階段を登りかけてため息をつく。
お兄ちゃんは私の事なんて何とも思ってないんだ。そんなこと分かってる。でも、私はお兄ちゃんが好き。大好き。
馬鹿みたい。ホント、馬鹿みたい。
「お兄ちゃ〜ん!」
本気でお兄ちゃんに聞いてみる。
「どした?」
いつもと同じ、朗らかな声が階段に響いてきた。
「約束忘れないでね〜! 忘れたら絶交だから〜!」
兄妹に絶交があるものか。あるなら縁切りくらいだ。
「結構、結構ッ!」
相変わらずどうしようもない駄洒落が返ってくる。どうしてお兄ちゃんはこんなにもお馬鹿なのか。お馬鹿すぎて笑えてくる。
「寒いッ!」
そういうとお兄ちゃんの笑い声が聞こえてくる。どうして自分のギャグに笑うかなぁ。
「千佳〜!」
ドキッとした。お兄ちゃんが私の名前を呼んでくれることはあまりない。大抵「お前」「君」「おぬし」「貴公」とか変なのばかりだ。
「な、何〜?」
声が上擦ってしまう。一生懸命声を普通にしようとしているのにな。私、変だ。
「愛してるよ〜」
嬉しくない。そういう冗談はやめてほしい。本気じゃないから言えるのだ。本気だったら。
「私も〜」
お兄ちゃんに負けず、黄色い言葉を返す。
馬鹿だ。私は馬鹿だ。お兄ちゃんなんか嫌いだ。