しとしととそぼ降る雨。  
秋口の冷たい雫をうけながら、少女――ライアは小さくため息をついた。  
小さな身体に不似合いな長いローブは、彼女が魔術師であることを示している。  
ローブの上から下げられた金色の首飾りには、不死鳥をかたどった赤銅色のプレートが括りつけられていた。  
このプレートは、魔術師学校を卒業し、ひとり立ちした魔術師の証である。  
不死鳥が咥えている宝石の種類によって、その階級まで分かる優れものだ。  
偽造は重罪のため、どう見積もっても年端もいかない少女にしかみえないライアが、れっきとした魔術師であることを証明してくれる唯一のものだ。  
「降ってきた……」  
「だから、さっきの宿で休んでおけといっただろう」  
ぽつりと呟いたライアの言葉に、文字通り噛みつくように答えたのは人狼(ワーウルフ)のショーンだった。  
大きな口をぱっくりと開けて、歯を剥きだしにしてライアを威嚇する姿は、どう見ても悪いモンスターが女の子を襲おうとしているようにしか見えない。  
「………………」  
恐ろしい形相のショーンの、雨でしっとりと濡れた尻尾を撫でてライアは唇を尖らせる。  
ワーウルフといえどもどちらかというと狼の血が強いショーンは、二足歩行も可能で言語が理解できる狼、くらいの見た目だ。  
つまりは、傍目には完璧にデカい狼に見えてしまうのである。  
 
そんなショーンは、さきほど立ち寄った宿では、口の悪い輩に「狼が人間さまのベッドで寝るなんて生意気だ」などと言われてしまった。  
そういった扱いに慣れているショーンにとって、それは流してしまえる程度の暴言だったが、隣を歩くライアにとっては逆鱗に等しかった。  
あまり口の達者な方ではないライアは、上手く男に言い返すことができないと悟り、攻撃呪文を唱え始めた。  
それをなんとか宥めて、宿を後にした途端、この雨に行き当たったのだ。  
背中がムズムズする感覚から雨の到来を予感していたショーンは、毛皮に降りかかる雨をぴるぴると身体を震わせて弾いた。  
それが隣のライアにかかってしまい、ショーンは慌てて彼女の顔を前脚で拭う。  
「すまないな。俺のせいで、ライアにはいつも迷惑をかける」  
自分さえワーウルフでなかったら、こんな山奥を雨の中歩かせたりせず、暖かい宿で食事でもとらせられたものを。  
ショーンは奥歯をかみ締めて我が身を呪ったが、ライアはそんなショーンの尖ってふさふさとした耳を小さな手でなぞり、首を振った。  
「私、ショーンが迷惑とか思ったことない。ショーンのこと、好きだから」  
「…………ありがとう」  
少女の言葉に、ショーンは恐ろしい笑顔(当人にとっては最上級の好意の証らしい)を浮かべたが、ライアはそれに引き攣ることなく微かに微笑んで答えた。  
「ショーンは、私のこと怖がらない。私のことを見てくれたのはショーンだけだった。私、ショーンのこと好き」  
「ああ。俺もだ、ライア」  
鋭い爪は、丸く磨いであるといっても柔らかい少女の皮膚ともなれば簡単に傷つけてしまう。  
ショーンは細心の注意を払ってライアの頬に前脚を添えて、彼女に柔らかく口づけを落とす。  
表情と言葉に乏しいライアは、微かに頬を染めて目を閉じ、ショーンの口づけを受け止めた。  
 
ライアとショーンが出会ったのは、ライアが魔術師学校に通い始めるずっと前のことだった。  
緑が鬱蒼と生い茂る森の中で二人は生まれ、そして育った。  
一人は森のすぐ傍で。一人は森の奥深くで、それぞれに別々に大きくなった。  
 
