キーンコーンカーンコーン……。  
 とある私立の女子高。チャイムの音が本日の授業が全て終わったことを告げる。  
 帰り支度を始めるクラスメートの中で、藤原綾子は悟られないように周囲を見回しながら学校指定の通学鞄に教科書を詰めていた。そして、机の一番奥にしまっておいた小さな箱を手にかける。一呼吸。リムレスの眼鏡越しに、もう一度周りを確認。  
(……大丈夫、誰もこっちを見ていない……)  
 そして机の奥からその小箱を取り出し、すばやく鞄の奥にしまう。今度はゆっくり鞄から手を抜き、ぱちんと鞄の留め具をはめる。ほう、と安堵のため息をつきかけたその時。  
「藤原さーん、藤原綾子さーん」  
「ひっ……!」  
 突然名前を呼ばれ、綾子はしゃっくりのような声を出してしまう。クラス中の視線が自分に集まっているのを感じ、慌ててとりつくろう。  
「藤原さぁん」  
「あ……はい」  
 立ち上がり、教室の入り口を見る。そこには学校保健医の林が立っていた。白衣のポケットに両手をつっこみ、右足にやや重心を置きながらにこにこ笑って立っている。綾子が立ち上がったのをみて、林はくすっと笑いながら告げた。  
「あ、藤原さん。今から保健室まで来てほしいんだけど、いいかしら?」  
「……え?」  
「要件はすぐ済むから、鞄も持っていらっしゃい。ちょっと確認したいことがあるの」  
「……」  
「じゃ、待ってるからね」  
 綾子の返事も聞かず、林はひらひらと手を振りながら遠ざかる。しばらく動かない綾子に、後ろの席に座るクラスメートが声をかけた。  
「どうしたの、綾ちゃん。なんかあったの?」  
「え。さ、さぁ……心当たり、ないんだけど」  
 はははと作り笑いを浮かべながら、綾子の内心は穏やかではなかった。  
 呼び出される心当たりがあったからだ。  
 
 
 時間は少し遡り、その日の昼休み。  
 綾子は保健室を訪ねていた。扉をノックし、中に入る。  
 が、いつも保健医が座っている机には誰もいなかった。  
「あ……先生、留守なんだ」  
 そうつぶやきながら、綾子は保健室に入る。いつものことながら右手のベッドにはカーテンが閉められており、部屋の四分の一を仕切っている。部屋の奥は広くなっており、そこに薬品棚や保健医の机、身体測定に使う器具などが置いてあった。  
 が、今日はその奥まったスペースの床に、所狭しと大小様々な箱が無造作に置かれている。  
 ちらかってるな……そう思いながら、綾子は何気なく一番手前にある段ボール箱の前にしゃがみ、中身を見た。その箱の中には青い小さな紙箱がいくつか入っており、そのパッケージにはこう書かれている。  
『イチヂク浣腸』  
 パッケージを読んだ途端、綾子ははっと息を呑んだ。  
 今回綾子が保健室にきたのは、実は便秘の相談のためだった。生理が重たいほうの彼女は、生理期間中には常に便秘に悩まされ続けてきた。  
 中学生時代、母に相談するといつもこの薬を使われた。やや過保護気味な母親は、自分で使うと危ないからと、綾子自身にこの薬を使わせることはなかった。  
 綾子は母親にお尻の穴を見られるのが恥ずかしく、いつ頃からか便秘の相談を母にしなくなっていた。しかし今回は、すでに一週間近くお通じがなく、下腹に疼く鈍痛が彼女を悩ましていた。  
「……お浣腸」  
 無意識につぶやき、綾子は慌てて口をふさぐ。誰にも聞かれていないか周囲を見回し、そして視線を再び青い小箱に戻す。  
 便秘を母に相談するのは嫌だ。でも保健の先生に相談するのも恥ずかしい。薬局で浣腸を買うなんて、考えただけでも顔が赤くなる。  
 でも。  
 ここにイチヂク浣腸の箱がある。しかも、保健医はいない。  
 綾子の心に、ふと魔がさした。  
(……いいよね。たくさんあるんだし、一個ぐらい勝手に持っていっても……)  
 そして綾子は、震える手で箱の一つをとり、そっとスカートのポケットに忍ばせた。大きく深呼吸をして、何気ない顔で保健室を後にする。  
 
