注意:女性が未亡人で再婚です(男性は初婚)  
苦手な方はスルーしてください。  
 
時代設定は明治〜大正あたりです。  
 
 
 
 
熱気を孕んだ風が、汗ばんだ首筋を吹き抜ける。  
傍らを流れる小川の水面が、強い日差しをきらきらと反射している。  
大小の無数の石が転がる足元の悪い道を、前を歩くひとは、まるで氷の上をすべるように  
すいすいと早足で進む。絽綴の小紋は目にも涼しい薄水色。  
その裾から、真っ白い足袋がちらり覗く。開いて肩にもたせかけられた日傘が、  
いたずらにくるくると回っている。  
 
見とれていると、大きな石に草履履きのつま先をしたたかぶつけてしまい、  
顔をしかめて思わずしゃがみこんだ。  
「志乃さん…しのさん!待ってください」  
日傘がゆっくりと振り向く。細面の、白粉をはたかずともまっ白い顔には汗も見えない。  
切れ長の瞳が驚いて見開かれた。  
「まあ多一郎さん、どうなさったのです」  
「いえ、ちょっと蹴つまづいただけです」  
「この石にですね?まぁ、随分強くぶつけられたのですね。  
ちょっと足袋を脱いで見せてごらんなさいまし」  
「大丈夫ですよ」  
「骨でも折れていたら大事でございますよ。そう、丁度その憎い石に腰掛けなさって」  
言われるままにすると、志乃さんの細い指が足袋のこはぜにかかり、するりと素足に  
むかれてしまった。すべすべした指が、気遣わしげに足の指を撫ぜる。  
「汚いですよ、触ってはいけません」  
「なんの汚いことがあるものですか。…まぁ、少し赤くなっておりますけれど、  
こう曲げても痛くはございませんか?」  
「ええ、大丈夫です。骨が折れたりしていれば、僕は痛がりですから、  
とても我慢など出来ませんでしょう」  
「そうですわね。多一郎ぼっちゃまときたら、よくうちの庭の柿を取りに来ては、  
塀から落ちてわんわん泣いておられましたものね。  
わたくしがどれだけ慰めても、痛い痛いといって泣き止んでくれませんでしたもの」  
足袋をはかせてくれながら、志乃さんが楽しそうに笑う。  
「もう、そんな昔のことは忘れてください。それに坊ちゃまというのも  
もう勘弁してくださいよ」  
「まぁ御免なさいまし。どれだけ気をつけてもこの軽口は治りませんの。  
お気を悪くされまして?」  
志乃さんが、わざと大げさに謝りながら、いたずらっぽく僕を見上げた。  
紅い唇が濡れたように光る。  
なぜかそれを見ていられなくて目線を逸らした僕の頬に、白い指がかかり、  
そっとくすぐるように撫で上げられた。  
 
「…っ、いけません、人に見られたら…」  
慌ててそう言うと、志乃さんが可笑しそうに声をたてた。  
「まぁ、どうせ明後日には祝言を挙げるのですよ。今更誰に見られたって、  
なんの不都合がありましょう」  
「しかし、未婚の男女というのに違いはありません」  
「あら、後家の私を、生娘のように扱ってくださらずともよいのですよ、  
多一郎さん。誰に見られて何を言われようと、噂されるのは慣れておりますもの」  
微笑みを浮かべ、強がって見せてはいるものの、志乃さんの表情は少し陰がある。  
「無責任な口さがない連中のいうことなど、気にすることはありません。  
ご主人を亡くした方が再婚するなんて、よくあることではありませんか」  
「それは、私はこれでもまだ若後家でございますからね。  
奥さんに先立たれた中百姓の後妻の口くらいは、望めばありましょうけれども。  
近在一の商家の総領息子の、それも初婚の相手としては、  
誰に何と噂されても仕方ありませんわ」  
風に吹かれてほつれた前髪が、白い頬にかかる。  
伏目がちにつぶやいて、立ち上がろうとする志乃さんの手をつかんで引き止めた。  
「…多一郎さん?」  
「心無い輩が何と言おうと、僕はあなたを妻にしようと心に決めたのです」  
 
