『メイド・小雪 4』  
 
 
夕食と風呂の後、ぼくは部屋で調べ物をしていた。  
 
威張ることではないが、ぼくは大学じゃ、そこそこ真面目で優等な生徒なのである。  
机の後ろのほうでは、小雪がソファに座って本を読んでいる。  
特に用があるわけではないから、自分の部屋に下がらせてもいいのだが、ぼくもメイドがそばにいる生活に慣れているし、用がないと言うと小雪が寂しそうな顔をするので、ぼくが勉強している間は、音を立てないかぎりなにをしていてもいいよ、ということにしてある。  
それでも、「直之さまがお勉強をなさっているのですから」と、ぼくの本棚からわざと難しそうな本を選んで抜き取ってくるのだが、明らかに目が滑っているようで、不規則にページをめくっている。  
 
しかし、どうも今日は勉強がはかどらない。  
なんとなく、頭がぼうっとする。  
そのうち、へっくしょん、とくしゃみが出た。  
小雪が本をおいてぱっと立ち上がり、ぼくのそばに来た。  
「お寒くございませんか?湯冷めなさったのでは」  
もう、手にはブランケットを持っている。  
そういえば、授業中、隣で女子生徒がずっとくしゃみをしていたな。  
 
「風邪かな」  
そうつぶやくと、小雪は飛び上がらんばかりに驚く。  
「まあ、いけません、ちっとも気が付きませんでした!今すぐ、中村先生を呼んでまいります!」  
中村先生というのは、うちの侍医だ。  
「いや、そんな大げさにしなくていいよ。今日はもう寝るからさ」  
「では、お布団に電気あんかをお入れしてまいります」  
「小雪、まだ早いよ。そんなに暖められたら、ぼくは朝までに納豆になってしまう」  
笑いながら言うと、小雪は真剣な顔で首をかしげた。  
「まあ、その場合、納豆菌はどこから入るのでございましょう」  
ぼくはくっくっと笑いながら、パジャマの上に着ていたフリースを脱いで、小雪に渡す。  
ぶるっと身体が震えた。  
まあ、早く寝れば大丈夫だろう。  
 
続き部屋になった寝室へ行くと、小雪がかけ布団をめくってくれた。  
そこにもぐりこむと、肩口が冷えないように丁寧に布団を掛けてくれる。  
「本当に、お寒くはございませんか?」  
「うん、大丈夫だよ。小雪も今日はおやすみ」  
「あの、もし夜中にお具合が悪くなったら、すぐ小雪を呼んでくださいませね」  
「夜中は、小雪も眠ってるだろう」  
「いえ、小雪は今夜は休みません。ですから、いつでも呼んでくださいませ」  
ちょっとくしゃみをしたくらいで、この騒ぎだ。  
ぼくは布団の隙間から、ちょこっと指先を出した。  
「じゃあ、ぼくが眠るまで、ここにいてくれるかい」  
小雪はいつものように顔を真っ赤にして、それでも素直に椅子を持ってきてぼくの枕元に座ると、指先をそっと握った。  
「こ、これでよろしゅうございましょうか」  
「うん。ぼくが眠ったら、部屋に戻って、小雪もちゃんと眠りなさい。いいかい」  
「はい」  
目を閉じると、遠慮がちに指先を握っていた小雪が、少し手に力を入れた。  
暖かかった。  
 
眠りに落ちる半ばで、ものすごーく音程の外れた子守唄を聞いた気がした…。  
 
 
朝には、なんとか元気になっていた。  
小雪も喜んで、ぼくはいつもどおり大学へ行き、授業を受け、サークルに顔を出し、友人たちと最近できたという豚カツ屋で、食事までして帰ってきた。  
 
ところが、帰る途中から、体調がどんどん悪化してきた。  
豚カツの油が胸につかえ、悪寒に背筋が震える。  
屋敷のロータリーを回って、裏玄関の前に車を止めた時には、ぼくはもうハンドルに突っ伏していた。  
「きゃあ、直之さま、直之さま!!」  
迎えに出た小雪が、泣きながらぼくにすがりつく。  
「・・・まだ、死んでないから」  
ぼそっと言ったけど、小雪は全く聞いていない。  
 
「葛城さん、葛城さん、直之さまが!」  
呼ばれて飛んできた執事の葛城が、運転席でぐったりしたぼくの額に手を当てる。  
「少々お熱がございますかな。小雪から、昨夜は風邪気味のようだったと聞いております」  
「ああ、どういたしましょう、直之さまが、直之さまが…」  
「小雪は騒がなくてよろしい。お部屋へお運びいたしますから、沢木か北澤を呼んできなさい。それから、中村先生にお電話を」  
「は、はいっ!」  
小雪が飛んで行き、ぼくはやってきた使用人の沢木と葛城に抱えられて、部屋に戻った。  
とりあえずソファにごろんと転がったところで、小雪がかけ戻ってくる。  
「中村先生は、すぐにおいでくださるそうでございます!」  
「じゃあ、後は・・・」  
「直之さま、お着替えをお手伝いいたします」  
葛城がなにか指示するまでもなく、小雪は氷枕や洗面器を積んだワゴンを押してきている。  
メイド学校には、看護の授業もあるらしい。  
 
