太股に座った状態から、膝を少し伸ばして前に出る。自分で少し動けるようになったとは  
いえ、初馬が動かそうとすれば、それを拒否することはできない。  
 初馬は両手で一ノ葉の腰を固定した。一ノ葉は左手で行灯袴と白衣をたくし上げ、それ  
を口に咥える。露わになる滑らかな太股と、しっとりと濡れた白いショーツ。  
 
「ま、て……」  
 
 引きつった声が漏れるが、動きは止まらない。  
 右手でショーツのクロッチ部分をずらす。産毛も生えていない秘部が露わになった。秘裂  
から溢れた透明な液体が太股までを塗らしている。  
 辺りに漂う、イヤらしい雌の香り。  
 
「挿れるぞ」  
 
 初馬の言葉とともに、一ノ葉の左手がものを軽く掴んだ。その感触に、肩が縮められる。  
だが、身体は止まらない。支配権はいまだ初馬が掌握しているのだ。  
 徐々に腰が下がっていく。一ノ葉からは袴が邪魔になって見えないだろう。自分に怒って  
いることに、不安げに視線を動かしている。  
 濡れた秘部と、初馬のものが触れた。  
 
「!」  
 
 大きく見開かれる茶色い瞳。  
 一ノ葉の腰がさらに下がり、初馬のものを膣内へと呑み込んでいく。生暖かく凹凸のある  
体内。そこを掻き分けるように進んでいった。  
 下腹から、喉まで駆け上げる熱い衝撃。  
 
「うぅ……うぁ……」  
 
 一ノ葉の喉から意味のない言葉が漏れる。  
 初馬に伝わってくる感覚は、ほとんどの情報を切り捨てた極めて淡泊なもの。一方、初馬  
が一ノ葉に送っているのは、ほぼ初馬が感じたままの感覚だ。厳密には性感だけであるが、  
それでも一ノ葉にとっては理解不能なものだろう。  
 
「ん!」  
 
 一ノ葉の腰が完全に落ちた。  
 顎か軽く跳ね上げられ、口が開かれる。再び軽くイッてしまったようである。咥えていた裾  
が落ち、お互いのつながっている部分を隠した。  
 
「どうだ? 一ノ葉、お前の中は気持ちいいか? 俺はかなり気持ちいいから、お前が気持  
ちよくないはずないんだけど」  
 
 問いかけるが返事はない。  
 女として男に挿れられる感覚と、男として女に挿れる感覚。一方は直接的なものではない  
とはいえ、一ノ葉はそれを同時に味わっているのだ。ましてや、挿れている相手は自分な  
のだ。感覚的には、自分で自分に挿入しているようなもの。  
 滅多にありえない体験だろう。  
 
「き、きサマは……」  
 
 虚ろな瞳から涙をこぼしながら、一ノ葉は浅い呼吸を始める。どうやら数秒ほど意識が吹  
き飛んでいたらしい。  
 凍えたように身体を震わせながら、光の抜けた眼で睨んでくる。  
 
「き……貴様は、何を……思いつくんだ……」  
「何となく面白いと思ったから」  
 
 笑いながらそう告げて、初馬は左手で印を切った。複雑な印ではなく、指を弾くような動  
作。それで式操りの術が解除され、一ノ葉の支配権が離れる。  
 
「自分で動けるようになったから、好きに動いていいぞ?」  
「ふざ、けるな……」  
 
 初馬の言葉に、一ノ葉が言い返してくる。  
 つながった状態から離れようと足を動かそうとしているものの、足が痺れていてまともに  
動かせない。離れても根本的な解決にはなっていないが、現状から逃れることが第一のよ  
うだった。  
 しかし、初馬も素直に逃がすつもりもない。  
 
「ほい」  
 
 軽く腰を突き上げる。  
 
「ぅあッ!」  
 
 悲鳴じみた声とともに、一ノ葉が初馬の方にしがみついてきた。痛みに耐えるように肩を  
震わせつつ、力の入らない顎で歯を食い縛っている。  
 初馬は左手で一ノ葉の肩を抱きかかえ、右手で優しく頭を撫でる。  
 