 その箱を、先ほど鞄の底にしまったところだった。  
 
 
「あの……失礼します」  
 5分後、綾子は保健室の扉をノックした。中では保健医の林が、ごそごそと段ボール箱を薬品棚に片付けている。  
「あ、いらっしゃい。ごめんねぇちらかってて」  
「い、いえ……」  
「ちょうど薬の棚卸をしてたのよ。在庫管理とか、最近うるさくてねぇ」  
「は……」  
「あ、ごめん。そこの箱とってくれる? それで最後だから」  
「え……あ、はい」  
 綾子は慌てて床に置かれた最後の段ボール箱を持ち上げる。が、その中身が目に入った瞬間、綾子は思わず動きを止めた。  
 箱の中には、イチヂク浣腸が入っていた。  
「藤原さん、どうしたの?」  
「え……あ、何でもないです」  
 綾子は慌てて箱を林に渡す。林はそれを薬品棚の一番上に置き、扉を閉めてぱんぱんと手を払った。  
「ありがとう、手伝ってくれて。お礼にコーヒーでも淹れよっか」  
「あ、いえその……」  
 言うが早いか、林はインスタントコーヒーの瓶を開け、マグカップに粉を入れる。そしてポットから湯を注ぎ、手近な椅子に腰掛けるよう促しながらカップを綾子の目の前に置いた。  
「……ん? 藤原さん、コーヒーより紅茶派?」  
「あ、えと……」  
 カップに手をつけない綾子に、林が尋ねる。しかし綾子の心中は、コーヒーどころではなかった。  
「……あの、先生。それで、私に用事というのは」  
「ん、ああそうそう」  
 くっとカップの中身を飲み、林はにこりと笑いながら綾子に尋ねる。  
「実はね、今日の午前中から薬の棚卸しをしてたんだけど」  
「……」  
 じっと綾子の目を見つめながら話す林。綾子は思わず、視線を逸らすため軽くうつむいてしまう。  
「薬が一つ、行方不明になっちゃったのよねぇ」  
「……」  
 冷や汗が背中を伝うのを綾子は感じていた。唾を飲み込もうとするが、口の中もカラカラに乾いている。  
「で、藤原さん何か知らないかしら、と思って」  
「……し、知りません」  
 やっとの思いで、喉の奥から言葉を搾り出す。  
(……そう、誰もいない保健室。誰にも見られてない。誰にも……)  
 そんな綾子の心中に関係なく、林の話は続いた。  
「んーまぁ、無くなった薬はそれほど危険なモノじゃないんだけどね。何がなくなったか、藤原さんわかる?」  
「えと……頭痛薬とか、ですか?」  
「残念、ハズレ。正解は『イチヂク浣腸』よ。さっき、藤原さんに手伝ってもらった箱の中に入ったの」  
「……」  
「藤原さんは浣腸されたことってある?」  
「あ、ありません!」  
 思わず大きい声を出してしまい、綾子は慌ててうつむく。自分の顔が火照っているのがわかった。  
「そう。藤原さんはお通じは定期的にあるほうなのね。実はね、生理中に便秘になる娘は結構いてね。保健室には時々そういう娘たちが……」  
「あの、先生」  
 林の話を綾子がさえぎった。  
「……えと、用事があるのでもう帰っていいですか?」  
「ああ、ごめんね。つい関係ない話ばかりして。……じゃ、最後に一つだけ質問させて」  
「……はい」  
「藤原さん」  
 そこで林は一呼吸の間をおく。  
「あなた、浣腸を盗んだりしてないわよね?」  
「……し、失礼します!」  
 綾子は椅子から立ち上がり、くるりと扉に向きを変えた。  
 そのとき、入り口脇のベッドのカーテンが、昼休みと違い半分開いているのに気がついた。入ってきたときには気づかなかったが、その奥にあるベッドが丸見えになっており、そこに一人の生徒が座っている。  
「……や、真紀ちゃ……なんで……」  
 そこにいたのは綾子のクラスの級長、広田真紀だった。真紀はゆっくりベッドから降り、出口をふさぐように扉の前にたつ。綾子の背後では、林が立ち上がった。綾子を中心に真紀と正対する位置に立ち、林はため息混じりに口を開く。  
「残念ね……自分から謝ってくれることを、期待していたんだけど」  
「謝るって……なにをですか?」  
 がくがくと震える足を感じながらも、綾子は尋ね返す。と、真紀が静かに告げた。  
「綾ちゃん。実は私、昼休みここにいたの」  
 
「……っ!?」  
 へなへなとその場に座り込む綾子。真紀はそんな彼女を見下ろしながら告げる。  
「私、お腹が痛くて保健室に来たのよ。でも先生は留守だった。で、ベッドで横になっていたら……」  
「あなたが保健室に入ってきて、イチヂク浣腸の箱を盗んで逃げた」  
 そういいながら、林がそっと綾子の肩に手を置く。  
「そ……そんな……。私、泥棒なんか……」  
「盗んでないっていうの?」  
 やや怒気をはらんだ声で、真紀が問い詰める。びくりと体を震わせ、綾子はぎゅっと唇をかんだ。  
 すっと真紀がしゃがむ。綾子と同じ目線の高さになり、しばらくじっと彼女の瞳を睨む。そして視線を、綾子の傍らに倒れている鞄に移した。  
「モノはこの中かしら?」  
「あっ……」  
 綾子は慌てて鞄を取ろうとするが、林が肩に置いた手に力をこめたため腕を動かすことができない。その隙に真紀が鞄をとり、立ち上がって鍵を開いた。しばらくその中身を見つめていたが、やがて鞄の奥底に手を入れる。  
「……」  
 真紀が綾子の鞄の底から、青い小箱を取り出す。そしてその箱を、ぐいと綾子の鼻先につきつけた。  
「これでも、シラを切るつもり?」  
「ああ……」  
 綾子は半泣きになっていた。視線がさまよい、歯がカタカタ鳴っている。体の震えは、肩に触れている林のみならず真紀の目にも明らかだった。  
 ぽん、と肩を軽く叩き、林が立ち上がる。驚いて上半身だけ振り向く綾子に、林が宣告する。  
「ま、とりあえずは学級担任の先生を呼びましょうか。それと、保護者の方も」  
「ひ……っ!」  
「綾ちゃん。私、凄くショックよ。うちのクラスから犯罪者を出すなんて」  
 真紀が沈痛な面持ちで綾子に告げる。林は自分の机に戻り、内線電話に手をかけた。  
 途端、わっと大粒の涙をこぼしながら、綾子が頭を床につける。  
「ご……ごめんなさい! つい魔がさしたんです!」  
「『魔がさした』……では済まされないわよ、綾ちゃん」  
「許してください! ほんとうに、ほんとうにもう二度としませんから!」  
「何言っ……!」  
 泣き喚く綾子を、仁王立ちになったまま真紀が叱り飛ばそうとする。が、それを手で制し、林は電話器を持ったまま綾子に声をかけた。  
「藤原さん、反省してる?」  
「……はい……ぐすっ」  
「もう絶対しない?」  
「……はい……」  
「声が小さいわよ。本当にもう二度と、泥棒なんかしない?」  
「はい……! 誓います、もう二度といたしません!」  
 頭を床につけたまま、綾子が言う。林は電話機から手を離し、短く息をついて言った。  
「ま、反省しているなら許してあげましょう」  
「先生!」  
 その言葉に、真紀が反発する。  
「そんな簡単に許していいんですか!?」  
「薬を出しっ放しにしておいた私にも落ち度はあるしね。それに藤原さんも反省しているようだし」  
「……」  
 涙でぐしゃぐしゃになった顔をあげ、綾子が林と真紀の顔をみる。林はそんな綾子を微笑みながらみつめていたが、真紀は冷たい表情のまま、じっと彼女を見下ろしていた。  
 そんな真紀と綾子の様子をみて、林が提案をする。  
「ん。じゃあ広田さんも納得できるように、藤原さんには何か『お仕置き』をするってのはどう?」  
「……は?」  
「このまま無罪放免じゃ納得できないんでしょ? だったら反省の意味をこめて……そうね、お尻たたきのお仕置きで許してあげる、とか」  
 にっこり笑いながら林が告げる。真紀は腕組みしたまま、林と綾子とを交互に見比べていた。  
「藤原さん?」  
 林が綾子に水を向ける。  
「藤原さんからも、広田さんに謝りなさい」  
「えっ……先生、私はそんな」  
 やや呆気にとられたような声を出し、真紀が林に反論する。しかし綾子はいずまいを正し、真紀に再び深々と頭を下げて言った。  
「……真紀ちゃん、私にお仕置き、してください」  
 