葛城と北澤を部屋から追い出すと、小雪はぼくの服を脱がせて暖かい蒸しタオルで体を拭き、パジャマを着せ掛けた。  
一度横になったことで、ぼくは少し楽になっていたものの、小雪が必死の形相で世話を焼いてくれるのが少しおもしろくて、だまってされるままになっていた。  
「申し訳ございません、直之さまがお風邪を召してらっしゃるのを存じておりましたのに、小雪はちっとも気がつきませんで、ダメなメイドでございました」  
小さいくせに、むりやりぼくを抱えてベッドまで連れて行こうとする。  
小雪に片腕だけを預けて、ぼくは自分でベッドに入った。  
「別に、小雪のせいじゃないよ。風邪なんてものは、夕方になると具合が悪くなってくるものだ。わかっていて遊んでいたぼくの自己管理が出来ていないだけだよ」  
「でも、でもっ」  
たぶん、ほんの少し風邪っぽい、というだけのところに、油のきつい豚カツをライス大盛りで食べたのが良くなかっただけの気がする。  
豚カツを消化してしまったら、気分も良くなるんじゃないだろうか。  
それなのに、ものすごい重病でもあるかのように、小雪が取りすがる。  
「もし、もしこのままお熱が上がってしまわれて、お風邪の菌がどこかいけないところに入り込んでしまったりしたら、風邪は万病の元と申しますのに」  
「大丈夫だよ。それとも、小雪は菌が脳にでも入ってぼくが馬鹿になってしまえばいいと思ってるのかい」  
からかいたくて、わざと言うと、小雪は今度こそ本当にわっと顔を両手で覆って泣いてしまった。  
「そ、そんなことになりましたら、小雪は、小雪は、死んでお詫びしても足りません!」  
・・・大げさだ。  
ぼくは布団から手を出して、ベッド脇に膝をついて泣いている小雪の頭に乗せた。  
「冗談だ。小雪が死んでしまっては困る。まだ、ぼくは小雪をカッパにしてないじゃないか」  
「う、うう、うっ。こ、小雪がカッパになって直之さまのお風邪が治るのでしたら、小雪は今すぐザビエルさまに弟子入りしてまいります」  
支離滅裂なことを言っている。  
ぼくは小雪の頭に乗せた手を持ち上げて、ぽんぽんと優しく叩いた。  
「カッパよりザビエルより、ぼくは小雪がいいから。だから、そのままでいておくれ」  
「・・・は、はい、はいっ」  
まだぐすぐすと泣きながら、小雪が何度も頷く。  
 
それから思い出したように、ぼくの手をとって布団の中にそっと戻した。  
「お苦しくございませんか?今、中村先生が来てくださいますから」  
中村・・・。  
そういえば、さっきそんなことを言っていたような気がする。  
ぼくは、がばっと布団を頭までかぶった。  
「いや、いいよ。中村先生は来てもらわなくていいから、そう電話してきなさい。ぼくはもう寝るから!」  
「・・・直之さま?」  
「早く、早く電話してきなさい」  
「で、でも、もう先生はこちらに向かっておいでですし、お熱なりと計っていただいて早めにお薬を」  
「いいから!ぼくはあの先生が苦手なんだよ。なんでもすぐに注射するんだから・・・」  
「なおゆきさまぁ?」  
小雪が、頭までかぶった布団をちょっとだけめくって覗き込んでくる。  
「まさか、まさか、お注射が嫌いでそんなことをおっしゃってるのではございませんよね?」  
「・・・そ、そんなことがあるわけないじゃないか。子どもじゃあるまいしっ」  
ちらっと顔を出すと、小雪の目元が笑っている。  
「そうですよね?でしたら、せっかくですから、先生に大きなお注射をしていただいて」  
「いやだっ!」  
寝返りを打って小雪に背中を向ける。  
 
正直に言おう。  
ぼくは、注射が大嫌いなのだ。  
決められている毎年のインフルエンザ予防接種だって、いつもどうにかして逃れようと悪あがきしているくらいだ。  
小雪はくすくすと笑っている。  
 
