ヒゲの男は一定空間内の重力を操作する能力を持っている。  
まともに戦えば太刀打ちできる相手ではないのだろうが、  
お互いの姿が闇に隠れているこの状況においては  
条件は五分五分と見た。  
 
闇の中から、どこからでも感じ取れるほどに強い殺意は  
逆に私にヒゲの男の位置を教えてくれている。  
冷えた汗がほおを伝わる。  
私は床を蹴った。  
その殺意の大元を断ち切らんとばかりに  
稲妻のような勢いをもった太刀筋を放った。  
「やあ!」  
ガッ!  
「!」  
確かな命中音。しかし。  
「そうくると………おもってたぜ」  
止められている。  
読まれていた。  
私の一撃は男の腕によって完全にガードされていた。  
「非力なオマエなら…絶対…一撃目に頭を狙ってくるとおもってたぜ」  
戦慄が走る。  
マズイ。早くこの場から飛びのかなくては。  
「もう遅い」  
私の方にゆっくりと添えられる手。  
闇の中で男の眼光が赤く光る。  
ズシンっ!  
「あっ!!」  
私の体は地面に押し付けられた。  
 
「捕らえたぜっ!!」  
「あっ……あああっ!」  
「このまま内臓がブチ撒けるほどにブッ潰してやるぜっ!」  
男の眼光が光ると、さらに重みをましていく体。  
ベキベキベキ。ミシミシ。  
「あっ……あーーーーっ!!」  
抵抗できないまま私の体は床に埋もれていく…。  
空気そのものまで重さをもって私の体を押しつぶしていく。  
こんな冷たい床が私の墓標になるなんていやだ…いやだぁ。  
「お姉ちゃんにひどいことするのはやめろっ!」  
ブシャアア!  
「………ん!うおっ!!げぶっ!!」  
私を助けようと横から飛んできた水の奔流。  
それは、人が操作する可搬式の消火器具で  
水やその他の消火剤を圧力により放射して初期消火を行うもの…  
消火器による攻撃だった。  
横腹に直撃を受けたヒゲの男は豪快に吹き飛び、そのまま壁に押しつぶされる。  
マヤは攻撃の手を緩めない。  
「テメェらっ!俺にこんなことして…がぼっげぶぅ…げぼおおおお」  
水圧に押され、全く身動きできないヒゲの男。  
マヤが叫んだ。  
「今よ!お姉ちゃん!」  
「ナイスよ!マヤっ!」  
傷だらけの体をつき動かす。  
もう一度鉄パイプを握り締め、  
全力で床を駆け、ヒゲの男を倒すことだけを集中して、飛ぶ。  
落ちる勢いを利用して。全体重をこめた渾身の一撃をその脳天に打ち込んだ。  
 
ガツウウン!!  
響き渡る効果音。  
確かな手ごたえ。  
息をのむ一瞬。  
私の一撃を受けたヒゲの男の体は……!?  
ドジャッ!  
ついに床に倒れた。  
「ハァハァ……………」  
足でつんつんと頭を触る。  
微動だにしないヒゲの男。  
それは男の意識が完全に途絶えた証だった。  
「や、やったーーーっ!」  
「やったーーーっ!お姉ちゃぁん!!」  
諸手を上げて喜ぶ私。  
その喜びはマヤも同じだった。  
 
勝利の快感に酔いしれ  
私達はただひたすら喜んだ。  
 
私達姉妹は、男達に6人を倒したのだ。  
嘘みたいに信じられないことだが本当だ。  
「やったー。やったーー」  
嬉しくて何度も飛び跳ねる私。  
「まっ、私達姉妹をなめてるからこうなるのよね。マヤ?」  
「うん。お姉ちゃん」  
すっかり痛みも忘れて余りにも無邪気に飛び跳ねる私達。  
ムニュ。  
「えっ…」  
後ろから回ってきた手。  
予期しないできごとに一瞬かたまる私。  
もみもみ  
「い…いやああああっ」  
闇から現れた手は私の胸に添えられている。  
「えへへ。アヤちゃんのおっぱい」  
男の手の動きにあわせて形を変えていく私の胸。  
「や、やああぁぁん…」  
手にもっていた鉄の棒で即座に男の頭を叩き割った。  
「はふぅ…」  
恍惚とした表情のまま、もう一度床に崩れる男。  
「な………こ…こいつ…さっき倒したやつじゃない」  
「お…お姉ちゃん………見てっ!」  
マヤが怯えている。  
我が目を疑った。  
倒したはずの男達が、ゆっくりと起き上がってきている。  
「このアマ共…」  
「手加減してたらずいぶんやってくれんじゃねぇか」  
「ひっ…」  
「さっき押しつぶされたヤツ等も起きあがってきてるよぉ…」  
その姿は、さながらゾンビのようだ。  
勝ったと思ったのは一瞬。  
私達の戦いはまだ何も終わっていなかった。  
 
