式神馴らし 6話  
  中編 分身の術  
 
「分身の術……?」  
 
 二体の分身を見ながら、一ノ葉が警戒している。  
 髪や服などの色遣い以外、一ノ葉と変わらぬ分身。瞳に意志の光は見られず、立ってい  
るだけで手足も脱力している。狐耳も尻尾も垂らしたままだった。  
 
「ただの分身じゃないんだよ。だから、改だ」  
 
 含みを持った笑みを見せながら、初馬は白分身の尻尾を無造作に握った。一ノ葉と同じ  
柔らかな毛に包まれた尻尾。先端が灰色である。  
 
「ッ!」  
 
 一ノ葉が自分の後ろ腰を押さえた。  
 
 完全に人間の姿のため尻尾はない。だが、尻尾を触られている感覚を得ているのだ。  
感覚全共有分身。分身の感じるものは、本体に伝わるようになっている。  
 
「貴様は……他に考えることないのか! いちいちワシにエロいことするために新しい術を  
使うな! 式神術とはそういうために使うものではない!」  
 
 無遠慮に尻尾を撫でられる感覚に震えながら、一ノ葉が人差し指を向けてきた。  
 初馬は両手で印を結びながら、  
 
「どちらかというと、一ノ葉をいぢめるのが主目的かな。エロい……というか、お前がそうい  
う事に妙に敏感だから、俺が取る手段はそうなる。三重式操りの術――」  
「阿呆が……!」  
 
 叫び返す一ノ葉が、その場にぺたりと腰を下ろした。式神に加えて、その分身二体の感  
覚を掌握する。簡単なように見えて、かなりの集中力と術式構成力が必要だ。  
 
 初馬は卓袱台を片付け、カップ麺の空カップをゴミ箱に放り込んでから、一ノ葉をその場  
に立たせた。身体を操り、自分の所まで歩かせてから、その身体を抱えベッドに腰を下ろ  
す。初馬の膝の上に座った一ノ葉。  
 
「今度はどんな変態的なこと思いついた――」  
 
 身体の操作権を奪われつつも、威嚇の声を向けてくる。  
 初馬は右手で一ノ葉の頭を撫でつつ、分身に指示を送った。一度に操れるのは一ノ葉含  
めて二体まで。分身を動かしている状態では、一ノ葉本人を動かすことはできない。だが、  
術の効果で満足に動くことはできないので、暴れられたりすり心配もない。  
 
 白分身と黒分身が顔を上げ、お互いに向き直る。  
 
「待て、貴様……! お前らも……」  
 
 一ノ葉が必死に何とかしようとしているが、無意味な抵抗だった。  
 分身二体がお互いの身体に腕を回し、唇を重ね合わせる。二人の少女がお互いに口付  
けを交わすという艶っぽい姿。白と黒の尻尾が揺れていた。  
 
「おッ、は……!」  
 
 力の入らない両手で、一ノ葉は自分の口を押さえる。  
 分身二体の感覚は、まとめて一ノ葉に還元されていた。白分身と黒分身双方の感覚が  
本体である一ノ葉に送られている。単純計算で二倍の感覚。逆に、一ノ葉の感覚も分身に  
送られ、その反応として現れていた。  
 
「んっ……」  
 
 両手で口を押さえて、一ノ葉が声を呑み込んでいる。  
 暖房の効いた暖かい部屋。外はもう暗くなり、カーテンも閉めてあった。一人暮らしの静  
かな部屋。場違いな二人の少女が、唇と舌を絡ませている。  
 
 二体の分身が右手と左手の指を組み、お互いに唇を重ねていた。お互いの咥内を舌で  
味わうような、濃く深くイヤらしいキス。小さな湿った水音が、妙に大きく響いていた。一ノ葉  
の興奮が伝わっているのか、二体の分身の頬が赤く染まっている。  
 
 分身二体を動かしている初馬は、人形を弄っているような感覚だった。  
 
「うぅ――ぅ……」  
 
 身体を震わせながら、一ノ葉が両手で口を押さえている。いくら口を押さえても、自分の  
感覚ではないため、それを拒否することができない。分身の術を使えないため、分身の感  
覚を遮断できないという欠点が露骨に現れていた。  
 