子供のころからずっと、妻にするならこの人しかいないと思っていた。  
だから5年前、志乃さんが隣町の旧家に嫁いでしまったときは、本当に悔しかった。  
志乃さんより二つ年下の自分は、商家の跡取りとはいえまだ17歳の駆け出しの商人で、  
妻を娶ることなど、とても許されることではなかった。  
未練を何とか断ち切ろうと家業に精を出したが、忘れられるはずもない。  
噂好きな連中から、志乃さんが嫁いだ経緯を聞いてからは、毎日毎日、  
腸が煮えくりかえるような思いでいたのだ。  
二軒隣に住んでいた志乃さんは、医家の一人娘だった。  
まだ幼子のころから、末は玉の輿に乗るに違いないよ、と人の噂にのぼるほどの  
小町娘は、それでも19の歳まで、由緒はあるものの決して裕福ではない家と両親を支え、  
かいがいしく家業の手伝いをして過ごしていた。  
それをある日、隣町の旧家の長男坊が、無理やり手篭めにしてしまったのである。  
傷物になったのを言いふらされたくなければ黙って嫁によこせ、という、  
あまりに卑劣な要求に、しかし娘の将来を思えばこそ、  
温厚な両親も涙を呑んで娘を嫁がせたのだという。  
 
しかしそれから4年というもの、志乃さんには子ができなかった。  
嫁して3年子なきは去れ、の言葉通り、志乃さんに対する親類からの風当たりは  
日に日に強くなっていった。  
当の相手の長男坊が、どうしても彼女を手放したがらなかった為、  
かろうじて婚家にとどまってはいたが、その夫とて、呑む打つ買うの放蕩亭主。  
酔って志乃さんに手をあげることも、一度や二度ではなかったらしい。  
その亭主が、昨年の春、風邪をこじらせたかと思うと、ころりと死んだ。  
跡取りに納まったのが弟である次男坊で、  
その夫人というのが悋気の鬼のような女だったらしい。  
志乃さんと自分の夫との間にあらぬ疑いをかけ、狂ったようにいびり倒したという。  
そして、もともと立場の悪かった志乃さんは、とうとう婚家を放逐された。  
 
志乃さんが出戻ってきた、と聞いたとき、とほうもない怒りとやるせなさと共に、  
不謹慎なことだが、僕がかすかな希望を見出したのもまた事実である。  
その日からというもの、自分は今まで以上に粉骨砕身、家業に精を出すようになった。  
町内の世話役さんや親戚の小母さんたちから、  
縁談めいたものも、ちらほらと舞い込んでくるようになっていた。  
もちろん、全て丁重に断らせてもらい、自分は更に仕事に打ち込んだ。  
そして機を見て両親に打ち明けたのだ。志乃さんを嫁に貰いたい、  
志乃さん以外には考えられない、と。  
当然のごとく、両親は大反対だった。  
生まれたときからご近所の志乃さんだ、人柄には文句のつけようもないけれど、  
やはり世間様に対してみっともない、というのがその理由だ。  
それからほぼ一年間というもの、我が家には口論が絶えなかったが、  
ついに自分が、許されないならどうぞ勘当して下さいと言い出すに至り、  
苦労して仕事を仕込んだ跡取りに出て行かれるよりはと、  
ようよう両親も折れたのであった。  
 
「あなた以外の誰も、妻にしようなどと思ったことはありません。  
僕の両親も最後には許してくれました。  
もう誰にも、志乃さんのことを悪く言わせたりはしません」  
目の前の美しいひとは、僕に手をとられたまま、  
戸惑うような表情を浮かべ、顔を背けてしまった。  
頬が微かに赤く染まっている。  
しばらく無言のまま、目も合わせてくれないことに焦れて、愛しい人の名前を呼ぶ。  
「志乃さん」  
「…志乃、と呼んで下さいまし」  
顔を背けたままの志乃さんの真意はわからない。  
「でも…今までずっと、志乃さんと呼んでいましたからね…どうも呼びづらいな。  
今までどおりでは、どうしてもいけませんか」  
頭をかいてそう言うと、志乃さんが、きっ、と強い目線を僕に向ける。  
「いけません。只でさえ、丸川屋の若旦那は年増の後家にいいようにほだされている、  
などと言われているのですよ。この上、新婚早々に嫁の尻に敷かれている、などという  
噂が立ちでもしたら、私はお義父様お義母様に申し訳がたちません」  
「…わかっています、すみません」  
不承不承頷くと、志乃さんはふと、目線をゆるめた。  
「私も、明日を限りに、多一郎さんなどと気軽に呼ぶこともできなくなりますわね」  
「…これからは、僕は何と呼ばれるのですか」  
「ええ…明後日からは、旦那さま、とお呼びいたします」  
 
真っ直ぐに自分を見つめる志乃さんの口から零れた台詞に、  
ふと目の前が真っ赤に染まるほどの興奮を覚えて、  
気がつくと自分は、志乃さんをきつく抱きすくめていた。  
うなじから香りたつほのかな香と、そして志乃さんの肌の匂い。  
「…た、いちろう、さん……」  
掠れた声で名を呼ばれ、ふと我に返って、慌てて腕をゆるめた。  
「も、申し訳ありません、僕は何てことを…人に見られたら」  
赤面してしどろもどろになる自分をおもしろそうに見つめて、志乃さんが耳元で囁く。  
「ですから…今更誰に見られようとかまいませんでしょう。それに、  
日傘で隠れておりますわ」  
「いや、しかし」  
「そんなにご心配でしたら…あちらへ参りましょうか」  
志乃さんの細い指が示したのは、今まで忘れかけていた、懐かしい場所だった。  
 