「うううっ…ちゃんと止めを刺さないとすぐに息を吹き返しちゃうのね………」  
「ど…どうしよぅ…」  
「こ、こうなったらあのドアを壊して逃げましょう」  
鉄パイプで全力でドアを殴りつける。  
じ〜〜〜ん。  
だが、しびれたのは腕の方だった。  
「やめとけ!超特性の防音ドアだ。  
 コンクリ壁よりも硬いし、ロケットランチャーでも壊せねェ。  
 それを壊して逃げるのは不可能だぜ」  
「はっ!!」  
既に息を吹き返した男達。  
その中にはヒゲの男も混じっている。  
今更ながら我が身の非力さを呪った。  
天国から一気に魔界へ。  
ゆっくりと私達を囲むようにおいつめてくる男達。  
「こ、こうなったらゲリラ戦だっ!!」  
テーブルの上のケーキを投げつける。  
「ブッ!」  
コントのようにヒゲの男の顔に直撃。  
「いくわよっ!マヤ!」  
「うんお姉ちゃん!!」  
 
暗闇の中。ヤケクソ気味の戦いが始まった。  
 
「ハァハァ…ゼィゼィ…」  
ドシャンッ!  
ガシャン!!  
「このぉ!」  
ドガ!  
「やああ!」  
バキッ!ドジャッ!グシャ!  
ドガッ、ベキ!  
ミシッ!クチュクチュ!  
 
「ーーーー!」  
「…!!」  
「!」  
 
………。  
 
 
抵抗し、  
抵抗し続けて。  
ありとあらゆる抵抗を続けた。  
おもいつく限りの全てことは行った。  
それでも………。  
やはり、可弱い2人の女の子がこの場を切り抜けるのは初めから不可能だったのだろう。  
倒しても倒しても次々と息を吹き返していく男達を前に、  
私達の体力も限界に近づいていた。  
 
砕けたテーブル、割れたグラス、壊れた機材、  
男達の用意した高そうなカメラやライト等の設備も、  
今ではすでに瓦礫の一部だ。  
むちゃくちゃに散乱されたその様が  
ここがどれほど悲惨な戦場なのかを物語っていた。  
 
私達は最後の最後まで抵抗を続けが………。  
とうとう全ての力を使い果たし、  
床に倒され、  
男達に取り囲れてしまった。  
 
怒りと憎悪に満ちた視線が私達に投げつけられる………。  
「おいおい…ずいぶんとまぁ、手ェやかせてくれたじゃねーか」  
それは恐ろしいまでの声色。  
ガクガクと涙を流しながら子ウサギのように身を震わせる私達。  
ヒゲの男の眼光が赤く光る。  
ズシンッ!  
「うあああああっ!」  
「やああああああああ!」  
私達の体ごとおしつぶしてしまうほどの超重力が襲ってきた。  
「……あああっ………………」  
「…苦……しい…よぉぉぉ…」  
骨が軋む。  
ブチブチッと肉が断裂する。  
体中の毛細血管が破裂する。  
内臓が圧迫され、口から血を吐き出す。  
だが、それでも男は微塵も力を緩めようとはしてくれない。  
「おらおらおらっ!この芋虫どもがっ!!」  
「あ〜あ〜。やってくれるぜ、まったくよぉ…」  
「むっちゃくちゃに暴れやがってよぉ」  
「このおとしまえ、どうつけてくれるんだ…エッ、コラァッ?」  
堕ちゆく意識の中、男達の罵倒の声だけが聞こえていた。  
 
「………あっ!…は…あぅ!」  
「う…!はっ…ああ!」  
ギシギリギシ!  
ギリギリギリギリ!  
グギ!ブチブチ!  
徐々に赤色に染まっていく私達。  
世界がだんだん遠のいて、  
男達の笑い声だけが聴こえてきて。  
今度という今度こそ…もうダメだ。  
私達がそう思って、あきらめかけたその瞬間。  
 
―――スライムが飛び跳ねた。  
 
「なっ……うおっ!!」  
ヒゲの男の目にへばりつく。  
「ぎゃ、ぎゃああっ!このクソスライムっ!な、な…なにしやがるっ!!」  
じゅうう。と溶けていくような効果音。  
それがきっかけで私達が超重力から解放される。  
もっとも完膚なきまで打ちのめされた体は、  
すでに立ち上がるだけの力は残されてはいない。  
唯一残された意識で前を見据える。  
(ス…スライムさん?)  
 