「貴様……」  
 
 肩越しに睨んでくるが、初馬は眼を逸らして視線を受け流す。  
 白分身が開いている手で黒分身の胸に触れた。二体の分身が身体を跳ねさせる。  
 
「ン!」  
 
 一ノ葉が右手で胸を押さえるが、それも無駄な抵抗だった。  
 
 黒いシャツの上から胸の撫で、先端の突起を転がすように指先で弄る。細く滑らかな手  
の動きに形を変える胸の膨らみ。白分身は黒分身の両乳房を優しく、そして舐るように触  
っていた。微かに身体を捩っている黒分身。  
 濃厚な口付けは終わっていない。  
 
「……ッ」  
 
 意識とは関係なく還元される感覚に、一ノ葉が歯を食い縛っている。力の入らない手を握  
り必死に耐えるその姿は、酷く嗜虐心をそそった。  
 白分身の頭と腰の後ろに、黒分身が両手を伸ばす。  
 
「待、てッ!」  
 
 一ノ葉が鋭く声を上げるが、分身は止まらない。止まる理由がない。完全に初馬の制御  
下にある二体の分身。ただ、その感覚は一方的に一ノ葉に送られる。  
 黒分身の手が白い狐耳と尻尾を掴んだ。  
 
「……!」  
 
 敏感な器官を触られ、分身が身体を強張らせるのが分かった。狐耳と尻尾を掴まれた感  
覚が一ノ葉に伝わり、その反応が分身に送られた結果だろう。  
 
 だが、一ノ葉が分身を動かすことはできない。  
 
 初馬の操る黒分身が、白分身の狐耳と尻尾をほぐすようにこねている。その感覚は遮る  
ものものなく、一ノ葉本人に伝わっていた。  
 二体の分身の感覚をひとつの身体で受け止め、一ノ葉が擦れた声を絞り出す。  
 
「やめろ、貴様……!」  
「止めると思う?」  
 
 初馬は両手で細い身体を抱きしめた。  
 細い身体から伝わってくる、一ノ葉の疼き。  
 
「何して、る……!」  
「なんか、可愛いから」  
 
 左手で一ノ葉の身体を抱きしめつつ、右手で頭を撫でる。  
 生々しい口付けを交しながら、白分身は黒分身の胸を触り、黒分身は白分身の狐耳と尻  
尾を触っている。全身を無遠慮にまさぐられる感覚は、全て一ノ葉に伝わっていた。自分  
の身体は一切触られていないのに。  
 
「黙れ……! 変態が……ッ……!」  
 
 初馬に喉元を撫でられながら、一ノ葉が毒づく。身体はまともに動かせず、ただ首を動か  
して睨んでくるだけ。目元からうっすらと涙を流している。  
 
 白分身が空いている右手をハーフパンツの中に差し込んだ。  
 そっとショーツの上から秘部を撫でる。  
 
「ぅ、ひッ!」  
 
 一ノ葉の喉が引きつった。スカートの上から両手で下腹部を押さえる。  
 その反応に構わず、白分身は指で秘部を撫で続ける。そもそも一ノ葉の意志では動か  
せないので、止めることはできない。指で割れ目を開きながら、ショーツの上から淫核や膣  
口へと中指を這わせた。その感覚は一ノ葉に全て伝わっている。  
 
「んっ……ン……! いい加減に、しろ……。ん?」  
 
 肩越しに初馬を睨んでた一ノ葉が、正面に眼を戻した。  
 すぐ目の前に黒分身が立っている。白分身から離れ、一ノ葉の前まで移動していた。白  
分身は両手で自分の胸と秘部を弄り、自慰を続けている。  
 
「貴様……。何する気だ……」  
 
 分身を睨み付けるが、反応は無い。  
 無表情のまま、黒分身は一ノ葉の唇を重ねた。  
 
「ン――! むゥ……ッ」  
 
 突然の行動に逃れようと身体を捩る一ノ葉。しかし元々力が入らないことに加え、初馬が  
後ろから抱き締めて両手を封じているため、何もできない。  
 
 黒分身は黒い狐耳と尻尾を動かしながら、一ノ葉の背に左手を回し、その口を自分の唇  
と舌で犯し始めた。舌に舌を絡ませ、咥内を嘗めるように舌を蠢かせる。粘りけのある水  
音とともに、一ノ葉と分身の頬が真っ赤に染まっていた。  
 
