ハルカです。
説明するのも今さらなのですが。
ボクはよく、女の子と間違われます。
男子の制服を着ていると、コスプレと呼ばれます。
遊びに行くと、よく男にナンパされます。
ええ、まったく失礼しちゃいます。
そんなボクですから。
同年代の女の子と一緒に眠るようなことになっても、服を身に着けている限りは
”仲がいいのね”
で、処理されてしまう。
だからこれはせーふなのかしら?
ボク、現在、学校の保健室にて女の人のひざ枕にて睡眠ちう。
いま、目が覚めた。
ボクも女の人も、お互いに制服を着ている。
ボクは男なのでもちろん学生服で、ひざ枕をしてくれる人は学園指定のブルマー姿。
至近距離、というかボクの頭の下でふにふにですべすべな生足に、見上げても相手の顔が
見えないほど大きな双つのふくらみが触覚的にも視覚的にも毒だった。
「だいじょうぶ?」
柔らかい声音の、けれどとても透き通った声。聞き覚えのある人の声だった。
「ふえ……?」
ボクは自分でも分からないつぶやきを漏らした。
あれから何がおこったんだっけ。
確か身体の調子が悪くなった鈴夜ちゃんをおぶってココまで来たはずなんだけれど。
保険の先生がいなくて、代わりに鈴夜ちゃんみたいに熱に浮かされた女の子がたくさんいて。
みんなにキスをねだられて仕方なく、というか断れずにというかちゅっちゅっちゅっちゅしていたら、
だんだんと貞操が危なくなったところまでは覚えているけれど。
いったいどういう流れで、ボクは瀬羅先輩にひざ枕されているんだろう?
「大変だったのよ、あれからみんなを正気に戻すの」
先輩の手が、ボクの髪の毛を撫でる。
その指はピアニストのように柔らかく繊細で、髪を梳くようにされると猫の気分がよく分かる。
とてもとても心地いい、先輩のゆび。
あたまがふわふわする。
「はふぅ……」
変な声が漏れた。瀬羅先輩はくすりと笑う。
大和撫子みたく清楚で、京人形のように整った顔がほころぶのを見ると、何だか赤面してしまいそうなほど面映い。
ボクは首と視線を動かして、先輩の太股から起きないまま周囲を見渡した。
誰もいない。ふたりきりだ。つれてきたはずの鈴夜ちゃんもいない。
「一体これはどーいう?」
起きようとしたボクの肩に手を置き、先輩が制した。
すとんと膝の上へ落下する、ボクの頭。
ああ、柔らかい……。
開いた窓からはそよ風がカーテンをなびかせ、ボクの髪をくすぐっている。
「そのまま、休みながら聴いて」
なでなで。
なでなでなで。
ボクの眠気を促すように身体を撫でる先輩の手。
「うん……」
うなずくボク。
まぶたが落ちるかける。眠ってしまいたい。
とろとろとまどろんだ意識の中、先輩の声は静かに染み入るように伝わってきた。
「今まで、ハルカくんの匂いにあてられた人たちを治してたの」
さらりと言う先輩。
どうしてとか、どうやってとか、なんで先輩がとか、色々聞くべきことはあったはずだけど。
「そうなんだ……」
思考を眠気に支配され、ボクは生返事を返していた。
先輩のひざが、やわらかくて気持ちいい。
ブルマを履いただけの生足に手を伸ばすと、その手触りはすべすべでぷにぷにだった。
さすり。
手触りを楽しむように、さわる。
先輩が嫌がったらすぐやめるつもりだったけれど、特に怒ったそぶりも困ったそぶりもない。
続けると、先輩が小さく声をあげた。
「んぅ……ふぅっ……」
なまめかしい声とともに、ぴく、と先輩の膝が動いた。
先輩は逃げない。
ボクはそのまま、温かい枕の上に頭を乗せている。
やめてとは言われなかったので、手は太ももをさすり続けていた。
張りのある先輩の脚は、少し日に焼けていて、暖かくて、いい匂いがする。
「こういうこと、好きなの?」
やさしく、ボクの頬をなでながら。
柔らかい声で先輩がたずねる。
ねむたさに朦朧とした瞳で見た先輩の表情は、微笑だった。
「ハルカくんは、えっちな女の子はにがて?」
「わからない」
普段なら赤面して答えられない質問だったけど、ボクはまどろんだ意識に押され、本心を告げる。
「うれしいけど、ちょっとこわい」
「そう」
「でも、部活のみんなのことは好きだよ。先輩は……大好き」
「……」
心なしか。
ひざから伝わる先輩の体温が、上がった気がした。
「ひぅ!」
すっとんきょうな声をあげるボク。
先輩に頬をつねられた。爪はたてられていないけれど、ちょっと痛い。
「なんれすかー?」
「お、し、お、き。みんな、生殺しに焦れてきてるのよ。ただでさえ最近、ハルカくんも悪乗りして、
あんな……えっちないたずらして……」
「はぅ」
台詞の後半、先輩がいいよどむ。
影になっていてはっきりとは分からなかったけれど、瀬羅先輩の頬には朱がさしていた。
確かに、ここ最近のボクはただれている。
先輩にもえっちなことをしてしまった。
だって綺麗なお姉さんが夜に添い寝してくれるんですよ?
手を伸ばせば触れる距離、顔を近づければ簡単にキスできる距離で。
ちょっと寝返りをうったら背中に先輩の形のいいふくらみが当たったわけで。
身持ちが固くてみんなが暴走した時の歯止め役になっている瀬羅先輩だから、流石に下着はつけていたけれど、
けれどそれがかえってボクの興奮を駆り立てたわけで。
ええ、偶然を装って手で触ってしまいましたよ。先輩のふくらみに。
途中、先輩が目を開けて「いたずらはダメ」と、でこぴんされてしまったさ。
それから、これ以上変なことをしないようにって言って。
ぎゅっ、とボクのことを一晩中抱きしめてくれた。
肌を触れ合うほど近い先輩の吐息と温かさに包まれ、ボクはすぐに眠ってしまった。
あれは……、最高の夜だった。
「ねえ、ハルカくん」
先輩の手が、優しく、そしてむずがゆくなるほど繊細なタッチで、ボクの頬を撫ぜた。
さっきつねった場所を念入りに。
頬をなでるしなやかで細い指は、次第に下へ動いていった。
親指が、唇をなぞる。
少しだけ濡れていたそこは、先輩の細い指にボクの匂いをつけていた。
「わたしを、もらってくれる?」
「ふぇ……?」
ボクの瞳に映る先輩の顔は、赤く火照っていて。
照れ隠しにか顔は笑っていたけれど、その瞳に宿る光は、これ以上ないくらい真剣だった。
ちゅっ、と、音が聞こえた。
ボクと瀬羅先輩の唇が触れた音。
その音は大した音ではなかったけれど、ボクの頭は一瞬で覚醒して――
しばらくの間、時が止まった。