「うっ、く……う…あっ……」
ユキねえの舌がさっきからオレのにまとわりついてくる。
あれを伝って落ちてくるよだれの感触とか、ユキねえの熱い口の中とか、もうたまんない。
髪を撫でるとユキねえの目がこっちを向いて、うれしそうに笑った。
「ふぃふぉひい?」
ユキねえはいじわるだ。
分かってるくせにいつも聞く。
「うん、気持ちいい……」
オレが答えると、ユキねえはまたうれしそうな顔をして、今度は強く吸い始めた。
顔も上下して、手も根っこのトコをしごき始める。
「あっ!たっ、たんまっ!」
「はふぇ……」
ユキねえの口とオレの間からじゅぶっ、ちゅぶってすげーやらしい音がする。
先っぽがのどの奥に当たってるのが分かる。
「やばい、それ以上やったら、出っ……出るって!」
でも、ユキねえはやめてくれない。
むしろもっと強くこすって、吸って。
やばい。
ホントにやばい。
いや、気持ちいいし、出したいし、ユキねえは飲んでくれるけど、でもなんていうか、
「ッッ!あ、うあっ!」
ケツから背中を伝わって頭に上ってくる快感のせいで、ちゃんと考えられない。
もう、無理。
「ユキっ……ユキねえっ!!」
「翔くん、いっぱい出したねえ。昨日もしたのに」
二回、という意味なのか、ユキねえは唇をティッシュで拭きながら、反対の手でVサインを作った。
勝ち誇ったような顔で言われると、素直に喜べない。
「誘ったのはユキねえだろ」
「だって、新婚早々浮気されたくないもーん」
「しねえっていつも言ってんじゃん」
ユキねえはふざけた口調で言ってるけど、元彼に浮気されて別れた時、すごく泣いてた。
だからこんなことするんだろうけど、別にほぼ毎日しなくたって、オレは浮気なんかしないのに……。
「まあまあ、やりたい盛りなんだから遠慮しないの。
四ヶ月過ぎたらエッチしようね」
ふてくされるオレのほっぺたにちゅ、ってしてユキねえは俺の腕に抱きついてきた。
ユキねえのお腹には赤ちゃんがいる。
もちろんオレの子。
三ヶ月くらい前、オレはユキねえの家で、ユキねえの弟でいわゆる幼馴染の孝介と飲んでた。
そこにユキねえも参加して三人で飲んでたら、孝介の彼女から電話がかかってきて、
孝介はオレたち二人を置いて、彼女の元へ。
飲み足りなかったオレとユキねえは、友人と姉を大事にしない孝介の悪口を言いながら
飲み続けてたんだけど、気がついたらそういうことになってた。
何をやらかしたか、なんとなくは覚えてるんだけど、正直ちゃんとは覚えてない。
ユキねえ曰く、翔くんに抱っこされたらキュンときた、だそうだ。
朝起きた時は二人で苦笑いして、こういうことはこれっきり、って約束したんだけど、
一ヶ月くらい前、ユキねえは青い顔で妊娠しちゃった、って言いにきた。
ホントはきっとすごく不安だったはずなのに、俺を心配させないように、無理して笑いながら、
でも翔くんの子でもあるから勝手に堕ろすのもよくないかと思って、って言ったんだ。
親父とお袋には丸一日説教食らったけど、家族ぐるみで付き合いがあったりなんだりしたおかげで、
式はともかく、籍はさっさと入れることになった。
でも、あの時のユキねえの顔を思い出したら、胸が痛くなってきて、オレはユキねえを抱きしめた。
「翔くん?」
「あのさ、オレ、初恋の人って、ユキねえだから」
……って、オレ何言ってんだ!?
うお!は、恥ずかしいっ!
待った!待った!今の待った!ナシナシナシ!
「へ?」
さすがに驚いてる。
当たり前だ。
だって、そんなのすごく前の、ホントにガキの頃の話だし、今の流れでそんな話題、意味分かんねえ……。
あああああ、何かもっとちゃんとしたことを言うつもりだったハズなのに、全部すっ飛んだし。
「翔くん?」
「あ、だからな、心配すんなって言ってんの。
責任とか、そういうんだけで結婚したんじゃないから。
だから、エッチ出来ないくらい、どってことないし。
ユキねえとだったら、しないくても一緒にいられると思ったから、嫁に来てもらったし。
オレ、バカだし、年下だし、金もなくて、苦労させちゃうけど、でも、えーっと」
この後なんて続けたらいいか分からない。
ユキねえがこっち見てるおかげですごく緊張する。
いつもはおしゃべりなユキねえが何も言ってこない。
急にこんな意味不明なコトを言い出したから、引いてんのかもしれない。
引いてはいなくても、頭大丈夫かな、くらいは思われてる気がする。
けど、ここまで来て、やっぱいいや、とか言えん!
ここはかっこ悪くても、男らしくビシッとユキねえの不安をぬぐう一言を言わなくては!
「えーっとね、だから、オレは島村由貴子を生涯愛し続けることを誓いますよ!」
うおー!反応がねえ!
やばい!
引いた?引いた?
いや、引くだろ、普通。
ちんちんしゃぶられた後にこんな夜景も見えないような所で、指輪を用意した訳でもなく、花束すらねえ。
つうか、マジなんでこのタイミングかな、オレ。
せめて役所行った時に言えよ、オレ。
ぎゅ、っと身体を抱きしめられて、オレはパニック状態から立ち直った。
ユキねえがちっちゃい身体でオレのことを抱きしめて、オレの腕に顔を押し付けて、ちょっと震えてる。
「ユキね……」
「もう。翔くんてば、いつの間にか男前になっちゃったなあ。
そんなこと言われたら、ユキねえ返上したくなっちゃうじゃない」
「……どういうこと?」
ユキねえが顔を上げて膨れっ面を作った。
心なしか顔が赤い。
「バカ。もう翔くんのお姉ちゃんじゃ居たくない、って言ってるの」
「あ……うん、はい」
オレは一回キスをして、ユキねえを抱きしめ直した。
ユキねえをこんなに愛おしい気持ちで抱きしめるのは初めてかもしれない。
なんだか、ユキねえがすごく可愛く思えて、幸せな気持ちになってたら、
「翔くん」
て、呼ばれた。
「なに?」
ユキねえは顔を伏せて、俺の肩に頭を押しつけると、いつもと違う小さな声でこう言った。
「あのね、私もね、……島村翔を生涯ずっと愛し続けることを誓います」
(了)