あの子が視力を失って半年近く経った。彼女の名前などは知らない
名前すら与えられていないであろう彼女からそれを聞くのは酷に思えたからだ。
彼女はただ私の部屋で見えないはずの外の景色を眺めている。
教祖の示す敵を討ち、見事に死ねば神の国へ行ける。
只それだけを教育されてきた彼女には、この安息は苦でしかないのかも知れない。
そして自分から光を奪った男、教祖の敵である男に生かされる事は、彼女にとってどれほど辛い事だろうか。
ただ戦うために雇われた兵士である我々が敬意を持つほどに、奴らは誇り高い戦士である。
その戦士であった彼女が、敵である私に衣食を与えられ生かされているのだ。
彼らは掟によって、自ら生を絶つ事を許されていない。故に死地を求め、死を目指し戦い続ける。
私に傷つけ捕らえられた当初、彼女は自分殺すようにと乞い続けた。
自分の命を奪うために銃口を向けてきた敵を、私は幾度と無く殺してきた。
泣きながら助けを乞う者すら、私は無慈悲に引き金を引いてきた。
情報を得るために、残虐な拷問をかけた事も多々ある。
それを仕事と割り切り、命を奪う事に何ら抵抗が無くなっていた私である。
だが年端も行かぬのに自ら死を求め、それを乞う彼女に引き金を引くことはなぜか出来なかったのだ