(ああ、どうしよう。)  
 
ここはこんなにも温かいのに、むしろ暑いくらいなのに。  
汗が噴きだして止まらないほどなのに。  
那津子さんときたら、まるで氷のように冷たすぎる。  
意識さえも凍えて反応なんか有りはしない。  
どうしよう!  
暖めたら良いんだろうか。  
 
普通の人間の体温はあたたかい。  
今現在、ここにいる温かくない那津子さんはとても冷たい。  
冷たい彼女は普通ではなく、人間でもないのだろうか。  
そう考える間により冷えていく那津子さん。  
どうしよう・・・!  
人間に戻すには暖めたら良いのか?  
ここには毛布もお湯もストーブもない、どうやって暖める?  
ここには僕しか居ないじゃないか!!  
ああ、どうしたら良い?  
抱き締めれば暖まる?  
 
僕は那津子さんを抱き締めた。  
彼女の体はひやっとしていて、この暑いくらいの気温の中ではとても気持ちが良い。  
しかし彼女にとっては気持ちが良いなんてレベルのもんじゃないだろう。  
このまま冷え続けたら、彼女は死んでしまうんだろうか?  
そういう風に考えると、僕はぞっとして那津子さんから体を離した。  
しかし慌ててまた抱き直す。  
彼女をこのまま冷やし続け、死なせることに罪悪感を感じたから。  
僕のせいで死んでしまってはとても後味が悪いから。  
僕はどこまでも偽善だなあ、と彼女を抱き頭の片隅でそっと思った。  
 
冷える彼女はとてもお世辞には美しいとは言えなかった。  
唇は青く血の色を無くし、肌も日焼けしたときとは異なる黒さだった。  
心が拒絶する、抱き締めるという行為。  
僕が抱き締めたいのは、明るく桃色の肌をし、黒目がちの美しい瞳を持った少女だというのに。  
今ここにいるのは死にゆく女の姿。  
 
 
だが  
 
初めてではないものの、今までの経験では数少ない肌と肌の接触。  
過去に体感した温もりとは異なる肌の感触。  
先程ぞっとした体で、今度は欲求を感じた。  
 
初めて素肌で女に触れた感触は忘れない。  
世の中に、こんなに温かいものがあるのかと思った。  
今までどんなにも感じたことがない、体中で感じる人間の温もり。  
人と人が触れ合うと、その瞬間オキシトシンという神経ペプチド物質が脳内に放出されるらしい。  
それは人と人の結びつきを強くする物質。  
そんな科学的根拠があるならば尚更、抱き締めあうという行為は気持ち良いはずだろう。  
そのときはそんな事を知りもしなかったが、ただ幸せだと感じた瞬間だった。  
 
今僕の脳内にはオキシトシンはあるのだろうか?  
脳を覗ける鏡などないので知ることはできないが、僕は今、気持ち良さを感じている。  
そう、気持ち良いのだ。  
心では拒絶しながら、体では求めている。  
体は正直だな、との台詞の使い回しは下らないがまさにその通りである。  
薄情な僕の身体は、意識の無い彼女と交わることを望んでいる。  
そうしたら僕はきっと胎の中に僕を放つだろう。  
 
彼女は喜んで受胎してくれるだろうか?  
僕の児を孕んでくれるだろうか?  
そんな事を考えながら冷えていく  
朦朧とす る  
 
 
途 切  れ  る 意  識  
 

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