ぱふん。  
 
布団の上から、ぼくに身体ごと覆いかぶさる。  
「でしたら、先生がお注射をなさるとおっしゃったら、小雪が反対のお手を握っていて差し上げます。それで、お注射の間中、ずっと楽しいお話をいたします。それでよろしゅうございましょう?」  
なんだ、この、主人の弱みを握ったといわんばかりの余裕の発言は。  
ぼくは小雪の専売特許を拝借して、パンパンに頬を膨らませてやった。  
「いやだよ。子守唄を歌ってくれるのならいいけどね」  
昨夜、ぼくが聞いてないと思って、見事に調子っぱずれな子守唄を歌った小雪が、ずるずるとベッドから落ちていった。  
ふん、主人を手玉に取ろうなど、百年早い。  
 
 
結局、ぼくは小雪に手を握ってもらって、中村先生の注射に耐えた。  
微熱さえ下がればよろしい、あとは様子を見ましょうと言って中村先生が帰っていくと、小雪はようやく安心したようだった。  
「ほんとうに、直之さまにもしものことがあったらと思うと、小雪は胸がつぶれそうでございました・・・」  
「小雪の胸がそれ以上つぶれたら、ぺったんこだな」  
「まあっ、ひどうございます!」  
小雪の頬が、ぷんと膨れて、ぼくはベッドの中で笑った。  
「ほらほら、胸よりほっぺたのほうが膨らんでるよ」  
「そのようなことはございませんっ」  
「そうかなあ?」  
ぼくがしつこく疑うと、小雪は心配そうに自分の胸をおさえた。  
「そ、そうでございましょうか。小雪は、そんなにぺったんこでございますか?」  
「さあ。制服の上からだとよくわからないね」  
からかってはいるが、まあそれほどまっ平らではないことくらいはわかる。  
「どれ、ちょっとこっちにおいで」  
小雪が不思議そうな顔をして、横向きに寝たぼくのそばににじり寄る。  
床に膝をついているから、ちょうどぼくの顔の高さに胸がある。  
布団から手を出して、触る。  
 
「きゃ・・・!」  
むにゅ、という感触。思いのほか弾力がある。  
下着に分厚いパッドなどは入っていないらしく、やわらかい。  
そこそこの大きさがあるようだ。  
「ななななな、なおゆきさま?!」  
「なんだ、ぺったんこじゃないじゃないか」  
むにゅむにゅと揉んでみると、小雪の顔がぼんっと音を立てるように真っ赤になる。  
「あ、ああああ、あの、あのっ」  
「あのね、小雪」  
むにゅ。  
「はははは、はいっ」  
「ぼくは今、風邪を引いているんだ」  
「ははははい、はい。存じております」  
むにゅ。  
「熱もあるし、弱っているし、正気ではない」  
「そそそ、そ、そ、そうでございましょうか」  
むにゅむにゅ。  
「だから、なにかしたとしても、少しくらいは多めに見てくれるよね」  
むにゅむにゅむにゅ。  
小雪が、真っ赤な顔で半べそになる。  
「は、はい・・・」  
「ああ、頭がぼうっとするなあ。もし今朝、小雪が気を回して、風邪気味だから今日は休みなさいと言ってくれたら、こんなことにはならなかったのにな。小雪はぼくの担当メイドだっていうのにな」  
「は、はい、申し訳ございません・・・」  
むにゅうっ。  
「ぼくの風邪は、半分くらい小雪のせいだよね」  
「は、はい・・・、あの」  
「だったら、この風邪を、ぼくだけが引いているのはおかしくないかな」  
「はい・・・、はい?」  
ぼくは小雪の胸を触っているのと反対の手を出して、おいでおいでをした。  
小雪が顔を近づける。その頭に手を回して、ぐいっと引き寄せた。  
「んきゃ・・・!」  
小雪の唇は、ぷにっとしていた。  
そのぷるぷるしたやわらかい唇を押し開いて、舌を差し込む。  
「ん、んっ」  
ぴちゃっ、という音を立てて、小雪の唇を楽しむ。  
・・・ぼくは、なにをしているんだ?  
ほんとうに、風邪のせいでおかしくなっているんだろうか。制御が利かない。  
「あん・・・」  
唇を離すと、小雪が惜しむような声を上げた。  
「これで、おあいこだよね?」  
抱き寄せたままそう言うと、小雪は布団の中に腕を入れて、ぼくを抱きしめてくれた。  
「・・・はい」  
もう一度、小雪の唇をいただく。抵抗はしないが、ややぎこちない。  
「キスしちゃったね、小雪」  
息がかかる距離でささやく。  
「はい・・・」  
「もしかして、小雪はキスするの初めて?」  
「・・・はい」  
「そう。悪いことしたかな」  
「い、いえ、そんなっ」  
注射が効いてきたのか、朦朧としてきた。  
「ねえ、小雪・・・」  
「はい」  
「なんか、もっと・・・、ごめん、ありがとう・・・」  
もう一度、小雪の頬に唇を押し付けて、手を離す。  
小雪が布団を掛けなおしてくれるのを感じながら、ぼくはすうっと眠ってしまった。  
 