 
 保健室の扉には鍵がかけられた。  
 窓のカーテンもしっかり閉められている。  
 保健室の中央に綾子は立ち、目前の椅子に座っている二人に向かって口上を述べていた。  
「あの……私、藤原綾子は……保健室からお浣腸を……盗みました。そのあと……林先生と広田さんに嘘をつきました。私は、とっても悪い……子です。これからは心を入れ替え……二度と盗みなど……いたしません」  
 消え入りそうな声でそう告げ、やや上目遣いに綾子は二人の顔を見る。  
 林は微笑みを浮かべていた。しかし真紀は仏頂面を崩していない。  
 乾いた唇を震わせながら、綾子はぺこりと上体を折った。  
「……どうか……悪い子の綾子に……お仕置き、して……ください……」  
 一呼吸の間。と、ぽんと林が手を叩いた。  
「じゃ、藤原さんには『お尻たたき10回』の罰を与えます。広田さん、それでよろしいですね」  
「……私は別に」  
 真紀は素気なく答える。林はそんな真紀ににっこり微笑んでから、綾子に向き直った。  
「じゃあ藤原さん。スカートとショーツを脱いで、こちらにお尻を向けなさい」  
「……はい」  
 ぐすっと一度鼻をすすり、綾子は白いセーラー服の裾を少したくし上げた。そして紺色のスカートの留め具をそっと外す。二人の顔を見るのが怖く、綾子は目を閉じながらゆっくりとスカートを下ろした。  
「あら? 藤原さん、スリップを着ているのね」  
 林が意外そうに声をかける。スカートを皺にならないよう丁寧にたたみながら、綾子は小さくうなづいた。  
「……私、冷え性なんです」  
「ふーん。じゃ、スリップも脱いでもらおうかしら」  
「え!?」  
 思わず綾子は、声をあげて林を見る。が、すぐに観念し、セーラー服の赤紫色のタイを解き始めた。  
 するっと衣擦れの音をたててタイが抜かれる。次にセーラー服のファスナーが下ろされた。手首のボタンを外し、セーラー服を脱ぐ。  
 その下に着ている純白のスリップの肩紐をゆっくり外した。恥ずかしさに震えながらスリップを下ろす。白いブラジャー、臍、白いショーツ、そして白く細い足が、徐々に露になる。  
 綾子はそこで、林と真紀がじっと見つめているのに気づいた。  
「あは。藤原さんって着やせするタイプなのねぇ」  
「先生、それはセクハラですよ」  
 真紀が咳払いをしながら林に注意する。林は悪びれた様子もなく、次の命令を下した。  
「じゃ、ついでだからブラジャーも外しちゃいましょうか」  
「え、ええっ?」  
 綾子は驚いて林をみた。林はにこにこ笑いながら、じっと綾子の事を見ている。  
(……そんな……真紀ちゃん助けて……)  
 一縷の望みをかけて綾子は真紀に視線を送るが、真紀も相変わらず冷たい表情のまま、林と同じように綾子の体を見つめていた。  
(……)  
 観念して、綾子は背中に両手を回す。ブラジャーのホックを外し、左右の肩紐をゆっくり腕から抜いていった。が、やはり恥ずかしく、胸の部分を隠すように腕を組んだままごくりと唾を飲み込む。  
「……んっ」  
 真紀が咳払いをする。綾子はそっと胸から手を放した。両手に持たれたブラジャーが体を離れ、形のよい胸が二人の視線にさらされる。  
 スリップの上にブラジャーを置くが早いか、林が最後の一枚を脱ぐよう命じた。  
 
