私たちの生活は、3年前のあの日に一変した。
町を襲った大津波。
1人の例外もなく住民全てを飲み込んだそれは、一瞬で町の人口を半分にまで減少させた。
生き残ったのは全員女性。
もちろん、そんなことが普通の自然災害で起こるはずがなかった。
そう、その津波はただの津波ではなかったのだ。
今ではスライムと呼ばれている薄緑色の半固形状の何か。
津波を形作っていたのは、そんな未知の存在だった。
3年経った今でも、それがどこから来たのか、わかっていない。
中には魔界の門が開いたなんて言う人もいるけど、それもあながち間違っていないのかもと思ってしまう。
それぐらい、このスライムはそれまでの私たちの常識が通じない相手だった。
ちなみに、命こそ奪われはしなかったものの、私たち女性も全くの無事だったというわけでもない。
私の体の中、具体的には子宮の中には今でもスライムの欠片とでも言うべきものが残されている。
それは気味悪くはあっても、普段はその存在が全く感じとれないほど大人しい。
けれど一日に最低でも2時間、今でも町を覆っているスライムに接触させないと突如として暴れだすのだ。
それ故に、私たちは町から逃げ出すことも、家に閉じこもる事もできずにいた。
「お父さん、行ってきます」
いつものように仏壇の前で手を合わせてから玄関に向かう。
その途中、キッチンで朝ごはんの片付けをしているお母さんが忘れ物はないかと声をかけてきた。
ここでハンカチやお弁当ではなく、下着とスカートのことを心配されるのがこの町の珍しいところだ。
とはいえ、これから衣類を溶かすスライムを掻き分けながら学校に行かないといけないのだから、必然的にその間は下半身には何も身に付けられないわけで。
だから、学校についてから鞄の中に入れておいた下着とスカートを身に着けるという奇妙な行為が、この町では当たり前になっていた。
「だいじょうぶ、じゃ、いってきまーす」
当然靴も履かずに玄関を開ける。
と、そこには幼馴染の凛ちゃんがもう来て待っていてくれた。
「おはよう、凛ちゃん」
少し見上げるようにして挨拶を交わす。
同じ団地の2階上に住む彼女は、私にとって一番大事な親友で、憧れの対象だ。
美人だし、背はすらっと高いし、頭もいい。
ちょっと意地悪なところもあるけど、それは親しみの延長線上にあるものだとわかっている。
「おはよ、麻奈。
忘れ物はない? 下着とか、スカートとか。
また下半身裸で一日授業受ける羽目になったら大変だよ」
だから、そんなことを言われてもいちいち腹を立てたりしない。
しないけど――、
「もう、凛ちゃんもお母さんも心配しすぎ。
いくら私でもそう何回も同じ失敗しないよ」
一応頬を膨らませてそう反論すると、苦笑いを浮かべた凛ちゃんに、普通は1回もしないんだけどね、なんて額を小突かれてしまった。
そんな、いつものやりとり。
スライムに覆われるという未曾有の災害に襲われたこの町で、私たちはそれなりに何とか暮らしていた。
2階から1階に下りる階段の途中、5段目あたりまでがスライムのテリトリー。
その一段上で立ち止まり、凛ちゃんと視線を交わして頷きあう。
左手は彼女とつなぎ、右手は手すりを握った状態でゆっくり足を下ろしていく。
「ん……」
指先に感じるスライムの感触。
触れた瞬間、熱くもなく冷たくもないそれがぬるぬると纏わりついてくる。
ぞわぞわとした悪寒が這い上がってきて全身に鳥肌が立つ。
湧き上がる生理的な嫌悪感。
それでも意を決してさらに足を下ろしていくと、すぐに足裏が固い床に触れた。
この時点で、すでに足首の辺りまでスライムに包まれている。
まるで数え切れないほど多くの舌に嘗め回されているようなこの感覚。
これには、いつまで経っても慣れることができそうになかった。
それでも、いつまでもここで止まっているわけにもいかない。
スライムのぬめりで足を滑らせないよう気をつけながら、反対の足を次の段に下ろしていく。
そうすると今度はふくらはぎの半ばまでスライムに包まれた。
その次の段では膝まで、さらにその次の段では太ももの途中まで。
触れている面積が広がるにしたがって加速度的に嫌悪感は膨れ上がるけど、必死に我慢して残すところ最後の一段までやってきた。
そう、あとたった一段。
だけど、この最後の一段はそれまでとは比べ物にならない一段だった。
「あ、ぅぅぅ……」
表面が股間に触れた瞬間、膣の中をドロドロしたスライムが重力に逆らって這い上がってくる。
足の表面で感じていたそれとは桁違いの刺激の強さ。
