ここしばらく、皆川紗江子は気の重い日々をすごしていた。先だって発覚した、  
自社の保険金未払い問題の釈明で、得意先に頭を下げて回っているのである。  
紗江子の担当は主に法人で、いわゆる代理店には任せられない大手を対象と  
し、これまでに実績を積み重ねてきた。それが、利益追求の為に不正を働いた  
一部の人間のせいで、もろくも崩れかけている。  
 
実際、大口契約が幾つか他社に奪われたという話を聞いており、社内は危機感  
を募らせていた。紗江子が今から訪れるどてちん興産は、エネルギー開発のト  
ップ企業であり、万が一の事があれば会社の収益は赤字に転落する可能性も  
ある。それだけに、紗江子にのしかかる重責は相当なものだった。  
 
「入りたまえ」  
どてちん興産の重役、須藤正高は低い声で言った。本社ビルの四十五階、そ  
のフロア全体をこの男が仕切っている。紗江子は辞儀を低くして入室した。  
「失礼いたします」  
「ま、かけなさい」  
紗江子は椅子を勧められ、須藤の後に席へついた。  
 
「今、コーヒーを持たせる」  
「お構いなく」  
紗江子はこの慇懃な応対が恐ろしかった。どてちん興産は大口の契約者とい  
うだけでなく、自社の株を三十パーセント近く有している、筆頭株主だった。もし  
機嫌を損ねたら、社長の首だって即座に切られてしまう。その為にどてちん興  
産との折衝は、優秀な紗江子に一任されてきたのだ。また、紗江子は美しかっ  
た。今年三十歳になるが、一目で分かる美貌と旨味の溢れる女体を持っている。  
だが、この手の商売にありがちな肉体営業を、紗江子はただの一度も行った事  
はない。その必要がないほど優秀だったのだ。  
 
「斉藤君は元気かね」  
須藤が口にしたのは社長の名前である。紗江子は身を硬くした。  
「この度の不祥事、慙愧に耐えぬと言っておりました」  
「その割には、僕の所に電話の一本も無いのだけれど」  
「あちこち走り回っておりますので」  
紗江子は頭をゆっくりと下げた。ここで社長の名が出るというのは、人事について暗  
に何かをほのめかすと考えてよい。  
 
最悪、社長は引責辞任となるかもしれない。紗江子は須藤の言葉を待った。  
「次の株主総会で、取締役の解任を提案しようと思う」  
「止むを得ないと思います」  
これは想定の範囲内である。しかし、次に出た言葉は、紗江子を青くするような、苛烈  
な一撃だった。  
 
「その後、うちが懇意にしているもろちん銀行から、社外取締役を入れる予定だ」  
紗江子はそれを聞いて驚愕した。実質的な乗っ取りである。社名は残るが、ほとんど  
別の会社になってしまう。そして、次に来るのは強烈なリストラであろう。これまでにも  
保険会社が幾つか外資に乗っ取られたが、どこも凄まじい経費削減に追われ、業務  
も満足に出来ぬまま消え去っている。  
 
今の日本社会、温情だけではやっていけないのは周知の通り。紗江子は身が震える  
ほどの恐怖を覚えた。  
「どうかね」  
「・・・私にはよく分かりません」  
紗江子は須藤が何らかの取引を申し出ていると読んだ。こういう場合、大抵は金であ  
る。もしくは己が一線を退いた時、天下り先を確保しておきたいという所だろうか。紗江  
子は後者と踏んでいる。何せ須藤は五十七歳、定年は目の前であり、もう社長職には  
つけそうにない。  
 
「君は既婚だったかね?」  
「いえ」  
須藤の目が光る。  
「僕たちは良いパートナーになれると思うんだが」  
「はっきりおっしゃってください」  
紗江子の動悸が激しくなっていた。そして須藤はついにとどめの一撃を放つ。  
 
「ずばり言おうか。いずれ、君の会社の取締役には僕が出向する事になるだろう。その  
時、君は会社に残っていたいか?」  
「・・・」  
上目遣いに須藤を見ながら、紗江子は値踏みをする。この男は出向後の自分の進退を  
伺っているのだ。そして暗に愛人関係を迫ってきている。そこが紗江子の癪に障った。  
 
「頭の良い君の事だ。僕の息がかかった連中が、出向する事は分かっているだろう?  
おまけにやつらは血も涙も無い銀行屋だ。帳簿を徹底的に叩いて、背任の痕跡を炙り出  
すだろう。そうなれば管理職のほとんどは退職に追い込まれる。さて、君はどうなる?」  
頭を殴られたような気分だった。紗江子のような立場にある人間は、多かれ少なかれ背  
任かそれに近い事を経験している。顧客から預かった金を一時的に補填へあてがったり  
は、どこでもやっているはずだが、それは外部から見たら完全な横領になる。  
 
紗江子は黙り込んだ。商法の特別背任で訴えられたら、百パーセント有罪になる。そう  
なれば名前が新聞に出て、人生が終わる。家族にだって顔向けが出来ない。  
「須藤様」  
紗江子は臥した。致し方ないが、これが運命だと思った。この男の愛人になるのは嫌だ  
が、犯罪者になるよりはましだと考えた。もう、自社の取締役がどうなろうと構わない。己  
の保身以外、興味は沸かなかった。  
「私を、どうかあなた様のもとに」  
「そうか。やはり君は頭の回転が速い」  
須藤はゆっくり立ち上がり、ズボンのジッパーを下ろした。  
 
ぬっと顔を出したのは、大なまずのような男根だった。須藤はそれを二、三度、手で  
扱きつつ、  
「しゃぶれ」  
と、命じた。  
「はい」  
鼻を突く性臭に思わず顔を背けそうになったが、紗江子は男根を唇で包む。  
 
