「ッ、ぅ……」  
 
 一ノ葉は両手で握り締めた枕に顔を押しつけていた。膝を突いて腰を突き出すような格  
好、乱れた狐色の長い髪。動物の雌が雄を誘うような体勢である。  
 初馬はベッドに座ったまま、両手で優しく尻尾を弄っていた。  
 揉みほぐすように尻尾を動かしたり、根本から先端へと何度も撫でたり、逆に先端から  
毛の向きに逆らって撫でてみたり、根本部分を指で揉んでみたり、先端を口に咥えて甘噛  
みしてみたり。  
 その度に一ノ葉は声を噛み殺している。  
 初馬は左手で尻尾の中程を押さたまま、右手でそっとお尻を撫でた。  
 
「ぅぅ……」  
 
 生地の手触り。そして、小降りでよく引き締まった丸い肉。逃げるように動いているが、  
尻尾を捕まれているため、腰を左右に動かすだけで終っていた。  
 お尻を撫でながら、初馬は紺色のワンピースを見つめる。紺色の生地に隠れて中はどう  
なっているのか分からないが、容易に想像は付く。  
 
「頑張るなぁ。そういう根性って好きだ」  
 
 感心しながら初馬は手を引っ込め、そのまま尻尾の根本を指で摘んだ。紺色の生地を突  
き抜けた、狐色の尻尾。指の腹にしっかりした尾骨と肉の感触が伝わってくる。  
 これから来る衝撃に、一ノ葉が身体を硬くしていた。  
 初馬はくにくにと指を動かし尻尾の根本を攻める。  
 
「うぅぅ……ぅ……」  
 
 一ノ葉の喉から漏れる苦しげな声。激しく動こうとする尻尾を、左手が押さえていた。  
強張らせた身体が、小さく痙攣を続けている。根本は最も敏感な部分らしい。  
 
「そろそろ尻尾攻めは終わりだ」  
 
 初馬は尻尾から両手を放した。  
 それで、安心したように一ノ葉の身体から力が抜ける。もっとも、これで攻めを止める  
わけではない。尻尾を弄るのを一旦止めただけ。  
 初馬は一ノ葉の肩を掴んで身体をひっくり返してた。抱える力もなく腕から落ちる枕。  
ベッドの上でお互いに向かい合う。白いシーツの上に広がった狐色の髪。紺色のワンピー  
スと白いエプロンが、膝の辺りまで捲れている。  
 
「貴様あ゙ぁぁ……。次は、絶対に、殺しへやる……」  
 
 泣いているのか笑っているのか怒っているのか分からない、凄い表情。緩んだ口元と赤  
く染まった頬、両目から溢れる涙。喉が痺れていて呂律も回っていない。  
 
「次はどこを弄って欲しい?」  
「くたばれ、変態ィ……。地獄に堕ひろおぉ」  
 
 涙を流しながら初馬の頬を引っ張る一ノ葉。普段ならかなり痛いのだが、今は腕に力も  
入らず痛みもない。むしろ、この程度の刺激は気持ちが良い。  
 初馬は右手を伸ばして、無造作に狐耳を摘んだ。  
 声もなく、一ノ葉の動きが止まる。頬を摘んでいた指を放して、人差し指の先を軽く口  
に含んでやる。舌で絡めるように指先を舐めながら、初馬は微笑んだ。  
 
「まだ反抗的だな。お仕置き」  
 
 指を動かして狐耳を揉みほぐしてみる。  
 
「っうあぁ……」  
 
 だらしなく口を開けて、喉を震わせる一ノ葉。背中を反らし、薄い唇を震わせていた。  
開いた目から涙が一筋こぼれ落ちる。なすがままで、抵抗すらできない。  
 初馬は狐耳から指を放してから、指から口を離した。  
 起き上がることも出来ずに一ノ葉は尋ねてきた。  
 
「次は何を……するつもりだ……?」  
「終わりにして欲しいなら、そう言え。俺はお前をイジメたりは、まあ……意味もなくし  
ないから。嫌なら、やめるって。これは本当だ」  
 
