「……この偉そうな事をきいてた口が、今はだらしない喘ぎしか吐けないとはな」  
 男が、覗き込んでいたパソコンのモニター――某巨大十八禁掲示板群の、一つのスレが  
写っている――から、嘲りの笑みを浮かべながら私の顔へと視線を移した。  
 欲情という名の赤に染まった、私の顔を。  
「書いて……んっ、るん……あっ……だから……口は……ふぅんっ……  
 関係……な……ああぁっ!」  
 書いているのだから、口は関係ないだろう。  
 ただそれだけの言葉を連ねる事も、今の私には満足にできない。  
「ま、どっちにしろ、満足に喋れもしねーのは確かだろ?」  
「ふくぅ……いやっ、もう……んあぁっ!」  
「下の口は、こんなに滑らかに蠢いてるのにな」  
「ひぅんっ!」  
 一番感じる所を、男の指が突く。  
 私は背中をのけぞらせ、その衝撃に震えた。  
 秘唇から、ドロリとした粘り気のある液体が排出される。  
 ……嫌なのに。嫌なのに。嫌なのに。こんなの嫌なのに。こんなの、絶対に嫌なのに!  
「んっ……ぁぁっ!」  
「へへ、感じすぎじゃねーの、あんた? その歳で淫乱かよ。……ま、  
 その歳であんなもの持ってて、あんなエロ小説書いてるようじゃ、  
 淫乱なのも無理ねえかもしれねーな」  
 その男は、空き巣だった。一人暮らしの私の部屋を物色している時に、  
たまたま"そういった用途に用いられる物"を発見した男は、私のパソコンも調べ、  
私が書き溜めていたSSを発見した。クローゼットに隠していた小説や漫画も、  
見つけられた。巡回していたサイトも調べ上げられ、それら全てを使って、私は脅された。  
『お前、こればらまかれたくなかったら、俺の玩具になれよ』  
 ……誰にも、親兄弟にはもちろん、親友と呼べる友人にも、私のこの  
趣味は秘密だった。当然だ。言えるはずがない。言えば軽蔑されるに決まっている。  
 だから……私は男の言葉に頷いた。  
「ひっ……んっ……ふぁっ!」  
 そして今、私は……私の秘唇は、男の指を咥えこんでいた。  
「オナニーも毎日してたようだし……しかも道具使ってときた。  
 これだけ濡れ濡れになっちまう程に飢えてたんだな、あんた」  
 男の指が蠢く度に、私の口からは明らかな嬌声が漏れる。もれてしまう。  
 ……嫌なのに。嫌なのに。こんなの嫌なのに。こんなの絶対に嫌なのに!  
 なのに……私の身体は感じてしまっている。心の半分は、もう既に  
気持ちよさに支配されてしまっている。  
「指でこんだけ感じてたら……こっちじゃ壊れちまうかもなー」  
「……え?」  
 不意に、男の指の動きが止まった。  
「んっ……」  
 そして、私の秘唇から男の指が抜かれる。  
 
 ……終わり? 一瞬の希望を、自らのまだかろうじて残った理性が否定する。  
指だけで終わるわけがないだろう、と。  
 そして聞こえる、何かを下ろすような、衣擦れの音。  
 ……私はそこに見えるだろう物を想像して、目を閉じた。  
「おい、見ろよ。見たくないのか? お待ちかねの物だぞ」  
 見たくない。そんなの見たくないに決まってる。待ちかねてなんかいない!  
 でも……。  
「……じゃあ、あのブツばらまきながら帰るっかなー」  
 ……そう言われてしまえば、私には拒否する事はできなかった。  
 拒否する勇気は……無かった。  
「……ひっ」  
 おずおずと瞳を開いた私の目に写る、男の物。  
 それは、絵や映像で見るよりも、ずっとグロテスクで不気味に見えた。  
「これでもこっちの大きさには結構自信があるんだぜ?」  
 確かに、男のそれは大きかった。絵で見た事がある、外人のそれくらいはありそうだった。  
「もう十分濡れてるだろうし、入れるぜ」  
 男はそう宣言し、私の身体をベッドに横たえ、足の間に身体を入り込ませる。  
 私は……男にされるがままだった。  
 これからあれを入れられるという恐怖よりも、逆らって私の本性を皆に知られる恐怖の  
方が強く、その恐怖が私を縛って動けなくしてしまっていた。  
「おい、ガチガチだな。力抜けよ。俺のガチガチのもんがはいらねーだろ」  
 男の人に挿入される。男の人の物が入ってくる。男の人の物が入ってきて私を犯す。  
 脱力なんて、できようはずが無かった。  
「……ま、力抜けっても無理だろうし、無理やり入れるぞ」  
「……あっ」  
 男のそれが、私の中心、その入り口に触れた。  
「いくぜ」  
 男の声とともに、男のそれが私の中心へと入り込んできた。  
「いっ……ひぅ……くっ」  
 最初に感じたのは違和感。普段オナニーに使っているものとは違う、柔らかくて、  
温かい感触が、粘膜をこすりあげていく感覚。  
 私の眉間に刻まれた皺を見て、男が眉をひそめる。  
「……なんだ? ひょっとして男の入れるのは初めてか?」  
「……」  
 ……男の言う通りだった。  
 顔を背けた私を見て、男は嘲笑の声を挙げた。  
「はははっ、道具に処女捧げた淫乱女だったのか!」  
 ……その通りだ。否定は、できない。事実、その通りなのだから。  
「じゃあ、男の味ってものをしっかりしみこませてやるよ……お前の身体にな!」  
 男が腰を大きく使い始めた。  
「いやっ……もう……やめてっ!」  
 大きくなる違和感と、そのおぞましさに、私は思わず叫んでいた。  
「やめていいのか? お前の本性が皆に露わになるぞ?」  
「……っぅ」  
 ――その最後の抵抗すらも、一言で黙らされて続ける事はできず――  
 
