「触手さま用のお召し物…でございますか?」
「はい、見立てていただけますか?」
俺は前代未聞の注文に、一瞬思考が停止した。
絶海の孤島でぽつんと営業する用品店「テーラー虻脳丸」。子供服から宇宙服まであらゆる服を取り揃え、数万光年の彼方からご来店のお客様すら珍しくないこの店でも
夢想だにしなかったお客であり、品物だ。当然フロアに展示なんかしていない。
「少々お待ち下さい」
在庫を検索……あった、それも3種類。店長、どこから仕入れてきてるんですか?
メジャー不要まで鍛えた目測で、お客様の体幹の太さ、高さ、触手の長さ、、太さ、本数を測る。幸い、というべきかお客様は全裸でご来店なさったので、珍しいご体形でも計測に不安はない。
さて、どの品をお勧めすべきか。シンプルな麻の触手袋、退魔コーティングを施した超鋼の鞘鎧、そして…。
「はい、今送ったデータどおりに。特急でお願いします」
裏で待機している針子にサイズ直しを依頼。お待ちいただく間、お客様にソファ…には座れないので、絨毯の上にご案内してお茶を出す。飲めるかな?と一瞬不安になったが、
カップを細い触手で持ち上げて無事召し上がられた。
程なく届けられた衣装箱を提げて、お客様を試着室にご案内する。待つことしばし、試着室のカーテンが開く。
「お気に召していただけましたでしょうか?」
「ええ、とても…でも人間のあなたに、どうして私が雌の触手だと判ったのですか?」
俺は天蚕総レースの触手用ドレスをまとったお客様の多分胸元らしきところに、用意しておいた花を挿してから気取って答える。
「仕立屋でございますから」
本当は、お客様が眼柄を向けているのが婦人服ばかりだったからなんだけどね。
>>589様、またのご利用を心よりお待ちしております。