幼い頃からライアは、その魔術の才能を発揮していた。  
しかし、それは当人にとってなんら喜ばしいものではなく、むしろ疎ましくて仕方のないものだった。  
感情が昂ぶると制御できなくなるその力は、時に人を傷つけ、時に人の秘密を暴き、時に人の未来を見せた。  
そしてそのどれもが、満遍なくライアを傷つけることしかしなかった。  
化け物じみた我が子を疎む両親、ライアを遠巻きに噂する村の人々、そして彼女にとって地獄としか言えなかった学校。  
特に学校での子供たちの言葉は、ライアの幼い心をひどく傷つけた。  
ライアは悪い魔女と呼ばれ、手酷く痛めつけられた。  
泣けば泣くほどそれはエスカレートし、次第にはライアが一言口を開くだけで暴力は始まった。  
子供たちは怖かったのだ。得体の知れない力をもつライアを、彼らは疎んでいた。  
そして、その力が自分たちに向けられることを恐れて、ひたすらライアを甚振った。  
彼らの行動が恐怖と畏怖の裏返しだと、ライアは分かっていたが、どうすることもできなかった。  
それから、ライアは段々と口数が少なく、喜怒哀楽をめったに表に出さないようになる。  
周りの人々はますますライアのことを「魔女」だと罵ったが、すでに彼らは彼女に手を出すことはできなくなっていた。  
その時にはライアは自分で自分の力をコントロールする術を覚え、だれも太刀打ちできないほどの力を手に入れていたからだ。  
柔らかな栗色の髪と、神秘的な藍色の瞳を持った可愛らしい少女は、その美しさから受けられるはずの恩恵を微塵も受けずに、孤独に大きくなった。  
 
ある日、ライアは森の泉でショーンと出会う。  
彼はワーウルフのくせに善良で思慮深く、やさしかった。  
ライアの不思議な力を知っても、彼はそれを怖がったり、疎んだりしなかった。  
逆に、豊富な知識でライアの不思議な力を「魔力」だと説明し、それを褒めてくれた。  
ライアは人からそんな風に接してもらったのは生まれて初めてだった。  
 
 
二人が出会ってしばらくたったある時、いつもの泉のほとりで二人は肩を寄せ合って話していた。  
その頃からあまりかわりのないライアの背は、ショーンに比べてずっと低く、彼の腰より少し上程度だったので、ライアは精一杯ショーンを見上げて問いかける。  
「ショーン、とても優しい。私みたいな化け物に」  
「化け物は俺のほうだ。なにしろワーウルフだからな」  
そう答えたショーンの目は悲しげで、深い緑色の目はキラキラと硬質に輝いていた。  
ライアは、自分の失言に気がついて悲しげに顔を歪め、ショーンの腹に頭をこすり付ける。  
ワーウルフは、悪質なモンスターではないが縄張り意識が強いため、人間に危害を与えることもある。  
それは勿論、彼らの縄張りに不用意に足を踏み入れた人間が悪い。  
しかし、恐怖という感情はどうしようもなく、ショーンたちワーウルフは差別の対象にもなっていた。  
そんな自分たちの境遇を良く知っているショーンは別段大したことではない、というようにライアの頭をやさしく撫でる。  
「ちがう、ショーン化け物じゃない。私の大事な人」  
ぱふりと前脚が乗せられた頭をふるふると振って、ライアはショーンの言葉を否定した。  
伏せたままの顔からは表情は読み取れないが、腹にこすり付けられた顔から暖かい液体が伝っていることに気付いたショーンは、ライアの頭を髪をかき混ぜるようにして撫でる。  
「泣くな。分かってる。俺もライアが大事だ」  
「…………本当?」  
言語能力が乏しいわけではないライアだが、幼少時の悲惨な体験のせいで彼女はどうにも会話を交わすことが苦手だった。  
途切れ途切れになるライアの会話に、根気よく付き合ってきたショーンは、今では一言程度で彼女の内心を大体推し量れるようになっている。  
(分かっているのに、どうして何度も聞きたがるかな)  
内心で苦笑しながら、ショーンはライアの望む言葉を耳元で囁いた。  
 
ショーンはワーウルフの生まれだが、何故か群れには属していなかった。  
物心ついたときから、自分の周りには父しかいなかったので、それはそういうものだと思っていた。  
父は純血にして誇り高い狼で、孤高の存在として森の住人たちに一目置かれていた。  
そんな父が誇らしく、ショーンは父の背中を見るたびに、どうして自分は父にちっとも似ていないのだろう、と不思議だった。  
それが無性に切なくて拙い遠吠えで気を紛らわせては、その度にすこし落ち込んだものだ。  
物心ついたときから母はおらず、またショーンは父以外の存在は「獲物」と「同類」しか知らなかったので、母という存在すら知らなかった。  
 
ショーンが母の実在を知ったのは、父が亡くなってからだった。  
父との会話は身振り手振りと鳴き声で意思疎通していたショーンは、人の言葉を知らなかった。  
ある時、親切なワーウルフが彼にその手ほどきをしてくれるまで、彼は自分がワーウルフだという自覚すらなかったのだ。  
ともかくも、父の急逝によって駆けつけたワーウルフに言葉を習い、文字を習い、道具の扱い方を習った。  
ショーンはそれで、自分の前脚は思ったよりも器用に動くこと、また二足歩行が可能であること、言葉の概念、あらゆることを覚えた。  
元より頭は悪くなかったショーンが、ありとあらゆる本を読み漁るようになるまでに時間はかからなかった。  
塒には何故か大量の書物や、ワーウルフ用の生活用品まであり、ショーンはそれに首を傾げつつもありがたく利用していた。  
 