「安心しな……たっぷり感じさせてやるからよっ!」  
「ひっ!? あ……ああっ!」  
 男の指が私の最も敏感な部分を弾くと同時に、男の物が私の一番奥を叩く。それだけで、  
その一瞬で、私の身体は男を受け入れる準備を整えてしまった。  
 最奥から吐き出された無色の液体が、私と男の繋がっている部分を濡らす。  
「あっ、ああっ……ふっ……くぅん!」  
「へへ……流石淫乱だな。一気に中がぞわぞわ俺のを包み込みだしやがった……」  
「いぁ……そん……あっぅ……うぅぅん!」  
 何もかもが、男の言う通りだった。  
 知らず、私は男の物を締め上げるように力を込めてしまっていた。  
 そして感じる男の物の形に快感を覚え、その快感が男の物をさらに締め上げる力になる。  
 最早、違和感などどこにもなかった。そこにあるのは快楽、そのものだ。  
 オナニーするよりも激しく、強く、道具よりも逞しく、絶え間なく、男の物は私に次々と  
快感を送り込んでくる。  
 加速度的に、頂点が近づいてくるのがわかった。真っ白い、何かが見え始めた。  
「ああっ、あっ、ああっ……あくっ、いっ……いぁっん……!」  
「くっ……凄い締め付け具合だ……もう、出ちまう……」  
 出る。  
 出てしまう?  
 その意味が、私の白く染まり始めた頭には、理解できなかった。  
「出すぞ!」  
 男の声と同時に、私の一番奥を、熱い迸りが真っ白に染めていく。  
 その迸りに与えられた快感が、私の頭を真っ白に染めあげた。  
「あっ、あっ……っ……い、くぅ……いあぁっぁあああああああああっっっっ!!!?」  
 絶頂。  
 性の頂に、私は突き上げられた。  
 腰は跳ね上がり、手足はガクガクと震え、口からは涎をたらし、それ以上のものを下の  
口から溢れさせ、私はオルガスムスに至った。  
 長い長い間……あるいは一瞬の間、私は私を忘れた。どんなオナニーでも得られなかった、  
凄まじいまでの快感に酔い、今自分が置かれた状況すらも忘我の彼方に置き去りにし、  
ただただ、私は快楽に身を任せていた。  
 幸せですら、あったかもしれない。その長い長い、あるいは一瞬の間は。  
 だが、幸せはすぐに終わる。その事を、私は気づかされた。  
「凄いイキっぷりだな、あんた」  
「へ……あ、う……? あ……ああ……」  
 男の言葉によって……男の存在によって。  
「へへ、中に出しちまったよ……ま、出来たら適当に堕ろしとけよ」  
「あ……ああ……」  
 男は満足したのか、手早く着衣を整えると、呆然と佇む私に背を向け  
「じゃあ、またやりたくなったら来るから。ばいばい」  
 そんな言葉を残し、私の部屋から姿を消した。  
「あ、あ……あ……あ……」  
 何が起こったのか。何をされたのか。何でこんな事になったのか。  
 頭の中を、色々な事がグルグルと回る。  
 とにかく、私は立ち上がろうとした。  
「……ん……あっ……」  
 ドロリと、男に注がれた白濁が溢れ、ベッドを汚した。  
 ……そうだ。そうだった。  
「う……」  
 私は……犯されたんだ。  
「うわぁぁあああああああああ!!」  
 私は……犯されて、イッてしまったんだ。  
「うわぁあああああぁああああ!!」  
 私は……わたしは……ワタシは……。  
「うわぁぁぁぁああああああぁぁぁあああ!!」  
 私は、叫んだ。私は、泣いた。  
 何もかもが夢であってくれと、叶うはずもない願いを抱きながら。  
 私は……泣き叫び続けた。  
 いつまでも。いつまでも――。  
                             終わり  
 

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