「それじゃ、ショーツを脱いで」  
「……は、はい」  
 他の下着と同じな純白のショーツ。その両脇に指をかけ、少しずらす。  
 そこで綾子は、ちらりと二人をみた。相変わらず林は微笑みながら、真紀は苦虫を噛み潰したような表情のまま、じっと綾子を見つめている。  
(……ああ……)  
 目と口をきつく閉じながら、綾子はゆっくりとショーツを下ろしていった。まずショーツの後ろ側、お尻を露にし、次に前の部分を下ろしていく。  
 ショーツから彼女の薄い茂みがはみ出し、やがて恥丘全てが見えるようになる。体を折りながら綾子はショーツを足首まで下ろし、まず右足、次いで左足から脱ぐ。  
「あの……脱ぎました」  
「手は横」  
 林に言われ、綾子は乳房と秘部を隠していた手をおずおずと体の横に動かす。  
 林が指摘したとおり、綾子は着やせするタイプだった。形よく膨らんだ乳房は柔らかなカーブを描いてウエストで一度くびれ、そこから再び未発達なふくらみを帯びたラインをとって下腹部へ、そしてすらりと伸びた足へと続いていく。  
 まったく日焼けしていないその素肌は羞恥にほんのり赤く染まり、つんと尖った乳首と薄い秘部の茂みがアクセントを加えていた。  
 たっぷり三呼吸以上の間があった。教師とクラスメートの前で全裸に近い格好をさせられ、綾子は今すぐ逃げ出したい衝動をかろうじて抑えていた。  
 目をきつく閉じているので、却って二人の視線が全身に突き刺さるように感じる。綾子の羞恥心が限界に達したそのとき、林が口を開いた。  
「ふふ。思い出すなぁ」  
「……え?」  
「んんっ」  
 真紀が軽く咳払いをする。林はぽんと一度手を叩き、綾子にお仕置きの開始を宣言した。  
「じゃ、藤原さん。こちらにお尻を向けなさい」  
「は……」  
 綾子は薄目を開いた。と、真紀の射るような目と視線があう。あわてて綾子は目をぎゅっと閉じなおし、二人に背中を向けた。ベッドの手すりに手をかけ、ぐっと上体を落とす。  
「足をもっと開いて。上体はもっと下げて」  
 林の指示に従い、体勢を変える綾子。その結果、綾子の体でお尻が一番高いところにくる。  
 肩幅よりやや広めに開かれた足はまっすぐに伸び、まだ誰にも見せたことがない秘裂とその上にある窄まりは、何も隠すものがなく二人の眼前にさらされていた。綾子が荒い息をつくたびに、その窄まりが収縮する。  
 林がゆっくり立ち上がり、綾子のお尻の横に立った。プラスチックの物差しで、綾子の双丘をなでる。  
「叩くたびに数を数えなさい、いいわね?」  
「……はい」  
 ぺちぺちと、林は物差しで自らの掌を叩く。その後数回、物差しを勢いよく振り下ろす。ひゅん、という空気を切る音がするたび、綾子の全身がびくりと震えた。  
 そして物差しを軽く綾子の右の丘にあてがう。綾子は全身を硬直させ、最初の一打を待った。  
 
(……あれ?)  
 が、その衝撃がいつまでも来ない。綾子の筋肉が僅かに弛緩する。その瞬間を狙い、林は最初の打撃を加えた。  
「ひゃああ……っ!?」  
 予期せぬ痛みに、綾子は飛び上がって叫んだ。思わずしゃがみこみ、体全体を丸めて痛みをこらえる。  
「い……いたぁ……」  
「ほら、数はどうしたの?」  
 物差しで綾子の肩を軽くたたきながら林が聞く。綾子は涙を両瞳にいっぱいため、しばらく林を見つめていた。が、また元のようにお尻を高く掲げる姿勢に戻り、しゃくりあげながら消えそうな声で言った。  
「ごめん……なさい。いっかい……です」  
 と、間髪射れずに今度は左の丘に物差しが振り下ろされた。  
「ひぃ……っく」  
 心の準備ができていない状態での一撃に、再び綾子はしゃがみこんでしまう。ベッドの手すりを握った手だけで、上半身を支えている。  
「あらあら、こんな調子であと8回、耐えられるの?」  
「ご……ごめんなさい……にかいで……す」  
「んー……いちいちしゃがんでるようじゃ、先が思いやられるわね」  
「……っ」  
「広田さん」  
 林が真紀の名前を呼ぶ。真紀は事務的な口調ではい、と立ち上がった。  
「藤原さん。上半身をベッドに載せなさい」  
「え……あ、はい」  
 這うようにしてベッドに上半身を載せる綾子。次に林は真紀に向き直った。  
「広田さん。藤原さんの上半身を押さえつけて」  
「えっ!?」  
 真紀が返事するより早く、綾子が上半身を起こす。が、真紀は冷たい表情を浮かべたままベッドに登り、強引に綾子の肩を持ってベッドにねじふせた。  
「や、ちょっと……綾ちゃん、恥ずかし……」  
「先生、どうぞ」  
 抗議の声を上げる綾子を無視して、真紀が林に声をかける。林は綾子の太もも部分に手をかけ、ぐっと足を左右に大きく開かせた。思わず上体を起こそうとする綾子を、真紀が力の限り押さえつける。  
「さ、残り8回行くわよ」  
「え……こんなかっこわぁぁぁ……っ!」  
 右の丘に3回目の打撃。そして間髪いれず左の丘に4回目の打撃。  
 綾子は痛みを逃そうと体を振るが、真紀が渾身の力で肩を押さえつけているため身動きができない。  
 少し間隔があいて、それから立て続けに3発。合計7発目が振り下ろされたあと、林はすっと綾子のお尻をなでた。  
「はぁぅ……!」  
 形のよい双丘は真っ赤に腫れ上がっていた。軽くなでられるだけでも飛び上がるほどに痛い。  
「藤原さん大丈夫? もの凄い汗をかいてるわよ」  
 林の指摘どおり、綾子の全身から汗が噴き出していた。痛みと羞恥で体が熱い。  
(も……もう駄目です……許して)  
 