ある時、書物の中からひらりと零れ落ちた手紙を見つけ、ショーンはそれで母の存在を知った。  
知識としてあったが、まさか自分にもいるとは、とショーンは驚きながらそれに目を通した。  
内容としては、ショーンの母はワーウルフであり、狼の父と恋に落ちたため群れを追放され、ショーンを生み、彼女は死んだ、というものだった。  
「恋、か……」  
ショーンとて、父の存命の頃には和くセクシーな牝狼に、ほんのすこし心を奪われたこともあった。  
しかし、それはあくまで彼女を同種だと思っていたからだ。  
父と母のように種族を超えてまでも、というような想いではなかった。  
現に、自分がワーウルフだと知った直後、彼女への想いは潮が引くように冷めてしまった。  
「いつか、俺にもくるのかな……」  
ぽつりと呟き、手紙を再び書物に挟み込んだショーンは、気まぐれに森の泉へと立ち寄った。  
そこで、まさしく”種族を超える恋”の相手に、出会った。  
灰色の美しい毛皮と強靭な肉体を持った孤独なワーウルフは、ついに生涯をともにする相手にめぐり合ったのだ。  
 
狼としても、ワーウルフとしても中途半端で、どちらからも弾かれたショーン。  
そんな彼に、同じく弾かれていた少女、ライアは彼に素直になついた。  
ライアの事情を聞き、それが寂しさからきたものだ、とショーンには分かっていた。  
しかし、ライアへの想いの前についに理性が陥落したショーンは、彼女に想いを打ち明けた。  
 
 
ライアへ愛を告白してから、ショーンは彼女に口づけを落としたり、彼女の白く柔らかい肌を少しだけ味わったりしたが、基本的には紳士だった。  
少しでもライアが戸惑ったり、嫌がるようなそぶりを見せれば、彼は決してライアに手を出さなかった。  
「ショーン。私、ショーンが好き。だから、ショーンは私のこと好きにしていいよ」  
ある日、ショーンの膝の上で寛いでいたライアはそう言って彼を振り返り、にこりと微笑んだ。  
その笑顔に、思わずワーウルフの本能が暴走しそうになったショーンは、なんとか理性でブレーキをかけて、彼女の頭を撫でた。  
「……ライア、そういうことは……あー、そのだな……」  
「私、知ってる。愛し合う人が何するのか」  
分かりにくく赤面したショーンの耳元で、ライアはぽそりと囁いた。  
その言葉に、ショーンはますます困り果てたように耳をふせ、力なく尻尾を振った。  
「私は、ショーンがいい。ショーンは?」  
「…………ライアしかいないさ」  
言い募るライアに、根負けしたようにショーンは鋭い牙を少しだけ覗かせた獰猛(にみえる)な笑みを浮かべた。  
愛しい少女は、ショーンの答えに首筋まで赤く染め上げて、もじもじと身体を揺らしている。  
その、林檎のように甘い匂いを放つうなじを長い舌で舐め上げて、ショーンは彼女の耳元で囁く。  
「ライア、もしかしたら酷くしてしまうかもしれない。嫌なときは言ってくれ」  
「ショーンにされて嫌なこと、ない」  
ふるふると首を振ってライアはそういうと、ショーンのふさふさとした毛皮に顔を埋めた。  
その答えが嬉しくて、ショーンは思わず彼女を強く抱きしめてしまたい衝動にかられた。  
寸前で、自分の力では彼女を壊してしまう、と思いとどまり、ライアの栗色の髪に口づけを落とすことで我慢する。  
「ライア、好きだ」  
「私もショーン、好き」  
拙い愛の囁きのあと、ショーンはライアを優しく柔らかい草むらに押し倒し、彼女の粗末な衣を剥いでいった。  
傷一つない美しい白い身体は、陽をうけていっそう輝き、ショーンには泉の女神のようにも見えた。  
「ライア……」  
「んっ……んぅっ……んむ……あぅっ……」  
ゆっくりとライアに覆いかぶさったショーンは、彼女の唇を舌でこじあけ、その口内を蹂躙していく。  
いつもの触れるだけのやり方とは違う、荒々しい口づけに、ライアの身体は微かに強張ったが、やがてその力も抜けていった。  
積極的に小さな舌を絡めあわそうとするライアを、ますます愛しく思いながら、ショーンは長い口づけを続ける。  
「ふぅっ……ん……んんっ……んぁっ……」  
水音を響かせながら、ショーンはライアの唇から零れ落ちた唾液をなぞるように首筋に舌を這わせる。  
ぴくりと震えたライアは、しかし何もいわずにショーンの頭に手を伸ばして、優しく耳を撫でた。  
 
