『メイド・小雪 10』  
 
 
3月になった。  
 
千里と初音が厳しく躾けてくれたおかげで勉学を苦にしないぼくは、ぎりぎりで冷や汗をかいた聡を横目に、十分余裕を持って進級できる。  
小雪の誕生日はすぐそこだ。  
お正月のあとに、誕生日は二人でお祝いしようねと言ったきりなんの話もしなかったので、小雪も日常と同じようにぼくの世話をし、ぼくは表面的にはまったりと過ごしていた。  
 
小雪がぼくの膝の上で泣き出したあの日以来、ぼくは以前にも増して小雪をよく観察するようになった。  
表情のちょっとした変化や、しぐさのひとつひとつ。  
メイドらしく、言葉ではいつも従順な小雪が、本心ではどう思っているのか。  
差し出してくれた上着をいらないよと言えば、かしこまりましたと答えるけれど、心配そうな顔をしていること。  
紅茶を入れたり着替えを手伝ってくれたりしながらそわそわしているのは、なにか嬉しいことがあってぼくに話したいのに、メイドから話しかけることができないから、どうかしたのと尋ねて欲しいのだということ。  
反対に、事務的とも思えるほど真面目な顔でてきぱきしているのは、ぼくの留守中に仕事やお稽古でなにか叱られたりして、そればかり考えて上の空になっているということ。  
なおゆきさまのいじわる、と言いながら、もっと触れて欲しいと目を潤ませていること。  
今まで気づかなかったことがわかるようになると、ぼくは小雪がして欲しいと思っていることをして上げられるようになる。  
ぼくが何も言わなくても小雪が世話をしてくれるように。  
でも、ほんとうにぼくが知りたいと思っていることは、小雪を見ているだけではわからなかった。  
……あれきり、小雪が突然ぼくの前で泣き出すようなことはない。  
 
そして、3月2日の夜。  
部屋でいつまでもテレビを見たり雑誌を読んだりパソコンに向かったりして寝るそぶりを見せないでいると、日中メイドの仕事で疲れている小雪が、ソファでこっくりこっくりと船を漕ぎ出した。  
ぼくが勝手にしているときは小雪も勝手にしていいよ、と言ってあるのでそれはかまわない。  
むしろ、都合がいい。  
ぼくは音を立てないように、そっと寝室からスーツケースを出してきた。  
日頃はしまいこまれているはずのスーツケースが、旅行の予定もないのに出しっぱなしになっているくらいで、小雪が何か言うことはない。  
スーツケースは、一ヶ月近くも寝室に置きっぱなしになっていた。  
音を立てないように金具を外して開ける。  
小雪は、すうすうとかわいい寝息を立てている。  
 
腕時計を見る。  
ぼくは、小雪の背後からそっと近づいて、肩をたたいた。  
「小雪、小雪」  
ぱっと目を覚ました小雪が、慌てて立ち上がる。  
「も、申し訳ございません、もう…」  
目を見開いて、ぱちぱちする。  
「あ、あの」  
両手を、ほっぺたに当てて、小雪がぼくを見上げた。  
「あの」  
「誕生日、おめでとう小雪」  
 
小雪の目の前に、小さな小さなお雛さま。  
赤い毛氈を引いた三段飾り。  
金屏風の前に、ちりめんの布で作ったちょっと不恰好な、ころんとしたお内裏さまとお雛さま。  
その下の段に、これもちょっとゆがんだちりめんの三人官女。  
一番下は、重箱や御所車といった道具。  
それらが、ふたを開けたスーツケースの中にちんまりとおさまっていた。  
「あ、あの、あの、これは」  
ぼくは小雪に腕時計を見せた。  
 