男を知らぬ体ではない。すぐに男根を喜ばすべく、頭を前後に振った。  
「以前からずっと、君には目をつけていたんだ。いい舌使いだ、ふふふ」  
舌先に感じる微妙な塩気と苦味が、紗江子の理性を焼いた。虐げられていると思うと、  
何故か体が熱くなる。スーツの下、柔らかなパットに包まれたブラジャーの中で、乳首  
が硬くなっていた。  
 
「このまま出してしまうのはもったいない。おい、服を脱ぐんだ。スーツだけでいい」  
「・・・はい」  
昼日中、一流企業の四十五階に陣する重役室で、紗江子は裸になる事を命ぜられた。  
悔しいが脱がずにはいられない。そういう運命なのだともう一度、自分に言い聞かせた。  
スーツの上下を脱ぎ、ブラジャーとショーツ、そしてストッキングのみの姿となった。下着  
は上下とも豪奢な刺繍の入った白色で、長く美しい足を網目模様のストッキングが包む。  
 
「いい姿だ。さあ、もう一度、しゃぶれ」  
「・・・はい」  
肌をさらすと、もう逆らおうとすら考えなかった。紗江子は須藤の前へ傅き、大なまずをも  
う一度、頬張った。男根からは先ほどより苦味の増した汁が出ていて、舌先を刺激する。  
「今から君を紗江子と呼ぶ事にする。君は僕の事をご主人様と呼ぶんだ」  
紗江子は頷く事で従う意思を見せた。  
「声に出してみろ」  
一旦、男根を唇から離し、紗江子は、  
「ご主人様」  
と、呟いた。目は潤み、どこか己の背負う悲しみに酔っているようにも見える。  
 
「いい響きだ。さあ、紗江子。続きをやれ」  
またもや紗江子は大なまずを飲み込んだ。今度はねっとりと舌を全体に這わせ、  
奉仕する身である事を証明した。己が運命はすでにこの男の手中にあり、抗おう  
とは思わなかった。  
「紗江子、自分であそこをいじってみろ」  
その言葉に紗江子の頭はカッと熱くなった。男の物をしゃぶれと命ぜられ、自慰を  
させられる自分が惨めでならない。しかし、何故か期待感も沸いてくるのである。  
 
今や絶対者である須藤からの、過酷な命令が欲しかった。虐げられれば虐げられ  
るほど、自分を正当化できるような気がする。紗江子は完全に被虐の悦に入り込  
んでいた。  
「おしゃぶりはもういい。さあ、紗江子。パンティを脱ぐんだ」  
「はい」  
紗江子はショーツをストッキングごと脱ぎ、床に放った。その間に須藤は椅子に  
腰掛け、垂直に立った男根を扱いている。  
 
「いやらしい体だ。今まで何人の男に抱かれた」  
「五人です」  
「意外に少ないな。初体験はいつだ」  
「大学二年生・・・二十歳の時でした」  
「相手は?」  
「同じ学校の・・・あっ!」  
 
須藤の前に立った紗江子は、股間に悪戯な指を迎え入れていた。そこはすでに  
濡れそぼり、いやらしい伸縮を繰り返す。  
「よし、これで良いだろう。紗江子、この上にまたがるんだ」  
そう言って須藤は男根を指差した。  
「ブラジャーは、外さなくてもいいんですか?」  
「揺れる胸が顔に当たるのが鬱陶しくてね。さあ、こい」  
やや臆しながら、紗江子は須藤に抱きつくようにして、男根にまたがった。ちょうど  
向かい合う形で、紗江子が上に乗る。  
 
「腰を沈めろ。根元まで飲み込まんと承知せんぞ」  
「ああッ・・・」  
紗江子は男根が自分を真ん中から裂くような気がした。だが、紗江子の道具も  
優秀で、嫌、嫌と抗うような素振りを見せつつも、しっかりと須藤の男根を飲み  
込んでいく。終いには根元まですっぽりと包み、須藤を大いに歓喜させた。  
 
「良く締まるし、名器の部類に入るな。紗江子、俺のはどうだ。良いか?」  
「は、はい・・・とっても男らしくって・・・ああ・・・」  
須藤に腰を支えてもらわなければ、今にも椅子から転げ落ちそうな状態だったが、  
あの大なまずが自分の胎内で我が物顔に振舞うのを、紗江子は甘受する他無い。  
 
そのうち、須藤の腰が前後にスライドし、紗江子を本格的にいたぶり始めた。女穴  
を真下から貫かれている為、逃げる事も出来ずに、ただただ泣くしかなかった。  
「はあッ、はあッ・・・ご主人様、私、どうしたらいいの・・・おかしくなっちゃう!」  
紗江子は須藤の肩に掴まり、駄目、駄目と頭を振った。そのくせ、腰を淫らに動か  
すので、快楽の虜になりつつあるのは明らかだった。  
「どうもせん。お前の好きにするといい」  
「いっても・・・いってもいいですか・・・」  
「いいとも。僕もお供しよう」  
「あ、ありがとうございます・・・うーッ」  
 
唇をかみ締めながら、紗江子は達した。同じ時、胎内で須藤の子種が放たれるのを  
感じ、全身が震えた。受精の恐怖と快楽の中で、自分を保っていられるのかすら分  
からなくなっている。  
「長い付き合いになりそうだ」  
紗江子の道具が歓喜に震えている。男の滾りを受け止め、女泣きしているのだ。  
この日、どてちん興産本社ビルの四十五階では、女の啜り泣きが絶える事が無かっ  
たという。  
 
おすまいん  
 

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