「顔と、口の中、どっちがいい?」  
男は、そう質問しながら、あずさの口から性器を抜く。  
 
「……意味が分かんないんだけど」  
勿論、あずさにも、男の質問の意図が分からないわけではなかった。  
そして既に、怒る気力も無かった。  
 
「顔にかけられるのと、口の中に出されるの、どっちがいい?」  
男はあずさの乳房を撫でながら、そう繰り返す。  
当然の権利のような、その口ぶりがなんとも高慢で  
あずさは思わず「どっちも嫌」と言って、男の手を振り払った。  
 
「そうか、分かった」  
男は、妙に物分り良く、そう返す。  
嫌な予感がした。  
 
男は立ち上がり、本棚の上にあるマヨネーズの容器を手に取った。  
中には透明の液体が入っている。  
そして、再びテレビのモニターの電源を入れた。  
 
画面にはまた、先ほどのポルノビデオが流れる。  
 
「確かに、せっかく著名人に来ていただいたんだから  
 顔にかけたり、口に出したりは失礼だね」  
男はそう言って、またベッドに座る。  
 
モニターの中で、性交する男女の姿。  
いや、それは性交ではない。  
ただ性器をこすり合わせる一方的な交尾。  
女の性器を使用した自慰だ。  
 
ぱん、ぱん、ぱん、とリズミカルな音。  
それに合わせて流れる、女の喘ぎとも呻きともつかない声。  
「ホラ、万引きしてごめんなさい、って言ってみろ」という男の要求。  
 
「許してほしかったら、もっと突いて下さい、って言うんだ」  
「も……っと、つ、突いて下さ……ぁ」  
「中に出して下さい、って言うんだ」  
「いぁ……だぁ」  
「ホラ言えっ!!」  
 
滑稽なやりとりだ、とあずさは思う。  
これのどこが面白いのか、これのどこに興奮するのだろうか。  
 
平野は、マヨネーズの容器を絞って、中の液体を掌に広げた。  
水でかなり薄めたローションである。  
彼は自慰の際にこれを使用する性癖があった。  
だが、他人に塗ることになるとは思ってもいなかった。  
 
「ベッドの上で、四つん這いになって」と平野は要求する。  
 
もはや、彼が何を求めているのか歴然ではあるが、  
女はそれに従った。  
諦めた、というより、さっさと済ませて欲しい、という態度だった。  
 
女の身体がベッドに上がり、両膝をついて、それから両手を枕元に沈めた。  
表情のない顔が、壁をぼんやり見ている。  
その姿に、平野はしばし見とれた。  
 
長く均整の取れた脚。  
染みやにきびどころか、ほくろすら見当たらない肌。  
床に向かって、わずかに尖った乳房。  
その先端には桃色の豆がある。  
他の女より一回り小さい顔に、自己主張の強いパーツが乗っている。  
 
平野は一瞬、自分とこの女性との関係を忘れてしまいそうになる。  
 
モニターの中から聴こえる絶叫で、平野は我に返った。  
 
「出すぞ出すぞ出すぞ出すぞ!!」  
男優の熱演。  
何度も繰り返し見たシーンなので、その姿はどこか間抜けだ。  
 
平野はぬるぬるとぬめる指先で、女の陰部に触れた。  
ぴくん、と肢体が反応する。  
陰核を指の腹でこすると、女は「嫌だ、もう……本当、最低」と泣き言を言った。  
 
膣内に指を入れながら、平野は「大丈夫だよ、すぐ終わるから」と優しく言った。  
実際、自分が「すぐ終わ」ってしまいそうなのは明らかだった。  
すでに少しの刺激で射精してしまいそうな状態である。  
 
平野はマヨネーズの容器が半分無くなるまで、彼女の性器をこね回した。  
人差し指と中指を根元までさしこみ、動かすと「くぱ、くぱ」と音がした。  
少し速度を上げると「くちゃ、くぽ、くちゅ」と更に。  
 