12時。  
 
「ほら、もう誕生日だよ。おめでとう小雪」  
小雪のほっぺたが、ぱっと赤らむ。  
「前に言っただろ?誕生日は、一緒にお雛さまのお祝いをしようって」  
こくこく、と小雪が頷いた。  
見る見るうちに涙が盛り上がってくる。  
「はい、はい…、で、でも、な、直之さまはお忙しくて、あの、あの」  
「忘れてると思ったのかい?」  
「は…はい、あの、でも」  
ぼくは小雪の頭を撫でてから、スーツケースの前に立たせた。  
「そりゃ忙しかったよ。さして器用でもないんだからさ」  
小雪はスーツケースの前に座り込んで、まじまじとミニ雛壇を見つめた。  
「あんまり見ないでおくれね。アラが目立つからね」  
小雪がぼくと雛壇を見比べた。  
「あ、あのあの、え、え」  
「ずいぶんあちこちゆがんでるだろ?手芸店の人は、キットが揃ってるから難しくありませんよって言ったんだけどね」  
「え、え、え。あのあの、これは、でしたらこれはあの」  
「うん。ぼくが作った。指を何回も縫い針でつついちゃったよ」  
「え!」  
広げて見せた手を、小雪が両手で包み込んだ。  
「そんなそんな、小雪なぞのために、お手を…」  
縫い針でつついただけで赤くなるほどの怪我すらしないのに、小雪はぼくの手を離さなかった。  
「どう?少しは喜んでくれたかな。これでも一生懸命考えたつもりなんだけど」  
母に頼んで大きな雛飾りを用意してもらうこともできたかもしれないけど、ぼくはぼくだけで小雪のためになにかしたかった。  
ものすごく不恰好で、あちこちゆがんでいるけど、ぼくが小雪に見つからないよう、学校やカフェで少しずつ作ったものだ。  
小雪に握られた手が、ぽっと暖かくなった。  
「小雪?」  
小雪が、ぼくの手にぽたぽたを涙を落としている。  
「と、とんで…もな…あの、あの、あ、あり…」  
ぼくは、小雪をぎゅっとした。  
「こらこら、泣くことないじゃないか。誕生日は始まったばかりだよ」  
小雪に泣かれることに過敏になっているせいか、ぼくのほうがあたふたしてしまった。  
「う、う…、はい、は…」  
ぼくが忙しくて小雪の誕生日をすっかり忘れてしまっていると思っていたらしく、小雪はしゃくりあげ始めてしまった。  
「ああ、もう。また小雪を泣かせてしまったじゃないか。ほら、いつまでも泣いてるとカッパになるよ」  
頭を撫でてやると、小雪は一生懸命涙を飲み込んだ。  
よほどカッパになるのがイヤらしい。  
 
一緒にお風呂に入ってから、ぼくは小雪に自分のパジャマを着せて、ベッドに入った。  
「で、今日の予定なんだけどね」  
「は、はい…?」  
「今日は、日付の変わるのを待ってたから小雪はちょっと眠いだろう?少しだけ朝寝坊して、それから出かけよう」  
暗がりの中で、小雪がちょっと首をかしげる。  
「お出かけでございますか?」  
「うん。前に、ディズニーランドに行ったことがないって言ってただろ?行こうよ」  
「え、え、え!」  
ぼくの腕の中で、小雪がぱたぱたする。  
「ほ、ほんとうでございますか?あの、ほんとうに、小雪をディスニーランドにお連れ下さるのでしょうか?」  
「うん、そのつもりだけど。あ、ディズニーシーのほうがいいならそっちでもいいよ」  
「い、いえいえ、あの、あの」  
ベッドの中で小雪が小さく暴れている。  
なんだろう、ディズニーランドはイヤなんだろうか。  
ネズミ恐怖症?  
 
しばらくぱたぱたしてから、小雪は大きく息をついた。  
「ゆ、夢のようでございます。小雪は、ずっと、ずっと、一度でいいから行ってみとうございました…。メイドの間でも、ほとんどの者が行ったことがあると申しまして、それはそれは素敵で楽しくて、夢の国だと口を揃えて」  
なんだ。  
ぼくはほっとして、少し興奮気味の小雪の背中を撫でた。  
 
