二十分ほどだろうか。
初馬は胡座をかいたまま、左手で一ノ葉を横抱きにし、右手で全身を愛撫していた。両手
から肩、お腹や下腹、腰や太股を丁寧に撫でていく。いきなり胸を触ったりしても気持ち
いいはずがない。女の子を乱暴に扱うのは好きではなかった。
きれいな太股を撫でながら、初馬は訊いてみた。
「そろそろ気持ちよくなってきたか?」
「そんなわけあるか! 好きでもない男に身体中撫で回されるのが気持ちいいとか言う輩
がいたら、一度見てみたいわ」
全力で否定する一ノ葉。
だが、言葉とは対照的に肌は火照り、じんわりと汗が滲んでいる。頬も薄紅色に染まり、
呼吸も上がっていた。身体は反応しているらしい。
初馬はお腹を撫でながら、ふと呟いた。
「そういえばお前、男にこんなことされた経験ないよな」
きめ細かい色白の肌と、引き締まった腹筋の弾力。女の肌を撫でた経験は少ないが、こ
の身体は上物と断言できる。式神変化は基本の造形以外は元の姿に依存するのだ。元から
一ノ葉の身体はきれいだったのだろう。
初馬の腕を掴みながら、一ノ葉が睨んできた。
「あると思うか、タワケ? ワシは今までずっと狐として過ごして来たんだぞ。人間に化
けさせられたのも、こんな屈辱的なこをされるのも……これが初めてだ」
「ならキスもしたことないよな?」
愛撫を続けていた手を放し、にっと笑う。抱き締めるように右腕を伸し、一ノ葉の後ろ
頭を押さえた。逃げられないように。滑らかな髪の感触を手の平に感じる。
一ノ葉の表情が固まった。何をされるか理解したらしい。
「舌噛むとかするなよ」
やや威圧するように命じる。
その言葉に一瞬たじろぐ一ノ葉。仮契約が結ばれた時点で、遣い魔は積極的に反抗する
ことができなくなるのだ。多少強く命じれば、それだけで反発できなくなる。
「待っ……んん」
言いかけた一ノ葉の唇を、初馬の唇が塞いだ。柔らかい唇の感触。ぱたぱたと動く尻尾。
両腕で抱き締めるような体勢での口付け。一ノ葉は少し逃げるように肩を動かしたが、
ほどなく大人しくなる。
十秒ほどキスを堪能してから、初馬は口を離した。
「ふぁ」
一ノ葉の口から漏れる吐息。放心状態で、惚けたように目蓋を下ろしている。これがフ
ァーストキスなのだろう。
しかし、初馬は横を向いて呻いていた。
「酒臭い……」
「っ」
その台詞で我に返る一ノ葉。口付けの感触を振り払うように口元を手首で拭って、犬歯
を剥いた。威嚇なのだが、ヒトが犬歯を剥いても迫力はない。
「酒は貴様が呑ませたのだろう! 何が酒臭い……っ、く?」
不意の刺激に、言葉が詰まる。
一ノ葉が慌てて視線を落とすと、初馬の右手が脚の付け根に伸びていた。産毛も何も生
えていない、きれいな淫門。微かに膨らんだ恥丘に挟まれた秘裂。
その具合を確かめるように、初馬は人差し指を動かす。
「……んんっ、貴様、何してる! っ……」
狼狽える一ノ葉には構わず。
初馬はそのまま指先を膣に差し入れた。
「ひッ!」
鋭い吐息が漏れる。
指先に感じる暖かな膣肉。さすがに狭いものの、思いの外あっさりと指が入り込んだ。
体内に異物が入り込む感触に、きつく眼を閉じ身体を強張らせる一ノ葉。
初馬は指を引き抜き、指先に付着した液体を眺める。肩で息をしている一ノ葉の目の前
に、濡れた指を差し出した。
「お前、感じてるよな?」
「五月蝿い!」
自分の反応を否定するように叫ぶ。
指の液体を舐取り、初馬は一ノ葉を軽く持ち上げた。胡座をかいたままの膝の上に正面
を向かせて座らせる。背面座位などとも言われる体勢。目の前にあるのは長い狐色の髪と
不安げに動く狐耳。
「おい、何するつもりだ?」
「大丈夫だって、ちゃんと気持ちよくしてやるから」
怯える一ノ葉を落ち着かせるように、初馬は頭を撫でた。それで、身体から力が抜ける。
どうやら撫でられると安心するようだった。
初馬は両脇の下に腕を通し、手でそっと両胸を包み込んだ。大き過ぎず小さ過ぎず、形