 荒い息を整え、唾を飲み込んでそう告げようとしたその時。  
「いえ、まだ大丈夫です。あと3発よろしくお願いします」  
 冷徹に、真紀が林に告げる。  
「な……真紀ちゃ……」  
 首だけ動かし、綾子は真紀を睨みつける。しかし真紀はそれには答えず、肩においた手にぎゅっと力をこめた。  
 お尻ほどではないが、肩甲骨に食い込むその力に綾子の口から息が漏れる。  
 ひゅん。物差しが空気を切り裂く。そして左右の丘それぞれに1発ずつ、連続して打撃が加えられた。  
「は……ち、きゅ……うぅぅ……」  
 呻くような声で、綾子は数を数える。林はそこで、綾子に声をかけた。  
「次でいよいよ最後よ。いい、思いっきり叩くから覚悟なさい」  
「ひっ……!」  
 綾子は目をぎゅっと閉じた。目頭にたまっていた涙が頬を伝い、床に落ちる。  
「じゃ、いっくわよぉ……」  
 林はわざわざ宣告してから、腕を大きく振りかぶった。綾子は拳をきつく握りしめ、全身の筋肉を硬直させる。  
 そして次の瞬間。  
 ぱぁぁぁん!  
 今までで最も大きい音をたて、物差しが綾子のお尻を震わせる。そして物差しはその衝撃に耐えられず、中ほどでぽきりと折れた。  
「きゃあぅ……っく……!」  
 綾子は、あまりの痛みに真紀の手に押さえられた上体を弓なりに反らした。次の瞬間ベッドに崩れ落ち、大きく息を吐く。  
 真紀がそっと綾子の肩から手を離す。ベッドに倒れこんだ綾子は、首だけを何とか動かしじっと真紀を睨みつけた。  
(……ひどい、ひどいよ真紀ちゃん……)  
 しかし、真紀はそんな綾子の視線を無視し、ベッドの上でいずまいを正すと、林に話しかけた。  
「林先生。藤原綾子さんへのお仕置き、ありがとうございました」  
「……ん? いいのよ。広田さんこそごめんね」  
 折れた物差しを拾いながら林が笑う。が、真紀の言葉は続いた。  
「私は級長として、彼女の罪に連帯責任があります」  
(……え?)  
 靄がかかったような頭の中で、綾子が真紀のその言葉の意味を理解するにはしばらく時間がかかった。  
「……ですから、藤原さんだけじゃなく、私にも罰をください」  
 そう言うと、真紀はベッドの上で正座し、深々と頭を下げた。林はさすがにとまどい、苦笑いを浮かべながら言う。  
「……広田さん、さすがにそれは」  
「お願いします。私にも……お仕置きをしてください」  
「……ま……きちゃ……?」  
「先生に綾ちゃんの罪を告げ口したのも私です。私は本来、綾ちゃんが薬を盗もうとしたときに、声をかけるべきでした。そうしたら綾ちゃんは、こんなつらい思いをしなくてよかったはずです」  
「……」  
「だから……綾ちゃんの罪の幾らかは、私にも責任があると思うんです」  
「まきちゃん……」  
 やっとの思いで上体を起こし、綾子は真紀のきつく握られた拳に手を添える。  
「ごめん……私、真紀ちゃんのこと憎らしく思ってた……。人がお尻叩かれてるのをみて、よろこんでるんだと……」  
「私こそごめんね。つらかったでしょう?」  
 真紀は、自分の拳の上に載っている綾子の手を握り返す。  
「ふふふっ」  
 そんな二人の様子を見て、林がかすかに笑う。そして軽くため息をついた。  
「はいはい、わかりました。じゃ、広田さんにもお仕置きをしましょう」  
「……はい!」  
「あ、でも……」  
 そう言って、林は手に持った物差しを見る。二つに折れたそれは、もう使うことができなくなっていた。  
「うーん、困ったわね……」  
 そう言いながら林は、物差しを机の上におく。と、彼女の目が机の片隅に置かれた小箱に留まる。  
 それは先ほど、綾子の鞄の中から回収されたモノだった。それを手に取り、くるりと二人に向き直って、林は宣告する。  
「じゃ、広田さんには『お浣腸のお仕置き』をします」  
 