「あそこはいつ行っても混んでると思うけどね。小雪とおしゃべりしてたら、乗り物の待ち時間も苦にならないと思うんだ」  
「の、乗り物にも、乗れるのでございますか…」  
「当たり前じゃないか」  
ぼくが笑うと、小雪は恥ずかしそうに丸くなった。  
「乗り物だけじゃないよ、パレードを見たり、ご飯を食べたり、ミッキーと写真を撮ったりしようよ。まず最初にあの耳の形になった帽子を買ってかぶろう。アトラクションはいっぱいあるから、すっごく歩き回らなきゃいけないんだよ」  
「パレードでございますか……」  
メイドたちからいろいろ聞かされているのだろう、小雪がうっとりした声をでつぶやいた。  
「でも、あんまり疲れちゃいけないよ。帰ってきてからも、いいことするんだからね」  
つんつん、と胸をつついたのに、小雪はもう気分はディズニーランドらしく、気づかない。  
そんなに憧れていたのなら、もっと早く連れて行ってやればよかった。  
予定のない休みの日に、私服に着替えさせてちょっとドライブしたり郊外のショッピングモールに出かけたりすることはあったけど、ちゃんとした遊園地やテーマパークに行ったことはなかったな。  
「さ、おやすみ」  
額にちゅっとキスをして言うと、小雪ははい、と素直に頷いた。  
「でも、でも小雪は、とてもとても、朝寝坊はできそうもございません…」  
 
朝、目が覚めると小雪はもうベッドにいなかった。  
ぼくが起き上がると、とっくにメイドの制服に着替えた小雪が、少し慌しくぼくに着替えをさせ、もの言いたげに見つめてくる。  
こんな小雪を見るのは初めてで、ぼくもちょっと小雪の興奮が伝染してきた。  
「うん、じゃあ小雪も着替えておいで、朝ごはんは途中で食べることにして、もう出かけよう」  
飛び跳ねるように小雪が出て行く。  
車に乗り込んだ小雪を見ると、セーターの胸元でようやく外に出してもらえた羽のついた雪の結晶がきらきらしていた。  
ぼくらは、目的地につくまでにすっかり気分を高揚させていた。  
 
ディズニーランドにつくと、あまりの広さと人の多さで迷子になりそうですとしっかりぼくの手を握り締めた小雪に、まずミニーマウスのカチューシャをかぶせた。  
一緒がいいと小雪が言うので、ぼくもミッキーの帽子をかぶった。  
知っている人に会わなければいいなとは思いながら、誰かに小雪を見せびらかしたくもあった。  
飲み物を買って、アトラクションをめぐって、ドーナツを食べて、ショーとパレードを見て、ミッキーの形になったパンケーキのランチを食べて、ドナルドと写真を撮った。  
小雪は最初から最後まで笑顔で、飛び跳ねて、そしてぼくの手を離さなかった。  
おでかけはメイドたちに内緒だからとお土産は買わなかったが、ぼくは小雪にプーさんのぬいぐるみと、ネックレスをしまうのにちょうどいいシンデレラの小物入れを買った。  
驚いたことに、小雪も小さな財布を出して、ぼくにミッキーの型押しのある革のストラップを買ってくれ、ぼくはその場でそれを携帯電話につけた。  
ストラップは、ぼくのイニシャルの形になっていた。  
初めて小雪が、ぼくにくれた形のあるもの。  
ネックレスをもらったときの小雪よりも、ぼくは喜んだかもしれない。  
メイドが主人になにか贈るなど、おこがましいと言われかねず、実際ぼくらは使用人から何か受け取ったことなどなかった。  
使用人が主人に贈るのはその忠誠心と労働だけだ、と教えられていたからだ。  
その禁を破ってまで、小雪がおずおずと差し出したストラップを、ぼくはアトラクションの待ち時間も食事の間も、飽きずに眺めていた。  
これで、家にいないときも小雪と一緒だね、というと、小雪はディズニーランドの人ごみの中で、頬を染めた。  
 