の整った美乳と、淡い色の乳首。
「おい……?」
制止するように手を掴む一ノ葉。だが、動きを妨げるほどの力は入らない。
ゆっくりと両手を動かし、初馬は包み込むように乳房を愛撫する。手の平に伝わってく
る滑らかな皮膚の手触りと暖かさ。
「……っ、ん」
頬を紅潮させて口元に力を入れる一ノ葉。胸を撫でる手から必死に目を逸らそうとして
いるが、意識を逸らすことは出来ない。
居心地悪げに動く尻尾が、初馬の腹の辺りを撫でている。
手の平が乳首を擦るたびに、微かに震えていた。
「んん……」
優しく撫でるだけの愛撫から、ゆっくりと揉むような動きへと動きを変化させる。指の
動きに合わせて形を変える胸の膨らみ。柔らかさと弾力を兼ね備えたきれいな乳房。
「どうだ。気持ちいいだろ?」
胸の愛撫を続けたまま、初馬はそっと囁きかける。
「気持ち……っっ、いわけ、ない……だろ!」
気丈に否定する一ノ葉。しかし説得力はなかった。
もしかしたら性感を理解していないのかもしれない。狐が自慰をすることもない。知識
として知ってはいるが、実際にどのようなものかは知らないのだろう。
そんなことを考えながら、初馬は狐耳の先を甘噛みした。
「ふぁッ!」
腰が跳ねる。
しなやかな体毛に覆われた狐耳。獣にとっては非常に敏感な器官。人間の耳たぶよりも
薄く、やや硬い。歯先で優しく甘噛みしながら、舌先で縁を舐める。
「ぃ、ぃぁ……み、耳、だめ……ふぁ、やめ、やめろ……」
上擦った吐息をこぼしながら、一ノ葉は背中を反らした。予想していた通り、狐耳は弱
いらしい。今までの強気は一瞬でかき消え、涙目で懇願してくる。
「放せ……んぁ、だめ、耳は、頼む、ふぁ……」
「嫌だ。ここからもっと気持ちよくなるから、気合い入れろよ」
きっぱりと断り、初馬は耳を攻め続ける。
さらに両手で乳首を摘んだ。
「んッ」
一ノ葉の身体が切なげに震える。
「あ、いや……。ふあぁ……むね、弄ら、ないで……」
初馬はつんと起った突起を優しく攻めた。敏感な部分なので痛くないようにそっとこね
回す。聞いた話では、胸の性感は淫核の八割ほどらしい。それを少ないと見るか多いと見
るかは人それぞれだろう。
無論、耳の甘噛みは止めない。
「んくっ、んあっ、ミミも、駄目……やめ、やめて……んん」
きつく眼を閉じ、刺激から逃げるように身体をくねらせる一ノ葉。しかし、逃げることも
出来ず、初馬の攻めを甘受する。
乳首を弄っていた右手を放し、そっと下腹へと触れさせる。秘裂の上にある陰核へと。
「ッ!」
一ノ葉が固まる。
それは、今までとは明らかに違う反応だった。やはり他の部分とは感じ方が違うようで
ある。初馬はそっと人差し指を動かし、陰核を刺激する。狐耳と胸への攻めは止めない。
面白いように悶える一ノ葉。
「ヒィ、ひっ……ふあぁ、あッ、んああッ……ッア!」
ビクリと、その身体が大きく痙攣した。一端手と口を止める。
しかし、それだけで終らない。一ノ葉は背中を仰け反らせ、さらに二度、三度と痙攣し
た。両手両足を伸ばして、虚ろな瞳で天井を見上げる。
「あぁ……」
恍惚とした声を漏らして、身体から力が抜ける。
「大丈夫か?」
「頭に星が飛んだ……。何だ、今のは……貴様、ワシに何をした?」
初馬の問いに擦れ声で答える一ノ葉。やはり性感というものを理解していない。
初馬は再び身体を抱え上げ、前後を入れ替えた。お互いに向き合うように。何が起った
のか分からないと言った一ノ葉に、説明する。
「それはイくって事だな。女性が性的絶頂を迎えることだ」
「貴様……」
ぼんやりと意味を理解し、呻く一ノ葉。
気にも留めず、初馬は両手を伸ばす。ぴんと起った尻尾を無造作に掴んだ。
「――!」
一ノ葉が声にならない悲鳴を上げる。
狐色の毛に覆われたふさふさの尻尾。獣にとって最も敏感な部分。左手を根本から先端
へ一度動かすだけで、がっちりと初馬に抱き付いてくる。何かにしがみつくという、条件