「・・・おやすみなさいませ」  
 
小雪の声を、遠くで聞いた。  
 
 
注射のおかげか、小雪の看病のおかげか、翌朝はすっきりした目覚めだった。  
微熱が下がっても、一日はお休みになりますように、と中村先生が言ったので、ベッドの上に起き上がって小雪を待つ。  
しかし、部屋に来て「おはようございます」と言った小雪が、赤い顔をしていた。  
あわてて近くに呼んで額に触れてみると、見事に熱を出している。  
「小雪、大丈夫か?!」  
「ふ、ふぇぇん」  
肩をつかむと、力尽きたように床に座り込む。  
「おあいこでございます。半分、いただきました・・・」  
 
嫌がる小雪を、千里を呼んで部屋に連れて行かせると、間もなく菜摘がやってきた。  
菜摘は、兄の担当メイドだ。  
「正之さまから、今日は小雪の代わりに直之さまのご看病をさせていただくように、とお申し付けいただきました」  
「…あ、そう」  
別に、メイドにつきっきりで看病してもらわなければならないほどの重病でもないが、せっかくの兄の好意なので、素直に受け入れた。  
担当メイドというのは、学校で専門の課程を終えているわけで、小雪が倒れたからといって誰でも代わりが務まるというのでもないらしい。  
「お熱は、微熱でございますね。お食事は召し上がれました?」  
菜摘の手がぼくの額に当てられる。  
小雪に近寄られると、ちょっと甘ったるい匂いがするのだが、菜摘からは柑橘系の香りがした。  
「香水つけてるのかい」  
「ご不快でございましょうか」  
恐らく、朝の段階で習慣的につけたのだろうが、病人の看病をすることになるとわかっていたら、控えたのだろう。  
「ああ、いや。大丈夫だよ」  
答えると、菜摘はほっとしたようにニッコリする。  
 
なんだろう、この色っぽさは。  
さすが、5年も兄の担当メイドを務めているだけある。  
完璧に兄好みに教育された結果が、これか。  
 
「正之さまのお帰りまでは、直之さまのお世話をするようにということでございますの。なんでも菜摘にお申し付けくださいませ」  
昨夜の小雪と同じように、ベッドサイドに膝をついているだけなのに、顔を覗き込まれると、比較にならないほどこっちが気恥ずかしい。  
微熱とはいえ、ずっとうとうとするほどでもなく、できれば起きてテレビを見るくらいのことはしたいのだが、どうやら菜摘はそこを動く気がないようだ。  
菜摘はうちのメイドだとはいえ、なにか兄のものを借りたような遠慮があって、ぼくはもぞもぞと布団に潜り込んだ。  
布団をかけてくれながら、菜摘が思い出したように言った。  
「もし、少し体調がよろしいようでしたら、ご退屈もなさるでしょうから」  
起きてもいいのだろうか。  
顔を出して見ると、菜摘はまたニッコリした。  
「菜摘が、なんでもお相手いたします」  
 
なんでも、とはなんだ。  
それも、兄の言いつけなのだろうか。  
兄は、なにをたくらんでいるんだ。  
そういえば先週あたりも、ちらっと意味ありげにぼくと小雪を見ていた。  
お前、まさか、まだ?  
目がそう言っていた。  
 
確かに、風邪はそんなに悪くない。  
今朝の様子だと、たぶん、小雪の方が重症だろう。  
だからといって。  
枕を当てなおしてくれた菜摘の手がぼくに触れた。  
どきっとする。  
ちょっと耳に触れただけなのに、かっと熱くなる。  
この手つきはなんだ。  
兄は、菜摘をどういったふうに躾けてるんだ。  
教育いかんでは、5年もすれば小雪もこんなふうに触れられるようになるのか、いや、別にそうしたいわけではないけど。  
小雪がぼくの担当メイドになって二ヶ月。  
その期間はそのままぼくの禁欲期間に相当する。  
菜摘は、なんでもなさそうに身を乗り出して、ぼくの顔や肩を優しく撫で、時には布団の中に手を差し入れて腕をマッサージしてくれる。  
確かに心地いい。  
しかし、これは、試練か。  
それとも。  
 