帰りの車の中でも小雪は嬉しそうで、想像していたよりずっとずっと素晴らしかったと夢見心地だった。  
「一日中歩きっぱなしだったろう。疲れなかったかい?」  
「いえいえいえ、あの、メイドは体力勝負のお仕事でございますし、それにとてもとても楽しゅうございまして、あの」  
「うん、ぼくも楽しかった。回りきれなかったアトラクションはまた次に来ようね」  
ぱっと笑顔になった小雪の、嬉しそうなことかわいいこと。  
小雪はちょっとうつむいて、ぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。  
ぼくは、ちょっとだけプーさんにやきもちを焼いた。  
「……で、でも、あの。小雪はほんとうに楽しませていただきました…。一生、忘れられない思い出を、いただきました…」  
「そんなに忘れられない思い出をいっぱい抱え込んだら、そのうち小雪の頭がぼんってなっちゃうんじゃないかな」  
次も、また次も、小雪にたくさん楽しい思い出を作ってやりたくて、ぼくは上機嫌で言った。  
だから、うつむいた小雪がどんな顔をしているかに気づかなかった。  
その日、少しの間も離さずにぼくの手を握っている小雪を、ただ迷子になるのが怖いのだと思っていた。  
でも小雪は、ほんとうに手を離したらぼくがいなくなってしまうようで怖かったのかもしれなかったのだ。  
笑ったり歓声を上げたり、屋敷の中では決して見ることのできないほどはしゃいでいる小雪を、憧れの場所に来た開放感から来るものだと単純に考えてしまったのだ。  
 
屋敷に帰り着いてから、小雪は他の使用人たちに見つからないようにと、プーさんを抱きかかえて小走りに自分の部屋に戻った。  
小雪が大急ぎでメイドの制服に着替えてぼくの部屋に来たとき、ぼくはソファに座って目の前に携帯電話を掲げていた。  
電話中だと思ったのか、音を立てないようにそっと歩いているのに気づいて、ぼくは小雪に笑いかける。  
「ストラップを見ていたんだよ。嬉しいからね」  
小雪がうつむく。  
「そんな…あの、ほんとうに、つまらない、ものでございますのに…」  
「ぼくは小雪がくれたんなら、ドーナツの包み紙でも嬉しいよ」  
本心だった。  
膝を叩いて座らせ、急いで結い上げたらしい小雪の髪に鼻をうずめた。  
「ディズニーランドの匂いがするよ」  
小雪は、恥ずかしそうに小さくなる。  
「そ、そうでございましょうか…」  
「うん。太陽と、水と、パンケーキの匂いかな」  
「あの…。パンケーキは…とても、とてもおいしゅうございました。あの、形がこう、ミッキーマウスになっておりましたでしょう?どこからいただいてもかわいそうで、あの」  
ぼくがぷっと笑うと、小雪もちょっと笑った。  
「あの、でも、ほんとうに、あの、ドーナツも、アイスキャンディーも、全部ミッキーでございました」  
「うん、そうだね。どれも、なかなか小雪が食べないからどうしたのかと思ってたんだよ」  
「は、はい…、あの、あの」  
「小雪の、そういうとこがいいよね」  
 
ぼんっ。  
 
小雪がパンクしたので、ぼくはそっと小雪の頭を撫でた。  
ぼくらが座っているソファの横には、ぼくの作った小さな雛飾りがある。  
明日には片付けないといけないんだよ、お嫁に行くのが遅くなるからねと言うと、小雪はちょっと残念そうな顔をした。  
「小雪は、そんな…」  
「でも、来年も飾れるよ。小雪がいやじゃなければね」  
「い、いやだなんて、とんでもございません、あの、ずっと、ずっと飾らせていただきとう存じます」  
「ずっとじゃないよ、お嫁に行くまででいいんだよ」  
ぼくが笑って言うと、小雪は小さな小さな声で、聞き取れないほどの返事をした。  
「さてと。誕生日はまだ終わりじゃないよ」  
きょとんとした小雪のほっぺたを、つんつんとつついた。  
「疲れているところを悪いけれど、お風呂を入れてくれるかい?今日をめいっぱい、いいことで過ごそうね」  
「え、え、あの、あの、え」  
膝の上でぱたぱたした小雪の耳元に息を吹きかけるように言った。  
「今日のうちは、眠らせないからね。メイドは体力勝負の仕事なんだろう?」  
 
