ハルカです。
今日は土曜日のお休み。まったりと1人の時間を満喫しています。
朝ごはんを作って。
洗濯物を干して。
寮の部屋を掃除するとあっという間にお昼になってしまう。
そういえば最近、ちょっと困ったことが起こっている。
お小遣いが心もとない。
いや、無駄遣いをしているわけじゃないですよ?
ボクがお金を使う時なんて食事と生活必需品とそれにせいぜい、週末に部活の女の子と遊びに行く程度。
ちょっと遠くのアクセサリショップとかユニクロとかで服やら小物やらを物色するけれど、
学生のボクらが派手に浪費することはない。
ところがこのところ、すごい勢いで生活必需品のひとつ……下着やシャツやがすぐなくなるので、
買わないといけなくなった。
ボクの身体が大きくなったからじゃない。無断で持ち出されているからだ。
犯人は、ボクの在籍する手芸部の何十人か。
例の添い寝が原因だった。
毎日立ち代り入れ替わり、2人か3人の女の子と一緒に夜をすごしているボク。
それはもう、1ヶ月以上も続いている。
年頃の男女がひとつ屋根の下にいれば、どういう流れになるかは自明の理だ。
みんなボクのことが大好きなわけで。
ボクもみんなのことがけっこう好きなわけで。
翌朝になると高い確率で、いろいろなものがいろいろな液体で汚れてしまう。
そんなボクの汗やら恥ずかしい体液やらがついた下着類は、女の子たちに絶大な人気があるみたい。
だから下着類がなくなってしまう。そうしてなくなったものは補充しないといけない。
シャツなしでの生活は、けっこうきついからだ。
同じ状況になればわかる。誰でもわかる。
ところで。
『かぜがふけばおけやがもうかる』
その呪文を編み出したはどこの賢者なのかしら。
長くなったけれど、今までのは前置き。
新たな事件が起こってしまうことのきっかけの説明。
女の子たちによって持ち帰られた、ボクの匂いが染み付いた下着。
それが今度の出来事の、引き金になっていた。
げつようび。
校門をくぐると、そこは戦場だった。
恋する乙女たちがたった1人の少年を取り合う危険な場所だ。
その当事者になっているボク。いえ、別に自慢じゃありません。
毎度毎度、突き刺さる男子の視線が痛いけど。
「おはよー」
「おはよう、ハルカ」
「あ、おはようございます」
仲の良い、何人かの先輩やクラスメイトに下駄箱で挨拶を交わす。
その際にボクの手をぎゅっと握られたり頭を撫でたりされるのはいつものこと。
発展系で、ほっぺにちゅーされるのもままあること。
ところがボクに近づいて、そうした女の子は。
「ん……いい匂い……」
みんながみんな、台詞は違うものの同じ主旨のことを呟いていた。
「ん? ボク、臭うかな?」
「う、ううん。何でもないの」
僕が聞くと、あわてて首を振る女の子。手芸部所属のクラスメイト、叶(かのう)鈴夜ちゃん。
中肉中背。学力普通。ボクの印象は、可愛いけれど平凡な女の子。
髪の毛は首にかかるくらいで、たまにカチューシャで前髪を留めてたりする。
くりくりとした大きな目がチャームポイントだ。
鈴夜ちゃんは学校の美人ランキングで中くらいの子だった。
けれどそもそも相当に可愛いか、美人でなければランキング投票にノミネートされない。
さらに言えばうちの学園、入学条件に容姿があるんじゃないかと勘ぐられるくらい、
美人や美少女が集まっていると評判なところだったりする。
そんな人たちの中でも、上位の大多数に告白されているボクの存在が一番ご都合主義的なんだけれど……。
閑話休題。
その時。
ボクに近づいて、ボクの匂いを嗅いだ女の子たちは、みんな決まってふにゃりと幸せそうな顔をする。
けれど次の瞬間には顔を真っ赤にさせて、ボクから目をそらして慌てて距離をとろうとした。
その足取りは、非常に怪しい。
身体をくの字に折って前かがみになり、お酒に酩酊した人のようにふらふらとおぼつかない。
「ぁ……」とか。
「んっ……くっ……」とか。
何かをこらえるような、苦しそうな声も聞こえてくる。
それでいて、ボクが手助けしようとすると恥ずかしそうに首を振って逃げようとした。
これはどういうことだろう?