布団の中に入った菜摘の手が、だんだん下がってくる。  
黙ってそんなところを触られても、困る。  
「あ、そういえば、小雪はどうしてるかな」  
慌てて話しかけても、菜摘は手を止めない。  
「メイドたちが交代で様子を見に行くようでございます。熱はございますけど、あとから中村先生も往診してくださるそうですわ」  
「そ、そう。かわいそうなことをしたな」  
菜摘がぼくの腰をそっとつまんだ。  
「小雪に、どうやってお風邪をお移しになりましたの?」  
「え…」  
冷や汗が出る。  
なんだろう、なんとなく、いつもぼくにからかわれて慌てふためいている小雪の気持ちが少しわかる。  
「正之さまは、直之さまのことを奥手でいらっしゃるとおっしゃいますけれども」  
いや、その触り方は。  
「でも、同じお血筋でいらっしゃいますのに」  
うわ。  
「一日ご看病申し上げましたら、菜摘にもお風邪を移していただけますかしら」  
菜摘の顔が近づいてくる。  
「正之さまには、お誉めいただきますの」  
う。  
上から、唇をふさがれる。  
柔らかい舌が侵入してくる。  
ぼくの舌に巻きつき、吸い上げ、口の中を動き回る。  
されるままになって、ぼくはぼうっとしてきた。  
これは、誉めたくなる兄の気持ちもわかる。  
その間にも、菜摘は体中を撫でまわし、ついにそこに到着した。  
「んっ」  
思わず、声が出た。  
「お風邪は、だいぶよろしいようでございますわ」  
撫でるな、掴むな、しごくな!  
「い、いや、あの、菜摘、こういうのは、後で兄さんに叱られたり」  
「なぜでございましょう。菜摘は今日、正之さま直々に、直之さまのご看病を申し付けられましたのに」  
これは、看病じゃないだろう。  
そう言い返す気力が、わかなかった。  
二十歳になったばかりの、健康な男に、二ヶ月の禁欲は限界だった。風邪を引いてはいるけど。  
 
菜摘はパジャマの上から触れていた手を、腰のあたりに滑らせてするっと中に入り込んだ。  
細い指がトランクスの履き口を持ち上げて、直接肌を撫でる。  
「まあ、こちらのあたりなど…」  
下腹で、菜摘の手が複雑な動きをする。  
「正之さまに、そっくりの生え方のようでございますわ」  
な、なにがだ。  
絡めるな、引っ張るな、比べるな。ううう。  
目の前に、メイド服の生地が来た。  
菜摘は本格的に布団の中に潜り込む。  
「小雪がかわいそうでございますわ。ご主人さまにかわいがっていただけない担当メイドなど」  
布団の中で、菜摘が言った。  
思わず、喉の奥が鳴る。  
うまい。  
 
「初音さんのことは、ずいぶんおかわいがりになったのでございましょう?」  
菜摘がパジャマの下を下げて、脚の間に入り込む。  
その間も、手は絶妙な動きを続けている。  
「そんなことを、誰が言ったんだい?」  
精一杯、平気なふりで普通の声を出そうとしたが、少し震えていたかもしれない。  
菜摘の手だけで、暴発しそうだった。  
「誰も申しません。でも、担当メイドでしたら、見ればわかりますわ」  
遙のような一般メイドでさえ、お手つきの噂を立てるくらいだ。  
自分の身に置き換えれば、同僚の担当メイドの様子がわかるものなのかもしれない。  
「そう、・・・うっ」  
わずかな時間で出してしまったなどと兄に知られれば、意味ありげにあの優雅な笑みを向けられてしまう。  
「な、菜摘…」  
「我慢なさらないでくださいませ。菜摘がみんな頂戴いたしますわ」  
 
ぱく。  
 
うおお。  
暖かい粘膜に包まれ、なぞり上げられ、吸い上げられ、ぼくはもう堪ず菜摘の口の中に発射した。  
最後の一滴まで吸いこみ、きれいに舐めあげてから、菜摘はぼくの足もとから顔を上げた。  
「たいそう濃くてたくさんでございました。あまり出し惜しみいたしますとお体に良くございませんのよ」  
もう、ぼくはすっかり菜摘の思う壺だ。  
菜摘は手早くパジャマの上もはだけると、自分の制服のエプロンに手をかけた。  
「エアコンを入れてございますから、お寒いことはございませんでしょう?」  
ぬ、脱ぐ気か?  
一度は元気をなくしたぼくのペニスが、菜摘の豊かな胸を見ただけで血液を集める。  
たっぷりした量感のある乳房。  
初音のそれより、二周りは大きい。  
手を伸ばすと、菜摘がそっと押さえる。  
「いけません。直之さまは、まだお風邪なのですから。全部、菜摘にお任せくださいませ」  
そんな嬉しいこと。いや、違うけど。  
「触りたいんだが」  
なるべく威厳ある言い方をこころがける。  
パジャマを脱がされて、メイドに乗りかかられている状態で、威厳もなにもないといえばそうだが。  
「でしたら、どうぞ」  
菜摘はずりあがるようにして、ぼくが触れやすい位置に移動する。  
久しぶりに触れる生の感触だった。  
ゆっくりと揉む。  
大きさと表面の張りのわりに、指が食い込むほどやわらかい。  
淡い色の先端に指先を当てると、菜摘がすぐにほうと息をついた。  
なるほど、兄の仕込みがいいんだろう。  
「舐めさせなさい」  
「かしこまりました」  
そのまま身体を伏せてくるかと思ったら、菜摘はぼくの顔の横に手をついて、そこにまたがった。  
「どうぞ…」  
ぱっくりと開いた、すでに濡れ濡れしたピンク色の粘膜。  
いきなり、ここを舐めていいのか。  
軽く動揺しながら、でもせっかくなのでいただく。  
舌をとがらせて包まれた突起をつついたり、大きく舐め上げたりすると菜摘が声を上げる。  
「あっ、素敵…」  
快感の表現が新鮮だ。  
「いい・・・」  
ぼくの顔の上で、菜摘の腰が揺れた。  
中腰の体勢はつらいだろうと、お尻に手を回して下から支えてやる。  
舐め続けると、そこはひくひくと痙攣し、蜜が溢れてきてきた。  
反応のよさに驚かされる。  
ついに菜摘は体を下げて、ぼくの顔の上に伏せた。  
「ああ、もう、いけません」  
目の前に来た菜摘の胸をを撫でると、身もだえした。  
「あん、直之さまがこんなにお上手だなんて、存じませんでした・・・」  
ぼくは両手で胸をつかみ、指先だけで揉みながら顎を上げて乳首を咥え、舌で転がしていたぶった。  
 