ぷしゅ。  
 
小雪の頭のてっぺんから蒸気が噴出した気がした。  
 
ぼくは小雪にまたミニーマウスのカチューシャを付けさせた。  
ベッドの上に座り込んで、ミニーの耳だけを付けた小雪が、頬を赤らめる。  
「あ、あの、あの」  
今まで何度も見ているのに、まだぼくから隠そうと両腕で胸を抱えるようにしていた。  
「なに?」  
「あの、ディ、ディズニーランドでは、ちっとも気になりませんでしたのですけれど、あの」  
「うん」  
「こ、ここで、これを付けますのは、あの、なぜでございましょう、とても、あの、変な気がいたしますのですけれども」  
「そう?だってネズミは服を着ていないよ。裸で耳っていうのもいいんじゃないかな」  
「で、でもでも、あの、ミニーマウスは服を着ておりましたけれど、あん」  
向かい合って座っている小雪の腰に手を回して引き寄せた。  
「裸の小雪はずいぶん見てきたけど、そのカチューシャをつけてるだけでぼくも変な気分になるな」  
「そ、そ、そうでございますか?やはり、似合いませんでしょうか」  
両手でカチューシャを外そうとするのを、押さえた。  
「だめ。そのまま」  
「え、あ、あのあの」  
小雪をころんとベッドに転がす。  
「ミニーマウスにちゅーしてもらおうかな」  
「ちゅ、ちゅ、ちゅーでございますか」  
「そう。ミニーはちゅーって言うんじゃない?」  
「そ、そうでございましょうか、あの、小雪はあまり聞いたことが、あ」  
つい、待ちきれずに自分からちゅーしてしまった。  
「ん、はぁ…」  
唇を離すと、呼吸を忘れていたかのように、小雪が息を吐いた。  
「ミッキーが嫉妬するね」  
小雪がぷるぷると首を振った。  
またカチューシャを取ろうとする。  
「あ、あの、あの、こっ、小雪は、ミニーではございませんので、あのっ」  
上手く外れないカチューシャをあきらめて、ぼくに抱きつくようにして身体を起こす。  
「あの…、ですからあの、ミッキーではなくて、あの」  
「ぼくがいいのかい?」  
小雪が、自分からぼくにぎゅっとしてきた。  
カチューシャの耳が、ぼくの顎に当たった。  
「……はい」  
 
顔を上げさせると、小雪がお尻を持ち上げるように伸びをして、ぼくにちゅーをしてくれた。  
軽く触れるだけの、キス。  
背中をお尻のほうまで手で撫で下ろし、そのままむにゅっとつかむ。  
「んきゃ…」  
さて、今日はどうしようかな。  
「ね、小雪」  
「は、はい?」  
「どこ触って欲しい?」  
「はははははは、はいっ?」  
「小雪が言わないと、触らないよ」  
両手を横に広げると、ぼくの脚の間に座り込んだ小雪が取り残される。  
「あ、あの、あのっ」  
「ほら、どうする?」  
耳まで真っ赤にして、小雪が小さくなる。  
ぼくが小雪に触れないので、居場所がないらしく、もじもじしている。  
あんまりそのままでいられても、ぼくの方でがまんできずに小雪を抱きしめてしまいそうだ。  
「こーゆーき?」  
触らないよ、と言ったそばから小雪の頭に手を乗せてしまった。  
カチューシャのすき間から撫で撫でする。  
 