「ボ…ボスッ!」  
「ちっ!くそっ!スライムがぁ…この俺を誰だとおもって…うっ…ぐおおおっ」  
スライムをとって、床に叩きつける。  
「ボスッ!大丈夫ですかボスッ!」  
「ハァハァハァl……こ、この単……細胞…生物が……っ!  
 創造主である…俺に…逆らう……とは…………ゆ……」  
怒りの矛先をスライムに向ける。  
恐ろしい予感が脳裏をよぎった。  
「や、やめてェーーーっ!!」  
咄嗟に私達は叫んでいた。  
だが届かないっ。  
男の力が放たれ、  
ブチッ!ブチッ!!ブチュルルルル!パァアアーーーーン!!  
力をうけたスライムの体は、散弾するように飛び散った。  
「あっ………ああっ!」  
スライムだったものは光のような粒となって部屋中に飛び散った。  
私の上にも降りかかってくるその体は…余りにも小さく…冷たい………。  
「スライム………さん…」  
「うっ……ぐすっ…」  
涙が溢れた。  
「おいおい。何、泣いてんだよ」  
「所詮ただの単細胞生物だろうに」  
「察してやれよ。なにせ初めてのお相手なんだからな」  
「あっ、そうゆうことか…………アハハハハ」  
男達の笑いに私達はギリッっと奥歯を噛んだ。  
 
「なんで、殺した」  
「そうだっ!スライムさんだって生きているんだぞっ!」  
涙まじりに叫ぶ私達。  
それをあざ笑うヒゲの男。  
「それがどうかしたのかYO♥所詮は俺が創ったものなんだぜ」  
「だったら…オマエはお父さんじゃないか…それなのに…自分の子供をあんなに簡単にっ!」  
「父などではない。俺はヒゲ。ヒゲの男だ!」  
「こ…こいつ………」  
ここまで誰かを許せないと思ったのは初めてだった。  
満身創痍のはずの体に力がみなぎってくる。  
「そんなことよりも…………  
 自分の体のほうを心配をするんだな。  
 高ぇカメラ何台もぶっこわしやがって。  
 この落とし前、テメェの体で払ってもらうからな。  
 ………生出し可で1時間5万………。  
 マンコが使い物にならなくなるまで働いてもらうからよぉ」  
「でも…ボスその前に」  
「ああっ。まずは俺達の手で後悔させてやらなくちゃあな」  
「ヘヘヘ。それじゃあ肉便器にして可愛がってやるぜゲヘヘヘヘっ」  
「許せない………」  
ゴゴゴ(効果音)  
「ん?」  
「な…なんだ?」  
「もうっ私達…本気で怒ったんだからっ!!」  
 
「な…なんだこの光はっ…」  
淡く発行する私達の体。  
私達はこの時内から湧き上がってくる何かを感じていた。  
「お姉ちゃんっ!」  
「うん。やるわよマヤっ!」  
ガシッっ、私の腕とマヤの腕をあわせる。  
力がみなぎってくる。  
私達から発せられる何かに、恐れ、おののく男達。  
「な…なんだ…♥  
 こいつらから感じる、こ、このすさまじいオーラの光は………。  
 ボロボロのはずのやつらから感じるこの威圧感…いったい………?  
 ま…まさかやつらも…超能…ッ!」  
「はぁーーーーーーっ!!!」  
「い、いかんっ!よくわからんがくらえっ!」  
今一度超重力に閉じ込めようとするヒゲ男。  
「ま、まって下さいっボスッ」  
「こ…これはっ!?」  
「足ッ…足元っっ!!」  
 
ボコッ  
 ボコッ  
 
「な…なにぃぃぃぃぃ!」  
バラバラに飛び散ったスライム共が再生していく。  
小さな……ミジンコのように小さくなった一つ一つのスライムの細胞が  
自己分裂、自己増殖を続けて元の形に戻り始めていた。  
 