「男と女の快感を同時に味わうってどんな感じだ? 単純計算で二倍か、相乗効果で何倍  
にも感じるのか……正直、俺は体験したいと思わないけど」  
「そう思うなら、やる、な――!」  
 
 言い返してくるが、無視。  
 自分たちの格好を思い返す。客観的には、つながったままお互いに抱き合っているよう  
に見えるだろう。だが、それほど情熱的なものではない。  
 初馬は頭を撫でていた右手を下に下ろした。  
 朱色の行灯袴を突き抜けている尻尾。身体と同様固まっている。  
 尻尾抜きの術と同じ原理なので、服が邪魔になることもない。この巫女装束自体が術に  
よって作られたものなので、違和感もないだろうが。  
 気配を感じたのか、一ノ葉が声を上げる。  
 
「ま、待て――」  
「待たない」  
 
 答えてから、初馬は右手で尻尾を握った。赤みがかった黄色い毛に覆われた尻尾。普段  
から手入れを欠かしていない、ふさふさの毛並み。  
 
「ひっ!」  
 
 引きつった息とともに、身体を跳ねさせる一ノ葉。  
 
 初馬の右手が尻尾の根本を優しく握りしめ、上下に動かす。  
 
「んん、くっ、ぅぅぅ……はっ……」  
 
 一ノ葉の喉からこぼれる押し殺した声。  
 経験上、尻尾の根本が一番敏感であることは分かっていた。しかし、思いの外反応は少  
ない。白い先端が痙攣するように動いているだけである。感じていないわけではなく、無理  
矢理反応を押さえているという様子だった。  
 
「なるほど……」  
 
 左手で狐耳を弄りながら、初馬は静かに呟く。  
 つながった状態で自分が反応すると、その反応が初馬にも伝わった。そして、術式を介し  
て自分にも伝わってくる。反応するだけで、通常よりも数段大きな快感が襲ってくるようだっ  
た。そうしたのは初馬自身であるが。  
 一ノ葉の背中に回した両手で印を結ぶ。  
 
「待て。貴様、何……するつもり、だ……?」  
「式操りの術・改」  
「待て!」  
 
 その言葉も虚しく、術式が一ノ葉の支配権を奪い取っていた。首筋に刻まれた刻印を介  
して、霊力が全身の神経を掌握する。効果は文字通り一瞬で終わる。  
 
「お前が動かないっていうなら、俺が動かしてやるよ」  
「貴様はッ――。ふああっ!」  
 
 言い出すよりも早く、命令が届いていた。手足は脱力しているが、あくまでも運動機能は  
生きているので普通に動かせる。本人の意志とは関係無しに。  
 
「あっ、ああっ、はぁッ!」  
 
 初馬の首に両手を回したまま、腰を上下に動かし始める一ノ葉。  
 決して激しい動きではない。しかし、ねっとりと絡みつく暖かい肉の壁が、自分のものを優  
しく刺激していた。無論、初馬のものも一ノ葉の膣内を刺激している。  
 
「ひ、ああッ! やめ、やめ――ろッ。かっ、待って……! ああっ、ふざける、なっ! ワシ  
はッ、貴様の、んんんああぁぁ……! おもちゃ、ではない、ッッ!」  
 
 狐耳と尻尾をぴんと立て、一ノ葉が擦れ声で叫んでいた。女と男の快感を同時に味わっ  
ている。その快感は、並のものではないだろう。  
 
「嫌だね」  
 
 初馬は笑顔で答えた。  
 
「俺はそういう性格だって、何度も言ってるだろ? それに、自分で自分を犯すって貴重な  
体験だと思うぞ? 俺はそういう体験は聞いたことないし」  
「寝言は、はっぁあっ、死んでから言えッ!」  
 
 気丈にも言い返してくる。余裕があるわけではないようだった。反抗心に無理矢理縋り付  
いていると表現する方が正しいだろう。  
 もっとも、よがり狂った方が気は楽かもしれない。  
 