「言わないと、カッパだよ」  
すると、小雪はぷんっとほっぺたを膨らませた。  
「おや?」  
ほっぺたをつまむ。  
「まだここにパンケーキが入ってるのかい?」  
ほっぺたがしぼんで、今度は唇がとがる。  
「…なおゆきさまの、いじわる……」  
ほっぺたをつまんだ指で顎を上げさせると、小雪が目を潤ませていた。  
「ん?ぼくが?どうしていじわるなんだ?」  
「……」  
「おっかしいな、せっかくの小雪の誕生日じゃないか。ぼくがいじわるなんかするわけないだろ」  
小雪が頭と顎を挟んでいるぼくの手から逃げるように首を振った。  
「ね?小雪ってば」  
今度はほっぺたを両側から手で包み込んだ。  
「言ってごらん。どうして欲しいの?」  
ほんとに、泣き出しそうな顔になる。  
「そ、それ、それは、あの、め、命令でございますか」  
その手があった。  
「そう、命令だよ。小雪はぼくにどこを触ってもらったら気持ちいいのか、言いなさい」  
「あ、あの、あの…あ」  
ぼんっ。  
小雪の背中から力が抜けたように、くたっとぼくの腕の中に崩れてきた。  
「しょうがないな。じゃあ、ぼくが自分で探すよ、小雪の気持ちいいとこ」  
腕の中に抱きなおして、小雪のぽこんと浮き出た細い鎖骨にキスした。  
「ここ?」  
手で下から乳房をぷるん、と揺らす。  
「こっち?」  
そのまま乳首をはずして揉みしだくと、小雪がほうっと息をついた。  
「ここ、いいんだ」  
はむっと乳首を咥えこんで舌でつつくと、じれったそうに身をよじる。  
反対の乳首も指でつまんでこねまわし、引っ張る。  
「い…」  
「ああ、ごめん。これは痛いんだね。ね、こっちはいい?」  
小雪のか細い身体がそりかえり、ぼくはそっとベッドの上に倒してやった。  
「もう身体起こしてるのも辛いの?小雪はすぐに気持ちよくなっちゃうんだね」  
「そ、そんな…それは」  
「ん?それは、なに?誰のせい?」  
小雪が潤んだ目でぼくを見てくる。  
もうたまらず、ぼくは小雪に覆いかぶさった。  
「降参。ぼくの負け」  
「…ひゃ、ひゃい?」  
小雪の唇を押し割って、舌を吸う。  
おっぱいの形が変わるほど握ったり揉んだり、乳首もつんとしてくるまでこりこりとこねる。  
時々ぴくんとするお腹に刻まれたお臍の溝も舐めたり、腰骨や太ももの方まで舌を這わせ、脚を交互に持ち上げて柔らかい膝の裏とかふくらはぎとか小さな爪のついた足の指まで、舐めつくした。  
小雪はところどころで身体を震わせたり、小さな声を上げたりして、ぼくに気持ちのいいところを教えてくれた。  
次第に、小雪が脚を閉じてぼくから逃げようとしだした。  
「どうしたの、小雪?」  
わざと聞いてみる。  
「ん、あ…、の」  
小雪が手を伸ばして、ぼくのペニスに触れようとする。  
触ってもらわなくても、もう充分なくらいになっているんだけど。  
小雪にやわやわと握られただけで、暴発しそうになった。  
手の中で、というのも悪くないけどもったいない。  
「ん、いいよ小雪。こっち…」  
すり合わせるようにしていた小雪の脚を開く。  
「こっちがいいから…、まず最初に」  
「さ、最初でございますか…」  
「うん、だっていっぱいするって言っただろ?」  
 