しかもそれだけじゃなく、体内でぷるぷると震えて敏感なそこを責め立ててくる。
「ん、くぅ、ふぁ、ぁぁ……」
中まで侵入されてからスライムの動きが落ち着くまで、実際の時間にしたらせいぜい数分。
けれど体感的には何倍にも長く感じられるその間、遠のきかける意識をとどめていてくれたのは、しっかりと握られた凛ちゃんの手の温かさだった。
そうやってじっと耐えていると、ようやくスライムの振動が収まって多少の余裕が生まれてくる。
「麻奈、大丈夫?」
「う、うん、もう平気」
「じゃあ、行こうか」
もちろん異物感は拭えないけど、それでも私たちはもう一度うなずきあってから、学校に向けて歩みを再開させたのだった。
「あ……」
慎重に慎重に足を進めている中、学校まで後半分くらいと言うところで私は足を止めてしまった。
原因は、カーッと熱を持ち始めたお腹の奥。
「麻奈、もしかして、きちゃった?」
足を止めた私に気づいて、凛ちゃんが心配そうに眉を寄せながら聞いてくる。
「そ、そうみたい……」
それを受ける私の声も自然と泣きそうになっているのが自覚できる。
というか、これからのことを思えば本当に泣き出したい気分だった。
「ついてないね、とりあえずあそこの電柱まで行こ」
「う、うん……あ、はじまっちゃった」
そうこうしている内に膣の中でしばらく大人しくしていたスライムがぷるぷると震え始める。
「やば、麻奈急いで」
体内で一秒ごとに振動を強めていく異物に焦りながら、凛ちゃんに手を引かれて一番近くの電柱のそばまで移動する。
「じゃ、麻奈、先生には言っておくから。
鞄ももってっとくね」
「うん、おねが、あっ、んん……あくぅ」
もうまともに声を出すことも難しくなった私に最後に一言頑張ってねと声をかけて、凛ちゃんが行ってしまう。
遠ざかっていく背中に心細さを覚えるけど、凛ちゃんまで遅刻させるわけにもいかないし、何よりこれから自分が見せる姿を彼女にだけは見せたくないからここは我慢するしかない。
凛ちゃんの柔らかくて温かい手とは対照的に冷たく硬い電柱にしがみつきながら、私はぎゅっと唇を噛み締めた。
今起きているこれは、スライムの“食事”と呼ばれている現象だった。
本当にこれがスライムにとっての食事なのかはわからないけど、ここに住んでいる人は皆そうだと思っている。
前兆は、お腹の中が急に熱を持ち始めること。
これがスライムのいただきますの挨拶。
膣内に潜り込んだスライムから分泌されたある種の粘液は女性のそこを普段の何倍も感じやすくさせる――ようするに媚薬だった。
これが、いつ、誰を狙ってくるかは誰にもわからない。
運がいいと1週間以上来ないときもあるし、悪いと1日に何回も来たりする。
私の場合前回は3日前だったから、良くもなく悪くもない感じだろうか。
「んあっ!?」
不意にクリトリスを強く吸引されるような鋭い刺激。
反射的に腰を後ろに引いてしまうけど、いかんせん下半身が丸ごとスライムに飲み込まれているから意味はない。
「あっ、んくっ、くっ、んああ」
連続して襲ってくる快感に腰をビクッビクッと跳ねさせる。
上半身で電柱にすがりつきながら、お尻を後ろに突き出したような恥ずかしい格好。
声も動きも本心では我慢したいけど、もう全身にスライムの媚薬が回ってしまってどうしようもなかった。
通勤通学の時間帯だから、こうしている間にも背後からは人が通っていく気配がたまに伝わってくる。
皆、見て見ぬ振りをして通り過ぎていった。
その中にはもちろん知り合いもいたに違いない。
だけどそれは薄情でもなんでもなく、それが一番だとわかっているから。
この町に住む誰もが、これが来たときの辛さを知っているからだった。
死にたいくらいの恥ずかしさに脳を焼かれながら、私は必死に意識が飛びそうなほどの快感に耐え続けた。
いつ来るかわからないのと同様に、いつ終わるのかもわからない。
短い時は5分程度で終わる事もあるし、長い時は1時間以上続いた事もあると聞いたことがある。
もっとも、私の場合そこまで長くなると立っていられず完全にスライムに飲み込まれてしまうから、30分以上は経験したことがなかった。
実際、もう足はガクガク震えだしていて、凛ちゃんに電柱まで誘導してもらえなかったらもう今頃は――。
「んんぅ……」
以前首まで飲み込まれて全身を責め立てられた記憶がフラッシュバックして、背筋を一層強い快感が駆け抜けていく。
今は何もされていない胸をスライムのぬるぬるが這いずり回る錯覚を、私は頭を左右に強く振って頭の中から追い出した。
「お、終わった、の……」
