「一度飼ったからには最後まで責任を持って飼って下さい」 少年のそばで赤い服の女はため息混じりにそう告げた。  
「飼うって……ミザリーは犬や猫じゃないんだからさ」 「そうよ!! 私は悪魔よ!!」   
ギリ 女に食ってかかったミザリーは髪を引っ張られ中吊りにされる。  
「そうよ、あんたは悪魔……、犬猫以下の存在」 「いたたた!! 」  
足をばたばたさせて、何とか振り解こうともがいているが、女は離す気など毛頭無さそうである。  
「やめて!! ミザリーを放してあげて!! 」 少年が女にしがみつく、  
「……わかりました」 ポイ。 ドス。 急に手を離されミザリーはその場に勢いよくしりもちをつく羽目になる。  
「いたたたぁぁ……」お尻をさすりながら恨めしそうに女を見つめるミザリー。  
「いいですか坊ちゃま、こいつは悪魔、しかも低俗で卑しいうそつきの部類です」  
冷たい目でじろりとミザリーに一瞥を加えると、「けしって、心を許すなどされませぬよう、お気をつけください」  
そういうと女は少年の部屋を後にした。  
 
後には二人がポツリと残る。 「なにあの女!! すっごい感じ悪い!!」  
ミザリーは少年に対して取った態度を棚に上げて、激しく非難する。  
「何であんたあんな女と一緒にいるわけ?」 「あんなって……だめだよミザリーそんな酷いこと言ったら」  
少年はミザリーをなだめるように言葉をかけるがミザリーはまったく聞く耳を持たぬ様子である。  
だが突然、何かを思いついたように少年をじっと見つめた。  
 
「あんたさあ、Hなことした事ある?」 ブフゥ。突然の質問に少年今飲んでいたものを口から吹き出す。  
「汚な!!」 「ごほ、ごほ、な、なに言い出すの?ミザリー」 ゴホゴホとむせ返りながらそばにあった、  
タオルで少年はこぼれたものをふき取る。  
 
「ないんだー、ふうん」 そう言うと彼女は文字道理、子悪魔のような笑みを浮かべ、少年に近づく。  
「してみる?」 「え!?」 ズイ。少年のすぐそばまで顔を近づけるミザリー。  
彼女の甘い息が少年の鼻をくすぐる。「……ミザリーって、甘いにおいがする」  
「そうよ、悪魔っていいにおいがするの、催陰効果もあるんだから」  
にこりと笑う、「さい……、なに?」 「まあ子どもはわかんなくていいわよ」  
そういいながら少年の服に手をかける。 「え? え!? だ、だめだよミザリー!!」  
「お子ちゃまは黙って、私の言うとうりにすればいいの」  
(自分だって子供じゃないか……) 少年はそう言いかけたが言葉が口から出てこない。  
 
「ふふ、よく見るとあんた可愛い顔してる」そっとほほをやさしく撫で付ける。  
少しひんやりした柔らかな手が少年を撫でる度、体がびくりと反応する。  
「ダメダよ、ヤメテよミザリー」 「それにこの栗色の髪、綺麗」  
すっと少年の髪をなでる、ただそれだけなのに、少年はまたも体を震わせた。  
(どうしよう……今僕いけないことしてるんだ) 声も出せず体も動かすことができない。  
「さあてと、じゃあーー」 そう言ってもう一度少年の顔を撫で付けたその瞬間。  
「きゃあぁ!!」 凄まじいまでの悲鳴が、部屋中に響いた。  
 
「あ、あ、あんたなにしたの!?」 ミザリーが悲鳴を上げるが、少年は何のことかわからないという顔でミザリーを見つめる。  
「まさか、あのババア あんたにおかしな事しってたとか……」  
そこまで言ってからはっと少年の顔を見る。 そして自分の焼け焦げた手をじっと見つめた。  
まだブスブスと煙を上げる自分の手と、少年の頬に何度も視線を往復させると、  
「そう、あんた、なるほどね……」何かを理解し手をさするミザリー。  
「ミザリー!! どうしたの酷い怪我!!」  − アンタがやったんだ!! −   
と、言いたいところを飲み込む。  
 
「悪魔はこういうことよくあんの、気にしなくていいわ」 不貞腐れたようにミザリーは告げる。  
「待ってなんか薬持ってくる!! 」 立ち上がりかけた少年に、  
「あんた筋金入りの馬鹿? 悪魔もびっくりだわ」 ミザリーが驚いたように言葉を投げかけた。  
「え……、どうして?」 「いい? 私は悪魔」 ハァため息を吐くと、  
「人間の薬なんて意味無いの、わかった?」 「そっか……、でもそんな言い方しなくても」  
うなだれる少年を見てあわててミザリーは手を振る。 「わ、わ、わるかったわ、泣かなくてもいいじゃない」  
「だって……」 なおも泣きそうになる少年を見つめ、「此れぐらいほって置いてもすぐ治るから」  
「そうなんだ、あ! じゃあさ、治るまで僕、手を握っててあげる」  
そう言うと少年は怪我した部分に触らないようにそっとミザリーの手を握る。  
「……僕のお母様がこうやって、痛いところに手を当ててくれたんだ、そしたらね、痛いのが不思議となくなったんだ」  
「ふーん」 さほど興味なさそうにミザリーがうなずく。  
(まったく馬鹿なことを) だが、手の異変を感じミザリーは自分の手を見つめた。  
「嘘……!?」 治っている。 早すぎる。 「あ、治ったみたいだね、悪魔ってすごいね」  
「あ、当たり前よ、人間と一緒にしないで」「ご、ごめん」少年はまた頭を下げる。  
「い、いちいち、謝らない! 男でしょ! 」 「……ごめん」  
「はあぁあぁぁ」  
 
悪魔の少女が深いため息を吐き。  
 
夜が更けていく。  
 
 

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