ベッドサイドから個包装を取り出して袋を破る。  
「そうだ、小雪にしてもらおうかな。ね、つけて」  
「…え、え、え」  
脚を開いたまま腕を引っ張られて起き上がった小雪は、ぼくの腰を脚で挟む格好になる。  
目の前に屹立したものを突きつけられ、手にコンドームを渡されて、困ったような顔になった。  
「こっち側が表だから。先っぽに当てて。うん、そう。くるくるって」  
小雪のぎこちない手つきが、またいい。  
「はい、完了。上手にできたね」  
「…あ、あの、こっ、これは、あの」  
「コンドーム。いつも使ってるだろ?」  
「い、いえ、あの、そ、それはあの、存じておりま、すのですけれどあの」  
恐る恐るといったように触れてみる。  
「あの、い、痛くはございませんのでしょうか、あの、すごく、ぴったりですけれども」  
どんどん真っ赤になりながら、小雪がうつむき、膝を引き寄せるようにして自分の脚を閉じる。  
その膝に手をかけて開かせると、小雪はころんところがった。  
「きゃ…」  
開いたそこをちょっと舐めてみる。  
もうぐっしょりだった。  
「だって、小雪のここのほうがもっとぴったりで、ぎゅうぎゅう締めてくるんだよ。知らなかった?」  
ちょっとだけ舌の先でクリトリスをつついてみる。  
「んあ、やぁん…」  
じゅくっとあふれてきて、ぼくはもうこらえきれずに身体を起こした。  
「まず最初、だからね」  
押し当てて、くちゅくちゅする。  
「こら、返事は?」  
小雪は両手で顔を覆ってしまった。  
「……は、はい…」  
腰を進めると、いつものように押し返してくる。  
狭くて、硬くて、でも熱くて、奥で絡み付いてくる。  
「こゆき…ね、ここ…きもちいい?」  
かき回すように動いて、聞いてみた。  
「ん…、んっ…あ、の、は…は、い…」  
「そうか…、ぼくも…、いい」  
ゆっくり動き出す。  
「今、小雪も、ぼくも、気持ちいいんだね、ね?」  
中の壁を擦るように抜き挿しすると、小雪がなまめかしい声を上げた。  
「いっしょに、きもちいいんだ…、すごく、嬉しいよ」  
片脚をかかえあげるようにして、速度を上げた。  
「んあ、あ、うんっ…」  
小雪が泣きそうな顔になる。  
とにかく一度、と思ったけど、小雪をイかせたくなった。  
角度と体位を変えながら、小雪を焦らす。  
「ひぁっ!」  
いいところに当たったようで、小雪が跳ねた。  
「ここ?」  
そこを集中的に突いていると、声が上がらなくなり、ぴくんと背をそらして小雪がぎゅっと目を閉じた。  
中がひくひくと痙攣して締め付けてくる。  
ぼくもフィニッシュに向けて、小雪を仰向けにして腰を抱え込み、激しく腰を打ちつけた。  
「い、やあ、あ!やっ!もう、も、あ!!」  
小雪がぱたぱたと暴れたが、もう余裕がない。  
ぼくは思わず短くうめきながら小雪の奥深くに押し込むようにして、ゴムの中に射精した。  
長い放出が終わって、いきなりちょっと息が上がった。  
……すごく、興奮した。  
抜くときに、ぬるっと小雪の愛液が流れ出る。  
見ると、小雪が泣いていた。  
 
「小雪?どうした?」  
慌てて顔を覗き込む。  
「ごめん、なにか辛かった?小雪?」  
言葉もなく、ひっく、としゃくりあげる。  
しまった、ベッドで泣かせたいのはこういうことじゃないのに。  
「ごめんごめん、ぼくが悪かった。あんまり小雪がかわいくて気持ちよかったから、つい強くしちゃったのかもしれない」  
抱きしめて謝ると、小雪が首を横に振った。  
「い、いえ、あの、そ、そう、ではご、ざいませ…あの」  
ぐすん、と鼻を鳴らす。  
「あの、こ、小雪もあの、とても、あの、きっ、き…あの」  
「気持ちよかった?」  
小雪が恥ずかしくて口にできないだろうことを、代わりに言ってやる。  
「は、はい、あの、でも、あの」  
落ち着かせるために、ぎゅっと抱きしめて背中を撫でる。  
「うん、どうしたの」  
「あ、あの、すごく、あの、ぐーんってなりまして、あ…」  
その表現が小雪らしくて、ぼくは声を立てないように笑った。  
「ぐーんってなって、イっちゃったんだ?」  
小雪が、ぼくの胸の中で小さく頷いた。  
「そ、そのあとが、あの」  
そうか。  
イった後で敏感になってるところをぼくが激しくしたのがいけなかったんだろう。  
「わかった、ごめん。今度はもっとタイミング合わせるから。痛かった?」  
「い、いえ、そういうのでは、あの」  
ぼくは恥ずかしさでぱたぱたする小雪の頭に、ちゅっとキスをした。  
「だって、まだまだいっぱいするんだからね」  
 
ぼんっ。  
 
お誕生日、おめでとう小雪。  
 
来年も、再来年も、きっと……。  
 
 
――――了――――  
 
 

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