることは可能。  
だから、遼にこれまでのツケが回る心配は無い。  
 
「えっと・・・」  
「ごめんね、裸を見ちゃって。  
 ・・・ずいぶんと、痣があったね。」  
「あ、・・・はい。」  
 
裸を見られた、と言う感情から上手くずらす事ができた。  
そう、今解決すべき問題は、そもそも虐待を受けていた遼の処遇だ。  
 
「どうだろう、しばらくここで暮らさないかい?  
 不自由はさせない、ここなら信二くんも会いにきてくれる。」  
「・・・やっぱり、ですか。」  
「?」  
「・・・おじさんも、あたしの事を・・・」  
 
これはしまった、しくじった。  
ヤドカリ援交をやっている遼なら、そう考えるのはいたって正常。  
 
「・・・別に、いいですけd」  
「ははは、いや、これはごめん。そう思うの無理は無いよね。  
 心配しないで。今後、僕は君には会わない。  
 看護婦さんにお世話をさせるから、その心配は無いよ。」  
「え・・・それが目的なんじゃ・・・」  
「まぁ、独身だからそう思われるのも無理は無いか。  
 でも、もう君には会わない。伝えたい事は、全て看護婦さんに伝えてもらうから、大丈夫。」  
 
遼は静かにうなずいた。  
状況が飲み込めないが、自分にとって悪い話じゃない、と言う事くらいは分かる。  
 
もう会わない、と言った以上、薮は即刻退室。  
明日から学校に通うようにね、とだけ言い残して。  
 
信二がいる限り大丈夫、その存在が、更正につながると言う確信を持って。  
 
「で、俺は学校に戻るけど。明日からいつも通り学校に来いよ?」  
「・・・。」  
 
公園で寝ていた。信二が聞いたのはそれだけだ。  
家がなく、寝るところにも事欠く有様・・・そんな事を聞いていた。  
 
「だからさ。」  
 
ただ、今はそれよりも気になることがあった。  
 
「手、離してくれない?」  
「やだ。」  
「いや、でも授業が。」  
「サボって。」  
 
これほど手首を強く握れるものなのか。  
一言で言うと、痛い。隣の席の女の子に、これほどの握力があったのか。  
 
「・・・なんで?」  
「一緒にいて、欲しいもん。  
 あたしがこうやってちゃんと話すのは、信二の前だけなんだからねっ!」  
 
大きな声、はっきりとした口調。  
他の人がいる前では決して見せない、学校内でも信二のほかに周りに誰もいないときのみに聞ける言動。  
 
・・・見せないのではなく、見せる事ができない、と言った方がいいか。  
被災前の自分を取り戻してくれるのは、信二だけ。  
 
「・・・やっぱり、ダメ?」  
「ええっと、その・・・」  
「・・・ううん、ダメなんて絶対言わせない!」  
 
刹那。  
つかんでいた右手を強引に引っ張り、頭部を抱き寄せた。  
 
もちろん、誰の頭部かは言うまでもあるまい。  
 
「むぐ!?」  
「あたしのおっぱいを、みんながエッチな目で見る!それが嫌だった!  
 エッチされるのだって嫌だった!」  
「!?」  
「昨日もそうだ、みんなから虐められるあたしは、エッチな事をする為の人形でしかない。  
 どうでもよかった、誰から何をされたって・・・」  
 
思いの丈を、すべて吐き出す。  
 
「けど、やっぱりやだ!どうでもいいなんて、思いたくない!  
 だって、だって・・・」  
 
なぜなら、目の前に信二がいるから。  
 
「信二の前で、自分を大事にしないあたしを、見られたくなんか無いっ!」  
「!?」  
「あたしにこんなによくしてくれた信二を・・・あたしに本当の楽しさを教えてくれたあなたを・・・  
 裏切りたくなんて・・・」  
「・・・。」  
 
一体、遼に何があったのか。  
信二にはよく分からなかったが、ただ1つ言える事は。  
 
この子が、自分を必要としていると言う事。  
 
「・・・リセット、したい。」  
「?」  
 
何をリセットしたいか。そんな物言うまでも無い。  
堕ちていた自分を、大好きな男の子に恋する、普通の女の子に戻したい。  
 
けれど、快楽を求める身体が、疼く。  
エッチな事は嫌いだったが、身体は気持ちよかった。昨日もそうだった。  
嫌な事で気持ちよくなる自分がいやだったが、身体はそんな自分の意思を聞いてくれない。  
 
だから、この矛盾した2つを止揚する方法は、1つしかない。  
それが出来る、絶好の機会。だから信二の手をつかんで離さなかった。  
 
「信二とエッチしたい。」  
「・・・はあっ!?」  
「今までの事全て忘れる。今ならそれが出来るから。  
 それで、信二とエッチして、信二とだけとエッチしたって、自分に自慢するんだもん。」  
 
信二を捕らえる左手は使えないが、右手だけで器用に着ていたTシャツをまくり、ブラを外す。  
ブラは大人でもなかなか売り手が無いような巨大なブラ。  
そこからあふれるHカップが、引き続き信二の顔をうずめて離さない。  
 