 口付けを続けたまま、黒分身が右手で自分の胸を揉み始めた。  
 
「ぅぅ……」  
 
 荒い呼吸を繰り返しながら、一ノ葉は分身の攻めを甘受していた。自分の感覚に加えて、  
分身の感覚も伝わってくる。それは、自分で自分を犯しているようなものだった。  
 
 白分身が黒分身の狐耳に噛み付く。  
 
「!」  
 
 狐耳を甘噛みされる感覚に、一ノ葉が大きく身体を跳ねさせた。  
 
 白分身は黒分身の狐耳を口に咥えながら、左手で尻尾を弄り始めた。付け根から中程  
まで、ゆっくりと扱きつつ黒い毛の奥へと白い指を潜らせる。  
 
「ンン……」  
 
 敏感な狐耳と尻尾を攻められる感覚まで加わり、一ノ葉は抵抗の意志すら残っていない  
ようだった。幾重にも身体を貫く快感を、無抵抗に甘受している。  
 
 白分身が右手を黒分身のハーフパンツへと差し込んだ。  
 
 細い指が下腹部へと伸び、黒いショーツへと忍び込む。  
 
「待……っ」  
 
 微かに離れた口から拒否の言葉を発するも、黒分身の唇に塞がれまともに喋ることもで  
きない。一ノ葉の右手の指が微かに動いていた。白分身が黒分身に伸ばした手の感覚も、  
伝わっている。尻尾を撫でる手の感触も同様。  
 
 白分身は黒分身のショーツへと、右手を滑り込ませた。一ノ葉本人とは違い、分身は抵  
抗もしない。逆に両足を開いて、弄りやすい体勢を作っている。人差し指と中指を濡れた膣  
口から体内へと侵入させた。  
 
「ンン、ンッ――!」  
 
 体内に異物を挿れられる感触に、一ノ葉が太股をきつく閉じる。しかし、自分に直接行わ  
れていることではないので、自分の身体をどう動かしても感覚は遮断できない。  
 左手で一ノ葉の身体を抱え、右手で猫をあやすように喉元を撫でながら、初馬は小さく声  
をかけた。一ノ葉の身体が熱く火照っているのが分かる。  
 
「どうだ、面白いだろ?」  
「貴様……ッ!」  
 
 されるがままだった身体に、抵抗の意志が現われた。しかし、抵抗の意志があっても、何  
もできない。分身二体の感覚は、意志とは無関係に流れ込んでくる。分身の術を使えない  
一ノ葉では、感覚を遮断することもできない。  
 
 だが、初馬が行ったことは意識を現実に引き戻すことだった。  
 
「ん!」  
 
 一ノ葉が手足の筋肉を伸縮させる。  
 
 白分身が黒分身の秘部に触れさせた手を動かし始めた。親指で淫核を撫でながら、二  
本の指でゆっくりと膣内をかき回す。  
 
「んッ……くっ、ぅ……!」  
 
 一ノ葉の目から涙がこぼれていた。  
 
 絡ませ合う舌の感覚、無遠慮に撫でられ揉まれる胸の感覚、歯で甘噛みされ舌で嘗めら  
れる狐耳の感覚、根本から扱かれ五指でこねられる尻尾の感覚、右手で掻き回される秘  
部の感触。そして、それらを行う手や口の感覚。  
 
 全てが一人の身体に襲いかかる。  
 
「ううっ、……んんッ――! はっ、ぁぁ……!」  
 
 三人分の感覚を全て受け止め、一ノ葉の身体が震えていた。口元から垂れる涎、目元  
から流れ落ちる涙。意識はあるが、思考は止まっているようだった。酔っぱらったかのよう  
に頬が赤く染まり、悩ましげな息が喉を動かしている。  
 
 思考の許容量を超えた快感が、一ノ葉の身体を駆け巡る。身体は熱く火照り、眼から思  
考の光が消えていた。自分の意志とは無関係に発生する大量が、身体を蝕んでいく。一ノ  
葉はそう遠くないうちに絶頂を迎えるだろう。  
 
 だが。  
 
「解除」  
 
 初馬は両手で印を結んだ。  
 
 それで式神分身の術が解除され、二体の分身が一瞬にして消えた。霊力を込められた  
人型の紙が二枚、音もなく床に落ちる。  
 
 快感の根源が消え、一ノ葉はそのまま脱力した。  
 
「あ……ぅぅ……」  
 
 肩で息をしながら、一ノ葉が虚ろな眼を床に向けている。  
 
 初馬はポケットから新しい人型紙を取り出した。それを一ノ葉の目の前に持ってくる。そ  
れを見て、一ノ葉が息を止めるのが知れた。  
 
「分かっていると思うけど、まだ終わってないぞ?」  
 
 左手の指で一ノ葉の喉元をくすぐりながら、初馬は告げる。  
 

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