「あっ、あ!」  
乳首がつんととがる。  
股間が、熱く脈打ってきた。  
手を下に伸ばし、菜摘の秘所をさぐる。  
「んっ」  
菜摘がぴくりと震え、それから脚を開いてぼくの指を受け入れた。  
すでにずぶぬれになっている。  
くちゅくちゅという水音を立てながらかき回すと、菜摘がぼくの上で喉をそらした。  
「ああっ、直之さま」  
いきなり二本の指を飲み込んで、菜摘が腰を振る。  
親指で顔を出したクリトリスに触れると、悲鳴のような声を上げた。  
すごい。  
さすが、あの兄が仕込んだだけのことはある。  
菜摘は息を乱し、ぼくの指の動きに合わせてはあはあと呼吸した。  
「あん、ああ、や、あんっ、もう、焦らさないでくださいませ・・・」  
 
菜摘が手を伸ばして、すでに硬くなっているぼくのペニスを握った。  
「こんなに大きく・・・ああ」  
身体を倒してそう呟くと、吐息がぼくの乳首に吹きかけられる。  
意外に、それがびくりとするほど気持ちいい。  
ぼくの反応を見たのか、菜摘は手でペニスをしごきながら乳首を唇で挟んで舌先でつついた。  
「う、あっ・・・」  
すでに一度出したとはいえ、この責めには耐え難い。  
菜摘が腰を上げ、動きを止めたぼくの指が落ちる。  
「くださいませね・・・」  
いつのまに用意したのか、菜摘は手早く避妊具をかぶせ、指で秘所を開いてぼくに見せてから、ゆっくりと腰を下ろした。  
枕を首の後ろに当てて頭を上げると、結合部分が見える。  
「すごいね、菜摘」  
ぬぷっ、と沈んだペニスが、菜摘の中で締め上げられた。  
「くっ…、なにした?」  
「膣を締めたのでございます。こうすると・・・いかがでございましょう」  
「うあ・・・すごい、いいよ、菜摘・・・」  
「うれしゅうございます・・・、直之さまのこれも、大きくて硬くて、ああ、奥まで入って・・・いい」  
女の子の口から、そんな風に説明されると興奮する。  
下から突き上げるように腰を動かすと、菜摘がまたきゅっと締めた。  
「っ!」  
「いけません。菜摘がみんないたしますから」  
最初はゆっくり、それから激しく腰を上下に動かしはじめた。  
「は、あ、ああん、あっ、いい、とても、ああ」  
目の前で胸を揺らしながら、快感を求めるように菜摘が動く。  
その激しい動きで擦りあげられ、時折締め上げられての繰り返しが、ぼくの頭を真っ白にした。  
「はあ、はあ、ああ、こんなに素敵なのに、どうして、小雪を抱いて、差し上げませんの、あっ、ああっ」  
「・・・うっ、そんなに、だめだ、菜摘・・・」  
「あああっ、ああ!ああ!くださいませ、菜摘に・・・ああ、ん、気持ちいい!」  
 
ぼくは、絶頂を迎えようとしている菜摘の乳房をつかみ、下から腰を突き上げた。  
最奥を突き上げたタイミングで、腰を前後に動かす。  
「いや、あああ!!」  
何度も何度もそうすると、菜摘は強く膣内を収縮してぼくの精液を搾り取りながら、達した。  
初音も、こうされるのが好きだったっけ。  
「く・・・」  
菜摘の中で果てたぼくが腰を落とすと、菜摘はぼくの胸の上に倒れこんだ。  
「ああん、今の、とてもようございました・・・。直之さまったら、菜摘をこんなふうに…、もう」  
 