・・・そして信二も、抵抗しなかった。  
これは、自分から望んでいた事なのだろう・・・そう気づき始めたから。  
 
「・・・遼ちゃん。」  
「なあに?言っとくけど絶対に、離さないよ。」  
 
これから、信二をとことん味わいつくす・・・  
拒否しようとも、その信念を押し通す。  
 
・・・だが、信二はその逆をついた。  
 
「・・・エッチな事して、いいんだな?」  
「えっ・・・やっ!」  
 
 
脇をくすぐって自分を抑えていた左手から解放した瞬間。  
 
乳首にしゃぶりつき、左手で右の乳首をつまむ。  
左利きの信二が、片手で乳首をいじったかと思えば、右の乳房全体を扱くように揉む。  
 
「待って、信二!?あなた、信二だよね!?」  
「・・・ああ。」  
「ああって・・・んっ!」  
 
まさか、信二も。  
お兄さんや、昨日の不良と同じ輩なのか。  
 
 
・・・けど、それでも。嫌な気分は何一つ無い。  
自分が誘うまでは手を付けなかった、自分が望んだから、とかじゃなくて。  
自分の好きな人が、ただひたすらに自分の体を求める光景が、見ていて気持ちいい。  
 
「もっと、好きに・・・して」  
 
下半身に手が伸びる。  
指が内部に入り込む。  
・・・その指が、的確に刺激を送り込む。  
 
「ふぅ・・・っ!」  
 
Gスポットを直撃。  
一気に脳幹が揺さぶられ、視界がぼやける。  
お兄さんも、他の人も、こんな技は持ち合わせてなどいなかった。  
 
「あ・・・ああああっ!」  
 
さらにGスポットに連撃を加えられ。  
手には力が入らない。下半身は痺れて動かない。  
 
そして、とどめにクリトリスを摘まれ。  
 
「―――――っ!」  
 
言葉にならない悲鳴。悲鳴にならない言葉。  
陰部に込めていた力を強制的に取り除かれ、そこから大量の放水。  
 
「お、・・・おしっこ・・・」  
「心配すんな。こいつは潮だよ。」  
(・・・え、潮?)  
 
そう言い渡されるのと同時に、ぼやけた視界の中から、ズボンをずらす信二の姿が。  
・・・本人は、とうに本気。遼も、それを遮る気はない。  
 
(・・・これで、堕ちずに気持ちよくなれる・・・  
 好きな人とだったら、なんどやったって、いいもん・・・)  
 
・・・だが、すぐには入れなかった。  
代わりに、肉棒に何かを仕掛けている。  
 
(・・・あれ、お兄さんもしてた・・・え、コンドーム?)  
 
なぜ、そのようなものがあるのか。  
・・・いや、そんな理由どうだっていい。自分を大事にしてくれる思いが、嬉しい。  
 
「・・・入れるぜ。」  
 
熱く迸り、お互いを締め付ける。  
つながった部分も、乳首も、そして唇も。  
 
お互いが、動けなくなるまで、何度も、何度も求め合った。  
 
 
その頃。  
 
「ふぅ・・・遼ちゃん、昨日は来なかったな・・・どうしたんだろう?」  
 
今日は仕事が休み。  
彼女がいるわけでもなく、オタクはオタクらしく自宅を警備している。  
 
そんな時、チャイムが鳴る。  
自分を誰かが訪ねてくるなど、珍しい。  
 
「はい、どちらさんですか?」  
「警察の者です。逮捕状が出たので、警察まで来てもらいます。」  
「・・・え?」  
 
自宅警備員を訪ねて来たのは、日本警備員だった。  
 
「・・・ぁ・・・ぁ・・・。」  
「大丈夫か?」  
「・・・ぅ、うん。・・・ありがと。」  
 
第一声が、感謝の言葉。  
自暴自棄になっていた自分を、身体ごと救ってくれた存在に対する、ふさわしい言葉はこれしかなかった。  
 
「・・・それは、俺の言葉だ。」  
「あたしの身体、気に入ってくれたの?・・・それならよかった。  
 これからも、どんどん楽しんでね。」  
「・・・。」  
 
信二は軽くうなずく。が、どこか悲しそうな目をしている。  
・・・そこには、嬉しいと言う感情以外の感情が確実に織り交ざっていた。  
 
「どうしたの?」  
「・・・いや、なんでも、ない・・・」  
「・・・そっか。」  
 
お互いに、心に大きな傷を負っている。こういうときは、そっとしておいたほうがいい。  
話題を変えようとして、1つ、別の気になったことを聞いてみた。  
 
「そういえば、あのコンドーム、どこにあったの?」  
「!」  
「まさか、この部屋・・・あのおじさん、あたしを・・・」  
 
自分を襲うためのコンドーム。  
一抹の不安、勘違いを放置する事は、流石にまずい。  
 
「い、いやいや違う、それは・・・」  
「え、それって?」  
「あ、いや、その・・・」  
 
隠し事は、時に他人に迷惑をかける。  
だからもう、話さないわけに行かない。  
 
「・・・それは、俺の・・・」  
「信二、くんの・・・?」  
 
信二がうつむき、覚悟を決めてうなずく。  
薮医者のためだけじゃない。  
 
このコンドームは、自分を受け入れてくれた大切な存在に、向かい合うために必要だから。  
 
 
「俺の大事な・・・形見、なんだ。」  
 
 

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