「さて……準備も良さそうだし、そろそろかな」  
まるで遠足の前の日のように、呑気な口調で、平野はそう言った。  
 
「じゃあ、最後の質問」  
男は、四つん這いのあずさの臀部の後ろで、そう言う。  
 
「犯罪者になるのは嫌?」  
膣の中で、男の指が動いている感覚。  
「嫌……絶対に、嫌」  
 
「じゃあ、俺にお願いして。許してください、って」  
「許して下さい」  
台本を読む素人のような低い声の棒読み。  
 
「挿れて下さい、って」  
恐らく、こういう台詞を言わせたいのだろう。  
「いれてください」  
 
「挿れて、ずぼずぼ突いて下さい、ってお願いして」  
「いれてずぼずぼついてください。これでいいですか?」  
無感情にあずさは言った。  
 
「もう一回」  
「いれてずぼずぼついてください」  
「大きな声で」  
 
「いれてッ!! ずぼずぼ突いてくださいッ!!」  
女が絶叫したのと同時に、平野は自分の陰茎を経口に当てた。  
そのままずるりと沈み込ませていく。  
 
性器にもローションを塗っていたので、引っかかることなく  
女の深奥にせまっていく。  
それとともに、過敏になった亀頭を、熱く湿った肉壁がこする。  
 
「あー……あ、うお……」  
思わず、声が出ていた。  
 
「くっ」  
女も呻いている。さすがに無感情、とはいかないだろう。  
 
平野は女の背中にのしかかると、乳房を背後から揉みしだいた。  
同時に、腰を動かす。  
 
「反省、してるか?」  
問いに、女は答えない。  
 
身体の中に、異物が入っていく感覚。  
鈍い痛みがあると予想したが、幸い摩擦度が下がっていたせいか  
それほどでもなかった。  
 
背中に男の体温を感じる。  
激しく動かされる男の性器。  
ノーリアクションでいたいが、歯を食いしばっても声が出る。  
 
「あっ、くっ、うぅ……ぃやぁ、あっ」  
規則正しい「ぱんぱんぱん」という肉のぶつかる音。  
女のうめき声。男の悦混じりの声。  
ついさっきまでモニターの中で流れていたのと同じ行為。  
 
その結末は、どうなるのか。  
 
気付けばテレビのモニターには、犯された女が横たわっていて、  
それをバックにスタッフロールが流れている。  
 
「さっきのセリフ、もう一回言え」  
男が言った。  
「ホラ!!」  
男はあずさの臀部を、掌でぱん、と軽く打った。  
 
「いーたーい!!」  
女が涙混じりの悲鳴を上げる。  
 
「早く言え!!」  
「ず、ぼずぼ、ついてくだ、さいっ」  
乳房をさらに揉みほぐし、腰を回転させる。  
 
「ほら、もう一回」  
「ずぼずぼついてくださぁいッ!!」  
ほとんど怒鳴り声で女が言った。  
 
「出る、ぞ!!」  
 
女が振り返る。  
涙でメイクが流れた顔。  
 
「出したらマジ、殺すよ!!」  
 
その瞬間。  
 
自分の身体の中で、男の性器がぶくん、と膨らんだのが分かった。  
痙攣している。  
 
「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あー……あー」  
 
男が身体を震わせながら声を出す。  
尿道を精液が通過するたびに、悦の声を上げる。  
 
しばらく、男はあずさの身体の上に居たが、  
やがて思い出したように性器をずるりと抜いた。  
 
すっかり力を無くした男性器の先端に、白い残滓が残っている。  
 
「俺の人生は、店がつぶれて親父が死んでから、ひどかったから  
 これでチャラにしてやるよ」  
男がそう言った。  
 
「何がチャラよ!!」  
あずさは怒鳴って、近くにあった枕を投げつける。  
 
膣に、まだ性器が入っているかのような違和感が残っている。  
経口から、男の体液がとろ、と流れた。  
 

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