器用に避妊具の始末をして、指先でつつっと胸をなぞってきた。  
「もし菜摘が直之さまを忘れられなくなってしまいましたら、いかがなさいますの?」  
嘘付け。  
菜摘が兄を見る目を思い出して、ぼくはちょっと苦笑した。  
今日だって、全ては兄のたくらみではないか。  
「…ひとつだけ、よろしゅうございますか?」  
しばらく休んでいると、菜摘の手が、またぼくのペニスをやわらかく包んだ。  
「菜摘のことはこんなに悦ばせてくださいますのに、どうして小雪はいけませんの?なにか、粗相をいたしました?」  
「いや…、そんなことはないよ。ただほら、小雪はまだ子どもというか」  
「でも、もう17でございます。若さまの二十歳の担当メイドは、みんな17でございますのよ」  
菜摘は、兄に挨拶をしたその日に『召し上がられた』んだっけ。  
二度、果てた後だというのに、菜摘はまだ玩具のように触れている。  
「そうだけど」  
「確かに、小雪は少し幼く見えることもございますわね。まさか、なにも知らないということはないと存じますが…」  
信じられないことに、菜摘の手技に反応してきた。  
「でも、メイドがなにも知らないとしても、ご主人さまはそれをお教えくださらなければいけませんのよ。それもお仕事でございますもの」  
「・・・な、つみ」  
「ご主人さまにかわいがっていただくのが、メイドの喜びなのですわ」  
隣に横になっていた菜摘の手足が、ぼくの身体にからみついてきた。  
こんなことで風邪が悪化するのか治ってしまうのかわからないまま、ぼくは欲望に負けた。  
 
 
さすがにもう動けないぼくを、さんざんいたぶるように翻弄してから、菜摘は身づくろいを整えた。  
それから、何度もお湯を変えながら暖かいタオルで身体を隅々まで拭いてくれる。  
全裸で仰向けになってそうされているのは照れるが、そんなことを構えないほど体力を消耗していた。  
菜摘は、すごい。兄も、すごい。  
新しい下着とパジャマを着せてもらい、かけ布団をかけてもらう。  
なんとなく、シーツに菜摘の匂いが残っているような気がする。  
一度寝室を出て行った菜摘が、戻ってきた。  
「中村先生がお見えです」  
寝たふりは、間に合わなかった。  
 
中村先生は簡単に診察してから、なにか言いたげな顔をした。  
バレてるんだろうか。  
風邪で寝ているはずの患者が、メイドとなにをしてるんですか。  
目が、そう言っている気がした。  
「よろしいでしょう。明日は学校においでなさい。若いし、元気なようだ」  
……バレてる。  
中村先生は、手を拭いて立ち上がり、菜摘からカバンを受け取る。  
「どれ、では小雪を見てまいりましょう。坊ちゃんにすっかり風邪を移されてしまったようですからな」  
「あ、お願いします」  
寝たまま言うと、先生は菜摘を見た。  
「キミは大丈夫かね。風邪を移されんようにね。もう遅いかもしれないが」  
…いたたまれない。  
 