 
 真紀がスカートを脱ぐ。綾子と同じように丁寧にたたみ、ベッドの隅に置く。  
「あら、広田さんはブルマを履いてるのね」  
「……私も、冷え性なんです」  
 紺色で両サイドに二本の白線が入ったブルマー。右上部分に『広田』とオレンジ色で刺繍が入っている。ややサイズが小さいのか、お尻の肉が裾から少し外にはみ出していた。秘肉の盛り上がりもはっきりわかる。  
 学校指定の体操着は短パンなので、中学のときのブルマなのかしらと綾子は心の中で思った。  
 そんな綾子の思考と関係なく、真紀はブルマーの裾に手をかけてゆっくりと脱いでいく。紺色のブルマーの下からは、薄い水色の地に細く白い横縞が入ったショーツが現れた。ブルマーに包まれていたショーツはややよじれ、彼女の白いお尻に薄いピンクの痕をつけている。  
 真紀はショーツを下ろす前に、お尻の部分に食い込んでいるゴムをそっと直した。そしてゆっくり両脇部分に手をかける。  
 ショーツを下ろしかけたとき、真紀はちらりと綾子を見た。綾子は慌てて目をそらす。それまでじっと彼女の下着を注視していた自分が、急に恥ずかしく感じた。  
 真紀は覚悟を決めたように、一気にショーツを足首まで下ろす。それを先ほど脱いだ服と同じようにベッドの隅に置いた後、秘部を隠すことなく立ったまま、彼女は告げた。  
「林先生。広田真紀にお浣腸のお仕置き、よろしくお願いします」  
 綾子はそんな真紀の堂々とした姿に軽い感動を覚えた。やはり恥ずかしいのだろう、かすかに震える手は指先までまっすぐ伸ばし、体の脇に添えられている。  
 セーラー服を着たままなのではっきりとした体のラインはわからないが、臍から足にかけてのくびれは彼女がまだ発育途上の少女であることを如実に物語っていた。しかし秘部を覆う茂みは、綾子とは対照的に黒々と茂っている。  
「……あ」  
 綾子の視線に気づいたのか、真紀は片手でそっと秘部を隠す。しかし林は何も言わず、真紀にイチヂク浣腸の箱を渡した。自分で道具の用意をしろということらしい。  
「……そういえば」  
 ふと思い出したように、林が綾子に尋ねる。  
「藤原さんは、どうして浣腸なんか盗んだの?」  
「……え?」  
 急に話を振られ、綾子はどきりとしながらも本当のことを話した。  
「あの……実は便秘で……」  
「え、綾ちゃんも?」  
 驚いたように真紀が問い返す。そこで綾子は、真紀も昼休みに腹痛で保健室に来ていたことを思い出した。  
「あら、二人とも便秘……ってことは、藤原さんも昨日生理が終わったところ?」  
「あ、いえ……私は一昨日終わったところです」  
 言いながら綾子は、林が先ほど言っていた言葉を思い出す。  
(『生理中に便秘になる娘は結構いてね、保健室には時々そういう娘たちが……』)  
 しかしその思考を、林の台詞が断ち切った。  
「じゃ、二人とも浣腸してあげるわね」  
「えっ……わわ、私もですかっ?」  
 綾子が思わず大きな声を出す。真紀も目を大きく見開いて、林の顔を見つめる。  
 そんな二人の様子を意に介せず、林はにっこり笑いながら言った。  
「だって、藤原さんもお通じがないんでしょ? だったらちょうどいいじゃない」  
「えと……それはその」  
「おあつらえむきに、箱ひとつに浣腸ふたつ入ってるんだし」  
「あ……えと」  
「先生、それは駄目です」  
 戸惑う綾子を他所に、真紀が林の提案を否定した。  
「二人ともお浣腸されるなら、私のお仕置きになりません」  
「んー……そう?」  
 どことなく残念そうな表情を浮かべ、林は首を傾げた。助かった……そう思いながら、綾子は真紀を見つめる。が、林はぽんと手を叩き、さらに提案をした。  
「なら、藤原さんが広田さんにお浣腸をする、というのはどう?」  
「ええっ!?」  
 今度は二人の女子生徒の声が重なる。林は硬直する二人に話を続けた。  
「藤原さんが、広田さんにお浣腸をしてあげるの。そして藤原さんには先生がする。これならいいでしょ」  
「いいでしょ……ってそんな」  
「私は結構です」  
 綾子が抗議の声をあげようとした途端、真紀があっさりと林の提案を承諾する。綾子は驚いて真紀の顔を見た。  
 林はにっこり笑いながら、真紀の掌からふたつの浣腸器を回収した。そしてそのうちのひとつを、綾子の手にゆっくりと握らせた。  
 
「藤原さん、私にお仕置きをしてください」  
 ベッドの上に四つんばいになり、高々とお尻を掲げながら真紀が言った。両方の手で、左右からお尻の窄まりを大きく開いている。そのためその直下にある秘裂もはっきり視認することができた。しかし綾子は、手に浣腸を持ったままとまどっていた。  
「どうしたの、藤原さん?」  
「あの……先生、恥ずかしいです」  
「綾ちゃん、私はもっと恥ずかしいよ……」  
 窄まりを開いたままの格好で、首だけ綾子のほうに向けながら真紀が言う。頬を赤く染め、荒い息にあわせてお尻の穴がひくひくと窄まる。綾子はごくりと生唾を飲み込んでから、もう一度真紀に尋ねる。  
「真紀ちゃん……本当に、いいの?」  
「……」  
 こくり。目を閉じて真紀が小さくうなづく。綾子は覚悟を決め、浣腸器のキャップをはずした。ベッドの上に乗り、真紀のお尻に顔を近づける。ふるふると震えるお尻に手を添え浣腸器の管を肛門にあてがった。  
「じゃ……入れるよ」  
「……ん」  
 お尻の穴と管とが垂直になるよう注意しながら、綾子は浣腸器を真紀の肛門に沈める。思ったより抵抗なく、管はすべて窄まりの中に収まった。綾子は真紀のお尻に添えていた手を離し、両手で浣腸器を握る。ゆっくり、あくまでゆっくりと、浣腸器を握りつぶす。  
 ぶちゅ、ちゅうっ。  
 浣腸器の中の液体が、管を通って真紀の直腸に注ぎ込まれる。綾子は奇妙な高揚感を感じながら、浣腸液が容器に残らないよう丁寧に容器をつぶしていった。  
 全ての液が注ぎ込まれたのを確認し、綾子はゆっくりと管を抜く。管がすべて抜かれた瞬間、真紀は「んぅっ」と小さな吐息を漏らした。  
「あ……ごめんなさい。痛かった?」  
「ううん、大丈夫……綾ちゃん、お浣腸のお仕置き、ありがとう……ね」  
 苦しそうな表情を浮かべながらも、真紀は綾子に丁寧にお礼の言葉を述べる。が、同時に彼女の下腹部からは遠雷のようなごろごろという音が響き始めていた。  
「さ、次は藤原さんの番ね」  
 林が、まだ裸のままの綾子の肩に手を置く。真紀がすっとベッドの隅に移動し、綾子のために空間をつくる。が、綾子は素直にベッドの上に手をつかなかった。  
「……どうしたの?」  
「あの……私、お浣腸は……」  
「綾ちゃん、今更逃げるの?」  
「ううん、そうじゃなくて。あの……私も、お浣腸は……真紀ちゃんに、してほしいなと思って」  
 厳しい表情を浮かべていた真紀が、呆れたような顔に変わる。林も苦笑いを浮かべながら、手に持っていた浣腸器を真紀に渡した。  
 綾子は、真紀にお尻を向ける形で四つんばいになる。そして先ほど真紀がしていたように、自らお尻の窄まりを両手で開いてみせた。  
 真紀は真っ赤に腫れた綾子のお尻に触らないよう注意しながら、浣腸器を彼女の肛門に差し込む。細い管が自らの肛門を侵略する感覚に、綾子は眉をしかめた。  
 真紀が一気に浣腸器をつぶし、大量の冷たい液体が直腸に染み渡るのを感じたときには、思わず涙がこぼれた。  
 管がすっと抜かれる。何か頼りないような違和感を下腹部に感じながら綾子が起き上がると、林が真紀に言った。  
「あら、広田さん。まだ液が三分の一ほど残ってるわよ? 藤原さんみたいに綺麗に入れなさいとは言わないけど、それは勿体無いんじゃない?」  
「いえ、いいんです。これは……」  
 そう言うと、真紀は手に持った浣腸器をすっと自らの下腹部に持っていく。少し腰を浮かし、それを自分の肛門に再び差し込んだ。ぶちゅっという音を立てて浣腸器を握りつぶし、震える手でゆっくりと引き抜く。  
「……これは、私の罰ですから」  
 