朝のみんなの態度を不思議に思いつつ、教室に入り一時限目の授業を受けた。
「ん……はるか……」
名前を呼ばれ、ボクは振り返る。
鈴夜ちゃんが、自分の席につっぷしていた。
朝にも聞いた、囁くような、こらえるような声をもらしている。
それはくぐもっていて、見ると手で自分の口を必死に抑えていた。
口を抑えていない方の手は、机の下に置かれていて、不自然に動いている。
そこでボクは、ようやく気づいた。
自慰をしていた。
違う。
重ねて言う。今までとは、違う。
指先の動きに連動させて、女の子を感じさせる能力も。
ボクが発情したら、周囲の女の子を発情させてしまう能力も。
周囲の男に気づかれない範囲で、という縛りが存在していた。ところが今回はそれが感じられない。
現に数名の男子が気づいて、鈴夜ちゃんの方を盗み見しながら耳をそばだてている。
「やぁ……このままじゃみられちゃ……」
相当テンパっているんだろう。鈴夜ちゃんは頭で考えていることを、口に出している。
それでいてスカートにもぐりこみ、秘所をいじくる指の動きはあからさまに続いている。
普段はぱっちりとした瞳がぎゅっと閉じられ、リップクリームを塗っただけの唇からは断続的に、
なまめかしい声が聞こえる。
くちゅっ……。
「だめぇ……でも、とまらないよぅ…なんで……あ、ふぁ……」
先生が板に数式を書く音と、それをノートにとる生徒たちの音に紛れ、くちゅくちゅとえっちな
水音が聞こえはじめた。
「ぁ……ぁっ」
にやにやと、好色な笑みを浮かべる男子たち。
ボクも男だから、その気持ちは痛いほどよく分かるけれど。
ボクのことを好きといってくれて、それなりにえっちなこともしている女の子が乱れている姿を、
他の男になんか見せたくなかった。
「いや……ぁ、……やぁ……」
恥ずかしさと身をあぶる快楽の炎に、顔を真っ赤にさせて、鈴夜ちゃんはあえぎ混じりに、
イヤイヤと首をふる。
学校では特には目立たない、けれど可愛らしいその顔が、羞恥と興奮にゆがんでいる。
手で押さえた唇の端から、だらしなくよだれがこぼれていた。
今までの例をかんがみるに、それはたぶんボクのせい。
きっと朝、ボクの匂いを嗅いだから。鈴夜ちゃんはこうなってしまっている。
だからボクが、責任をとらないといけない。
「先生!」
決定的な事態になる前に、ボクは手を上げる。周囲の注目が集まるのも関係ない。
そして内心でごめんなさいと何度も謝りながら、ボクは肉を斬らせてでも骨を守る方法をとった。
「鈴夜ちゃんが風邪で苦しそうなので、保健室に運んできます!」
まだ気づいていなかったクラスメイトたちが、いっせいに鈴夜ちゃんを向く。
その視線をボクの身体で隠すようにしながら、ボクは先生の返答を待たずに彼女を立ちあがらせ、
教室を後にする。
席が近かったのが幸いして、彼女の決定的な姿を隠すことだけはなんとか成功していたようだった。
「あり……がと。ハルカくん」
運ばれる途中、鈴夜ちゃんは苦しそうに言いながら、ボクの頬にちゅっとキスをする。
好き、と囁かれた気がする。
抱きついてくる鈴夜ちゃんの、胸の柔らかさも女の子のえっちな匂いも気になるけれど、
ひたすら我慢。
保健室までこらえて、というと、鈴夜ちゃんは苦しげな顔に喜色を浮かべ、頷いた。
その後ボクは、彼女を連れた保健室で、鈴夜ちゃんと同じようになった女の子の相手をすることになるのだけれど。
それはまた、次の話。