 
少し眠ってから目を覚ますと、ベッドサイドにちゃんと菜摘がいた。  
「どのくらい寝てた?」  
「ほんの20分ほどでございます」  
「そう…」  
「お腹がおすきではございませんでしょうか。おかゆなりとお持ちいたしましょうね」  
半分目を閉じてあいまいに返事をすると、菜摘はそっと部屋を出て行った。  
またうとうとしかけると、廊下側のドアが開いた気配がする。  
もう、戻ってきたのか。  
そう思って肘をついて身体を起こしても、菜摘が寝室に入ってくる気配がない。  
誰かはいるようだから、ぼくは不審に思ってベッドから降りた。  
寝室の入り口で、なにかがころんと転がった。  
「…小雪?!」  
「ふぇ…」  
小雪が、メイドの制服を着て床に伏せていた。  
あわてて抱き起こすと、青い顔で悪寒に震えている。  
「なにやってるんだ、寝てなくてはだめじゃないか」  
「で…でも、中村先生に、おっきなお注射をいただきましたので、もう」  
もう、ではない。  
「すっかり、元気でございます。お注射をいたしました、小雪は、ひとりで、お注射をがまんいたしました…」  
触れただけで、熱があるのがわかる。  
「ばか、ほんとに菌が脳に入ってばかになるぞ!」  
脅かすように言う。  
「ばかでございます…、こゆきは、ばかでございますから、なおゆきさまは、こゆきがお嫌いなのでございましょうか…?」  
「なに言ってるんだ?」  
とりあえず小雪を抱き上げて、自分のベッドに降ろす。  
誰かを呼んで、部屋まで連れて行かせなければ。  
「だって、こゆきが寝ていましたら、なおゆきさまは、な、なつみさんが、お世話をいたしますのでしょう」  
いやいやをするように首を振って起き上がろうとする。  
「だったら、早く治しなさい。そうしたらまた、小雪に世話をしてもらうから」  
そう言って小雪の頭を枕に押し付ける。  
「でも、でも、菜摘さんをお気に召したら、小雪なぞは、もう、お嫌いになってしまいます…」  
「なんだそれは。小雪は菜摘にやきもちをやいているのかい?」  
「……!」  
急に、ぼくの手を跳ね返すように小雪が起き上がった。  
病人とは思えない動きだ。  
「…こ、小雪は確かに、風邪をひきましたのですけどもっ、それはメイドとして不始末ではございますけども、でも、でも、だからといって、いえ、直之さまはご主人さまでございますから、なにをなさっても小雪はなにも申し上げられませんけれどもっ」  
いきなり、泣き出した。  
熱のせいで情緒不安定なのだろうか。  
「な、なんだ?どうした小雪」  
ぼろぼろと泣きながら、小雪は枕を掴んで僕の前に突き出した。  
「小雪は、ほんの半日、お側を離れましただけですのに!」  
「な、なんだよ」  
「…いい匂いがいたします」  
メイドとしてふさわしいとは言いがたい態度で小雪が突き出した枕に、鼻を近づけてみる。  
「……」  
「いかがでございましょうか」  
菜摘の香水の匂いがした。  
「ああ、ええと、あのね小雪」  
「…それは、たしかに、小雪は、いたらないメイドで、ございますけれ、ども」  
また、肩をゆすって泣き始める。  
 
まったく。  
まったくもう。  
 
ぼくは、小雪の突き出した枕ごと、小雪の小さな熱のある身体を抱きしめた。  
むきゅ、と小雪が鳴いた。  
「だから、ちゃんと栄養のあるものを食べて、たくさん寝て、早く風邪を治しなさい。そうしたら、こんどは枕にも布団にもたっぷり小雪の匂いをつけてあげるからね」  
「……!」  
見なくたってわかる。  
今、風邪のせいで真っ青だった小雪の顔は、高熱を発しているかのように真っ赤になっているはずだ。  
「いいかい?」  
「…は、はい」  
緊張の糸が切れたのか、小雪がくったりとぼくに身体を預けた。  
 
 
 
「小雪の風邪が治りましたら、たっぷりとかわいがってやってくださいませね」  
おかゆを運んできた菜摘が小雪をみつけ、千里を呼んで部屋に連れて行かせてから、少し潤んだ目で、この上なく色っぽく言った。  
「あ、ん、な、ふ、う、に…」  
ぼくは布団をかぶって聞こえないふりをした。  
 
やっぱり、ぼくには菜摘は扱いかねる。  
小雪くらいがちょうどいいのかもしれない。  
自分の代わりに菜摘がぼくの看病をしていると聞いて、熱があるのに無理やりメイド服に着替えて、這うようにやって来た小雪。  
枕についた菜摘の香水に、顔中を涙で濡らして抗議した小雪。  
本当は、そのままベッドに押し倒したいと思うくらい、かわいいと思った。  
ごめん、小雪。  
もう、泣かせたりしないから。  
おかゆは、菜摘にはふうふうしてもらわずに食べるよ。  
だから早く元気になって、またぼくの世話をしておくれね。  
ぼくの、小雪。  
 
 
菜摘は夕方になると、兄を出迎えるためにいそいそとぼくの部屋を出て行った。  
菜摘だってぼくの看病をしたのは兄の命令だからであって、兄が帰ってきたら一分一秒でも長く兄の側にいたいのに決まっているのだ。  
 
ぼくは、夕方になっても体調が悪化しないのに気分を良くしながらも、大人しくベッドの中にいた。  
風邪は大丈夫のようだけど、さすがに少し疲れた。  
菜摘がシーツと枕カバーを取り替えてくれたので、鼻を押し付けてみても、菜摘の香水の香りはほとんど気づかない。  
 
菜摘は、すごかった。  
結局、3発も、抜かれてしまった。  
下半身はすっきりしたものの、小雪を泣かせてしまったことがつらかった。  
途中で、一度、初音のことを思い出したような気もする。  
それでも、初音と市武さんの閨房を想像して切なくなることもない。  
菜摘ともう一度、という気にもならない。  
 
 
 
なぜか、僕の頭の中には、顔を真っ赤にしてほっぺを膨らませて、ちょっと首をかしげた担当メイドの顔しか浮かばなかった。  
 
ぼくの、小雪。  
 
 
 
――――了――――  
 

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