 さらさらさら……。  
 砂時計の白い粒が、きらめきながら落ちていく。  
 二人の少女は額に汗を浮かべながら、その砂を見つめていた。  
「最低でも3分は我慢しなさいね」  
 林はそう言って、普段は体温を測るために用いている砂時計を、二人の前に置いた。そして二人にそれぞれ、大きく丸めた脱脂綿を渡す。  
 綾子と真紀は、それぞれ片手で自らのお腹を、そしてもう片手で脱脂綿を使って自らの窄まりを圧迫していた。  
 二人はこの間に、服を元通りに着ることを許可された。真紀はスカートと下着だけだが、綾子は上半身も裸なので着るのに時間がかかる。  
 ぎゅるるるぅ。腸が悲鳴をあげる。そのたびに二人は服を着る手を止め、歯を食いしばりながら肛門に指をあてがい便意に耐える。  
 そして、砂時計の最後の粒がかすかな音を立てて下に落ちた。  
「せんせ……いっ。三分、たちました……ぁっ」  
「はい、じゃトイレに行ってもいいですよ。トイレまで我慢できそうにないなら、ここにバケツがあるけど」  
「いえ、大丈夫……です。さ、綾ちゃん。行きましょう」  
 二人はゆっくりベッドから降り、スカートの上から腹とお尻を押さえながらトイレを目指した。保健室から一番近いトイレは、扉を出て右手に50メートルほど、廊下を曲がったところにある玄関脇トイレ。  
 二人は走り出したい衝動をこらえ、なるべく体を揺らさないよう注意しながら、すり足で歩を進めた。  
 30メートルほど進み、廊下を曲がるところまできた。  
「……っくぅっ!」  
 そのとき、突然綾子がしゃがみこんだ。慌てて真紀も歩を止め、綾子をみやる。  
「だ、大丈夫?」  
「あ……ちょっと、ダメかも……」  
 絞りだすような声で綾子が答えた。ぐるるるるぅ! 彼女のお腹からは廊下の隅々まで響き渡るような大きい音が鳴っている。  
 真紀はそっとスカートの上から綾子のお尻に手を添えた。赤くはれ上がっているお尻は軽く触られるだけでも痛いが、真紀はスカートの奥に手を滑り込ませ、下着の中に手を差し込んで直接綾子の窄まりに指を添えた。  
「ひ……っ!?」  
「ほら、綾ちゃん。私が栓をしてあげるから……お願い、立って」  
「いや……恥ずかしいよぅ」  
「ほら、早く立って。……でないと、私もそろそろ限界……」  
 真紀が苦しそうに言う。綾子は思い出した。自分よりも真紀のほうが、お腹に入っている浣腸液の量は多い。ごろごろと真紀のお腹が立てる苦しげな音が聞こえ、綾子は体全体を震わせながらゆっくりと立ち上がった。  
「……さ、このままトイレまで行くわよ」  
「え、このまま……?」  
 綾子は真紀の肩に掴まりながら、やや恥ずかしげに聞いた。真紀の指はまだ綾子の窄まりに添えられている。真紀がトイレに向かってゆっくり歩き出す。綾子も震える体を引きずるように、ゆっくりトイレに向かって歩き出した。  
 