「…うわあああああ!」  
男達の足元は復活したスライム達でひしめいていた。  
「うわぁあああ!足元からはい登ってくるっ!」  
「ぬるぬるっ…ぬるぬるいやぁ」(丸文字)  
「ひ……ひいいっ…はひいいっ!」  
部屋中どこを見回してもスライム、スライム、スライム。  
「はっ!!」  
ヒゲの男が振り返る。  
そこには、両手を合わせながら仁王立ちする私達の姿があった。  
「まさかっ!これがキサマたちの能りょッ…」  
「いっけーーっ!やっつけちゃえっ!スライムっ!!」  
私達の号令と共にスライムたちが一斉に襲い掛かった。  
「うわぁあああ!」  
「ぎゃ、ぎゃあああ、チンポに張り付いて…」  
「せ…精を…精を貪られる………は、はふぅ」  
次々と尽き果てていく男達。  
「ちいい!小ざかしいスライム共めっ。  
 造物主にしてメイオウであるこの俺に逆らうとは…。  
 消えろっ!重力操作最大出力!」  
ブチッ!ブチッ!  
男が両手を重ねると周りのスライム達、全てが粉々になった。  
 
「ククク…どうだ………この単細胞共がっ………って増えた!?」  
バラバラになったスライムたちが再び自己再生を続けていく。  
あっというまに元の姿に戻る。  
「な…なっ…」  
なんと、スライム達が集まっていく。  
「な………が…合体していくっ…ひ…ひぃぃ」  
キングスライムとなったスライム達は  
巨大な波になってヒゲの男に襲い掛かるのだった。  
「う、うわあああああ!」  
男達はスライムの波に飲みこまれた。  
 
「やったぁ!」  
「って…お姉ちゃん。スライムさんの波がこっちにもぉぉ!」  
「…エっ?…あ!」  
「きゃ、きゃああああああああ!」  
ザッバーーンッ。  
 
「あ…あううう……や、やめろこの単細胞…………せ…精がっ……奪われ……ああああ」  
「はうぅ………」  
「もう、それ以上だせませんっ…は…ひゃあああ」  
ヒゲの男、他、男達はスライムの海に漂いながら  
ありあまる精、および体中の体液を全てを吸い取られた。  
 
………。  
 
全てが終わると  
キングスライムは縮小を繰り返し、  
もとの小さな姿に戻った。  
 
床には、機能不全になるまでに  
吸い取られた男達が散らばっていた。  
 
…さて…私達は。  
 
「あっ……ああん………」  
「あ、あふぅ…お姉ちゃあん…なんなのぉこれぇ…くらくらするぅ…」  
すっかり全身に媚薬にあてられた私達は完全に火照ってしまっていた。  
「おねえちゃぁん…  
 わたし…なんか…からだが…すんごくあつくて…  
 ヘンだよぉ…びょうきかなぁ…」  
「まやぁ…それはね…ほてってるんだよぉ…」  
「ほてってるぅ…♥」  
「まやのからだが、ほかのひとのからだをほしがってるのよ」  
見詰め合う瞳と瞳。  
「まやぁ…」  
「おねえちゃあん」  
私達の考えは合致。  
とりあえず…この火照った体を鎮めることにした…。  
 
 
ちゅんちゅん。  
小鳥のさえずる音。  
新しい朝がやってきた。  
 
―――。  
 
「お客様!もう時間ですよっ」  
ガンガンガンッ  
「お客様。空けますよーー」  
ガチャ  
「……………な…なんだこれ」  
目をまるくする店員。  
そこには、カラオケルームなど見る影もなく、  
あるのはただの残骸だった。  
 
「あっ……」  
残骸の上には完全に頭までイカれた男達。  
そして  
 
「あっ…あっ」  
「エヘヘ。またイっちゃったのねマヤ」  
 
        !? 
 
残骸の奥から聴こえてくるあえぎ声。  
「まやぁ…まやぁ♥」  
「ああン。おねえちゃぁん♥」  
クチュリ。クチュリ。  
「ひゃあ!……ああン!…はふぅ。  
 そんなことしたら…ハァハァ…またイッちゃうよぉぉ!」  
「ハァハァ………まや…かわいいよぉ。♥  
 おねえちゃんが…きもちよくして…ハァハァ…して…あげるねぇ」  
「でもぉ…わたしばっかり……きもちよくって…」  
「だいじょうぶだよ……おねえちゃん…だって…は、…ぬれてるんだからぁ  
 …んっ…マヤが気持ちいいと…おねえちゃんも…きもちいいいのぉ…」  
「あン。おねえちゃん♥」  
「ああン。まやぁ♥」  
 
おそるおそる目をむける店員。  
そこにはスライムたちにまみれながら  
濡れた秘所と秘所とをこすり合わせる私達の姿がありました。  
 
「まや。大好き♥」  
「うん。私もだヨぉお姉ちゃん♥」  
 

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