「その反応は好きだ」  
 
 一ノ葉の腰の動きが少し加速する。  
 
「んんン……!」  
 
 喉を痙攣させながら、声を噛み潰していた。横隔膜が固まってしまったので、声を出そう  
うにもまともに出せないだろう。不規則な痙攣が、その快感を表している。  
 初馬も下腹に力を入れた。  
 自分のものから伝わる快感が一回り大きなものへと変わっている。  
 
「あ、あぁ……」  
 
 半開きの口元から涎が零れていた。  
 初馬が一ノ葉の腰を掴む。それまで初馬の首にしがみついていた手が離れ、白衣の上  
から自分の胸を撫で始めた。胸の膨らみが形を変える程度の力で、円を描くように両手が  
動いている。  
 一ノ葉のタガが外れるのが分かった。  
 
「ひッ、あ゙あ゙ッ! 待てッ、待て――! 許して、くれ……あッ、もう気が狂い、ふああッ、狂  
いそうだッ、ぁあああッ……!」  
 
 しかし、初馬は答えぬまま右手で尻尾の愛撫を始める。さらに、左手で頭の狐耳をいじり  
始める。全身から送られる快感に、一ノ葉が叫んでいた。  
 
「あ、あ゙ッ! お願いじます、ご主人さマ……もう止めで下さい゙ッ!」  
「無理。俺が止まらない」  
 
 一言だけ答える。自分も戻れない所まで来ているのだ。  
 一ノ葉の腰の動きは加速していく。朱色の行灯袴が跳ね、身体の動きに合わせて長い狐  
色髪が跳ねていた。両手で貪るように自分の胸を揉みしだいている。  
 
「い゙あ゙ああっ! ちゃんと、ふあっ、お願いすれば、止めるっで――言っだのに、ひっ、  
はっ。このッ、嘘つきッ、ひっ、卑怯者がッ、ァぁぁ……!」  
 
 全身が痙攣し、涙と涎を無様に垂れ流している。度重なる刺激に、既に何度も絶頂を迎  
えていた。普通なら脱力して動けないだろう。  
 しかし、普通なら動けない状態のまま、式操りの術によって身体を動かされている。  
 
「あ゙あ゙あ゙……このまま、じゃっ――はっ、んんあああッ。おかしく、なるッ……! あぐっ、  
壊れる! イヤだっ! ふッ、ああッ、何か来る……何か来るッ!」  
 
 下腹部に集まる衝動。  
 男の射精の前兆だが、一ノ葉がそれを理解できるはずもない。過剰とも言える甘い刺激  
に溶けた神経が、数瞬後にやってくる未知の感覚に戦いている。  
 
「行くぞ――」  
「待て、止め……ッ! イヤだ、あっ! ふああああぁぁぁぁッ……」  
 
 一ノ葉の体内へと精が解き放たれる。  
 その感覚も一ノ葉の身体へと伝達されていた。自分のものの中を駆け抜け、一ノ葉の中  
へと精液が放たれる。男にとっては何度となく体感しているもの。しかし、一ノ葉に取っては  
生まれて初めて体験した精通だった。  
 
 身体を何度も痙攣させながら、神経へと流れ込んでくる射精の感覚を味わう。全身を引  
きつらせながら、狐耳と尻尾をぴんと立てる一ノ葉。絶頂状態から未知の快感が重なり、さ  
らなる快感が脳髄を抉っていた。  
 
「あ、あ、あっ……」  
 
 一ノ葉の喉から漏れる、気の抜けた声。  
 ぐったりと脱力して、初馬にもたれかかってくる。意識は辛うじて残っているようだが、思  
考は動いていないようだった。光の消えた瞳で、微かな呼吸を繰り返している。時折、びく  
りと身体が震えていた。  
 初馬は一ノ葉の背中を撫でながら、  
 
「さて、もう二回戦目行くか……?」  
「お願い、します……。もう許し、て……」  
 
 一ノ葉が声にならない声で懇願してきた。  
 

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