 首元の赤いチョーカーを撫でながら、初馬はそう告げた。無理矢理というのは好きでは  
ない。一ノ葉が嫌だというのならば、素直に止めるつもりである。  
 
「貴様は、ズルい……。卑怯だ……」  
 
 しかし一ノ葉はそう呟くだけだった。  
 初馬は太股の上辺りに腰を下ろしす。念のためであるが、逃げられないように。エプロ  
ンの上から胸に両手を乗せた。服の上からでも分かる、柔らかな膨らみ。しかし、揉むよ  
うなことはせず、形のよい乳房を手の平で撫でていく。  
 
「ぅん……」  
 
 一ノ葉は肩をすくめて、顔を背けた。自分の姿を認めたくないのか、きつく目を閉じて  
いる。しかし、胸をさする手の動きは変わらない。  
 初馬はエプロンの下に手を差し入れた。布が一枚減るだけで明らかに変わる手触り。紺  
色の生地の上から、円を描くように胸を撫でる。  
 
「んん……、くぅ……」  
 
 一ノ葉の声が少し変わった。直接に近い方が気持ちいいのだろう。しかし、声を噛み殺  
せるほどにしか感じていない。敢えて直接触らないのには理由がある。  
 しばらく胸を撫でてから、初馬は手を放した。  
 一ノ葉が気を抜く前に、両手を頭に伸ばす。  
 そして、狐耳をつまんだ。  
 
「!」  
 
 鋭い息。一ノ葉は目を見開き、初馬を見つめる。怯えた仔犬のように震える瞳。  
 やはりキツネの部分の反応は違った。ただでさえ人間の身体は敏感、そこに残ったキツ  
ネとして敏感な部位。少し弄るだけで立派な性感帯と化す。  
 初馬はにっこりと微笑み、指を動かした。  
 
「待てッ、待て! っぁぁ……耳は、やめてっっ、くれ……おかしく、なる……! あっ、はっ、  
本当にっ、ダメだって……。あくっ、やめて、やめろ……!」  
 
 両手で初馬の腕を掴みながら、一ノ葉は甘い悲鳴を上げていた。指に合わせて形を変え  
る狐耳。その動き合わせて悶える身体。ぱたぱたと尻尾が跳ねている。  
 
 初馬は笑顔で言い切った。  
 
「嫌だね」  
「あぅ、さっき、やめう……って、言ったじゃ、ぁぁっ、ないかぁぁ……」  
 
 両目から涙を流し、一ノ葉が非難の言葉を吐き出す。嫌がるなら素直に止める、確かに  
ついさっき口にした言葉。それを忘れるほど記憶力は弱くない。  
 初馬は悪びれることもなく言い放った。  
 
「無意味にお前をイジメることはしない。でも、意味があるならお前をイジメるのはかな  
り楽しいし、止める気もない。むしろ、進んでいぢめる」  
「ああぁ。嘘つき、卑怯ぅ者……外道ぉ。下衆野ろゥ……」  
 
 初馬の腕に爪を突き立て、罵ってくる。威嚇するように犬歯を見せるものの、相変わらず  
迫力はない。元々人間の姿で噛み付いてきたことはないのだ。狐の時なら何度か噛まれて  
いるいるが。  
 
「はっはっは、その言葉も心地よい」  
 
 狐耳を弄りながら、初馬は意地悪く口端を上げた。  
 
「一度、死ねえぇ、ぅぅんん……ぁぁ……」  
「殺せるものなら、殺してみろ。さて、次は――」  
 
 太股から腰を上げて左横に移り、右手を狐耳から放す。左手はそのまま。右手を膝へと  
伸ばし、裾の中へと差し入れた。張りのある太股を優しく撫で上げる。  
 
「うぅぅ……」  
 
 一ノ葉の声が再び変わった。  
 何とか起き上がろうとしているのは分かる。だが、狐耳を弄られ太股を撫でられ、自分  
の意思通りに身体を動かすこともできない。  
 
「ふぁ、やめろぉ……本当に、ぁっ、はぁっ、おかしく、なうっ……からッ……」  
 
 太股を閉じて何とか手を止めようとしている一ノ葉。呼吸も乱れてまともな言葉を紡ぐ  
とこもできない。肺も思うように動かず、半ば酸欠状態に陥っていた。  
 張りのある太股を楽しみながら、初馬は笑顔で告げる。  
 