反射的な行動なのだろう。
泣きそうな声で、一ノ葉が呟いた。
「お願いだ。尻尾は、やめてくれ……」
「そう言われると、やらない訳にはいかないよな」
にやりと笑う初馬。
逃げるように動き回る尻尾の付け根を右手で掴み、左手で根本から先端へと扱くような
動きを繰り返す。
「ひっ……しっぽ、尻尾……許し、許して、駄目、尻尾……」
子供の嗚咽のような呟き。予想以上に尻尾へが弱い一ノ葉。初馬を抱き締めながら、必
死の哀願を見せていた。しかし、それは逆に嗜虐心を刺激するだけである。
男のものを扱くように、初馬は両手で尻尾を扱いた。やや乱暴に。
「ッッ、ふぁ、やめ……。ふぁ、また来る……嫌っ、ひぃ、ふあああッ!」
再び大きく痙攣する一ノ葉。絶頂の衝撃に耐えるように、初馬にしがみつく両腕に力を
込める。数秒の余韻に浸ってから、脱力。
初馬に抱きついたまま、荒い呼吸を繰り返していた。
「お前、随分と乱れるよな?」
落ち着かせるように頭を撫でながら、初馬は訊いてみる。人間の女がここまで乱れるこ
とはまずないだろう。狐がここまで乱れることもない。
「貴様が、おかしな幻術掛けたせいだろうが……!」
両腕を放さぬまま、一ノ葉が怒りの声を絞り出す。
さきほどの糸付き五十円玉と手拍子だろう。
「俺、幻術なんて使えないぞ」
「なぬ……?」
初馬の呟きに、喉を引きつらせる一ノ葉。
「俺、昔から幻術苦手なんだよ。親父には才能無いから無理に覚える必要ないとか言われ
ちまった。さっきのは、ただの催眠術もどき。お前の反応は幻術じゃなくて、素の反応だ
な。ようするに、淫乱なんだな」
「うぐ。淫乱、ワシが淫乱……」
さすがに傷付いたらしい。
初馬は一ノ葉の両脇に手を差し入れ、身体を持ち上げた。胡座だった脚を正座に組み替
え、膝に一ノ葉を下ろす。対面座位と呼ばれる体勢。
左手で肩を抱いたまま、右手でズボンのチャックを開いた。
飛び出してくる自分のもの。
「……!」
一ノ葉が目を見開く。
「こ、これが男の……生殖器か?」
「初めて見るか? まあ、普通サイズだから大丈夫だろ」
初馬は両手で一ノ葉の腰を持ち上げ、自分のものをそっと陰門に触れさせた。ものの先
に感じる、柔らかな肉と生暖かい愛液の感触。
「ッ、待て! 貴様、本気でワシを犯す気か!」
「だから本気だって。ここまで濡れてるならそう痛くはないだろ」
今更ながら焦る一ノ葉に、初馬は気楽に言った。
膣から溢れた液体が、太股まで垂れている。人間でもこれほど濡れることはまずないだ
ろう。さきほどの感じ方といい、一ノ葉は淫乱である。
「ふざけるな……ッぅ!」
反発する暇もなく、先端が膣へと潜り込んだ。ぬるりと絡みついてくる、水のように柔らか
く焼けるように熱い肉壁。多少きついものの、挿れることに抵抗感はない。
全身を硬直させながら、一ノ葉が喉を振わせた。
「っ、待て……本当に待て! ……ぅぅぁぁ……」
初馬はゆっくりと一ノ葉の腰を下げていく。膣をかき分けながら、奥へと進んでいく逸物。
一ノ葉は膣を締め付けて何とか侵入を拒もうとするも、逆効果だった。
ほどなく、全てが膣内へと呑み込まれる。
「全部入ったぞ。どうだ?」
「……苦、しい」
擦れ声の答え。初めては苦しいだろう。
初馬は背中に爪を立てる一ノ葉の腕を一度外し、その顔を見つめた。きつく目を閉じ、歯
を食いしばっている。しかし、それほど力が入っているわけでもない。
「大丈夫だ、力抜け」
左手で肩を抱き、右手で頭を撫でていると、いくらか力が抜ける。
細い呼吸を繰り返しながら、一ノ葉は眼を開いた。涙の溜まった焦げ茶の瞳に、初馬の
顔が映る。それで怒りが浮かんだのだろう。気丈に悪態をついて見せた。
「この……腐れ外道がぁ……、地獄に堕ちろ……」
「思ったよりも元気だな。安心した」
にっこりと笑い、初馬は一ノ葉の唇を自分の唇で塞いだ。いきなりの口付けに眼を白黒
