〜〜ハルカの学園生活〜〜  
 
 ハルカです。  
 某私立学園の2年生です。  
 いまボクは、部活中。手芸部でございます。  
 無地のハンカチに刺繍細工をしています。ちなみにもうすぐ完成しそう。  
 
「ううむ」  
 
 でけた。  
 モルフォロ蝶という羽の色が宝石みたいに綺麗な色の蝶を糸で再現してみた。  
 我ながら会心の出来。  
 凝りに凝った色糸の種類は総数46。作製時間3週間は伊達ではない。  
 
「ぐっど」  
 
 前面だけではなく後ろから見ても完全に蝶の羽を再現している。  
 結びとめを極力目立たないようにした刺繍は、きらきら輝いていて今すぐお店に並んでいてもおかしくない。  
 
「わー、できたんだ。すごい」  
 
 布を広げて自画自賛していると、突然後ろから抱きつかれました。  
 抱きついたのはクラスメイトの天音ちゃん。  
 ボクと同じ手芸部に所属している友達の1人だ。  
 くりくりとした大きな目。鼻は小高く、形のいい唇は笑ったときに人懐っこい印象を与える。サラサラの長い髪の毛は首の後ろで簡単に縛られ、頭を揺らすたびにぴょこぴょことゆれる。近づくと、ほのかに柑橘系のいい匂いがする。首筋に微量の香水をつけているそうな。  
 天音ちゃんは自称、男嫌いの女好きらしい。そのせいなのか嫌いな相手にはとことん冷たいけど、気に入った相手にはすごく気さくで話しやすい。  
 毎朝、とはいかないけれど気分がいい時はこういう風に抱きついてくる。  
 そうされるとボクの肩甲骨あたりにあたる胸がおおきくて柔らかいんです、本当に。おまけに天音ちゃんは同性からみても、すごく美人。異性からみたら、ものすごく美人。だからボクはちょっと困ってしまう。  
 
「あ、あのね天音ちゃん、他の人が見てるよ」  
 
 ほらね。  
 緊張して声がどもった。  
 
「あーもー可愛い。ほらほらそんなに固くしないでよ。ほらリラックスリラックス」  
 
 今日の天音ちゃんはすこぶる機嫌がいいみたい。  
 それは結構なことなんだけど、お願いだから抱きついたまま耳元でささやくのはやめてください。  
 耳たぶのあたりがくすぐったいです。おまけにボクの手をとってぶらぶらと遊ばないでください、ちょっと痛いんだから。  
 
 ばんっ。  
 
 おー。  
 突然、ボクの後頭部あたりでいい音がしました。  
 まるで分厚い参考書で人の頭をぶっ叩いたような。  
 後ろを振り向くとボクを捕まえて食べようとした、もといぬいぐるみのように愛でていた天音ちゃんが頭を抱えてうずくまってます。  
 
「天音、悪乗りしすぎ」  
 
 そこには腕を組んでいる眼鏡の女の子が1人。  
 右手には主婦の友という名の参考書があったりします。  
 紺のブレザーに丈の長いスカートをびしっと着こなした彼女は、生真面目という言葉がぴったりくる。  
 天音ちゃんと違って胸は控えめ。けれど頬から首筋に至る肌のきめの細かさは同性から見ても垂涎の的だ。  
 くっきりした目鼻立ちはまるでモデルのように整っている。その美貌とやや釣り目なこともあいまって、険しい顔をしているように見えるけれど、性格はとっても優しい。  
 
 クラスメイトの薫ちゃんです。天音ちゃんと同じく手芸部に所属しています。  
 副部長様なので、同級生だけどえらいです。  
 お堅い仕切りやさんだけど言葉と行動が一致しているのでみんなきちんと従います。  
 実は眼鏡をとって、髪型を三つ編みからストレートにすると、すごく綺麗だったりします。でも2人きりの時以外、素顔はほとんど見せてくれない。他の男子の目がうざいからだって。  
 
 ちなみに天音ちゃんと薫ちゃん、それに上級生の瀬羅(せら)先輩を加えて、学校の美人ランキング投票ぶっちぎりの3トップになります。  
 
「薫、今のは本気で痛かったんですけど。ほらここ、こぶになってる」  
「当然でしょう。朝っぱらからハルカ君に抱きついて、困ってるじゃない」  
「いやボクはいつものことで慣れているから」  
「ほら、そういってるし。ねー」  
「乙女としての恥じらいはないんか、あんたは」  
「ハルカは特別だよー。男なのに男むさくないもん」  
 
 むぎゅ、とまた抱きつく天音ちゃん。背中に柔らかい天音ちゃんのおっぱいの温かさを感じつつも、真正面からは薫ちゃんの怒った顔でにらみつけられる。だからボクはその場を誤魔化すように笑う。  
 
 
 はい。  
 
 ボクは男でございます。  
 たいていの初対面の人は信じてくれないけれど。  
 小さい頃から女の子みたいで可愛いって言われて育ったさ。  
 身長だって天音ちゃんにも薫ちゃんにも負けるさ。名前もハルカだし、学園の男子用制服を着ているにもかかわらず入学当初は女の子と間違われたさ。  
 しかもその日、ボクに一目ぼれしたって男子総勢11人が影で勝手に争奪戦という名の乱闘を繰り広げやがったさ。  
 顔に青あざをつけた屈強な野郎に、「俺と付き合ってくれ」って言われた時は言葉の意味が分からなかったさ。  
 あまつさえ学校の美人ランキング投票にノミネートされて天音ちゃんや薫ちゃんよりも得票数が多くて瀬羅先輩と同率一位になってしまったさ。結局男だからって無効になったけど。  
 
 そんなことを考えていると。  
 
 ――ふっ  
   
「うひゃあっ!」  
 
 すっとんきょうな声をあげるボク。耳にい、い、いきが。天音ちゃんの息が。  
 しかも何で太股のあたりをさすっているんだろう。まずい。とってもまずい。……あうあうあうあう。  
 前かがみになったボクの事情を知ってか知らずか、天音ちゃんは抱きつくのもやめないし妖しい手の動きもやめてくれない。  
 なんだか周囲の視線が、ギャラリーが増えている気がしますが気のせいでしょうか。  
 しかも、微妙に表情が熱っぽい。  
 
 助けて、薫ちゃん……!  
 