「止めろ、と言われて止めるバカがいるかって」  
「あぁぁ、ぅぅ、殺しテぇぇ、やる、ぁぁぁ……」  
 
 ワンピースの裾が動いていているだけで、中でどのように手が動いているのかは見えな  
い。触っている自分も触られている一ノ葉も、手の動きは理解している。だが、見えないこと  
が妙な卑猥さを醸し出していた。  
 手の平を徐々に上へと移動させていく。指先に微かな水気を感じていた。  
 
「俺のものが欲しかったら、素直に『お願いします、ご主人様』って言えよ?」  
「ッ! フザけるナ……!」  
 
 額に青筋を浮かべて、一ノ葉が唸る。墜ちかけていた瞳に映る怒りの炎。鈍い音を立て  
て奥歯が食い縛られた。ここまで言われれば、さすがに反応するだろう。  
 
 しかし。  
 初馬は秘部へと人差し指を触れさせる。  
 
「ひぅ!」  
 
 一ノ葉が仰け反った。引き締めていた口元が緩み、瞳から再び光が消えていく。狐耳を  
弄る指の動きは止めていない。残りの反抗心を総動員して踏みとどまってみたものの、そ  
れほど持続はしないようだった。  
 濡れたショーツの上から割れ目の縁を撫でる。指先に感じる弾力。  
 
「あ、あぁ、うああぁ……」  
 
 顎を震わせながら、一ノ葉が快楽の声を上げた。口元から涎が流れている。意識を保つ  
のが精一杯なのだろう。快感に耐えるように、両腕で自分を抱き締めていた。  
 
「一言お願いすれば楽になるぞー?」  
「言わんン……わ、ボケ」  
 
 荒い呼吸の間に、言葉を吐き出す。  
 初馬は満足げに頷いてから両手を放した。狐耳から手を放し、スカートの中から手を引  
き抜く。もっとも、一ノ葉の態度に諦めたわけではない。  
 肩を掴んで、一ノ葉をひっくり返す。仰向けからうつ伏せへと。  
 
「……な、にを?」  
 
 困惑する一ノ葉を無視して、初馬は左手で尻尾の先端を掴んだ。  
 同時、両足の間へと右手を差し入れる。さらに、人差し指をショーツへと忍ばせ、秘裂  
を直接撫で始める。  
 それだけではない。左狐耳の先端を口に咥えて、前歯で甘噛み。  
 達するほど強くではなく、あくまでも丁寧に優しく。  
 
「! ッッ、っああぁぁ! ソレ……、そえは駄目、だめ……! あ、あああっ、待て、待へ。  
待っ、て、本当に壊れうっ! やめ、ろ、やめへ……! おかひくなる!」  
 
 明らかに今までとは違う反応を見せる。  
 両手でシーツを掴みながら、一ノ葉は悲鳴じみた声を上げていた。目を見開き、涙と涎  
を流しながら、必死の叫び。敏感な場所を三箇所同時に攻めるのは効果が違う。  
 初馬は狐耳を甘噛みしながら、器用に口を動かした。  
 
「言わないとずっと続けるぞ?」  
「分かっ、た……から。お願い、します……! ご主人サマ、もう許して……!」  
 
 一ノ葉の懇願に、素直に両手と口を離す。  
 
「よろしい」  
 
 そう告げてから濡れた指を舐めた。微かに粘りを持った液体。味はない。  
 攻めから解放され、糸が切れたように脱力している一ノ葉。ベッドに顔を押しつけたま  
ま、ぴくぴくと痙攣している。その姿は打ち上げられた魚を連想させた。抵抗すらできな  
いという意味では同じだろう。  
 
「俺の言いつけ通りお願いできたので、ご褒美を上げよう」  
 
 偉そうに言いながら、一ノ葉の肩を掴み、再び仰向けにひっくり返す。顔を真っ赤に染  
めたまま、きつく目を瞑って横を向いている。  
 初馬はズボンの中から自分のものを取り出した。さきほどからの一ノ葉の痴態に、既に  
準備は万端である。一度深呼吸をして、意識を落ち着かせた。  
 