 
「……ごめんね」  
 トイレの洗い場で手を丁寧に洗いながら、真紀が綾子に幾度目かの謝罪の言葉を告げた。  
「……ううん。私のほうこそごめんなさい」  
 その隣で手を洗いながら綾子が答える。  
 二人はあの後、無事トイレまでたどり着いた。隣り合った個室にそれぞれ駆け込み、便座に腰掛けるのももどかしく、スカートをめくって苦しみの素を吐き出した。二つの個室では同時に水栓が開かれ、それぞれ勢いよく水の流れる音が響く。  
 そして二人は、期せずして同時にそれぞれの個室から出てきた。  
「でも……やっぱり謝るべきは私のほう。ごめんなさい」  
「そんな、真紀ちゃんが謝ることなんて」  
「実はね」  
 綾子の言葉を真紀がさえぎる。石鹸が泡立つ自らの指先をみつめながら、真紀は少しの間を置いて告げた。  
「私、一年前に綾ちゃんと同じように、お浣腸を盗んだことがあるの」  
「……え……ええっ!?」  
 突然の告白に、綾子は思わず大きな声を上げた。水道の音だけがトイレに響く。真紀は手を洗い続けながら言葉を続けた。  
「小学生の頃から、ずっと便秘気味で悩んでたの。中学生ぐらいまではお母さんにお浣腸されてたんだけど、やっぱり凄く恥ずかしくて」  
「……」  
「高校に入学してから、ストレスで便秘が一層ひどくなったの。でもこんなこと恥ずかしくて誰にも相談できなくて。……それで」  
「……」  
「保健室に忍び込んでお浣腸を盗んだら、あっさり林先生にみつかっちゃった。それで、やっぱり綾ちゃんみたいに、お尻叩き10回の罰。でも、盗んだお浣腸はそのまま私が持って帰っていいって」  
「……」  
「その上『便秘で悩んでるなら、いつでもお薬をあげるから』って言われて。……それから月に一度、生理が終わった翌日にお浣腸をもらいに行ってたの」  
「……真紀ちゃ」  
「だから……実は私、綾ちゃんのこと悪く言う資格なんてないの」  
 きゅっ。手を洗い終わり、真紀は水道の蛇口を閉める。ハンカチで丁寧に雫をふきとって、真紀は綾子に向き直った。  
「……だから、ごめんなさい」  
 そしてぺこりと頭を下げる。綾子はしばらく呆気にとられていたが、やがて大きな咳払いをひとつしたあと、にやりと笑って言った。  
「真紀ちゃん、私、凄くショックよ。うちのクラスの級長が、犯罪者だったなんて」  
「……綾ちゃ」  
「だから……」  
 大きく息を吸って、綾子が真紀に命じる。  
「洗面台に手をついて、お尻をつきだしなさい。……お尻叩きの罰をしてあげる」  
「……う、うん」  
 真紀は素直にうつむき、洗面台にゆっくり手をついた。そして顔を掌の上におき、やや足を開いてお尻を突き出す。綾子は真紀のスカートを、彼女の羞恥心を煽るようにゆっくりとめくっていった。  
「あ……綾ちゃん。鏡に写って、なんだか凄く恥ずかしい……」  
 真紀は鏡越しに、自らのスカートがめくられるのをみつめていた。が、綾子は無言で彼女のスカートをめくり終えると、ブルマーとショーツに指をかけた。ゴムの部分を大きく伸ばしながら、一度お尻の窄まりが見えるかどうかぎりぎりの場所までまとめて下ろす。  
「……?」  
 真紀が頬を染めながら、綾子をふりむく。そのとき、綾子はブルマーとショーツを一気に膝の部分まで下げた。  
「あ……ああ……」  
 ため息のような声をあげながら、真紀は鏡に写る自らの姿に視線を戻した。綾子は鏡の中の真紀に向かい、お尻叩きを宣言する。そしてはぁっと自らの掌に息を吹きかけ……  
 ぱぁぁぁん!  
 小気味よい音を立て、真紀のお尻に振り下ろされた。紅葉のように、掌の形が真紀のお尻に刻まれる。  
 綾子は鏡に写る真紀の顔を見た。真紀は歯を食いしばり痛みに耐えている。が、その表情にはどことなく何か憑き物が落ちたような、今までの張り詰めた表情とは一変した安堵感が広がっていた。  
 綾子はそっと真紀の下着に手をかけた。そして、ゆっくりと下着をあげていく。  
「……え、綾ちゃん……?」  
「しっ、動かないで」  
 驚いて振り向く真紀を制し、綾子は真紀のお尻にやさしく下着を履かせた。まずショーツ。ついでブルマー。スカートも丁寧に下ろし、そっと皺を伸ばす。  
「……綾ちゃ」  
 洗面台から体を起こした真紀の言葉をさえぎり、綾子が幾度目かの「ごめんなさい」を告げる。  
 そして二人は、同時に笑いだした。  
 
 
「失礼しまぁす」  
 声を唱和させ、二人の少女が並んで保健室の扉をくぐる。放課後、一日の仕事を終えようとしていた保健医の林は、淹れたてのコーヒーを口に運びながら少女たちをみた。  
「あら、広田さんに藤原さん。一ヶ月ぶりね」  
「はい。あのときは申し訳ありませんでした」  
 苦笑いしながら綾子がぺこりと頭を下げる。つられて苦笑しつつ、林はコーヒーカップを机の上におき、立ち上がって薬品棚に手を伸ばした。  
「……で、二人そろって今日はどうしたの?」  
 言いながら棚の扉を開ける。  
 綾子と真紀は一度お互いの顔を見合わせ、真紀が促されて口を開く。  
「あの……私、昨日生理が終わったところで」  
「そう。それで?」  
 林は薬品棚の一番上の段ボール箱を取り出した。そのなかから青い小さな紙箱を手に取る。  
「それで……あの、ずっと便秘が続いていて。お腹が張って、苦しくて……」  
 今度は綾子が口を開いた。  
「そう。それで?」  
 段ボール箱を元に戻し、静かに薬品棚の扉を閉めながら林が尋ねる。  
 綾子と真紀の二人は、もう一度お互いの顔を見合わせたあと、息を合わせて言った。  
「先生。……お浣腸のお薬、ください」  
 林はにっこり笑いながら、二人の少女に浣腸の小箱を手渡した。  
 
− 終 −  
 

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