 すがるように視線を向けると、そこには他の女の子たちと同じように頬を赤らめた薫ちゃんの姿が。  
 心なしか太ももをもじもじさせているのは、気のせいでしょうか?  
 これは、あれですか。  
 考えたくないけれど、あれですか。  
 また、スイッチが入ったですか?  
 
「ねぇハルカ……」  
「はうっ!」  
 
 砂糖菓子のような甘い声。  
 首筋に息がかかる。くすぐったさと生暖かさに、ボクの肌があわ立つ。  
 背中には、相変わらずやわらかく押し付けられる二つのふくらみ。  
 股間のあたりがむずむずする。自分のアレが、大きくなっているのが分かる。  
 
 ちゅぷ……  
 
 耳たぶを、噛まれた。  
 
 ボクは困ってうつむいた。  
 なぜって下のボクのオトコノコの部分が、大きくなってしまったから。  
 
「まだハルカって、カノジョはいないんだよね……?」  
 
 その声はとろんとしていて、頬にかかる息が熱い。  
 抱きつかれる肌から立ち上る女の子の匂いが、心地よく、甘かった。  
 他のみんなも作業の手を止めて、こちらの方を固唾を呑んで見守っている。  
 その視線は、明らかな羨望の色。  
 そして何より、欲情があった。  
 
 自慢ではないですし、自慢するつもりもありませんが。  
 ボクは手芸部の”全員”から、告白されていたりします。  
 部員の中で野郎はもちろんボク一人ですよ?  
 野郎が入部志望しても、ボスもとい部長である瀬羅先輩が承認しないらしい。  
 ボクは別枠、というか女の子に間違われていたからそのままなし崩し的に承認をいただけたけれど。  
 それはともかくとして、何故かボクは昔から女の子に異常にモテた。  
 男にもモテるけれど、そっちは常識の範囲内。ボクが男だと知った上で付き合いたいって人はほとんどいないから。  
 ちっちゃい頃は年上のお姉さんや保母さんに玩ばれ、もとい可愛がってもらい、成長した今は学園の上級生や同級生や下級生に告白されたり抱きしめられたりこういうセクハラをされてしまったり。  
 
 女の子を発情させる。  
 
 原因は分からないけれど、ボクはそういう体質らしい。  
 とはいえ常時発情させるわけではない。いろいろと制約がある。  
 ひとつはボク以外の男の人がいない空間であること。  
 もうひとつはボクに何かしらの好意を持っている女の子で、ボクの方も好意を抱いている相手であること。  
 最後にボクが、無意識にでも欲情していること。  
 
 でもボク、まだ童貞ですから。  
 
 最後の一線だけは守っています。将来のお嫁さまのために。(ぐっとにぎりこぶしを作りながら)  
 
 なんて。  
 考えている間に。  
 
「な、何をしているの、薫ちゃん?」  
 
 そう。後ろから抱き着いている天音ちゃんじゃなく、真面目な薫ちゃんがボクにいたずらしている。  
 ボクの前にひざをついて、そのほっそりした指で太もものところを撫でている。  
 くすぐったい。  
 人さし指と中指が、下から上へ、焦らすように巧みなタッチで触れてくる。  
 ボクのズボンの膨らみには、とっくに気づいているんだろう。  
 熱病に浮かされたような瞳でそこを見る。  
 
 はぁ……、と。  
 
 ボクを見上げ、薫ちゃんが熱い息を吐く。  
 
「苦しそうだから、さすってるの」  
「薫ってば、私より大胆だね」  
 
 ボクの耳たぶを甘く噛みながら、天音ちゃんがつぶやく。  
 まずい。  
 このままでは手芸部一同衆人環視の中、大事に守っていた純潔が散らされてしまう。  
 でも薫ちゃんや天音ちゃんの身体を押しのけられないボク。  
 だって気持ちいいんだもの……。  
 あうあうあう、その考えがいけないんだ。でも後ろからのおっぱいの感触とひざの上を優しくさする薫ちゃんの手が、暖かさが……。  
 頭がくらくらする。  
 やがて。  
 ボクのズボンのジッパーに、指がかけられた。  
 ごくり、と。  
 周囲の女の子たちが、つばを飲み込む音が聞こえた。  
 いつしか、ボクを含めたその場の誰もが欲情の虜になり、淫靡な空気が教室に充満していた。  
 
 ぱんっ!!  
 
 大きく、鋭い音が教室に響く。  
 
「はっ!?」  
 
 正気を取り戻し、みんなが驚いて音のほうを向いた。  
 そこには良家の物静かなお嬢様という楚々とした印象の、とても綺麗な女の人。  
 
「ごきげんよう、みなさん。少々遅れてしまい申し訳ありません」  
 
 完璧な礼儀作法を踏襲し、その綺麗な女の人は頭を下げる。  
 瀬羅先輩だった。  
 

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