「………」  
 
 薄めを開けて見つめてくる一ノ葉。屈辱と期待に染まった瞳。  
 初馬は一ノ葉の足下に移動すると、紺色のワンピースをまくり上げた。白いショーツに  
包まれた秘部。さきほど触っていた通り、ぐちゃぐちゃに濡れている。  
 
「さ、行くぞ」  
 
 そう告げて、初馬は一ノ葉の背中に右腕を回した。身体を持ち上げながら、左手で  
ショーツを横にずらす。誘うように痙攣しながら、透明な液体を垂らす桜色の割れ目。  
 初馬は膣口に先端を押し当てながら、一ノ葉を抱え上げた。  
 
「ぁあっ!」  
 
 一気に膣が貫かれる。生暖かい濡れた肉の感触。支えていた裾が落ちた。  
 それで軽く達してしまったらしい。一ノ葉は初馬の肩に抱きついたまま、ぴくぴくと身  
体を跳ねさせている。膣内も軽く痙攣していた。  
 初馬は一ノ葉の頭を撫でながら謝る。  
 
「すまん、一ノ葉……」  
「何……だ?」  
 
 辛うじて聞き取れる声。初馬は続けて頼んだ。  
 
「傷が痛むから自分で動いてくれ」  
 
 さきほどから動くたびに、傷が染みるように痛んでいる。今までは激しく動いていなか  
ったので平気だったか、これからはそうもいなかい。治療中に情事というのも無理があっ  
たのだろうが、今更止められない。  
 
「自分、で……って?」  
 
 一ノ葉の呟きは無視して、初馬は軽く腰を持ち上げた。両足を前に投げし、その場に腰  
を落とす。小さな衝撃が、子宮口まで突き抜けた。  
 
「っ」  
 
 歯を噛み締める一ノ葉。  
 締まった膣肉の感触と対照的な傷の痛み。ふたつの感覚に息を呑みつつ、初馬は後ろへ  
と身体を倒した。上下逆にベッドに寝転がったような体勢。足下に丸めてあった布団に、  
肩を預ける。一般的に騎乗位と呼ばれる体勢。  
 
「あ、あ……あ……」  
 
 一ノ葉は虚ろな瞳で繋がった部分を見つめていた。しかし、紺色の裾に包まれ、中がど  
うなっているかは分からない。二人が感じるのは、繋がった感触のみ。  
 
「好きなだけ動いていいぞ。俺は止めないから」  
 
 初馬は動きを示すように腰を突き上げる。  
 
「はぅ!」  
 
 一ノ葉の顎が跳ねた。狐耳と尻尾をぴんと伸ばしてから、初馬の胸に倒れ込む。どうや  
ら身体を起こしていることもできないようだった。  
 
「……無理だ。動けぬ」  
「なら、仕方ない」  
 
 初馬は一ノ葉の背中に腕を回し、両手を合わせた。簡単な印を結ぶ。このようなことに  
使う術ではないが、臨機応変と言うことで納得した。  
 
「式操りの術」  
「て、貴様何をしている!」  
 
 一ノ葉の慌てた声。式神を操る術。離れていては中継印が必要だが、身体が触れ合った  
いるならそれも必要ない。今の乱れた集中力で感覚の共有はできないので、動きの掌握だ  
けを行っている。霊力の消耗も避けたいし、この状態で感覚共有は正直危険だ。  
 狐色の髪を撫でながら、初馬は告げる。  
 
「自分で動けないなら仕方ない。代りに俺が動かすから、好きなだけイってくれ」  
「待て、……ッ! ああっ」  
 
 言い返す前に、一ノ葉の腰が動き出していた。太股と膝を伸ばしながら、初馬のものを  
扱くように腰が上下運動を始める。本人の意思とは無関係に。  
 
「待て待て、貴様っ。ぅふああっ……勝手、にぃぃ、ッッ。あぁ……ぅぅ、ヒトの身体、を動かす  
な……! だめダメ、駄目だッ、あ、あああぁ!」  
 
 初馬の胸に抱きつきながら、悲鳴じみた声を上げる。  
 ワンピースの中から聞こえる水音。出来上がった身体への挿入で、感じる余裕すら達し  
てしまったらしい。しかし、初馬は構わず一ノ葉の身体を動かし続ける。  
 