させる一ノ葉。柔らかい唇の感触と、上がった呼吸の暖かさを味わう。
同時に、腰を軽く動かし、膣を軽く突き上げた。
「!」
身体が震え、一ノ葉の瞳が見開かれる。口を塞がれているので声は漏れなかったが、喉
が大きく震えるのが分かった。膣が微かに締まる。
初馬はその反応に満足し、ゆっくりと腰を動かし始めた。
「む……ぅ、っ……ん……!」
一ノ葉の喉から漏れる微かな呻き。開いていた目蓋が陶酔するように落ちていく。
腰の動きを速めながら、初馬は開いていた右手を伸した。ぱたぱたと暴れている狐色の
尻尾。狙いを定めてから、それを捕まえる。
「んんッ!」
閉じかけていた目が再び見開かれ、膣の締め付けが増した。
射精感に堪えるように腰に力を込めつつ、初馬は一ノ葉の咥内に舌を差し入れる。縮こ
まっていた一ノ葉の舌を、舌先で軽く舐めた。噛まれることも覚悟していたが、幸いにし
てそれは杞憂に終る。応じるように怖々と舐め返してくる一ノ葉。
お互いにお互いの舌を舐め合う。
「ん……んぅ……」
最初は触るだけだったものが、舌同士を絡め合い唾液を交換するようなディープキスへ
と変化していく。焦点の合っていない虚ろな焦げ茶の瞳。
初馬の腰の動きと尻尾を弄る右手の動きが加速する。むさぼるように初馬の舌を口を唇
をしゃぶる一ノ葉。自分が何をしているかも理解していないのかもしれない。
初馬は一度口を放した。ついでに攻めの動きも小さくする。
「待って……ふあぁ、もっと……。気持ちいいの、ちょうだい……お願い……」
口元から涎を流しながら、一ノ葉が求めてくる。上気した頬、目元から零れる涙。大事
な物を取り上げられた子供のような泣き顔。
「じゃ、好きなだけくれてやる」
初馬は再び一ノ葉の唇に自分の唇を重ねた。さらに、腰をいっそう激しく突き動かし、
尻尾をきつく握り締める。
「ん! ッッッ……ッ……!」
一ノ葉の身体が跳ねるように痙攣した。焦げ茶の瞳が見開かれ、喉が引きつるように震
える。口元から零れる声。それは今までで一番激しい絶頂だった。全身の筋肉が収縮し、
背筋を仰け反らせる。
膣の強烈な締め付けに、初馬は溜まらず精を解き放っていた。
お互いに十秒近い絶頂を味わってから。
初馬は口を放した。自分のものを膣から抜かぬまま、両腕でそっと一ノ葉を抱き締める。
苦笑とともに、告げた。
「契約終了、と。お前はこれから俺の式神だ。よろしくな」
「この下衆野郎が……」
小さく呟く一ノ葉。
翌日。
「うぐ。ワシ、このまま死ぬかも……」
一ノ葉が擦れ声で呻く。
初馬の下宿先。二階建てアパートの一室。
大きなバスケットにタオルケットを敷いた寝床。狐に戻った一ノ葉が、苦しげに丸まっ
ていた。虚ろな目付きを、どこへとなく向けている。
「二日酔いじゃ死なない。飲み過ぎなんだよ、まったく」
初馬はお盆に乗せた水皿と二日酔いの薬を、傍らに置いた。
ぴしっと亀裂のような音が聞こえた。それは気のせいだろう。一ノ葉は寝床から跳ね起
き、瞳に怒りの炎を灯しながら、声を張り上げる。
「飲み過ぎも何にも、貴様が飲ませたのだろうが! 酒入りの水槽に突き落としたのは、
貴様自身だろう! よもや忘れたとは言わせぇ……痛ツっっ……」
しかし、頭痛に阻まれ崩れ落ちる。
初馬はそっと一ノ葉を抱え上げて、口に二日酔いの薬を押し込んだ。人間用ではなく妖
怪用の二日酔い薬なので、多分効くだろう。それから水皿の手前に下ろす。
一ノ葉は水皿に口を付けて、舌で舐めるように水を口に含んだ。顔を天井に向けてから、
ごくりと薬を呑み込む。
初馬は一ノ葉を持ち上げ、寝床に戻す。
「これでひとまず大丈夫だろ」
呟きながら、右手で印を結び、弱い冷気を手の平に込めた。ひんやりと冷えた手で、一
ノ葉の額に触れる。冷たさに表情が緩んだのを確認してから、優しく背中を撫でる。
「今日明日は付きっきりで看病してやるから、早く良くなれよ」
「当然だ……」
眼を閉じながら、一ノ葉が応えた。