「ここは…よく覚えていらっしゃいましたね」  
川べりの土手に、貯蔵庫にでも使われていたものか、横穴が掘られ、  
丸太で柱まで組まれている。  
入り口は葦が生い茂り、ちょっと見ただけでは孔があることさえ気づかれない。  
その中に、何年ぶりかに踏み入ると、しげしげと黒い土肌を眺めた。  
「覚えておりますとも。多一郎さんがまだ小さなころに、  
お父様に叱られては、よくここへ隠れて泣いていらしたでしょう。  
その度、お母様に頼まれておむすびを届けに来たのをお忘れですか?」  
「忘れるものですか。あの時、慰めに来てくれた志乃さんは、まったく菩薩様のように、  
後光が射して見えたものです」  
「まあお上手ですこと」  
鈴が転がるような声で、志乃さんが笑う。  
強い日差しは徐々に翳り始め、只でさえ薄暗い孔の中は、もうほとんど真っ暗である。  
視界が遮られると、それ以外の感覚が鋭敏になるものらしい。  
志乃さんの、香り袋の控えめな香りに混じる肌の匂いまで、再び感じられるようで、  
どうにも鼓動がはやってしまう。  
そんな動揺を見透かしたように、志乃さんがそっと、僕の背に身を寄せる気配がする。  
暖かな体温が、着物を隔てても感じられるような錯覚を覚え、身震いした。  
耳の後ろに湿った吐息がかかる。  
「し、志乃さん…っ」  
「じっとして下さいまし」  
白魚のような指が、背後から着物の合せをまさぐり、からかうように胸元をくすぐる。  
息のつまるような未知の感覚に耐えていると、その指がそっと下のほうへと降りてきた。  
「志乃さん…っ!そんな、いけません、僕達はまだ…」  
慌てて細い指を押さえようとするが、その手はやんわりと振り払われてしまった。  
「多一郎さんの生真面目なのは、よく承知しておりますわ…明後日の婚礼が終わるまで、  
 
最後までは致しませんからご安心くださいませ。  
ただ、今は、ほらこんなに…」  
そう言って志乃さんの指が、とうとう下穿きの合せ目に進入し、  
先程からとっくに、はしたなく猛りきっていたものを、つい、と撫で上げた。  
「…っくぅっ…」  
「多一郎さんが、こんなに苦しそうなんですもの…」  
そう囁いた志乃さんの手が、たぎる熱の塊をそっとしごき上げる。  
それだけで眩暈のするような快楽が、背筋を這い登ってきた。  
同じ年頃の商家のぼんぼん達と一緒に、品川だの吉原だの悪所通いでもしておれば、  
こんな時にも少しは余裕も持てたかもしれないが、  
どうしても志乃さん以外の女性を抱く気になれず、今までとうとう縁が無かった。  
今、夢にまで見た志乃さんの白い手に、そこを弄られているなんて信じがたい。  
志乃さんが手を上下にうごめかす度、くちっくちっと湿った音がする。  
「ほら…あの時と同じですわ、多一郎ぼっちゃまが、涙を流して泣いているんですもの」  
「うう…あうっ」  
先走りの滲む先端を、指先でくりくりとほじくられ、情けない声が出てしまう。  
「志乃が慰めて差し上げましょうね…さあ、どうか我慢なさらないで」  
より一層激しく、志乃さんが肉棒を扱きあげる。先端の段差の部分を、  
小刻みに強く擦られると、玉の部分から、きゅっと射精感がこみあげてきた。  
「あ、ああ…志乃さん、っ…!!!」  
びゅくっ、びゅく、と音がするのではないかと錯覚するほどの勢いで吹き上げた液体を、  
志乃さんは器用に、零さぬよう手のひらで受け止めてくれた。  
「……はぁ、はぁ…」  
「まぁ…すごい、こんなに…」  
うっとりと自分の手のひらを見つめて呟く志乃さんの頬は、暗がりの中でもはっきり  
わかるほどに上気していた。  
 