「ああッ、もう……止めろッ。ッッッ。だ、から、止めろと……っああぁ、言ってる、のに……!  
死ぬ、死んで、しまう、とめろ! 止め、許して……!」  
 
 勝手に動く身体。普通なら絶頂を味わって脱力しているだろう。しかし、式操りの術に  
よって本人の意思とは関係なく動く身体。イきっぱなしの状況。  
 初馬は両手を伸ばして、尻尾を無造作に掴んだ。  
 
「いぃッ! 尻尾、はッ……!」  
 
 悲鳴は無視しして、両手で尻尾を攻め始める。操り逃げられないよう、尻尾の動きも掌  
握していた。ふさふさの尻尾を両手で嬲るように揉みほぐす。  
 
「はっ、ふぁあ。もう許して……お願いシマす、あぁぁ、ッッッ、ご主人様ァぁ! もう、止めテ  
下さいィ、ッッ! 許し、て下さいィィッ……!」  
「よろしい」  
 
 短く呟き、初馬は動きの掌握を解除した。  
 初馬の胸に突っ伏したまま、全身を引きつらせている一ノ葉。不規則な呼吸をするだけ  
で、減らず口も言えない。意識は辛うじて保っているが、しばらくは動けないだろう。  
 初馬も既に一ノ葉の中に射精していた。我慢する方が無理がある。  
 だが、気丈にも言ってみる」  
 
「もう一回戦行く?」  
「絶対にイヤ……だ」  
 
 一ノ葉が擦れ声で拒否した。  
 
 二十分ほどしてから汗まみれになった身体を拭いて、初馬はベッドに戻った。現在時刻、  
九時五分。病院での消灯時間は八時四十五分だったのだ。充分寝られるだろう。  
 
「……ワシは馬鹿だ」  
 
 一ノ葉が窓を眺めながら、呟いている。  
 狐の姿へと戻り、寝床のバスケットに腰を下ろしている。首元のチョーカーはそのまま  
だ。身体に合わせてある程度収縮するように作ってある。  
 
「どうした?」  
 
 初馬は声を掛けた。  
 一ノ葉は尻尾を一振りしてから、振り向いてきた。  
 
「うむ、貴様のような狡猾な男の式神になってしまったことを悔いている。最初の時、な  
ぜ貴様と戦おうと思ったのか、結界を壊して逃げればよかったのに、と」  
「人生、後悔は意味がないぞ。未来を見つめないと」  
 
 初馬は微笑んだ。  
 一ノ葉は呆れたように目蓋を落とす。  
 
「その台詞をワシに言えることに、貴様の凄さを感じる。まあ……いいだろう。認めてや  
るよ。貴様はワシの主とな。トボケてはいるが、器の大きさは本物だ。周りの連中は随分  
と苦労しているだろうが……」  
「ありがと」  
 
 初馬は素直に例を言った。  
 褒めているのか貶しているのか、認めているのか否定しているのか、判断の付きにくい  
台詞であるが、一応初馬を本当に主人として認めたようだった。  
 
「さっそくだけど、今日最後の頼みがある。そう大したことじゃないから」  
「何だ?」  
 
 訊き返す一ノ葉に、初馬は素早く印を結び。  
 
「式神変化」  
「って!」  
 
 霊力が一ノ葉の身体を貫き、その構成を一瞬で書き換える。  
 すらりとした大狐から、小型犬ほどの大きさの仔狐へと。例えるならキュウコンからロ  
コンへの逆進化。的確な比喩だろう。  
 
「何だこれは! 言っているそばから、貴様は何を訳の分からないことをしている! ま  
た何を思いついたというのだ!」  
 
 普段の大人の声ではなく、子供のような高い声。身体の変化に合わせて、声帯も変化し  
ているのだ。赤いチョーカーはそのままである。  
 初馬は両手を伸ばして、一ノ葉を抱え上げた。丁度良い大きさと暖かさ。ふわふわの毛  
並みと柔らかな身体。予定通りの変化である。  
 
「抱き枕」  
 
 初馬の答えに、一ノ葉は小さく呻いた。  
 
「……明日後悔しても知らぬぞ」  
 
 
 
 
 
 翌日、抜け毛で布団の中が凄いことになっていた。  
 後悔したと正直に告白しておく。  
 
                      初馬の日記より  
 
 

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