膣内のスライムの振動が徐々に弱まり、やがて完全に動かなくなると、私は自然と長い長い息を吐いていた。
今回はどれくらい続いたんだろう。
時間を確認しようとして――、
「あ、鞄、持ってってもらったんだった」
携帯がその中にあったことを思い出した。
仕方ないので周りを見渡してみると、周囲に人の姿はない。
元々そんなに人通りのある道ではないけど、さすがにここまで人がいないってことは普通の学校や会社はもう始まっている時間帯なんだろう。
「学校、行かないと」
スライムの動きが止まったとは言っても、ずっと快感に晒されていた頭は熱があるみたいにボーッとしていて、体の火照りも全然治まっていなかった。
「そういえば、今日は1回もイッてない……」
こんなことは初めてだった。
それは普通に考えれば嬉しいことのはず。
こんな得体の知れないものにイカされて嬉しいはずがないのだ。
「なのに――」
思わず自分がすがりついている電柱をじっと見つめてしまう。
全身は汗びっしょりで、肌に貼り付く髪の毛や服の感触が気持ち悪い。
頭の中はいつにもましてあやふやで、こんな状態で学校に行っていいのだろうかと、そんなことを考えてしまう。
「一度、だけ……」
周りを見る。
人は――いない。
だけどこんな明るいうちに外でなんて。
わずかに残された理性がそう警告する。
その声を自覚しながら、それでも私は磁石に引かれる鉄のように、後ろに突き出していた腰をゆっくり電柱に近づけていった。
「誰も、いないよね」
口の中にたまった生唾をごくりと飲み込んで、最後にもう一度周囲を確認した。
「んっ――」
そっとあそこを電柱に押し付けると、敏感なクリトリスが押し潰されてビリッと電気が走ったみたいな刺激がくる。
スライムのぬるぬるに包まれているおかげで痛くはない。
そのまま上下に腰を動かすと、腰が溶けてしまうような錯覚に襲われた。
「ん、は、ぁ、ダメ、こんなことしてちゃ、ダメなのに」
もしこのタイミングで人が来たら――。
そう考えると冷水をかけられたみたいにゾッとする。
さっきまではあくまでスライムに責められているという言い訳ができたけど、今のこれは完全に自分からやっているのだ。
だけど一度動き出した腰は止められない。
「はやく、おわらせないと」
いつしか『早く止めないと』が『早く終わらせないと』にすりかえられて、それを言い訳に腰の動きを激しくしてしまう。
目の前がチカチカする。
声がどんどん大きくなる。
そして――、
「ん、あああああああ!」
私は今日最初の絶頂を、あろうことか自慰で迎えてしまったのだった。
猛烈な自己嫌悪を抱えながら学校に向かう。
一度達して多少頭が落ち着いてくると、自分がどれだけ恥ずかしいことをしてしまったのか嫌でも思い知らされる。
「はぁ、最悪……」
正直授業を受けたい気分じゃないけど、学校に行かないと凛ちゃんが心配する。
だけど、どんな顔をして会えばいいのか。
そう思うとただでさえ重い足取りがますます重くなる。
それが、致命的だった。
「え、あ、うそ!?」
一度イッて治まっていたお腹の中の熱がぶり返してくる。
スライムの食事は1日に何回も来ることがある。
それを知識としては知っていたけど、経験するのは初めてだった。
だから驚きのあまり、私はさらに致命的なミスをしてしまう。
「や、は、入って……」
ずっと意識して締めていたお尻から一瞬だけ力を抜いてしまったのだ。
その隙の逃さず、腸の中にまでスライムが雪崩れ込んでくる。
慌てて締めようとするけど、入り口を外と中から同時にくすぐられるとどうしても力が抜けてしまう。
そうやって悪戦苦闘しているうちに、腸の中まで熱を持ち始める。
そちらでも媚薬を分泌されてしまった。
それを理解すると同時に、腸内をスライムが這い回る感触が気持ちよくてしかたなくなる。
視線をめぐらせると、一番近くの電柱まではまだ数メートルある。
そこまで手を引いてくれる凛ちゃんはいない。
足を前に出そうとすると、膣と腸、両方の中で好き勝手に暴れるスライムをより意識してしまう。
結局、そこから一歩も動けなかった。
「私、バカだ」
さっき、スライムが止まった後すぐに出発していれば今頃もう学校に着いていたはずなのに。
後悔してもあとのまつり。
絶望に押し潰されるように膝が折れる。
こうなってしまうと、もう1時間程度では終わってくれない。
制服が下着ごと溶かされて、首から下をくまなくスライムに差し出してしまう。
そうやって、私は学校を目の前にして、再び快感に飲み込まれていった。