「す、すみません、お手を…」  
慌ててふところから手ぬぐいを出し、志乃さんの汚れてしまった手をぬぐう。  
「まぁ…そんなに慌ててなさらなくっても」  
「いや、その、何というか…まったく恥ずかしいです。……何ですか?」  
志乃さんがくすくすとおかしそうに笑うのをいぶかしんで、その目線を辿る。  
と、志乃さんの目は、下穿きからはみ出し、あまつさえ隆々と立ち上がったままの、  
先程の白い残滓をしたたらせた自身に向けられていたのである。  
「わ、うわっ、これは、その」  
慌てて手ぬぐいで隠そうとしたが、一瞬早く志乃さんの手がそこに伸びる。  
「お若いんですもの…当然ですわ」  
「いけません、手がまた汚れて…」  
「あら、後始末は、手だけでするものではございませんのよ」  
「…え?」  
何を言われたのかわからずにいると、志乃さんはいたずらっぽい笑みを浮かべて、  
地面に膝をつくと、おもむろにそこに顔を近づけた。  
次の瞬間、脈打つ自身が、暖かいぬめるものに包まれた。  
「…お、おお…っ」  
ちゅぶ、ちゅぶっ、と、いやらしい水音が、暗いあなぐらに響き渡る。  
「志乃さん…いけませんっ、そんな、汚いところを…」  
「どうして汚いことがありましょう…はぁっ、ほら、こんなに…素直で、いとおしい…」  
志乃さんが舌を這わすたび、快感のあまり、肉棒がびくびくと跳ね上がる。  
唇をすぼめるようにして強く吸われると、腰が砕けるのではないかと思うほどの  
快感がそこを焼き尽くす。  
志乃さんの、品の良い薄い唇の端から、淫らな汁が糸をひいて流れ落ち、  
土に黒い染みを作る。  
やわらかな熱い舌が、裏筋をくすぐるように刺激し、先端の段差のまわりを  
ぐるぐると舐めまわした。  
細い指は、ぶら下がる二つのものをやわやわと揉みしだき、何とも言えない  
もどかしい快感を与えられる。  
上目づかいに僕の顔を見る志乃さんの表情は、今まで見たこともないほど、  
淫らでそれでいて美しい。  
「はぁ…ふぁっ…志乃さん、口を…離して下さい、もう…」  
こみ上げてくる精をこらえきれずにそう言うが、  
志乃さんは一物をほおばったまま、首を横に振った。  
「んふぅ…いいんですのよ…そのまま、出してくださいませ、志乃に、  
多一郎さんの…みんな、飲ませてくださいませ」  
「そんな…!!ああ!!志乃さん、もう…出る!!あああ!!!」  
根元から搾り取られるように強く吸われた刹那、  
白濁が、二度目とは思えないほどの勢いで噴出し、志乃さんの喉の奥をびしゃり、と  
叩きつけた。  
「ん…んくっ………ああ…」  
白い喉首を上向きにのぞかせて、志乃さんは、  
雫を一滴たりともこぼさずに、ごくりと飲み干してしまった。  
「……し、志乃さん…」  
恥ずかしさのあまり、何を言っていいのか解らなくなる僕を尻目に、  
志乃さんはさっさと身づくろいを済ませ、  
僕の着物の合わせ目をきちんと調えてくれると、開いたまま放ってあった日傘を畳んで  
すいと立ち上がった。  
「さ、参りましょう」  
「…あ、あの、志乃さん…待って下さいよ」  
すたすたと先に行ってしまう志乃さんを慌てて追いかけて、  
土手の道に戻る。  
いつの間にか太陽は傾き、真っ赤な夕焼けが空を染めていた。  
 
足の速い志乃さんにようやく追いつくと、気の早い蜻蛉が一匹、  
川面へ向かって弧を描いて飛んでいった。  
志乃さんは前を向いたまま、先程の痴態など無かったかのように、  
いつもの涼しげな微笑を浮かべている。  
 
「あの、志乃さん」  
「はい」  
「やはり、二人だけの時は、今まで通り、志乃さんと呼んではいけませんか」  
「………」  
「あの、決して、二人以外のものがいる時には呼びません。約束します」  
そう言い募ると、志乃さんが心底可笑しそうに、くすくすと笑った。  
「ええ…では私も、二人きりの時は、多一郎さん、と呼ばせて頂きますわ。  
二人だけの秘密ですわね」  
「ええ…その、先程のことも」  
どもりながらそう言うと、志乃さんは僕のほうを振り返り、言った。  
「…え?先程、何かありまして?」  
…この人には、どうも敵わない。  
志乃さんがどれだけ気を遣おうと、尻に敷かれる若旦那の噂が町内を賑わすのも、  
時間の問題であるだろう。  
「さぁ、急ぎませんと、家のものが心配しますわ」  
「ええ?もっと急ぐのですか?…待ってくださいよ、志乃さん」  
夕暮れに滲む細い背中を、慌てて追いかけて、僕は走りだした。  
 
 

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