「綺麗だ、ライア」  
「ああっ……んっ……ひゃっ……あぁっ……」  
慎ましやかな胸の膨らみの上の桃色の果実を味わうように、ショーンは舌でそれを転がし、舐め上げる。  
その初めての刺激に、ライアは戸惑ったように高い声を上げた。  
白い裸身がショーンを誘うように揺れ、栗色の髪が草むらに散らばる。  
「気持ちいいか? 痛かったら言ってくれ」  
「んっ……だいじ、ょうぶ……ふっ……ふぁっ……」  
ショーンの問い掛けに必死で答えるライアの顔は、うっとりと上気し、知的な藍色の瞳は興奮に潤んでいた。  
顔を上げてそんなライアを見つめたショーンは、忙しなくライアの脚を開かせると、そこに顔を埋める。  
「ショー、ン……きたな、い……あぁっ!……だ、め……ぁっ」  
「ライアは綺麗だ」  
少女の桃色の秘裂はひくひくと震え、未知の刺激に怯えているかのようだ。  
その様子に更に劣情を煽られ、いっそう熱心にショーンはそこを舐め上げる。  
溢れる蜜を啜り、充血して尖った肉の芽を舌でやさしく愛撫して、ライアの官能を高める。  
「ひゃぁあっ……ショ、ン……あぁっ……ショー、ン!」  
ふるふると頭を振って、必死にショーンの名を呼ぶライアは、内部で蠢く熱に怯えるように脚を突っ張らせた。  
そんなライアを宥めるように、ショーンは一旦蜜を啜り上げるのをやめて、力の入った白い太ももを舐め上げる。  
長く赤い舌が、少女の細い脚を這い回る様子は、どこか背徳的だった。  
「ライア」  
少女の名を呼んだショーンは、その長い舌をライアの慎ましやかな秘裂に一気に突き立てた。  
柔らかく熱いものが自分の内部に入り込む、その異質な感覚に、ライアは甲高い嬌声をあげた。  
「ひゃっ……はぁあっ……ふぁっ……はぁぁあっ!」  
ぴちゃぴちゃ、といやらしい水音をさせながらショーンは舌を何度か出し入れする。  
膣内の敏感な部分にあたる、ざらざらとした刺激に、ライアは身体をばたつかせた。  
幼いライアは、知識として知っている行為と、現在の快感が結びつかず、戸惑いながらもショーンの名を呼び続ける。  
「ショー、ンっ!……あぁっ……ショーン!……はぅうっ……」  
舌はその間にもライアの内壁をすりあげ、彼女に眩暈を覚えるほどの快感をもたらしていった。  
潤む視界の中で、ショーンの灰色尻尾が激しく揺れているのが目に入る。  
それを幸せな気持ちで見つめながら、ライアは初めての快楽に溺れた。  
 
「ライア、痛かったり、辛かったりしたら言ってくれ」  
「んっ……わ、かった……」  
ライアの秘裂から口を離したショーンは、真剣な眼差しでそういうと、ズボンを下ろした。  
ショーンは基本的に裸で、丈夫な靴と生地の厚いワーウルフ用に加工されたズボン以外には何も身につけない。  
ライアはショーンの美しい毛皮が好きだったので、彼の裸身をうっとりと盗み見た。  
はじめて見る異性の性器は、とても大きく力強く、なんだか怖いけれど、ショーンのものなら平気だ。  
ライアはそんな風に思いながら、衣服を脱ぐショーンを待つ間、愛しい人の姿に見惚れていた。  
「……ライア、力を抜いていてくれ」  
再びライアに覆いかぶさったショーンは、余裕を無くした声でそう言うと、無言で頷いたライアに口づけを落とした。  
同時にぐ、と腰を進め、ショーンとライアの陰部がぐちゃぐちゃと擦れ合う音がする。  
次第におし進められたそれは、ライアの未熟な秘裂に少しずつ進入を始めた。  
「んぅっ……はっ……あっ……」  
舌とは比べ物にならない圧迫感に、ライアは顔を歪めて呻いたが、ショーンを止めたりはしなかった。  
たっぷりと唾液で塗らされたおかげで、挿入はそれほどキツくはない。  
何より、愛する人と一つになる喜びの前の、多少の苦しみならライアはいくらでも我慢できるつもりだった。  
「ふっ……あぁっ……ひゃっ……うぅっ……」  
ゆっくりとライアの中に全てを収めたショーンは、微かに眉を顰めるライアの眉間に口づけを落とす。  
緩やかに腰を動かし、なるべくライアの負担にならないよう気遣いながら行為を続けるショーンの口元は、隠しきれない喜びで緩んでいた。  
「あぁっ! ショーンっ! ひゃぅ……はぁあっ!」  
「ライア……ライア……」  
次第に早くなる律動に、ライアは戸惑いながらも合わせるように腰を動かす。  
圧迫感がいつしか快感へと変わり、ライアの口元からはとめどない嬌声が零れ落ちた。  
そんなライアの様子に、ショーンは嬉しそうに彼女の名を呼び、髪に、額に、口づけを落としていく。  
「ショーンっ! なんか、へん! おかしくなるっ!」  
「大丈夫だ、ライア」  
絶頂が近いのか顔を真っ赤に染めてショーンにしがみついたライアを優しくなだめ、ショーンは更に律動をはやめる。  
泉のそばではしばらく嬌声と水音、そして荒い吐息だけが響いていた。  
 
 
ライアと出会ってから、すでに五年になる。  
しとしととそぼ降る雨の中で、ライアを自分のコートの中に包みこんで抱き上げながらショーンはふとそんなことを考えた。  
王都の魔術師学校への入学を勧めると、ライアは一も二も無く頷き、さっそく手続きを終えてしまった。  
その時には少し寂しかったのだが、それに同行できると聞いたときには素直に嬉しく、即座に頷いた。  
もとより、ライアにとってもショーンにとっても森は居心地のよう場所ではなかったので、二人はすぐに王都に向かった。  
魔術師学校でもライアは差別やイジメや偏見にあったが、傍にショーンがいる分逞しくそれを受け止め、必要とあればお返しをするまでに成長した。  
百年に一人と言われた逸材である彼女に喧嘩を売るものは次第にいなくなり、学院は二人にとって居心地のよいものに変わっていった。  
 
ライアへのイジメや偏見は、彼女の美しい容姿も関係していたが、一番は彼女の同行者だったショーンだった。  
護衛として寮の同じ部屋で寝起きしていた彼らは格好の噂の的で、禁断の愛だのなんだの囁かれていたようだ。  
事実なので、二人は否定をしなかった。  
しかし、ライアはショーンを詰られることだけは我慢できず、その手の冗談を言った命知らずには武力行使を厭わなかった。  
おかげで、二人の生活を脅かす不快なものはほとんどなくなり、ライアは学院で晴れやかな笑顔を取り戻すまでになる。  
 
卒業してからは、もっと簡単だった。  
ライアは腕のたつ、良い魔術師へと成長していたし、ショーンはもともと全てにおいて人以上のポテンシャルを持っている。  
二人して便利屋のようなことをして、悠々自適に暮らすことにした。  
組織に属するほどには、二人は人が好きではなかったので、それがちょうど良かった。  
今日も、遠出の一仕事を終えて王都の家へと帰る途中だった。  
 
「ショーンが止めなきゃ、八つ裂きにしてやったのに……」  
「やめとけ」  
物騒なことを呟く少女の頭をマントの上からはたき、ショーンは苦笑した。  
雨はまだ止む気配はない。どうしようか、と辺りを見回したが、どうにも雨宿りに適した樹も見当たらない。  
布の下から感じる暖かい体に、ショーンはまあこれもいいか、と思い直して雨で滑る山道を苦も無く進んでいく。  
「なあ、ライア」  
「………………?」  
突然のショーンの問い掛けに、マントの中から顔を覗かせたライアは小首を傾げて彼を見つめた。  
「好きだぞ」  
自発的にショーンがそんなことを言うのは、長い付き合いでも滅多にない。  
ライアは案の定耳まで赤くして、マントをかぶり直すとショーンの胸に顔を埋めた。  
「…………私も」  
雨音に掻き消えそうな小さな声も、獣の耳ならばたやすく拾える。  
ショーンはライアの答えに満足そうに耳をぴくぴくと動かして、山道を駆け出した。  
 
 

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